道化遊戯 正義しか見なかった刑事と正義の味方になれなかった探偵の回想 道暗寺晴道 その2
この話を書くために見返した私の話。
いくつかの記事抜粋 帝都学習館学園七不思議 破 編
https://ncode.syosetu.com/n3297eu/693
これ書いたの2023年3月だよ……(遠い目)
前藤正一樺太道警主席監察官に呼び出された道暗寺晴道警視が公安要請の保護について話し終えてパーティー会場に戻ってみたら、神戸総司教授が来ていた客と丁度旬の話題で話していた。
今、この九段下駅で起こっている騒動の焦点になった食券である。
「この間の国会で、恋住政権が強引に合併特例債を通したじゃないですか。
枢密院の緊急勅令まで使って野党とマスコミが騒いだ奴ですが、あれが今回のこのパーティーの遠因になっているんですよ」
「へぇ。そうなのですか?」
ここの招待客になるとそのぐらいの前提知識は最初から入っているが、それを知らないふりをして話を聞く狸たちのパーティーでもある。
そういう連中でないと、利権は貪れないのだ。
「平成の大合併。
その過程で色々な処理をする為に合併特例債を起債する事になるのですが、その目的の一つが食券を地方通貨に変えて金融庁の網をかける事だそうで」
神戸教授の説明は要するに、自治体や第三セクターが簿外で膨らませた胡散臭い金を、地域振興と住民サービスの名目で表の帳簿に戻そうという話である。
客の一人が当然のように質問してくる。
「第三セクターを通じて食券をコマーシャルペーパーみたいに使っていた自治体があったと聞きましたが、それが狙いですか?」
「それだけだったら、こんな所でこんな話に興じていませんよ。
木を隠すなら森の中。嘘を隠すならば大きな嘘を。
北海道や樺太道は帝都岩崎銀行や桂華金融ホールディングスと組んで、地域お食事ICカード『食べケーカ』の発行を発表しましたが、それを記念して大きなイベントを考えているそうなんですよ」
「ええ。ですから、私どももこの場所にて色々と食材を提供させていただいております。
お久しぶりです。神戸教授。テレビでされるのと同じように解説が分かりやすいですわね」
「お久しぶりです。ユーラ・タチアナ樺太酒造東京支社長。
相変わらずお美しい」
「今をときめく神戸教授に褒めていただいて光栄ですわ」
このパーティーの参加者である狸たちは知っている。
ユーラ・タチアナが昭和の頃から、パーティーの席で同じような美貌でその時折々の狸たちにチヤホヤされていた女狐である事を。
もちろん、そんな事を指摘して女狐を怒らせる愚か者がこんな宴の場所に居る訳もなく、話は続けられてゆく。
「話の腰を折ってしまいましたわ。
どうぞお続けになってくださいませ」
「いやいや。お気になさらず。
話を戻しますが、道の方では地方博を考えているそうで」
神戸教授が出した地方博の言葉に何とも言えない空気が流れる。
つまり、赤字が出ても不思議ではない巨大イベントをわざわざ立てる事で、回収不能の食券も、出所の怪しい金も、まとめて“必要経費”に紛れ込ませようという訳だ。
道、特に北海道はその地方博でバブル期に大失敗をやらかした苦い記憶がある。
リベンジをしたいのは分かるが、バブル崩壊で受けた傷がまだ完全に癒えぬ今にそれをするのではという空気を振り払ったのは、ユーラ・タチアナだった。
「何でも、桂華グループだけでなく岩崎財閥も大々的に支援を行うとか。
桂華グループに至っては『採算は気にするな。最高の物を用意してほしい』なんておっしゃって」
端で聞いていた道暗寺晴道の頭の中で、最後のピースがはまった。
バブル崩壊で莫大な不良債権を抱え込んでいる地方の第三セクターが、その穴埋めとして食券をコマーシャルペーパーとして派手に刷りまくった結果、それがバレて政局になりかかった。
郵政民営化に本腰を入れる恋住政権はこんな所で足を引っ張られたくないから、平成の大合併と合併特例債でとりあえずの蓋をし、桂華グループと岩崎財閥が北海道と樺太道に金を出してその回収に奔走すると。
北海道のトラウマとなったバブルの頃の地方博の赤字はおよそ百億円と聞いたが、多くのIT企業の大株主である上に、和製メジャーとして石油をはじめとした資源を日本に運び続けている桂華グループにとっては必要経費と言い切れる額でしかない。
「道側はトラウマがあるので慎重なのですが、桂華グループと岩崎財閥が前に乗り出しているんですよ。
帝都岩崎銀行や桂華金融ホールディングスが組んで、地域お食事ICカード『食べケーカ』の発行を発表しています。
だから、『食べケーカ』の普及と食券の回収を兼ねた大博覧会を考えているとか。
既に候補地を巡って自治体が暗闘を始めていますよ」
「あら?
暗闘どころか、こんなに煽情的な姿でこの場に私が来ているのは、会場を豊原にと本社の命令を受けたからなのですが」
ユーラ・タチアナのジョークに場が笑ってこの話はお開きとなった。
和やかな席に道暗寺晴道は入る事はせず、静かに会場を抜けて前藤正一の所へ戻る。
不良債権処理で政治的スキャンダルに蓋をする為に『赤字が約束された』地方博覧会というイベント。
洗濯が目的であり、ある程度の目減りは許容されているマネーロンダリングの格好の洗濯機であり、下の九段下駅の騒ぎの元凶はこれだと伝えるために。
大赤字の博覧会
世界・食の祭典
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%83%BB%E9%A3%9F%E3%81%AE%E7%A5%AD%E5%85%B8




