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エレメント・メメント  作者: 廣瀨 玄武
第四章【怖れるべきは死ではない】
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38.絶望的トゥインクル

最強の力と言われるオガネソンのスティックを作れるという宇宙。

ガイネンの設定した絶望へのカウントダウンが人々を不安の渦に巻き込む中、クラックは焦りとともにガイネンに立ち向かう。

その先に待っている【更なる絶望】とは ─

「行くぞ、宇宙…。」

モメントはトライアングルを叩く。

「これで決める…!」

セメントはヴィブラフォンをなぞる。

「さあ…来い!!」


爆風。


「うああああああああああああああっ!!」

必殺技がメメントに向かって放たれた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

残り22時間。

人々は不安という布団に包まり眠りについていた。

時折爆撃で地を揺らす、葉朝高校の体育館。

政府が機能しなくなり掲示板サイトによって国民達が自ら各所に避難所を置いていた。

その情報はSNS上で拡散され、多くの国民はそれぞれ近隣学校の体育館等を中心に避難していた。

「啓太くん。」

質素な掛け布団の下で、暗闇に声を鳴らす。

「光太郎くん、まだ起きてたんだ。」

「ソラ兄ちゃん、大丈夫かな。」

「ちゃんと寝れてるかな。」

「どうだろう、僕たちが寝れてないんだからさ。」

また1人、複雑な心持ちの者が居た。


『貴方たちの事は信じられない。』


そう言い放ってしまった事。

心底では正しいと言い切れる。だが、言い切れるからこそ悩みの煙が脳を蝕んで仕方が無いのだ。

言い切れると言い切りたい自分が居るというか。

符裏 蓮の師匠はひたすらその事を考えた。

私が生きているのも、こう悩めるのも何故なのか。

「あの人たちのお陰だ…」

布団が湿る。

何故心から応援してやれなかったのか。

大切な者を殺されたからだ。

では、どうすればよかったのか。

恨めばよかったのか?

恨んで何になったのか。

何にもならないはずだ。

では、どうすればよかったのか。

他の誰かに縋る事。

他の誰か?

「そんなの、クラックしかいないじゃないか…。」


気が付いた時。

気が付いたのか、"私"は現実を遮断していた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ラボアジェ神殿。

ガイネンのいないラボアジェ神殿では、闘っても傷は癒えない。Mr.クーロンの手は、溶け始めていた。

「危機だ。」

Mr.クーロンを呼ぶ声の持ち主は、クルックス。

「側近のガイスラーが敗北した。僕も立ち向かったが、どうやら新たな力を手に入れたようで。」

「クルックスも"負けた"というのか。」

「"負けた"などとは言わせない。あの場では戦わないという選択をした僕は正しいはずだ。」

「ならば対抗策は何だ。」

クルックスは指をさす。

「お前だ、クーロン。」

クーロンは鼻で笑う。

「今私は元素プレイヤーなど持っていないぞ?」

「大丈夫、ガイネン様が最大の支援を下さる。」

クルックスはダイナミックタムを投げ捨てる。

「…何のために?」


「【侵略(しんりゃく)】のために。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

バケモノ達が央駆らに立ちはだかる。

「来たか…」

『アメリシウム!エレメント・ショット!』

火炎放射を始める央駆。

狼狽えるバケモノ。

「今だ!」

スティックハンターは、放たれた火に自らの弾丸を乗せる。放たれた火の弾は1体のバケモノに当たり、もう1体もう1体とコンボが決まっていく。

「流石だくるみ。」

「私だって戦える。」

「来るぞ!」

テノールがバケモノを捉えた。

『ラドン!エレメント・ショット!』

高エネルギー弾の一撃で大量のバケモノを倒す。


拍手。


「素晴らしい。」

ガイネンだ。

「どうやら誰も我が救済に文句はないようだが、貴様達は一体何の為に我が支配を拒むのだ。」

「果たして、それをエゴと呼ばずして何と呼ぶか。」

「お前…本気で誰も拒んでいないとでも思ってるのか?」

「誰も来ていないから、そうだ。」

「誰も来られないんだよ…!お前達の恐怖に怯えてな。」

「恐怖?何故?私は私の所有物を回収しようとしているだけだ。勝手に繁栄されているこちらの方が被害者では無いのか?」

「仮にそうだったとして、自分の物を大切に出来ない奴に、俺達の命運を握らす訳には行かない。」

「俺達はお前の所有物じゃない。」

「そうか…」

ガイネンは動き出したかと思えば、央駆とくるみ、テノールとアルトは身動きが取れなくなっていた。

「!?何だッ、これ…!」

「皆が反対出来るように手を挙げる機会をやっているのだ。それなのに誰も私に直接発言をして来ない事の浅はかさ…怯えるだ?そんな奴、2度と発言をするべきでは無い!我が救済を救済として受け止めれば良いだけの話だ!反対の覚悟も知らない者が、この国を変えられると驕り高ぶるなッ!」

「俺達は、お前に反対する!!」

「理解した…。」

首相官邸が揺れる。

「!?」

「21時間はそのまま残してやる。」


「但し─」


建物が変形するのを感じる。

「貴様らが間に合わなければ全人類、"死"だ。」

窓を垣間見ると、地面が遠のいていくではないか。

「まさか…」

「代弁するという事の重みを知るが良い…フンっ!」

一同の身体は謎の力に押し出され、窓を貫いて外へ吹き飛ばされてしまった。

「うわああああっ!!」

「…!まずい!」

『ヘリウム!エレメント・ショット!』

ゆっくりと墜落していく。

アルトは変形した建物を目に焼き付けた。

「これは…!」

ガイネンに地球を滅ぼされ、仲間も失ったあの時。

荒廃した世界に、気高く(そび)え立っていたタワーと全く同じ形状であった。

「アルト…」

アルトは、涙した。

「嫌だ…」


【輝きの塔 - mico tower】が誕生した。


「嫌だッ!!!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

葉朝区域のドラム教室。

「誰も、居ない…。」

それもそうだ。葉朝区域にも都心からバケモノが拡大して、皆避難所に居るのだから。

楽譜が置いてある。

時計の針の音が響き渡る。

何か、寂しかった。

ゆっくりと呼吸をする。

落ち着いた。

大地と樹林が扉を開ける。

「じゃあ、行こう。」

宇宙は覚悟を持って頷き、クラックの施設へ向かう。


紅白の元素プレイヤーを持って。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『本日午前3時、首相官邸が変化したと思われる塔が突如として出現しました。現在SNS上では各地の学校施設を避難所にする動きが拡がっており、全都道府県でその動きが見られます。本局含め各テレビ局では、公式サイトにて避難所となっている施設のリストを掲載しております。まだ避難をしていない方は─』

「まずいよ、変な塔まで建ってる。」

「首相は今何処にいるんだ。」

「もしかしてもう既に…」

「やめろってそんな物騒な。もしそうならこの国は…」

「あの怪物何?急に出てきて。」

「ちょっと前からニュースで話題になってた。」

「クラックで対抗し切れるのかよ。」

「もしかしたらクラックすら…」

「そんな、信じるしかないだろ。」

「ふざけんなよ!前々からバケモンが確認されてたんなら政府も対応するべきだっただろ!?」

「だよね、クラックに全部押し付けて。」

「そんな国会、意味ねえんじゃねえの。」

「何の為のボディガードだよ。」

不安。疑問。理不尽な怒り。心配。諦め。

あらゆる声が聴こえる。

泣き出す子。

焦る親、仕方が無いと放置する親。

それに対する視線。

その状況に対する不満。

「そもそも、クラックは避難所を用意してないのかよ。」

唯一の対抗手段、クラックへの怒り。

耐えられなかった。

「クラックって本当に私達を助けてくれるの?」

「結局クラックが戦ってる映像見た事無いし。」

「政府と裏で繋がってたんじゃない?」

「首相が捕虜になった今、クラックは消されたんだ。」

「実は怪物を生み出してたのはクラックだった可能性も」

「あるかもね。何かほらダイナミック・レンジ?もさ、葉朝区域ら辺で起こったし。」

「そういえばクラックの施設って葉朝区域だっけ。」

クラックを悪とする声。

私は立った。歩いた。

"勘違い"というものは悪意を孕む事があるようだ。

どうも自分の経験した事がない情報が飛んでくると人はそれを嘘と思うことがあるらしい。

かもしれない、と思う前に。

あらゆる人の意見が飛び交う現在、どれが本当でどれが嘘かを見抜く能力が必要とされている。

でも本当はそんなもの、要らなくて良かったはずだ。

真実は常に真実であるのだから。

何故必要になってしまったのか。

それは"安心"が欲しいからだ。

真実か否か分からない中では自分の思っている事が正しいのかが分からない。だから人はなるべく"正しい"方に他人(ひと)を寄せようとする。

頭の隅では信じていたい現実を加工してでも。

正直彼らは情報が真実であるかなど気にも留めていない。

自分の意見への関心を重大視している。

そんなように思える。

「つまり、クラックは悪ってこと。」

私は遂に憤りをさらけ出した。


「ふざけるなァっ!!」


見ず知らずの人の胸ぐらを掴んでしまった。

しまった、と思ってももう止められなかった。

「私は小さな鉛筆工場で働いていた!そこに居る弟子が襲われたんだ!あのバケモノにッ!!」

頬を、温かい何かがなぞる。

視界は少しだけ滲んで、相手の表情など分からなかった。

「クラックはあの子を救ってくれたんだッ!工場を守ってくれたんだッ!何の恩も感じられていないお前ごときが!クラックを悪く言うんじゃねえ!!」

いよいよ、手が出てしまった。

その感触で、我に返った。

目の前には、何も知らない人が倒れている。

「あ…っ!」

避難所内は騒然としていた。

「す、すみませ…っ、」

相手は何も言わずに私の近くから離れていった。

何かを失った気がした。

だが、何かを守れた気もした。


私の周りには、もはや誰も近づいて来なかった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

塔の見える都内のオフィスビル。

電気はつかず、薄暗い空間であった。

「どうする、やはり勝てないのか…。」

「今宇宙達が必死にやっている筈だ。俺達が死ぬ訳にはいかない。」

テノールはベンチをグーの手で叩きつけた。

刻一刻と時間だけが迫っていく。

塔がこちら側を眺めている。

「クソ…っ、変な建物建てやがって。」

「おそらくガイネンは自身に到達させない為の構造を作っている。塔の1階から順に刺客が待ち構えている事だろう。」

「そこで壁になるのが…」

「クルックス。」

楽譜の力を持たずとも、奴は強かった。

「アイツが居る限り到底ガイネンには挑めない。」

「だがここで宇宙達を待っても」

「バケモノが避難所を押し寄せるのも時間の問題だ。」

「とにかく行くしかない…バケモノの大群を抑えるだけでも、クラックにしか出来ない事だ。」

「うん。」


オフィスビルを出た。

目の前に立ち塞がる巨大な塔。

「この先に入れば、引き返す事は出来ない。」

央駆、くるみ、アルト、テノールは覚悟した。



「これが、最後の戦いだ。」

【所持スティック】

〈クラック〉

ヘリウム、ネオン×3、アルミニウム、カルシウム、ラドン、プロトアクチニウム、ウラン、ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウム、バークリウム、カリホルニウム、ドブニウム、ニホニウム


〈ラボアジェ神殿〉

ダイナミックタム(調律済)、Tbチューニングキー、

水素、リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、窒素、酸素、フッ素、ナトリウム、マグネシウム、リン、硫黄、塩素、アルゴン、カリウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、臭素、クリプトン、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、テルル、ヨウ素、キセノン、セシウム、バリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、ポロニウム、アスタチン、フランシウム、ラジウム、アクチニウム、トリウム、アインスタイニウム、フェルミウム、メンデレビウム、ノーベリウム、ローレンシウム、ラザホージウム、シーボーギウム、ボーリウム、ハッシウム、マイトネリウム、ダームスタチウム、レントゲニウム、コペルニシウム、フレロビウム、モスコビウム、リバモリウム、テネシン


NEXT▶39.壊滅的トップアンカー

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