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エレメント・メメント  作者: 廣瀨 玄武
第四章【怖れるべきは死ではない】
38/44

37.始祖的パンスペルミア

全て話そう。

これは、或る"無"で起こった話である。

これは、ガイネンが形無き者であった頃の話である。

ビッグバンによって宇宙(うちゅう)は始まった。

"無"をひたすら見つめて居たガイネンもまた"無"であったが、ビッグバンによってその身体は誕生した。

(コレ)は、宇宙(ウチュウ)…。」

"有"に変わったガイネンは、自らの負荷に耐えられず爆散した。

「うわああああああああッ!!」

その叫び声を聞く者は、居なかった。

爆散したガイネンは宇宙に自らの細胞─


【エレメントスティック】を漂わせた。


それは

生命の土台を創るに充分すぎる情報量を持っていた。

それぞれのスティックを元に数多くの星が創られていった。常に燃えている星。ガスで構成された惑星。

岩石や砂だらけの惑星。金属成分の多く含まれた惑星。

そして、水の惑星。

ガイネンの細胞であったエレメントスティックは意思を持ち、各々が創った星で居住を始めた。

言語は無い。意思と言っても物質同士の反応によるものであって、そこに感情は無い。

故意も存在し無い。

故に、故意的な争いも存在し無い。

地球には、他の惑星以上に多くのエレメントスティックが住み着いていた。

地球が誕生して数千年が経ったある時。

地球に岩石が衝突した。

偶然なのか必然なのか、そこには生命と呼ぶには未完成な、それでいて未完成と呼ぶには完成され過ぎている物質が付着していた。


【πανσπερμία(Panspermia(パンスペルミア))】


それは

生命の起源であり、

生命の種であり、

生命の素である。


パンスペルミアは、地球に居る大量のエレメントスティックに引き寄せられる様に降り立った。

その衝撃で全てのエレメントスティックは息絶え、情報を欠き、死骸として残った。

生命の素は、暫く地球を彷徨った。

素は、使命感を抱くように繁殖を求めた。

単細胞生物となり、多細胞生物となり、真核生物を紡ぎ、凍結を越え、他類な生物にその遺伝子を宿し、絶滅を越え、遂に人類を誕生させた。

パンスペルミアの遺伝子を持つヒトは、死を知った。

老衰した身体を土台に、パンスペルミアは"次の土台"へ移る。そしてまた次の土台へ、そしてまた。

数十億年が経ち、人類は戦争と娯楽の追求を繰り返す中で化学を解明し発展させ、英智を極めた。


そしてパンスペルミアは、後に科学者となる生命に移る。

リム・ストロークである。

彼はエレメントスティックを発見し、研究した。

パンスペルミアの事も数々の文献に知らされた。

そして最終的に、エレメントスティックの中にある情報が悪用され世界を滅ぼそうと企む者の存在も予知し、クラックを創設し、対抗手段である元素プレイヤーを作成した。

彼の"血"を使って。

エレメントスティックに引き寄せられるパンスペルミアの遺伝子が混ざって初めて、元素プレイヤーは完成したのだ。

リム・ストロークは発見したネオンのスティックを使い、メメントになった。

何かに操られる感覚がした。

内発的な暴力性がリム・ストロークの中に居るパンスペルミアを刺激した。ヒトの、生物としての闘争本能が異常に昂っていくのを感じた頃には、リム・ストロークは倒れていた。

目が覚め、荒れた部屋で怯えたストロークは元素プレイヤーを隠した。


リム・ストロークが死んだ。

パンスペルミアは後に世界の脅威となる男の生命に移る。

Mr.クーロンである。

クーロンはクラックで生まれた。

リム・ストロークの予言していた"怪物"など現れないまま、謎に包まれたエレメントスティックや隠されていた元素プレイヤーの解析が行われた。

その事もあり、クラックの隊員は低賃金労働に嫌気がさし消えていき、当時共に活動していたメイプルの両親も死亡。クーロンは独りになった。

孤独のクーロンには元素プレイヤーが魅力的に感じた。

シンパシーを感じたのだ。

己を笑顔にしてくれる、仲間のような。

エレメントスティックとリンクしたパンスペルミアは、ここで初めて親である"(ガイネン)"の声を感じる。

『我を信ずる教えを説け』

クーロンには、確かにホンモノの神の声である事は明白であった。まさにその神から産まれた生物の死骸─エレメントスティックを通じて神を体感したからだ。

そしてクーロンは神の墓を作り、死骸から強制的に情報が蘇生した"バケモノ"を誕生させた。

こうしてアイソトープが生まれる。

しかし、クーロンの人生は短かった。

パンスペルミアの存在を察していたクーロンは自分の死後、この得体の知れない違和感(パンスペルミア)が何処へ往くのかを見届け、願わくば違和感の転生先そして神と対面したかった。

信者はその願いを叶える為、ダイナミックタムを完成させた。


そしてダイナミック・レンジが起こる。


パンスペルミアは、ある青年に移る。

水上(ミズカミ) 宇宙(ソラ)だ。

彼が誕生した頃にはクラックのメンバーも大きく変わっており、奈良 央駆と日香 くるみ、メイプルを主として活動が続いていた。

長年ゆっくりと進んでいた組織は、ここで大きな事件に巻き込まれる。

バケモノが、人を襲った。

クラックの施設内に突如として現れたバケモノを前に、組織の一員であるメイプルは元素プレイヤーを使用した。

この時、極小量のパンスペルミアの遺伝子がメイプルを駆け巡っていた。

しかしパンスペルミアの転生とは無関係であったメイプルはその遺伝子の侵入に身体が応えられず、死亡した。

しばらくして。

とある鉛筆工場で人を襲ったバケモノと対抗していたクラックは、メイプルの一件で元素プレイヤーを呪物のように扱っていた。

そんな彼らの考えを覆したのが、水上 宇宙である。

ドラム教室でレッスンをしていた宇宙は元素プレイヤーとエレメントスティックに引っ張られ、バケモノの前に立ち、メメントとして戦う事になる。

彼の中にあるパンスペルミアの暴力性を高めながら。


水上 宇宙が死亡して数十年後。

存在する全てのスティックが集まりガイネンが復活した世界。パンスペルミアは1人の医術師アルトに宿っていた。

アルトは最悪の現在を変える為、クラックの施設内にあるオガネソンタイマーを使用して過去─水上 宇宙がメメントであった時代へ戻る。もう後戻りは出来ない。

そこで水上 宇宙の親友であった下方 大地に接触する。

下方 大地は本来ダイナミック・レンジの時点で死亡していた。しかし臓器提供者であるメイプルによってその命を紡いだ。

大地は1度、メイプルに礼がしたかった。

またアルトはこの時Mr.クーロンと水上宇宙が同一人物であると察していた為、水上宇宙の持つ心臓は永遠であると解釈し、その余分な詳細は語らずに宇宙の心臓を使えばメイプルは復活すると大地を誘う。

アルトは未来での絶望を止める手段として、転生する前の自分(宇宙)を殺す事で世界線を変えようとしたのだ。

自分で自分を殺すのが怖かった故に、下方大地と取引をしてモメントを誕生させた。


無事、水上 宇宙は下方 大地の手により死んだ。

パンスペルミアは次の生命である水上 素流(ソル)へ移る。

正常な転生であれば素流は素流なりの全く違う人生を歩んでいた筈だが、パンスペルミアの遺伝子を持ったメイプルの復活や過去に来たアルトが残した元素プレイヤー、様々な事が重なりメメント・二重奏(デュオ)が誕生した事で転生は拗れる。

水上 宇宙としてのパンスペルミアの記憶が、メイプルの記憶と同時に降りかかる事で水上 素流は転生を完了出来ず、結果として水上 宇宙が現世に残り続けた。


そして今、メメント・三重奏(トリオ)の誕生によって水上 宇宙の頭の中にリム・ストロークからアルトまでの生涯でパンスペルミアが体験した全ての記憶が注ぎ込まれたのである。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「そんな…」

唖然とする一同。

「君の頭の中と合っているかい?宇宙。」

「…うん。メメント・三重奏になって高速で頭に流れてきた情報だった。」

「人類。いや、宇宙の誕生から未来の事まで。こんな情報量、よく耐え切れたね。」

「もう俺は俺だからさ。」

安堵したような宇宙に、微笑む樹林。

「私もパンスペルミアの存在は初めて知った。そんな感じの"何か"だとは思っていたが…。」

「全てガイネンとパンスペルミアによる無意識かつ巧妙な自作自演だったという事か…」

胸に手を当てるアルト。

「という事は、宇宙は元素プレイヤーの開発者と言っても過言では無いわけだ。」

大地がハッ、と短めの小さく多い息を吐く。

「それならもう、報われるしかないだろ。」

少しの間をおいて宇宙は笑う。

「ありがとう。」

腕を組む央駆。

「にしても、宇宙が生命の根源となる遺伝子を持ち合わせていたとは…だからプレイヤーとスティックが引き寄せられていたのか。」

「もう心配する事は無いね。」

樹林が微笑んで言う。

宇宙もまた微笑む。

「…ここで重要なのがガイネンだ。」

テノールは神妙な面持ちであった。

「まだ形の無かったガイネンがビッグバンによって形を得て、散らばった細胞がエレメントスティック。」

「例えばオガネソンのスティックを合成し、ガイネンがそれを回収するとして、ガイネンは耐えられるのか?」

「また負荷に耐えられず爆散してしまえば、地球諸共壊滅してしまうのでは無いか?」

和みかけた空気は、突如として冷気を纏う。

「確かに…。」

「それにガイネンの細胞が生物となり地球を創ったというなら、ガイネンを倒した時の地球への影響は…?」

「有り続けるのか、無くなってしまうのか…未知だ。」

「俺たちはこのままガイネンと対面して何ができる?」

アルトが言葉を添える。

「奴の力は圧倒的だ不安な事ならしない方がいい。だが、このまま見過ごす訳にもいかない。私は…」

左手を強く握る。

「私はもう…この世界を泣かせたくは無い。」

テノールがアルトの肩に手を置く。

「…!」

テノールは、アルトの何かを察した。

「…俺もだ。まだこの世界は助かるはずだ。宇宙と大地、そして樹林がクラックにいる限り。央駆とくるみが闘志に燃えている限り…!」


残り24時間。

「待って。」

宇宙がふと思いつく。

「俺なら、」



「オガネソンスティックを作れるかも知れない。」

【所持スティック】

〈クラック〉

ヘリウム、ネオン×3、アルミニウム、カルシウム、ラドン、プロトアクチニウム、ウラン、ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウム、バークリウム、カリホルニウム、ドブニウム、ニホニウム


〈ラボアジェ神殿〉

ダイナミックタム(調律済)、Tbチューニングキー、

水素、リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、窒素、酸素、フッ素、ナトリウム、マグネシウム、リン、硫黄、塩素、アルゴン、カリウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、臭素、クリプトン、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、テルル、ヨウ素、キセノン、セシウム、バリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、ポロニウム、アスタチン、フランシウム、ラジウム、アクチニウム、トリウム、アインスタイニウム、フェルミウム、メンデレビウム、ノーベリウム、ローレンシウム、ラザホージウム、シーボーギウム、ボーリウム、ハッシウム、マイトネリウム、ダームスタチウム、レントゲニウム、コペルニシウム、フレロビウム、モスコビウム、リバモリウム、テネシン


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