26.怪奇的スティックハンター
新生アイソトープとしてクラックと対立した日香くるみ。
神、ガイネンの復活を目論む者の逆襲の幕開けである。
「勝たせてあげる。」
スティック。
「ドブニウム…勝たせるって」
「神を信じればいいのよ。」
「私は神を信じるつもりはない。」
くるみは元素シューターを構えた。
「あらあら、じゃあ何を信じるの?」
央駆たちの姿がよぎる。が、すぐに消え去った。
「…私は私しか信じない。信じられない。」
「じゃあ日香くるみは何が出来るの?」
くるみは銃を降ろした。
「…」
「目的は世界を守ることでしょう?メメントが守る事と神が守る事は何がどう違うの?」
「どうせ人間は守られる事でしか生き残れないんだから、確実に守ってくれる側につくのが妥当じゃない?ただ守ってくれる存在が違うだけで。」
「それでも私は─」
シューターを奪い、逆にくるみの顔に銃口を向ける。
「人は保護者を選べる程、贅沢な生き物じゃないよ。」
一瞬でも確かに、何故メメントに守られる事に固執しているのかと己を疑った。
付け込まれたのだ。
「全てのスティックを集めれば、神は復活する。」
「え?」
「神を信じていれば、神に殺される事はない。」
気付けばくるみの目に、光は無くなっていた。
「さあ始めましょう、"スティック狩り"を。」
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「くるみ...」
「大丈夫だ。彼女は必ず戻ってくる。」
クラック本部。
数ヶ月前のアイソトープの襲撃から機材等がボロボロになっていたので、PCデータの修復や掃除などを手分けして行っていた。
スティックは全て使用できるよう調整中である。
「パスワードはもっと難解にすべきなんじゃないか」
大地が扉の窓を拭きながら提案した。
間違いない。アルトから伝えられたとはいえ簡単過ぎたと侵入されてから反省する。
「そうだな…にしてもアルトとは何者だったんだ。」
結局、素流になる前の宇宙が撃たれて以降その姿を見た者はいなかった。
「分からないけれど、敵って感じはしなかった。」
宇宙は蛍光灯を入れ替えていた。
「熱っ」
「良かった、データの損傷は無い。」
央駆は液晶画面を前に安堵する。
「何のデータですか?」
宇宙と大地は央駆の目の先を見に集る。
「リム・ストローク博士の遺した元素プレイヤーの構造だ。これが残っているお陰で唐突に現れたメメント・二重奏の象徴化条件を理解できる筈。」
メメント・二重奏。
同じふたつのドラム型元素プレイヤーを同時使用した際に、宇宙とメイプルがキセノンとクリプトンをひとつに象徴化した姿。
「俺の脳にあの人の記憶が刻み込まれたのは、間違いなくあの時からだ。」
「元素プレイヤーを同時使用すると記憶がリンクするのか...?」
大地が反論を述べる。
「いや、俺と宇宙は同じタイミングで使用した事があるが互いの記憶は持ち合わせていない。」
「...」
「まあいい、とりあえず破損がないようにUSBに入れておこう。このPCももう古い。」
央駆はUSBへデータを移行し、抜いた。
「宇宙、そろそろレッスンじゃないか」
時計を見る。
「あ!やっべ!行ってくる!」
宇宙は隕石の様なスピードで施設を出た。
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遊園地。
あのベンチがどうしても忘れられない。
宇宙は、きっと今も戦っている。
白いスケッチブックを開く。
青い空は、どうも青く描かれ過ぎている。
「あれ」
コンクリートの鼠が黎になる。
「おかしいな」
どうしても見たままを描けない。
宇宙のことが気がかりで仕方ない。
あの夜寄せ合った軟らかな愛は人生の何になったか。
宇宙、怪我してないかな。
してるよな。
化け物殺して、怖くないのかな。
そりゃ、怖いよな。
誰も座っていないベンチに人影を投写する。
後ろに、あの女が居ることには気づいていない。
「ねえ。」
バスは声をかける。
「ねえ!」
何度か返事を期待した後、理解する。
「ああ、耳が聞こえてないのか。」
バスは大きく息を吸う。
「わっ!!!!!!」
「わっ...!?」
樹林は、ようやく気が付いた。
「耳が悪いのね」
樹林にはかろうじて聞こえた。
「ま、まあ...。聞こえないって訳じゃないですけどダイナミック・レンジの時に耳がやられちゃって。」
少し怯えながらも、丁寧に答える。
「ダイナミック・レンジか」
人差し指を立てる。
「水上 宇宙に会いたくないか。」
「え?会いたいです...宇宙の友達ですか?あれ。女友達いたっけ宇宙、、」
「まあ、友達といえば友達になるのかも知れない。」
妙に曖昧な返答に眉を動かし首を前に出す。
「端的に本題を要約する、その宇宙が人を殺した。」
「え?」
樹林の声を抑えて、樹林が気が付いた時よりも大きな声で圧する。
「彼には世界を救えないことが証明されてしまったのだ...そこで、新たに神に世界を守って頂こうと思う。」
「神?」
樹林は脳を隅まで回す。
「たった今、仲間が君にプレゼントを用意中だ。」
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「「ソラ兄ちゃーん!!」」
光太郎と啓太が宇宙の足に抱きついてくる。
「おおっ!楽しみだな!?」
「うん!」
コンクールが終わり、ようやく宇宙もドラム教室でのレッスンを再開できるようになった。
「今回の課題曲むずかしかったから1回リセットして帰ったら上手くなってるかな、ソラ兄ちゃん!」
レッスンの課題曲を演奏するにあたり芸術的感性を磨くため、遠すぎない程度の距離にある美術館へ学びに行くことにした。
啓太は再びレッスンに参加することになり(初回料金は免除)、光太郎とも仲良くやっている。
「どうかなあ?それは終わってから啓太がどれだけ練習するかじゃないかー??」
「そうだね、でも楽しみ!」
「ちょっと難しい話だけど、芸術的感性を磨くには芸術的感性を磨こうとしちゃダメだからな。」
子供たちは首を傾ける。
「そんな気持ちで作品を見ると、自分に正直じゃなくなるからなっ」
「まあ、無理に感動しようとするなよ!」
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アイソトープ。
「アイソトープは"進化"するんだ。さァ墓にスティックを供えろ、チュー。」
チューはスティックを置くと、バケモノが誕生した。
Mt=マイトネリウムのバケモノが誕生した。
「ヨウ素により私の魔術が革新的であると判明した。これからは【ハウリング】させることでアイソトープを拡大するんだ。」
バスは大きめのフラスコに何の印章もないスティックを3つ投入し、温め、液体になるまでかき混ぜた。
「これで...、」
バスはフラスコ内の液体をマイトネリウムのバケモノに飲ませる。
「...ッ!」
「言語が話せるまでに進化している中すまないね。君たちは神の一部として"還って"もらおう。」
バケモノの容姿はゴツゴツと岩のようなパーツが頭に、フィルムカメラが肩に、瞳の奥はエネルギーの塊でしかない、まさに"バケモノ"のそれであった。
「まだ実験段階だ。君の活躍を見せてくれ...」
「ハウリング・マイトネリウム!!!」
ハウリング・マイトネリウムは地下深くにある薄汚いアイソトープの拠点を出た。
「さァ、日香くるみ。行こうか。」
くるみはドブニウムのスティックを握ってバスの後を歩いていった。
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美術館。
「見て見て!なんかすごい変な顔!」
「おい、!あんま大きい声出しすぎんな光太郎...っ」
光太郎が指をさしたのはキュビスムが流行した時代に人気を博した画家の絵であった。
「こんなカクカクしてるのに人の顔に見えるの、おもしろいね。ソラ兄ちゃん、あれ何に見える?」
それは唯の茶色の四角であった。
「僕は上の縦線が貫通してるからギターに見える」
「おぁー、そうなんだ。」
おぁー。なんか変な相槌をしてしまった。
「俺はドラムのフロアタムに見えるなあ。」
「さっすがソラ兄ちゃん。ドラマーだ!」
「サンキュ。」
宇宙と啓太は、互いに感性を語り合っていた。
すると
悲鳴。
「!?」
「バケモノか...!?」
右腕で光太郎と啓太を守る宇宙。
「ソラ兄ちゃん!あの怪物...?」
「怪物?」
「かもしれない。あのピクトグラ...緑の人がある扉に!」
「う、うん!頑張ってソラ兄ちゃん!」
光太郎は逃げた。
「啓太くん、行くよ!」
「ソラ兄ちゃんは逃げないの!?」
「ソラ兄ちゃんは...俺たちのヒーローだから逃げない!」
光太郎は啓太の手を無理やりつかみ逃げた。
宇宙は光太郎の一人称が「おいら」から「俺」に変わっている事に今気付いた。
バケモノが現れた。いつもよりゴテゴテしている。
美術館のサイレンが、壁掛けの美術品が、天井のライトが、逃げ惑う人が。
全てが鳴動し慌てる中、宇宙とバケモノは対面する。
「...成長しやがって」
『元素プレイヤー!』
『アルゴン!』
ドラムソロによってビートが刻まれる。
「行くぞ!」
『象徴化!』
メメント・アルゴンが飛び散るパンフレットを避けて走る。
金属を変形させてブーメランを創る。
「はっ!」
ブーメランを飛ばすと、バケモノが攻撃を仕掛けてきた。
ブーメランにバケモノの指が触れると、金属の塊は更なる変形を見せた。
「形が変わった!?マジかよ...!」
メメント・アルゴンは殴りにかかる。
バケモノの手から高温のビームが出現する。
『炭素!エレメント・ショット!』
ビームに触れると、独特の刺激臭がした。
「なんで!?...くっそ!」
「すまない!」
クラックが駆けつける。
「あれはマイトネリウム...だけじゃない、?」
『モメント・ランタノイド!』
『展延』
シューターから放たれていた無数の炭素が伸びて壁となる。モメントはメメントへ忠告する。
「気をつけろ、今までのバケモノとは何かが違う。」
壁がすぐに破壊される。
『調律!メメント・モリ!』
「一撃で終わらせる!」
『ダイナミック・チャージ!』
『C...』
「司令官何か分かったか!」
「あのバケモノは...ヨウが最後に闘ったあの時と同じ構造だ、何者かによって構造が弄られている。」
「体内でスティックが生成されている...?」
『G』
モメントが気にかける。
「何が起こるかわからない。最大火力は避けて必殺技を決めてみるぞ。」
『ネオジム・スマッシュ!』
磁力で身動きが取れなくなるバケモノ。
『A』
『チューンメメント・アタック!』
バケモノの胴体に1つ、ボルトが出現。
メメント・モリはチューニングキーを蹴ってぶつけた。
爆発。
『モメント・アクチノイド!』
『加速』
モメントは直ぐさまメメントを抱え離れた場所へ移動し、先程まで戦っていたバケモノを観察する。
火災感知器が鳴り、どこまでも騒がしくなる。
煙が開けた先には、いつものように倒したバケモノのスティックが落ちていた。
マイトネリウム。
「ん...?1本じゃない...。」
央駆が異変に気付き、スティックの方へ向かう。
Po=ポロニウム
Br=臭素
Sg=シーボーギウム のスティックも落ちていた。
「なぜ?」
臭素のスティックがカメラのシャッターのようにフラッシュをたき、央駆の目を閉ざさせる。
「な…っ!?」
「司令官!」
驚きのあまり下を向いた央駆がゆっくりと目を開けた。
手元には持った筈の臭素スティックが無い。
下に落ちていた他のスティックも、無い。
そしてようやく前を向く。
バスの姿だ。
「お前はっ!?」
バスに殴られ、央駆は転がった。
「く...ッ、!」
「スティック狩りだ。」
「スティック狩り...?」
「神の復活の為。現状クラックの所有するスティックを全て渡せ。」
バスは手を出す。
「そんな事、誰が首を縦に振るか!」
モメントは走りながらギロのプレイヤーを構える。
と、ギロのプレイヤーは何者かに掴まれ。
モメントは足を蹴られ。
ギロを軸として一回転させられる。
背中を大きく付いた大地は、腹を踏まれる。
「ぐは...ッ!?」
その目が捉えたのは、日香くるみだった。
「貴様...っ!」
大地を蹴りあげると、くるみはドブニウムのスティックを構える。
「どういうつもりだ...くるみ!」
「メメントじゃない...神が世界を守るのよ!!」
首を切るようにドブニウムのスティックを横へスライドさせると、くるみの背中から筒が生え出す。
胸にも、腕にも、脚にも、頭にも。
筒だらけの異形の "バケモノ" へと、姿を変えた。
「嘘、だろ...?」
口を開けるクラック一同の存在を無視したかのように高らかな祝福の声を捧げ、神に報告するバス。
「あァ、神よ!!!!!!」
「スティックを神に捧げる為だけに生まれた愛しき子 ─」
「【スティックハンター】の誕生ですよ...!」
【所持スティック】
〈クラック〉
ダイナミックタム(調律済)、Tbチューニングキー、
水素、ヘリウム、炭素、酸素、フッ素、ネオン、リン、アルゴン、カリウム、カルシウム、スカンジウム、ガリウム、セレン、イットリウム、ニオブ、モリブデン、ロジウム、カドミウム、アンチモン、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、タンタル、タングステン、オスミウム、水銀、鉛、ラドン、アクチニウム、トリウム、ウラン、ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウム、バークリウム、カリホルニウム、アインスタイニウム、フェルミウム、メンデレビウム、ノーベリウム、ローレンシウム、コペルニシウム、フレロビウム
〈新生アイソトープ〉
臭素、ヨウ素、ポロニウム、ドブニウム、シーボーギウム、マイトネリウム...
NEXT▶27.重層的ターニングポイント




