Ⅱ 神隠しにあった ~ローズ宅→ワ・セルフ街~
「……でも……だったら……どこにいる?」
やっとのことで、白美は言葉を紡いだ。
途切れ途切れで、苦しそうな声だった。
「――白美!」
舞子は白美を振り向く。
だがその顔には、心配したような取り乱した様子など一つも無く、ただ純粋に、希望を宿した眼を、ローズに向けていた。
単純に、呂律が回らなかっただけだ。直前まで気絶していたせいで。
「大丈夫……だよ、舞子。というか後で殴らせてもらうからね。別にはじめから聞いていても良かった」
流石にそれは嘘だろ……と舞子は思ったが、口には出さなかった。
躊躇ったというのもあるが、単純に今言うべき言葉じゃないのは確かだ。
それ以上に、大切なことは山ほどある。
「ローズさん、教えてください。群像どこにいるんですか? どこに行けば、会えますか?」
「ワ・セルフ街」
ローズはそう訊かれることが分かっていたように、単語だけで即答した。
「?」
ただ、流石に名前だけでは伝わらない。
「ああ……ワ・セルフ街は、ここから最も近い街だ。そしてこの世界に来たLv.を持たないモノが、それでいて先へ、中央へと向かう、もしくは怪物と戦う意志があるモノが、最初に赴くべき、赴かねばならない、そんな街だ」
それ故、ワ・セルフ街は別名『始まりの街』と呼ばれる。
ワ・セルフ街では、自分にあった職業――剣士や魔法使いなど――を見つけたり、自分の初期段階のLv.を知れたり、と、自分に関することが出来るので、『自分の街』とも呼ばれたりする。
又、この世界について、中央について、戦い方について、怪物について、等々、知っておかなければならない知識、知っておいて損はない知識を学ぶことも出来る。
そして。
「ワ・セルフ街には、丁度その上空を飛竜が通過するので、対飛竜の組織の本部が存在する」
本部は、色々な情報が集まり、保護した人間を宿泊させ、事情を聞く場所である。
「……ということは……ワ・セルフ街にいけば……会えるということね……」
「まあ、単純に考えたら、ね。ただ……簡単に会うことは出来ないと思うな」
「なぜ、ですか?」
「なぜもなにも、単純なことだよ。向こうは事情徴収をしっかりしなければならない。そして指導も。二度と戦わなくて言いように、誰も死ななくて言いように、ね」
でも……と白美は思う。
「でも……何も知らないのに、私たちは、群君は。何も知らない上で、そんなことを言われても、訳が分からないでしょ」
「そうね。だからこそ、理解してもらうために、指導の時間がかなり長くなると思うの。……でも、もう終わっているでしょう。だから見つからない」
「終わっているのに、見つからない?」
「たぶん今は、ワ・セルフ街の案内をしている頃だろうから……全くどこにいるか検討がつかないのよ」
ああ、為るほど。と納得する。
それなら仕方がない。兎に角、ワ・セルフ街に向かう以外、選択肢はない。
「……んじゃいこう、舞子、こおり。ワ・セルフ街へ」
「……知ってるの……? ……ワ・セルフ街への……行き方……」
「え? あ……わかんねぇ!!」
白美は突然頭を抱えた。
その様子にローズは、元気になって良かった、と思いつつ、そして笑いが抑えられなくなった。
「フフフフ……。案内してあげるわ、ワ・セルフ街へ」
「ありがとうございます!」
今度はうれしそうに、飛び跳ねた。
「それじゃあ食事は、ワ・セルフ街で食べましょう。……ばあちゃん、ちょっと行ってくる。勝手に食べといて」
立ち上がりながら、ローズは家の奥へと語りかける。
するとガタガタ、と奥の方から音が聞こえた。
やがて非常にゆっくりなペースで足音が近づいてきた。
扉が開き、老婆が姿を現す。
しわとしわが重なり合い、かなりの年だと思わせる印象だ、百歳は行っているのではないだろうか。
その割に歩き方はしっかりしている。
「ばあちゃん、この三人は、太陽系第三惑星から来た人よ」
老婆は、ローズの言葉を聞くと同時に、眼を見開いた。
しっかりと、しっかりと三人を見るように。
そして。
一言。
※
ローズに続いて、三人は家の外へと出た。
既にサイレンは鳴り止んでいる。
不可解な顔をする三人を連れて、ローズは移動し、村から少し出た。
10センチ程度の草がどこまでも続く、草原だった。
一メートル程度の黒い陰が均等に広がっている。それらが怪物だ。Lv.1~5程度で、素手でも戦えるくらいの弱さ。
又、幾つか起伏が在り、そこには茶色い道が一本、通っている。
その先を、方角にして北側を、ローズは指さした。
自然と三人の眼は、ローズの人差し指の先を見る。
先にあったのは……白い、大きな、壁。
否。
門だ。
「あれが、ワ・セルフ街。始まりの街であり、あの門を越えた先が、この世界の、根本的な仕組みが絡み合う地域。つまり、戦いの、地」
すごい……とは感じなかった。
この門を初めて見るモノが必ず感じることを。
三人は感じることを忘れていた。
先ほど老婆の言った不可解なせりふが、それを忘れさせていたのだ。
「あの、ローズさん……」
白美は呟いた。
「なぜ、あの人は、あんなことを言っていたのですか」
続いて、舞子が言う。
「そんなことが起こるのですか、ここ辺りでは」
そして、こおり。
「……それ以前に……あなたが私たちが来た場所を言った瞬間にした顔の……あの表情の……それになった理由は……?」
ローズは、彼女のばあちゃんが、白美と舞子とこおりに言ったことを、反復した。
「『神隠しに会わないように……あの悲劇を二度と起こしたくない』」
腕を降ろして、ローズは思い返した。
『あの悲劇』を。
「簡単に言えば、君たちが通っていた学校とやらに所属する……」
白美たちは、眉を寄せる。
「神隠しにあった、少女がいたんだ」
ローズは言って、門に向かって、ワ・セルフ街に向かって、歩き始めた。
Ⅱ章 神隠しにあった 了 Ⅲ章へ続く
Ⅱ章了 ということで Ⅲ章に続きます。
いよいよテスト三日前なので、明日は投稿を控えます。
あさってはすると思います。
よろしくお願いします~




