20.求心的メモリー
ドラム教室でのメイプルの一件であらゆる関係が乱れた。
「決して死ぬ事を忘れるな」
大地はメイプルの最期の言葉に動かされ、人の死までの道のりの途中で命を奪うバケモノを許さないヒーローとして戦う決意を固めた。
その一方で、央駆は長官でありながら誰かに頼る事しか出来ない自分に焦りを感じていた。
コンクール本番、水上は教え子との記憶を取り戻す事が出来るのか。
目が覚めた。
点滴。
「お名前確認しますね、水上 素流さーん。」
「は、はい」
今日は?
僕はレッスン教室にいて。
戦って?
病室。
これは入院というやつか?
「ご友人の方ですかね、下方 大地さんという男性の方が」
大地が。
モメントとして対峙していた筈。
いや、待てよ。
リム・ストローク博士。
「何か異常はありますか」
元素プレイヤーの開発者?
それがどうした。
神?
人類…、
元素プレイヤーがドラム型に変質。
水素のバケモノ。
"怪物の対抗手段"?
水上──
「大丈夫ですか」
あっ、「はい」
「異常は…」
「知らない記憶があるくらいですかね」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「おい、」
無視。
「おいっ。」
無視。
「おい!」
「何ようっさい!!」
顔の部位を象った紙々をばら撒く。
「下方大地にスティックを集めさせているのは何故だ。」
「何、過干渉はしないでよ変態」
「ここに来てから動向が怪しすぎるぞソプラノ。」
「俺たちの目的はなんだ」
「神復活の、阻止…」
「ああ、もう水上宇宙は死んだ。よってアルトも消えた。」
「でも水上素流とかいうのが出たじゃない!!」
「正しい、これが正しい。」
「でもそれじゃまだ神が…」
ソプラノの考えている事を推測したテノール。
「…そうか、好きにしろ。」
ソプラノは、不敵な笑みを浮かべる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
クラックを組織したのがリム・ストローク。
アイソトープを組織したのがMr.クーロン。
リム・ストローク博士が死んだ次の日にMr.クーロンが誕生した。
これは全てメイプルの親からの情報。
なんで僕の頭にこの記憶があるのか。
僕は何者なのか。
そもそもバケモノって何なのか。
そもそもメメントって何なのか。
考える。
何も分からない。
確かに、メイプルの後輩にあたるのが奈良央駆と日香くるみを代表するクラックの人間たちで。
メイプルはドラムスティックを装填して元素プレイヤーを覚醒させるも、メメントにはなれず。
僕はメメントになれた。
ドラム型元素プレイヤーの操作方法を何故か知っていた。
メイプルの記憶から学んだ訳では無い。
この情報量の多すぎる記憶が僕の空っぽであった脳を埋め尽くす前から、操作方法を知っていた。
誰かが使用する様を見たか?
いや、見ていない。
モメントのプレイヤーとは話が違う。
待て。
モメントって何だ。
大地って誰だ。何故知っている。
そういえば、光太郎とはいつ初めて会ったんだ。
何故ドラム教室の場所を知っている。
何故ドラムが叩けるんだ、
何故僕はドラム講師なんだ、いつから。
何故彼らは僕がドラマーである事を理解している。
そうだ、日香くるみ。
彼女は何処へ行ってしまったんだ。
待て、
『あのバケモノを倒して!』
くるみの声がフラッシュバックする。
いつ、どこで聞いた。
待て、
『ねえ、宇宙。あの時の事、覚えてる?』
樹林の声、?樹林とは、樹林。幼馴染だった。
幼馴染だった?
『宇宙』
誰だ、お前は。
『ソラ兄ちゃん!』
ソラ…?
ソラ。
『宇宙さん!!』
この声は!
蓮、
~~~~~~~~~~~~%=~{(?;(=:/=:#?:#-*/-*'>\`}_>||
「うあああああああああああああああああああッ!」
何故だ!
何故叫んでいる!
思い出しきれない、
思い出すということが正しいのかも分からない、
が、しかし、
蘇らなければならない記憶がある気がしてならない
忘れてはいけない事がある気がしてならない
負うべき責任がある気がしてならない
が上手く思い出せないようだ
が叫びたくなってしまった
だから叫びたくなってしまったのか?
疲れてきた。
そうだ、今日はコンクールがある。
「ちょっと!安静にしていてください!」
看護師の腕を掻き分けて走る。
走る。
僕にとってそのコンクールが、前以上に極めて重大なものであるように思えたのだ。
聴かなければならない音色がある。
そんな感じがした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「緊張するね。」
どうしてこんなにうるさいのだろう。
客席の埋まっていないこのホールは静かな筈なのに。
「心臓がバクバク、打楽器みたい」
「てことは僕たちその物が楽器ってこと」
「おかしくないかも」
4つ目のティンパニの搬入が終わったところで、客席がざわつき出す。
「来た、」
「はい」
千ちゃんがマレットを掲げる。
僕は千ちゃんと目を合わせ、スティックをその上へ重ね、
希人くんも同様にスティックを重ねる。
「絶対に成功させよう。」
時計の針が彼らの心臓を刺していく。
開演の合図。
『まもなく葉朝市水上ドラム教室の演奏です。──』
さあ。
『Walhalla』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
間に合え、
間に合えっ
間に合えっ、
間に合えっ、!
足が折れそうになる。
点滴が邪魔だ。
はあ、はあ。
必死の思いで会場にたどり着いた頃には、
ホールの扉は閉まっていた。
「そんな。」
ホワイエの椅子に座り込む。
「最悪だ、病院を逃げ出しただけじゃないか。」
落胆したその時。
じわじわと、手拍子が聴こえてくる。
ホールの外からでもわかるような、生の人間の奏でる音が。
命と命のぶつかり合う、魂の音色が。
楽園のような、それでいて地獄を連想させるような
慶びがこだまするような。
手を、差し伸べられるような。
素流は、自然と涙が零れてしまった。
果たしてこの涙は己のものなのか、分からない。
だが、己のものであると信じたい己がある。
あっという間の演奏が終わってしまった。
この4分の為だけに、彼らはどれだけの時間を費やしたのか、どれだけの苦悩へ突入したのか。
感じられてしまう。
ホールの扉の開く音。
「あの子、ちょっとテンポ崩れてたよね」
「うるさかった」
「手拍子であんな事するの凄いね。」
「初心者にやらす曲じゃないだろう」
「わかる」
「何やってるか分かんなかった」
「これは銀かな、銅ではない絶対」
色んな感想が耳を通り抜けていく。
「ソラ兄ちゃん!」
この声、
「光太郎…!」
振り向いた先には、前以上に極めて勇ましくなっている光太郎の姿があった。
「ありがとう」
「ごめん、ホールに間に合わなくて。」
光太郎は見て言う。
「仕方がないよ、そんなにボロボロなんだから。」
何故か、誇らしかった。
「俺、光太郎に会えてよかった。」
最初から最後まで、自分のやっている事がよく分からなかった。
でも、"なにか"を思い出せそうだった。
思い出した気がした。
「あ、あれ啓太くんじゃない?」
隣のキリッとした目元の女の子が言う。予想以上に柔らかい声色だった。
この子がティンパニを。
「彼が。」
ネクタイの少年。雰囲気に説得力がある。
そうか、この子が。と、勝手な妄想を続ける。
「啓太くん!」
彼が、こちらを見た。
少し焦ったような表情だったが、すぐに安らいだ。
「啓太くんごめんね。この前は強いこと言って。」
「ううん、僕が馬鹿だった。どうやら光太郎くんを応援したくなっちゃったみたいで。」
その言葉は啓太にとって一種の決意表明であるようだ。
「僕、ドラム続ける。」
千ちゃんと希人くんが深く頷いて
「じゃあ、またね、光太郎くん!」
それぞれの親の元へ去っていった。
「ソラ兄ちゃん。」
「頑張ってくれてありがとう。」
ありがとう。
その言葉だけは、聞き馴染みの無いようにしよう。
「その怪我、」
「啓太くん、ソラ兄ちゃんは皆を守るヒーローなんだ!」
少しチクッとする優しさに微笑んでしまう。
そうか、俺は
水上 宇宙なんだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ここら辺のはず。」
大地が来たのは、駅だった。
が、バケモノの姿は確認されなかった。
「いつ出てくるかは分からない、気をつけろ。」
「あ、ああ。」
央駆はこたえるままに答えた。
少し目線を泳がせる。
電車が到着する。
葉朝市外からやってきた程々の数の人間が箱から溢れる。
午後6時27分。
この街では1番人流が激しい時間帯だ。
髪の毛の波に泳がされそうになる大地と央駆。
すると。
「きゃあああああっ!」
ある女性が宙に浮き、咳き込む。
誰かが掴んでいる様もみえない。
「何が起こっている!?」
その女性の周りは人が減っていく。
カメラのシャッター音をどかして走る。
「バケモノの仕業に違いない。」
直後、空気が人を型どってゆく。
「やっぱりか、」
Fl=フレロビウムのバケモノが出現。
ティンパニのチューニングペダルのようなパーツを4つ押すと、重厚な音楽が奏でられる。
"Ac"の文字が刻まれたスティックで、なぞる様にティンパニを叩く。
『象徴化!』
『モメント・アクチノイド!!』
設置されたシリーズインジケーターが【A】を指す。
「倒す!…ん?」
モメントは足元に違和感を感じた。
「あっ!」
央駆が目を大きくする。
下を向くと、モメントの脚をバケモノが掴んでいた。
それも目前のフレロビウムでは無い、
「"He"だ…!」
フレロビウムとヘリウムのバケモノの共闘であった。
「2体でかかっても一緒だ。」
トライアングルを構える。
「へっ、俺様は希ガスだぜ?舐めるなよ。」
バケモノが、喋った。
確かに、希ガスはその性質から非常に安定した戦いが出来る。
メメントもまた、希ガスの元素の力をベースに様々な元素をカスタマイズして戦っていると言える。
が、モメントは立ち向かう。
「しょうもない進化しやがって…」
大地は、水銀のバケモノが子供を襲ったのを思い出す。
『決して死ぬ事を忘れるな。』
モメントの手が震える。
「俺は絶対に許さない…」
「人の命を奪うバケモノを!」
『加速』
「うおおっ!」
ヘリウムのバケモノを振り払い、フレロビウムへと走るモメント。
「へっ、敵いやしねえよ俺様たちには。」
フレロビウムは気体として姿を消す。
「!?」
央駆に異変。
「ぐあっ!」
見えぬフレロビウムが央駆の首を絞めているようだ。
「待てっ、」
モメントの行く手を阻むヘリウム。
「おっと、通さねえぜ?」
ヘリウムのバケモノはモメントの顔を殴る。
「くっ…!」
駅がザワつく。が、誰もこちらへ助けに来ることは無い。
それは、彼がヒーローであるからだ。
両者首を掴まれ、身動きが取れない。
央駆が時刻表を横目にみると、隣の電車の到着する1分後に次の電車が来ることを確認し全てを察した。
「まさか、轢くつもりか…!?」
隣から到着の駅メロディが響き渡る。
カメラのシャッター音にかき消される事もなく、その駅メロは2人の耳を貫通する。
「これで…終わるのか…?」
「離せ。」
たった1人の声が、万物を制圧した。
「お前、もしかして…」
「「水上 宇宙」」
【所持スティック】
〈クラック〉
謎のチューニングキー(テルビウム)、水素、炭素、酸素、ガリウム、フッ素、ネオン、リン、アルゴン、カルシウム、スカンジウム、セレン、クリプトン、イットリウム、ニオブ、モリブデン、ロジウム、アンチモン、キセノン、タンタル、タングステン、オスミウム、水銀、鉛、コペルニシウム、ホルミウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、アクチニウム、トリウム、ウラン、ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウム、バークリウム、カリホルニウム、アインスタイニウム、フェルミウム、メンデレビウム、ノーベリウム、ローレンシウム
〈水上 素流&メイプル〉
ダイナミックタム
〈アイソトープ〉
ヨウ素 (ヨウ)
NEXT▶21.自責的プログレス




