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アマリッカ ~魔法が消える日~  作者: 沢木キョウ
第一章 出会い ??編
21/23

第二十一話 逃避



 ***



 自分は村を見回ってる。




 もう……なにがなんだか、わからなかった。


 昨日までは、建物も無事で、人もいたはず。




 なのに――なにもなくなってた。




 灯りもない。音もない。人もいない。


 代わりにあったのは――見たくなかった、赤。


 さっきまで降ってた雨が、ただ赤かっただけだって……

 暗くなったせいで、色の違いがわかりにくくなってるだけだって……思いたかった。


 けど、きっと、そんなことはないんだろうなって、周りを見れば嫌でもわかる。


 その色を見るたびに、目からは雨が降ってきた――

 透明な雨。


 もう動かないみんなを見たら、もっと雨が強くなった。

 しゃっくりもたくさんでてきて、息苦しかった。




 今は雨が降りきって、しゃっくりも止まった。けど、目をこすりすぎて、なんだかヒリヒリする。


 痛さを感じるってことは、これはきっと現実。

 だから受け止めなきゃいけない。


 みんなは、もう、死んだんだって。


 だれも、生きてないんだって。


 自分は、これから独りなんだって……




 …………無理だ。



 ***



 もうすぐ、村を一周する。


 けっきょく、どこにも生きてる人はいなかった。建物も全部壊れてた。


 そして、最後――


「おじいちゃんの……家……」


 そこにあったのは、おじいちゃんの家――だったもの。


 この身長でも向こう側が見えるくらい、つぶされてる。


 尖った木が散らかってる隙間に、割れた花瓶と、薄汚れた白い花が二つ。


「あの花……」


 そう思ったときには、花に手を伸ばしてた。

 無意識だった。


 チクチクする木に手をついて、体を支えて、精いっぱい腕を伸ばす。


「痛っ!!」


 伸ばした腕にチクリと木が刺さった。

 自分はびっくりして、手を引っ込めた。


 腕には小さなひっかき傷ができてた。そこから、ほんの少しだけ血が滲んだ。


 今のでも声が漏れちゃうくらい痛かったのに、たったこれだけの血しか……。

 村のみんなは、これよりもっと……もっと痛くて辛くて、苦しかったんだろうな……。


 自分はもう一度、花に手を伸ばす。


 今度はゆっくり、慎重に――しかし、


「いっ……!!」


 また腕に木が刺さった。

 同じ痛みを経験してても、やっぱり声が漏れちゃって、腕を引っ込めたくなった。けど、今度は違う。


 唇を噛んで痛みに耐えて、そのまま腕を花に伸ばす。


「取れたっ!!」


 指先で二つの花をつまんで、ゆっくり引き抜いた。


 ――ボロボロだった。


 花びらは何枚か取れてて、茎もパックリ折れてる。

 その裂け目からは、水がポタポタと垂れてきてた――……今のみんなとよく似てる。




「…………みんな……」



 ***



 おじいちゃんの家の、折れた木の柱を背にして座った。


 不気味なほどに薄暗くて、静かで、前よりも見晴らしがよくなった村――自分は花の茎の折れたところを握りしめて、膝を抱えた。




 静かだなあ。

 だれも住んでない森よりも、ずっと……


 ……みんなは何をしてたんだろ。


 夜ごはんの準備?

 お仕事?

 剣の稽古?

 【魔法】の練習?


 もし、おじいちゃんがいたら、きっと、あの温かい食事の準備をしてるくらいの時間だろうな。

 椅子に座って、キレイな花を眺めて、足をブラブラさせながら料理ができるのを待ってたっけ。


 あれはもう二年くらい前のことなんだ。

 おっかしいなあ。とっても昔のことなのに、つい最近まで、まだ一緒に暮らしてたみたいに覚えてる。

 

 そうそう。花を見てたら、あっという間に食べる準備が終わるんだよね。

 というか、あれを見てるだけで一日が一瞬で……。


 おじいちゃんの料理――ほんっとうに温かかったなー……。正直おいしくないけど。


 あのベチャってしてる肉と野菜。

 味も薄かったし――あれなら、自分でつくった方がおいしくできるんじゃないかって、ずっと思ってた。


 けっきょく、あれから、一回も自分で料理って呼べるようなものつくらなかったなあ。

 火の起こし方も、食材の集め方もよくわかんなくて、そもそもの話だったかも。

 まあ、今でも、料理できる環境があったら、おじいちゃんのよりはおいしいやつ、つくれる自信はある。自信だけは。うん。


 肉焼いて、水で洗った野菜を入れて……んで、森で集めた木の実なんかを乗せちゃって……

 あとは飾りで花を添えたら……もうこれでおじいちゃん越えかも。甘さも見た目もいい感じになるだろうし……。




 ……はーあ。もう食べられないのか。




 そうだ。おじいちゃんの家を出ていく前の日に、一緒に花畑に行ったなあ。


 いつもだったら、そのまま寝るだけだったのに、なんであのとき、おじいちゃんは連れてってくれたんだろう……


 ……理由、もうきけないんだった。




 出発したら、もう真っ暗。


 品の片づけをしようとしてる野菜屋さんの人が向けてきてた、あの目。

 

 なんであんな風に見てきてたのかはわからないけど、自分たちのこと、いつもすごく嫌そうだった。


 家に怒鳴り続けてた男の人もいたし、家を追い出されたときも、村のみんなは自分にたくさん悪口を言ってきた。


 そんなに嫌われるようなことをした覚えはないんだけどなあ。


 でも、自分が嫌われるだけだったら、正直どうでもいいというか……

 それでみんなが満足してくれるなら――元気でいてくれるなら――


 自分がちょっと寂しくなるだけなら、それでいい……と思ってる。




 だから、これは違う。




 自分だけが生きてて、周りのみんなが死んでるのは違う。全然違う。


 嫌われて、村を出ていった邪魔者(自分)だけが生き残ってて、なんの罪もないみんなが倒れてるのは絶対に逆……。もちろん自分も死にたくないけど……。




 もう、こんな光景は見たくない。




『自分はなにをしたらよかったんだろう』


 ――なんて、考えてもどうしようもないか。


 だって、こんなことになっちゃった理由を自分は知らない。

 知ってたとして、自分でなんとかできたのかどうかも、わからない。


 …………


 でもとにかく!

 自分が見たいのは、こんな惨状じゃなくて……みんなが笑ってる顔!

 

 あの日見た、星空みたいにキラキラしたみんなの日常を、今度は……




 自分がつくってあげたい。


 こうなった原因を調べて、そして今度は自分がみんなを助けたい!


 だれかを救えるくらいの頭のよさも、力もないけど……それでも、できることはなんでもやりたい!!ていうかやる!! やってやる!! よしっ!!




 ……って、意気込んでみたはいいものの……なにからはじめればいいんだろう?

 このできごとをだれに伝えればいいのか……、みんな死んじゃってるし。

 伝えるとして、どこに向かえばいいのか、わからないや。


 ……なにをすれば…………


 んー、思いつかない! とにかく今すぐにできることを探さないと!


 なにか、なにか、なにか……、そうだ! この花……


 ――そういえばあのとき、おじいちゃん言ってたっけ。死んだ花は埋めるって。

 だったら、まずはこの花を、あの花畑の横の土に埋めて……


 ……死んだら土に埋めてあげるのがいいんだ。だったら――


 …………


 ……自分が今なにをするべきなのか、わかった気がする!!


 ここで立ち止まってても仕方ない!

 早速やろう!!



 ***



 自分はまず、場所を決めた。


「んー、この辺がいいかな。大きな建物があったところも近いし、そこそこ広い!」


(ぐぅぅぅぅぅぅ)


「あっ……次はとりあえず、なにか食べるか」



 ***



 食べられそうなものはそこら中に転がってた。


 さっきまで降ってた雨のせいで湿ってるけど、小さな豆みたいなやつとか、あとは肉、野菜、肌色のふわふわしたやつとかもあった。

 それと、きっとみんな食事の準備をしてる時間だったからだと思うんだけど、赤色とか茶色とか緑色の塊が白い汁に紛れてる料理? も落ちてた。


 肉は食べる気にならなかったから、そのまま放置しておいて、それ以外の落ちてるやつを素手で(むさぼ)った。調理されてないやつも、されてるやつも――食べられそうなやつは全部。

 他人の食べ物だけど、もう食べる相手もいないだろうから、そこは遠慮なく。


 噛んだら、ジャリジャリ感があっておいしかった。

 肌色のふわふわも、今まで食べたことない味で、自分はけっこう好みだった。

 白い汁はほとんど雨の味だったけど、これもおいしく感じた。




 周りにあったそれらを、ひととおり(むさぼ)って、また歩こうとしたとき、自分は吐いちゃった。

 いろんなものが混ざり合って、変なネバネバと一緒に、これまで食べたモノの塊がいっぱい出てきた。


 食べてるときは、お腹のなかにモノを入れるのに夢中で気づかなかったけど、どうやら自分の体は今、食べ物を受けつけてないらしい。喉の奥が気持ち悪い。ニオイで鼻もおかしくなってる。




 それでも、食べたい。食べなきゃいけない。死なないために。



 ***



 自分は村のなかでも、家の少ない場所に行って、散らばってる食べ物をかき集めた。服のお腹のところを袋みたいにして、そこに入れた。


 ここなら人も少なくて、ニオイもマシ。

 落ちてる食材も少ないけど、今の自分なら十分な量。


 家から少し離れて、緑の草の上であぐらをかいて、持ってきた野菜と、つぶれてなくて形のよさそうな肌色のふわふわを、今度はゆっくり食べた。


 自分がいつも口に入れる大きさの半分くらいまでちぎって、それをよく噛んで、お腹に入れる。


 そしたら、さっきよりもおいしくなった。


「だれもいないほうがおいしくなる食事もあるんだ……変な感じ」


 遠くには、うっすらと壊れた家が見えていた。



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