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エレメント・メメント  作者: 廣瀨 玄武
第三章【汝自身を知れ】
30/44

29.自衛的ディセイブ

上方 樹林。

それはかつて水上 宇宙、下方 大地と共に打楽器アンサンブルコンテストで音楽を奏でた仲間である。

そんな樹林は、"力"を手にしてしまった。

音楽でも絵画でもない、武力を。

日香くるみによるスティック狩りがクラックを困惑させる中、宇宙はようやく失踪中であったあの人に辿り着く。

殴る。

殴る。

殴る。

「…っ、」

「テノールー?神にひれ伏そーよー。」

両手を縛られているテノールは出来る限り睨む。

「あー、」

蹴る。

「…ッ!」

「アンタのせいでクラックが変な希望持っちゃってんのよ全くー!」

殴る。

「ああ、面白い顔。」

バスがチューに詰める。

「早くバケモノを作れ。」

「…分かってるわよ。」

テノールの目の前で、スティックが取り出される。

「待て、人間を使うといい。より俊敏なバケモノが生まれ効率が上がるからな。」

「へー、じゃあ私の"人間貯蔵庫"使っていいよ!顔変える時にオリジナルが居ると面倒だからねえ。今からクラックからスティックを奪いに行くけれど、」

ソプラノはテノールを見る。

「次は誰に変わろうかな。」

テノールはかつての同士に息を飲まされる。

「そうか、じゃあ行こう。くるみ。」

入口付近で待機していたくるみが反応する。

「今日こそ、狩るぞ。」

「はい。」

新生アイソトープは光のある外へ赴く。


チューは行かなかった。

「俺の見張りか?」

テノールが問うと、その応答の様にチューが足を進める。


切断。


チューは、テノールを縛っていた糸を切る。

「どういうつもりだ?」

「分からない。ただ、」


「今私はとても(きたな)い場所に居るのかもしれない。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「奪われたスティックは2本。」

「ヘリウムと、カルシウム。」

「ところで、央駆はどこ行った?」

「さっきバケモノと戦った時にも、いなかった。」

ドアが重く開く。

「テノール!?」

走り心配する。

「大丈夫か、」

「俺はいい。和室へ行くぞ!」

「和室?」

央駆が帰ってきた。

「あ、良かった無事だったんですね。」

「ああ。すまない。スティックの調整をしていて」

『元素シューター!』

央駆の横を弾が通る。

「待て。お前、央駆じゃないな。」

大地が見極める。

「何?俺は奈良央駆だ。どこからどう見てもそうだろう?」

「一体何のエレメントスティックを調整していた。全て調整済みの筈だが?」

「…」

横目にスティックを覗く姿を確認した。

銃を構え続ける大地。

「なんでテノールが解放されてるの…よ!!」

央駆の目つきが鋭く変わり、近くのスティックを取れるだけ奪い走った。

「待て!」

「やつはソプラノで間違いない。ということはやはり」

「和室に」

アルトに寿司を振る舞われたあの場所。


「央駆が攫われているに違いない!!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

和室の戸を開けると、バスが人を眺めている。

「まだ選んでる!?」

奥には、5人程度の人が詰め込まれていた。

「早くしないとアイツら追ってくる!テノールがクラックに戻ってた…!」

「チューの仕業か。まあいい、こいつにしよう。」

選ばれたのは───


数分後。

「気配が無い。」

バスとソプラノは和室を出ていた。

戸を開けてみる。

大地は、1部だけ地面が軽いのを感じた。

「ここだけ何かがおかしい…下が空洞になっている」

テノールが考える大地の肩をどかし、地面に向かう。

「居るならちょっと頭守っててください。」

「ふんっ!」

テノールは床を踏み潰した。

「結構脳筋なんだな、お前…。」

奥には人が数人。央駆も閉じ込められていた。

「大丈夫ですか!?」

「ああ、それより人がアイソトープによって攫われた。」

「奴らは人間をバケモノにする気だ。」

「今のうちに。」

宇宙は他の人を避難させる中、大地がセメントの事をテノールと央駆に共有する。

「新たに元素プレイヤーの使用者が現れた。」

「何!?」

「それよりこのままじゃどんどん人がバケモノに!」

『元素プレイヤー!』

「守るぞ。」

メメントとモメントが、出撃した。

「不確定な情報だが、央駆。」

「何だ。」

「新たな戦士は、上方 樹林…宇宙の旧友かもしれない。」

「それが敵となると…。」

「だが…」

テノールは和室の引き出しからコマを取り出す。


「大丈夫だ。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

バス製のバケモノが現れた。

「はっ!」

調律済のメメント・モリが強烈なパンチを食らわせる。

「このバケモノもきっと…」

暴れるバケモノが長い爪で仕掛ける。

『炭素!』

『アメリシウム!』

『エレメント・ショット!』

ダイヤモンドの盾で身を守る。

バケモノの攻撃は見事に弾かれ、盾からメメント・キセノンが顔を出す。

『キセノブレード!』

麻酔剣が首に刻まれ、バケモノは動きが止まった。

「今だ!」

『トリウム・スマッシュ!』

「はあっ!」

バケモノは倒された。


「やはり一般人が!」

大地はすぐに怪人にされた一般人の元へ駆ける。


散乱したスティックに囲まれる人の姿。

その姿に、宇宙は呆然としていた。


「光太郎の、お母さん…?」


「先生、…!光太郎は」

「光太郎くんは大丈夫です。それよりあなたが!」

「会わせてください、会わせてください。」


「あの身体でバケモノになっても生きていたのね。」

「バス…。」

バスは光太郎の母の胸ぐらを掴む。

「無価値な奴ほど地を這い続ける…。」

殴ろうとする。

「待て…ッ!」

「はあ…見せてやる、最高の絶望を。」

拳を振りかざすバス。

「やめろおおおおおおっ!」

『ダイナミクス オブ ジ エンド!』

「宇宙!」

バスの左腕は胴体から引き剥がされた。

「……!」

荒い呼吸をするメメント・モリ。

嗚咽が止まらぬ光太郎の母。

モメントが必死になってダイナミックタムを引き抜く。

宇宙は血を吐きようやく理性を取り戻す。

地に付着した血液は、引き剥がされた左腕に取り込まれ、バスの胴体へと戻る。

「戻った、だと……!?」


「これが、"魔術"。」


バスが完全に復元した。

「こうでも出来る者でなければ生き残れなかった。」

「まあ、力無き者はいずれ朽ちる運命。」

光太郎の母は解放される。

「あっ!」

「すぐに施設に戻る。」

大地は光太郎の母を抱えてクラックへ戻った。

「水上 宇宙。」

バスに呼び止められる宇宙。


「全部、お前の所為だ。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「母ちゃん!!!!」

母に抱きつく光太郎。

「光太郎、大丈夫。お母さんは…何ともなかったから。」

今、かつて自分に向けられた優しい嘘の本意に気づいてしまった。宇宙は、嘘をついてしまった。

「どこ行ってたんだよ!ずっとお迎え来てくれると思ってたのに……」

泣きかける光太郎。

「ごめんね、お…お仕事で。もう絶対離れない。」

宇宙と大地に央駆が声を小にして伝える。

「テノールと調べた。ソプラノは変装の際に時々オリジナルを誘拐する。」

「じゃあ、光太郎のお母さんは一度変装されて…」

「光太郎くんの送迎の時には既にソプラノであった可能性もある。」

「てことは…」

「アイソトープは光太郎くんと啓太くん、宇宙の事も全て把握済みである可能性が高い。次は啓太くんが狙われるかもしれない。」

息を飲む。

「もっと注意して見ないとな…。」

泣き笑う光太郎を心配そうに眺める。

「そしてひとつ気になることが。」

央駆が人差し指を曲げる。第1関節だけ伸びきっていなかったが。

「以前バケモノとの戦闘でカリホルニウムとカルシウムの技を合わせた時の事だ。」

大地と宇宙は思い出そうとする。

「…やはり覚えていないか、それが問題なんだ。」

「俺もあの時、"時間が巻き戻った"感じがした。」

「え?」

「そうか……」

テノールが話に入り込もうとすると、

「あ!ソラ兄ちゃん!」

宇宙が紙を見せてきた。

ぎこちない丸と線。

スペルの違うイタリア語。

楽譜だ。

「啓太くんと一緒に書いたんだ!これ!」

宇宙はしゃがみ、受け取る。

「…ありがとう。」


通知。


「アイソトープか?」

「ああ、」

央駆が足を進める。

「光太郎くん。すまない、我々は今から戦いに行く。」

光太郎は宇宙の手元の楽譜を見つめた。

「分かった…、」


「待ってるからね!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

葉朝図書館。

バケモノが荒れ狂い、本たちが炎をあげて叫ぶ。

「バケモノ…ッ、そこまでだ!」

火の囲う学習室の中。

くるみが立ち竦んでいた。

「くるみ…。」


弾幕。


「危ないっ!」

象徴化(シンボライズ)!』

くるみの横に、もう一体の影。

「あいつは…」


「上方 樹林。」


彼女は笑んで声をかける。

「やっと逢えたね、宇宙。」

「なんでもいいから早く逃げろ!危ねえぞ!」


『元素プレイヤー!』

「!?」

鍵盤を設置し、スティックを取り出す樹林。


1度、音を鳴らす。


『ニホニウム!』


『セメント・象徴化(シンボライズ)!』

先程まで華奢な1人の女だった姿は巨大なアーマーを纏う合金(フルメタル)戦士(ウォーリア)と化した。

くるみはドブニウムの力でスティックハンターへと変貌し、クラックと対立する。

「樹林まで…くそ!」

『ヴィブラフォンドライバー!』

ヴィブラフォンのドライブユニットを鍵盤横にセットすると、ドライバーのスイッチを押した。

『セメント・フレーズ!』

ヴィブラフォンのファンが自動回転しながらヴィブラートの効いたアルペジオが響き渡る。

3本のスティックを取り出し、なぞる。

『ニッケル!鉄!銅!』

『セメント・ブレンド!』

地面から合金の棘が生成される。

「どうして!バスとソプラノに何を仕込まれた!?」

「何も。」

メメントがスティックを構えるも、スティックハンターに奪取される。

「あっ!」

「スティックは全て回収する。神が世界を護るのよ。」

「くそっ、!」

調律(チューニング)!』

『アルミニウム!銅!セメント・ブレンド!』

「強い…樹林ッ、」

樹林に声は届かない。

『セメント・ブレンド!』


「樹林…ッ!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ラボアジェ神殿。

「人間界で日香くるみがスティックを回収、アイソトープが貴方を具現化させようとしています。ガイネン様。」

「そうか。」

分厚い楽譜を閉じる。

「そろそろ我々も、応じますか。」

「そうしよう。」

神は、下の扉へと繋がる"階段"を生成する。

「Mr.クーロンよ、よくぞここまでの組織を創設した。」

「信者のスティックが全て揃う時、我ガイネンが扉を(ひら)ける。」



「戦いの(とき)は、近い。」

【所持スティック】

〈クラック〉

ダイナミックタム(調律済)、Tbチューニングキー、

水素、炭素、酸素、フッ素、ネオン、リン、アルゴン、カリウム、スカンジウム、ガリウム、セレン、イットリウム、ニオブ、モリブデン、ロジウム、カドミウム、アンチモン、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、タンタル、タングステン、オスミウム、水銀、鉛、ラドン、アクチニウム、トリウム、ウラン、ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウム、バークリウム、カリホルニウム、アインスタイニウム、フェルミウム、メンデレビウム、ノーベリウム、ローレンシウム、コペルニシウム、フレロビウム


〈新生アイソトープ〉

ヘリウム、アルミニウム、カルシウム、鉄、ニッケル、銅、臭素、ルテニウム、パラジウム、ヨウ素、バリウム、金、ポロニウム、ドブニウム、シーボーギウム、マイトネリウム、ニホニウム、テネシン


NEXT▶30.侵攻的フェイス

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