42.外発的ヒーロー
生きているうちに喜びと哀しみの数をそれぞれ数えたところで、哀しみの方が多いだろう。
人生とは酷く醜たらしいものだ。
だがこれで ─
─ 全てが、終わる。
万物の天使 - グゲンが誕生した。
家々は燃え、青かった地球は赤く染まる。
空では隕石同士の衝突が激化し、星が誕生しては崩れ果てる。そして地球の天候は狂う。
刻も狂う。
自然が狂う。
精神も狂ってゆく。
陰鬱の生命たち。
頭を抱える生命たち。
死が近づくとは、ここまでも生き物を狂わせるのか。
何かを奪い合う人類。
生物は非常に生物らしい運動に加担し削り合う。
残り20分。
「やめてくれ…もうやめてくれ!」
グゲンに乞うように土下座する央駆。
「え…」
その姿は、誰も見たくないものであった。
「私に抗う姿勢を見せたのは誰だ?言ったはずだ、それ相応の対応はしようと。貴様らはその力で私を追い込んだ。それは認めよう。故に!私もまたそれ相応に貴様らを追い込むのだ。」
「世界を守る!」
『元素プレイヤー!』
宇宙が元素プレイヤーを構えると、
「はあっ!」
雷が彼を襲った。
「うあああっ!」
「私の知らないその能力…使わせまい!」
落雷がクラックを焦らす。
「わああああああ…っ!」
回収した全てのスティックが散らばる。
宇宙は覚悟した。
「…ッ!」
オガネソン以外のスティックがグゲンの所へ集まってゆく。
「貴様がパンスペルミアであろうが、エレメントスティックとは我が細胞…我が身に返るのは当然である。」
空にラボアジェ神殿への扉が出現する。
「アイツ、勝ち逃げする気か…!?」
「ふはははははははっ!!」
宇宙はダイナミックタムを拾い上げ、進む。
「おい、何するつもりだ!」
暗雲と強風の中、吹き飛ぶ木の枝を躱しながらまた、小石と雨にぶつかりながら宇宙の覚悟を引き留めようとする大地。
「世界を救うつもりだ…!」
グゲンはラボアジェ神殿へ帰った。
風は止んだ。
宇宙は扉の向こうへ行けなかった。
「あ…っ!」
『あと20分で世界は滅びる ─』
『─ その時間を絶望で埋め尽くすが良い。』
「くそっ!」
宇宙は雑草も生やせないまでに荒れた土を叩きつける。
「お前、今1人でラボアジェ神殿に行こうとしたよな?」
大地が宇宙の胸ぐらを掴む。
「死ぬぞ!」
宇宙は大地を睨みつけた。
樹林は止めに入ろうとした。が、樹林はどこか2人の間に"怒り"を感じられなかった。
大地にあるのは、ただ単純な"心配"であった。
「…どうする、後20分だ。」
くるみは携帯を確認する。
「神殿への扉は全部閉ざされてる…」
「あっ!」
くるみの目が捉えたのは、隕石だった。
迫ってくる。
徐々に、その姿が大きくなってゆく。
「…そういうことか、」
央駆がのっそりと立ち上がる。
「もう…終わりだ…、」
「諦めちゃダメ ─」
くるみが"綺麗事"を言おうとすると、
「じゃあ策があるのか?」
テノールは冷静に、目も合わせずに問う。
「…っ、」
くるみは黙るしか無かった。それが答えだった。
「策ならある。」
宇宙がきわめて小さな声で呟く。
「何っ?」
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屋根の空いた体育館。
「ゆっくり息してください。」
グゲンの起こした災害に怪我する人々を医者が手当していた。その医者もまた、頬に傷が付いている。
「ちょっとだけ木の枝が掠っただけです。」
「いてて…っ、」
「それにしてもエグいですね。」
水の滴る非常口のピクトグラム。
「今が夜で正しいのかも分からない。」
今の空は時間の秩序通り暗いが、先程一瞬だけ太陽が照った為もはや時間が破壊されたと言っても過言ではなかった。
「もうすぐ日が過ぎるよ。」
気が狂い争い合った人は眠りについている。
「人って、あんなにおかしくなっちゃうんですね。」
「ああ、我々は自然には抗えないみたいだね。」
「おい!大変だ!」
おじさんが空を指さしている。
この世の終わりへのタイムリミットであった。
「隕…石…。」
「逃げろおおおおおっ!」
騒ぎ急ぐ民たち。
この国に居る限り、どこへ走っても逃れられない。
神に祈る人も現れた。
果たしてその神は何をくれるだろうか。
死を悟る人も現れた。
正直、それが懸命な判断だとも思った。
だがそれでは余りにも苦しすぎる。
私はもう歳なので悔いは無い。
だが、死ぬ時はせめて、安らかでありたかった。
「助けてくれ、クラック…。」
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「これは…」
横や斜めに傾く木々に囲まれた場所。
そこには、ガイスラーの持っていたチューブラーベル。
「これを叩くと、意図した場所に移動する事が出来る…」
クラックはガイスラーとの戦いで理解していた。
実際ガイスラーはラボアジェ神殿から地球へ移動する際、このチューブラーベルを叩いていた。
大地が策を汲んだ。
「成程。それで俺たちがラボアジェ神殿に移動すれば、」
「いや、俺だけが行く。」
宇宙は1人で行くと言うのだ。
「またお前そんな事を…!」
宇宙は震える手で上を指さす。
「この隕石は誰が救えるんだ?」
宇宙の目は潤んでいた。これでも怖かったのだ。
大地は、元素シューターを宇宙に託した。
樹林も、元素シューターを宇宙に手渡す。
「…俺たちだ。」
宇宙は照れくさそうに改まる。
「一応…今までありがとう。」
最期じゃないと言わんばかりに央駆たちの下唇は言うことを聞かないようだった。
「俺みんなに会えて本当に良かった。大地と樹林は昔からの友達で、偶然…必然かな、クラックに逢ったお陰でこうやって再会できて。辛いことばっかりで理不尽なことばっかりで、でも皆が居たからやって行けた。生き抜けた。」
「そんな…ダイナミックタムで帰ってこれるだろ!?」
「俺が帰ってくるってことは、グゲンに勝てなかったってことだろ。だからさ、帰ってきたとしたら一緒に泣いて欲しい。」
涙ぐむ一同。
「大丈夫!俺は絶対に"勝てる"方法を持ち合わせてる。」
宇宙はテノールと目を合わせる。
「アルトの気持ちは俺が受け止める、テノールは生きて。」
央駆に礼をする。
「色々迷惑かけたけど、俺に気付かせてくれてありがとう。」
くるみと握手する。
「くるみさん、ずっとヒーローで居てね。」
樹林と抱き合い、肩を叩く。
「…っ、」
大地に拳を向ける。
「地球を、」
大地は拳を合わせる。
「頼んだ。」
チューブラーベルを叩く。
宇宙はラボアジェ神殿に転送された。
「…。」
残り10分。
「この10分が勝負だ、あの隕石を食い止める…!」
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手元にはネオンのスティック。
これだけは宇宙の懐にあったようだ。
「…良かった。」
『メメント・三重奏!!!』
故人が闘い合う道を横切ってグゲンの場所へ向かう。
舞う血飛沫は床に付着する前に消える。
「治癒力…。残り10分だ、急ぐしかない。」
道が分断される。
「ここまで来るとは…頭を使ったな。」
グゲンの方からやってきた。
「我々は家族のようなものだからな。この手で殺めるのは誠に残念な心持ちではあるが…」
「死ね。」
床がすり抜けてゆく。
舞台装置かのような故人たちも落ちてゆく。
「!!」
「人類が束になってかかったところで私を止めることなど出来ない!それでいて1人でのこのことやってくるなど浅はかの極み!!」
宇宙の逃げた先にトゲが出現する。
「…っ!」
「貴様も此処で灰となれっ!!」
故人が引き寄せられて、剣のような大型武器が生成された。
「人間を武器に…!?」
「人塊剣!はああああああっ!!!」
グゲンは人塊剣を大きく振りかざす。
空間が裂ける。
「く…っ!」
「本当に何も練らずに此処に身を投じたと言うのならば諦めて支配を受けるが良い!または死ね!!」
『元素プレイヤー!』
「うおおおおおっ!」
『ネオン!象徴化!』
振りかざす剣から放たれる火炎に囲まれて、メメントは立ち向かう。
走る。
「ふっ、ネオンのスティックを回収出来ていなかったか…だがその程度の力で何が出来るッ!」
『元素シューター!』
大地と樹林に託された元素シューターを両手に構え、連射する。
「はあああああああっ!!!」
グゲンに弾丸が当たる。
「痛くも痒くもないわ!」
大風になぎ倒されるメメント。
『ダイナミクス オブ ジエンド!』
メメント・モリとなり再び起き上がる。
「我が意思に背くメメント・モリなど唯の貧弱な雑魚だ!」
天使の輪がメメント・モリを拘束する。
『ダイナミック・レンジ!』
『ダイナミック・レンジ!』
『ダイナミック・レンジ!』
かつて世界を襲った大音波を3度発動させ抗うも、拘束は解けなかった。
「何…ッ!?」
残り5分。
「来るだけ無駄だったな。貴様も所詮我が意思に従えなければ力もない。残念だ、そこまで弱かったとは。」
メメント・モリを拘束したまま翼でラボアジェ神殿の空を舞うと思えば、地球への扉が開かれる。
「見よ!この隕石を!!貴様は自ら飛び込んだこの地で己の故郷の滅亡を目の当たりにする以外の術は無いのだ!!」
「やめろおおおおォッ!!」
グゲンは止めない。
「さて。勝利の確定したようだ、私もそろそろ地球へと戻り新たな神殿を建てるとしよう…地球はこのグゲンを崇める"天界"として再び構築されるのだッ!」
扉の奥へと翼をはためかせるグゲン。
扉は閉じられた。
「ん…?」
『メメント・三重奏!!!』
全てのスティックの情報が消された。
「全てのスティックを揃えて扉が開かれたんだ…情報を無くしてただの模型にすれば、この空間は完全に地球と隔離されるはず…!」
「向こうからはもう開けられない…これで地球は守られた!」
「…否!地球では隕石が」
「ぶつからないよ、俺の仲間がそうさせてる。」
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「なあ、隕石…スピード落ちてないか?」
友人の肩を叩き知らせる。
「本当だ…!きっとクラックだ、クラックが守ってくれてるんだ!そうに違いない、」
携帯でニュースを観る。
画面の向こうでは、モメントとセメントが隕石に向かって銃を撃っている姿が映っていた。
『オガネソン!エレメント・ショット!』
隕石に向かって撃つ。
隕石が少しだけ前の時間に巻き戻り、地球に近づくまでの時間が稼がれる。
「宇宙なら、必ずグゲンを止められる…!!」
「ほら!俺たちのヒーローだ!」
1人の少年の小さな携帯画面を大勢が見に集る。
「自分のやつで見ろよ!」
『今、我々の誇るべき戦士達…"怪奇物質特別対抗部隊クラック"が、隕石墜落の危機に晒されているこの地球を守るため命を懸けて尽くしてくださっています。国のトップとして、これほどまでに自分の無力さを痛感することはございませんでした…。』
『内閣総理大臣は"前例のない高次元の急迫不正の侵害"として自衛隊に出動を命じており、襲い来る脅威に最大限の抵抗を示しているとの事です。』
「俺たちにだって…応援することは出来るはずだ!」
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「何だと!?」
「俺は仲間を…地球を信じる!!」
「どこまでもムカつく奴め!ならば貴様だけでも、この手でぇぇぇぇェッ!!」
『究極象徴化!』
『モーセメメント!Dal・Segno!』
グゲンがラボアジェ神殿の人間を全て掻き集めて特大の玉を生成する。
「うおおおおおおおおおおっッ!!」
故人の塊を蹴り飛ばす。
「はああああっ!!!」
グゲン自身も翼で大玉を加速させ、掌からは閃光を、天からは稲妻を、輪からは高エネルギーの爆炎を、地面からは強靭な岩石を湧き上がらせた。
『オガネソン・リンク!』
「いや ─」
地球。
「東北の方でバケモノの残党確認!」
くるみからの情報をもとに、ラボアジェ神殿から溢れて残ったバケモノたちを徹底的に倒していく央駆とテノール。
「彼らならきっとこの危機を乗り越えられる…!」
救える所から救うため、車を走らせる。
「絶対に死なせない…!」
都心。
「これは…っ!」
大地のギロと樹林のヴィブラフォンが輝き、そこから放たれる虹色の光が上空へと繋がってゆく。
「よし…!」
2人は目を合わせ、シューターに差し込んでいたオガネソンスティックを擦る。
「行け、宇宙!!」
『オガネソン!』
モーセメメントの角にエネルギーが集まる。
「此処で俺とお前は永遠に ─」
元素プレイヤーのシンバルを叩く。
モーセメメントはグゲンの方へ飛翔し、肩を掴む。
グゲンは翼を動かし抗うが、それでも宇宙は離れない。
「─ 過去に遡り続ける…!!」
「何!?」
『モーセメメント・インパクト!』
グゲンの胸にエネルギーがチャージされた角を突き刺す。
「ぐああああっ!?」
そして2つの元素シューターの銃口をその角に当てることでオガネソンのパワーを元素シューターに分け、グゲンに撃ち込み続ける。
グゲンはガイネンに。
モーセメメントは中核の角を残してメメント・三重奏に、メメント・モリに、そしてネオンのメメントに。
2人は徐々に"前の姿"へと遡ってゆく。
「おのれ…ッ!離せッ!!」
「地球誕生前の姿…まだ【無】だった頃にまで巻き戻ったら離してやる!!」
「クソがあ゛あ゛あああああああああああア゛ッッ!!」
神殿の2人は、永遠に過去を遡り続けた。
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残り30秒。
巻き戻して時間を稼いだとはいえ、モーセメメントとの距離が遠いようでは巻き戻る時間と隕石の速度の問題で徐々に近付いてしまっていた。
「く…限界だ、ッ!!」
もはや死を受け入れるしかないのか?
「頑張れ!クラック!」
誰かの声が聞こえた。
後ろを振り向くと、沢山の人たちが俺たちを見ていた。
「頑張れ!」
「行けぇっ!クラック!」
「頑張れ、俺たちのヒーロー!」
「この世界を救えるのはクラックだけだ!!」
「頑張れ…っ!」
それは興味本位とかそういうものでは無かった。
俺たちの力になろうとしていたのだ。
「ああ、もう精一杯に…、」
「頑張ってるよ!!!」
『セーニョ・ショット!!』
シューターから放たれる虹色の弾丸が、隕石を貫く。
爆風。
目を開けると、そこには満天の空が広がっていた。
「うおおおおおおおおっ!!!!!」
拍手。
歓声。
安堵。
笑顔。
涕泣。
抱擁。
生命を紡げる喜びが、地球上に満ち満ちた。
「…良かった、」
大地と樹林はその場に倒れた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「はっ!」
元素シューターの銃声が鳴り響く。
「よし、この県内はもう無いか。」
「…無い!ん?」
くるみの携帯に速報が入る。
「…大地と樹林、早速ニュースに載っちゃってんじゃん。」
組織の戦士が世界を救ったというニュースだった。
テノールは空を見上げた。
「そうだな。世界を、救ったな。」
央駆はテノールの横に立つ。
「後は破壊した隕石の欠片による被害は無いか調査しないとだな、それと人々のメンタルケアだ。」
「まだまだ忙しくなるぞ…!」
地球は、クラックによって守られた。
そして小さな生命たちの絆によって。
音の連なりによって。
人の"頭"によって。
愛によって。
あの男は仲間を信じた。
地球を信じた。
繋がりを信じた。
自分にしか無いもの。
それは非常に苦しいものかもしれない。
醜いものかもしれない。哀しいものかもしれない。
もしかしたら生きている意味など無いのかもしれない。
だからこそ、そこに価値を見出そうと人は生きてしまっているのかもしれない。
無意味は無価値ではない。
初めから虚無でも別に良かったこの星に、
「虚無では寂しい」という感情が芽生えている事。
それが生きる意味への些細な答えなのだ。
過去に遡る宇宙は、誰も悲しむことがないように。
皆が自分を待たなくても良いように。
『メメント・メモライズ!!』
【所持スティック】
〈クラック〉
ダイナミックタム、ネオン、オガネソン×3
〈ラボアジェ神殿〉
FINAL▶43.奇跡的グッドナイト




