Ⅲ 街で彼らは ~丘~
「隊列を崩すな、冷静に対処しろ、恐怖に怯えるな!」
リーダーは最前線で飛竜と向かい合いながら叫ぶ。
空を飛ぶ、ホバリングで同じ位置に止まっている飛竜に、下から、斬り上げる。当然のように、飛竜はその攻撃を少し翼を動かすだけで避けた、が、リーダーはあきらめない。
両手剣を振り回すことによってできた、剣そのものの重さによってできた力を、無理矢理上へと上げ、自分の体を浮かす。
そして大きく降り被って、上から下へ、斬り落とす。
体には当たらなかったが――堅いモノに当たった、そして斬り落とした感覚が、リーダーの手の内にある。
斬っていた。
空を飛ぶから弱体化している足を、それでもなお頑丈な足を、爪が前に三つ、後ろに四つある足を。
正確には、左足の一番右側にある足だ。
血が流れている。
一瞬、飛竜がひるんだ。
そのタイミングを待っていたような動きで、リーダーは飛竜から距離を取りつつ、右手を挙げる。
動作だけで指示を受け取った、中・遠距離攻撃班――銃をよく使う。魔法を使う人もいる――は一斉攻撃を開始した。
丘が、爆発音が重なって、震える。
最後の方に、誰かが筒上のモノを投げた――爆弾だ。
飛竜が傾ぐ。
「す、スゴい……」
群像はただ呆然としていた。
「あんなに大きさが違うのに、圧倒的だ……」
無意識に呟いた。その言葉にブルは突っかかる。
「ああ、圧倒的さ……飛竜の力は」
「? 何を言ってるんですか? 圧倒的なのはあなたたちの方で……」
「違う、さ。こちらは必死に戦っている。だがな、飛竜はそもそも本気じゃないんだよ。おそらく今は二割程度しか力を出していない。……それも、出せない、ではなく、出す気がない、出す価値もない、と思っているんだよ。いや、思いもしていないか。飛竜にとって人間は――人間にとっての蟻だからな。暇つぶしに潰している、という感じがにじみ出ている」
「あんなに……攻撃を受けているのに?」
「そこが人間と蟻との違いだが……その攻撃が合ったところで、飛竜にとってはどうでも良いんだよ。ただ何となく、遊んでいる、それほどに人と飛竜との間には、差がある」
飛竜が、後ろを向いた。群像にとっての正面方向だ。
「やっと注意を向こうにやったか」
ブルは駆けだした。丘の麓に向かって。
「何、を!」
「話は後だ。兎に角、俺に与えられた任務は、おまえを守ることだ。だから逃げる、それだけだ!」
背後から鳴き声が聞こえる。それに混じって、爆発音と――悲鳴が。
「また……か。――ちっ、お前のせいだぞ」
「僕の、せいって、何が?」
ブルには意味が分かっていたが、群像に分かるわけがなかった。
と、二人の前にヘリがいきなり現れた。
驚く群像に、ブルは言う。
「我々が開発した、無音ヘリだ。乗れ」
元から冷たかったが、さらに冷たくなったような気がした。
怒っているのだ。
この世界でも自分に対してでもなく、群像に対して。
群像さえいなければ……
群像はヘリに乗り込み、窓へと寄った。近くに双眼鏡が転がっていたので、それを両目に当てた。
群像が見た光景とは――
燃える大地、
焦げる草花、
そして。
血を流す者、動かないもの……
「はぁっ、はぁっはぁっ!!」
呼吸がいきなり早くなる。
飛竜の強さを思い知った。
同時に、何故、と思った。
「何故あの人たちは逃げないのッ!?」
「町に、連れていかないためだよ」
目をそらして、ブルは言った。
すでに死んだのは二名。
そしておそらく。
否、確実に、二人にその運命を与えたのは自分だ。
自分がいなければ死ななかったと。
直感的にそう思っていた。
それは事実で、確実で、正しかった。
それ故に、彼は受け入れられなかった。
戦場は、遠ざかる。




