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現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
Prelude to Yusei Theater

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道化遊戯 正義しか見なかった刑事と正義の味方になれなかった探偵の回想 愛夜ソフィア その4

 『男が浪漫を追う時、女はその足元を見る』とはよく言ったもので、花嫁控室の女たちは、男が何をするか大体の所は察していたのであった。


「『捕まえて一発殴らせろ』ぐらいは言うと思うのよ。あの人。

 で、そんな浪花節に小野のおやっさん弱いし、あの人出世しても刑事だから」


 ウエディングドレスを着た愛夜ソフィアが雑談とばかりにぼやく。

 今回母親役を引き受けてくれた北斗千春も苦笑するしかない。


「だからって、式を放り出して事件を追うような人なら結婚なんてしないでしょ?」

「まぁ、そうなんですけどー」


 樺太から売られて、体を売ってなんとかインターネットカフェを経営し、こうして式を挙げられるていどの幸せを手にしたのだ。せめてそのハレの日ぐらいは祝わせてくれと言いたいのだが、事件と言うのは待ってくれない上に、そのハレの日に起こるのは人生あるあると言えよう。

 そんな二人のやりとりに神奈水樹が首をかしげる。


「そこまで分かるなら、注意しに行かなくていいんですか?」

「そりゃあ、水樹ちゃんより人生長いから分かるのよ」

「これは年の功ってやつよ。水樹ちゃん。あと十年は修行しなさいな。

 そしたら分かるから」


 あっけらかんと神奈水樹を雑談のダシに使って愛夜ソフィアと北斗千春は笑う。

 だからこそ、二人は花婿控室でどんな話が行われているか察していた。


「式で旦那は出ないといけない。小野のおやっさんも旦那の親族役だから出席しないといけないならば……」

「三田くんでしょうね。

 私の旦那様役なのに逃げ出そうとするのよ。あの人。失礼しちゃうでしょう?」


 そこへ、控えめなノックが入り、三人が顔を上げる。

 愛夜ソフィアが「どうぞ」と言うと、扉の隙間から顔を出したのは、予想通りというべきか、ひどく居心地の悪そうな三田守だった。


「失礼します……」


 その声だけで、もう嫌々来たのが分かる。

 旦那様役としてそれなりに整えられた格好をしているのに、顔だけが完全に“面倒事に押し出された男”だった。


「あら、来たのね」

「来たくて来た訳じゃないんですけどね……」


 三田は花嫁と目を合わせるのも落ち着かないのか、視線を少し逸らしたまま頭を掻く。

 その様子を見て、北斗千春が面白そうに口元を緩めた。


「で? 小野さんに頼まれたの?」

「頼まれたというか……頭を下げられました」

「へえ」


 愛夜ソフィアが少しだけ目を見開く。


「小野のおやっさんが?」

「ええ。近藤さんにも」

「それは断れないわねぇ」

「断りたかったんですけどねぇ……」


 三田はそこで一つため息をついた。

 控室に入ってからずっと、できれば自分はここに来ていない事にしたい、という顔をしている。

 それでも、彼は来た。来てしまった。

 その理由を告げる。


「地下の方で、元男がまだ押さえられてないそうです」

「……そう」

「それと、そいつを消しに来た側もまだ見つかってない。

 だから、俺に行けと」


 愛夜ソフィアの顔から、花嫁の柔らかさが少しだけ消えた。

 北斗千春も目を細める。


「なるほどね」

「で、まあ……」


 三田はそこまで言って、妙に言いにくそうに咳払いした。


「一応、店長にも話を通しておいた方がいいかなと思いまして」

「話を通す、ねぇ」

「はい。

 勝手に追いかけて、後で『何で黙ってたの』って言われるのも怖いんで」


 愛夜ソフィアがそこで吹き出した。


「素直じゃないわねぇ」

「違いますよ。保身です」

「そういう形でちゃんと筋を通すから、真面目系クズなのよ」

「褒めてませんよね?」

「ええ、もちろん」


 笑っていた愛夜ソフィアの隣に居た北斗千春も小さく笑ったあと、少しだけ真面目な声になった。

 神奈一門は高級娼婦集団としても有名だが、元々は占い師集団である。

 その占い師の顔だった。


「三田くん」

「はい」

「聞かせて頂戴。

 行きたくないあなたが、あの二人に頭を下げられただけでここに来たの?

 違うでしょう?

 何が貴方をここに来させたの?」


 三田守は首をひねり、出した答えを口にした。


「近藤さんや、小野のおやっさんには言わないでくださいよ。

 この事件、多分なかった事にされるじゃないですか。

 俺は、その方がいいなと思ってしまって」


 三人の女たちの顔に疑問符がよぎる。

 そんな空気が読めない三田守の答えは、三人に予想できないものだった。


「だって、せっかくの結婚式じゃないですか。

 事件なんて『なかった』方がいいに決まっています」


 三人の女性がその意味を噛みしめ、互いにアイコンタクトを送り、我慢できなくなった北斗千春が笑いだす。


「あははははははっ♡

 最高よ♡旦那様♡♡

 今日、一番いい言葉を聞けたわ」


 目から涙を流して笑う北斗千春の隣で、愛夜ソフィアも苦笑するしかない。


「なんというか……三田くんらしいわね。

 うん。そうよね。結婚式だもの。事件なんてない方がいいわよね」


 そのまま室内電話の受話器を取って、式場の係に告げる。


「もしもし?

 この後の式を行う近藤ですが……式を一時間ほど遅らせていただけませんか?

 ええ。ちょっと体調がすぐれなくて……」


 何を言っているのか理解できない三田守の隣で、神奈水樹が笑顔で愛夜ソフィアの意図を察する。

 同じく、察した北斗千春が笑い終えてため息をついた。


「一時間。

 これが精いっぱい。

 三田君。この一時間で、『なかった事』にして頂戴」


「……はい」


 そこで頷く事しか三田守はできないが、神奈水樹が元気に手をあげた。


「じゃあ、私が三田さんについていきまーす♪」


 三田の顔が露骨に曇る。


「何でそうなるんです?」

「何でって、その顔で一人で行かせたら、面倒事に巻き込まれるじゃないですか」

「……まじで?」

「私、占い師集団神奈一門の次期後継者ですよ」


 えっへんと中学生にあるまじき胸を誇って妙にきっぱりと言い切られて、三田が言葉に詰まる。

 北斗千春が横から楽しそうに頷いた。


「あきらめなさい。水樹ちゃんがついていると悪い事にはならないわよ。多分」

「……多分って何です?多分って?千春さん。店長も目を逸らさないでくださいよ」


 三田守の抗議に愛夜ソフィアは肩をすくめ、北斗千春がいかにも当然という顔で言う。


「三田くん、放っておくと変に義理堅いところあるもの。

 小野さんと近藤さんに頭を下げられて、今ここで私たちにも頭を下げたんでしょう?」

「それは……まあ……」

「だったらなおさらよ。

 一人で行かせたら、余計なものまで背負い込む」


 愛夜ソフィアも真面目な顔で頷く。


「だから、お目付け。

 水樹ちゃんが居たら、あなたそっちを優先するでしょう?」

「ひ……否定できない……」


 自覚はあったらしい三田守が落ち込む姿を愛夜ソフィアが満足そうに頷いた。


「決まりね」

「いや、俺の意思は?」

「あるじゃない。今、ちゃんと諦めたでしょう?」

「……」


 その沈黙にさっきまでの迷いはもうなかった。

 諦めた男のぼやきであり、行くと決めた男の声だった。


「じゃあ、三田くん」

「はい?」

「ちゃんと戻ってきなさい。

 式で旦那様役が足りないと、千春さんが困るから」

「何でそこで俺の心配にならないんです?」

「帰ってくるって信じているから」


 愛夜ソフィアがさらっと返し、三田が天井を仰ぐ。

 きっと、三田守もこの輪の中の、近藤俊作と愛夜ソフィアの家族の一員なのだとはっきりと意識した。

 北斗千春が笑い、神奈水樹もつられて笑った。

 笑ってはいた。

 だが、誰もこれから起きる事を軽く見ている訳ではない。

 だからこそ、ここで少しだけ笑うしかなかった。


「じゃ、行ってきます。店長。千春さん」

「行ってらっしゃい」

「気を付けてね。旦那様」

「あ、三田さん」

「何、水樹ちゃん?」

「無茶したら、あとで千春さんに言いつけますから」

「それ、地下の連中より怖いんですが」


 花嫁控室に、短い笑いがもう一度だけ落ちる。

 そして、事件を追いたくない男と、その男に無茶をさせない為の女は、並んで扉の外へ出ていった。

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― 新着の感想 ―
ドラマなら神奈水樹の大サービスシーン確定と
話しが膨らみますね〜 (イランと米国の乱痴気騒ぎは当分終わらんと思うでなぁ)
漢三田守は踏ん張りどこを間違えないからかっこいいな そして女性陣は強い
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