道化遊戯 正義しか見なかった刑事と正義の味方になれなかった探偵の回想 愛夜ソフィア その3
花嫁の控室に入った近藤俊作は置かれた花束の事を尋ねて昔の男の話を聞くことになったのだが、それで結婚をやめるなんて事にならないのは、二人の付き合いが長いからだろう。
「昔の男か。なんともキザな事で……」
「今更気にする事もないでしょうに。嫉妬した?」
「するようなら、お前に結婚なんて申し込んでいないよ。
ただ、いやな話の筋がつながったと納得した所」
頭をかきながら近藤俊作は小野健一警視から聞いたロシアンマフィア襲撃の噂を花嫁に話す。
それを聞いた花嫁こと愛夜ソフィアの顔が近藤俊作と同じくげんなりしたのは言うまでもない。
「それがどうこの花束と絡むんですか?」
当然のように残っていた神奈水樹の質問に花嫁が腕を組んで首をかしげる。
なまじ、前の男を知っているからこその違和感。
「うーん。
あいつがロシアンマフィアと繋がっているのは私が樺太から売られたからある意味当然として、ロシアンマフィアの襲撃の鉄砲玉に仕立てられたから助けを求めた……違うわね」
「やくざだって馬鹿じゃない。
直接東京に拠点を持つとそこを奪われるからと警戒されるんだ。
たしか、こいつの前の男は日本の暴力団の幹部だったはすだ。
そして、樺太に逃亡して……死んだことになっている」
「え!?
じゃあ、幽霊が花束を持ってきたんですか!?」
「そんな訳ないじゃない。
水樹ちゃんの身分証と同じで偽装されたのよ。
公的書類上で死んだらそれ以上は追えない」
いまだ戸籍を含めた買収が樺太では行われており、帝都学習館学園入学時に神奈水樹も戸籍を偽装……桂華院家が正式に用意した身分であり正規の手続きなので、神奈水樹は18歳という事になっている。
年齢が引き上げられているのは、神奈一門の男遊びのせいだというのは公然の秘密となっている。
「という事は、その幽霊さんが襲撃の鉄砲玉になったから、ソフィアさんに助けを求めたと?」
「……どうも違うな。
やくざの組織も筋目があってな。ロシアンマフィアが東京に直接進出したらこの地のやくざと軋轢が起こる。たとえ死んだ者としても幹部を鉄砲玉にして元々のやくざが良い顔をする訳がない。
多分、ロシアンマフィアの襲撃とは別口だろうな」
「あいつ、死人になって香港に逃げていたっぽいのよね。
多分ロシアンマフィアとは別口。あいつが繋がっているのはチャイニーズマフィアよ。
問題は、あいつが何をして私をに助けを求めたのか……?」
神奈水樹の前で仲良く首をかしげる花嫁と花婿。
こういう所はもう夫婦なのだなと神奈水樹は思ったが口にするほど野暮でもない。
「おそらく、俺たちの知らない何かがまだあるんだ」
「そして、それを知る事はないと」
二人して花束を眺める。
近藤俊作がその花束を持った所で愛夜ソフィアが声をかけた。
「捨てといてよ。それ」
「一応祝いものだろうに」
「昔の男からよ。今は、あなたが旦那様」
「嬉しい事言ってくれる」
「……ごほん」
花嫁と花婿が互いに愛を紡ぐのは結婚式としては正しい。
とはいえ、いちゃいちゃされると、見せられる方は咳払いの一つも出るというもので。
我に返って離れる二人を尻目に、神奈水樹は花束を手に取る。
「じゃあ、私が捨てておきますね」
「一応言っておくけど、水樹ちゃん。そいつあまりいい男じゃないわよ」
「私、そんなに食べたそうに見えますか?」
占い師兼高級娼婦集団神奈一門の次期後継者神奈水樹。
それゆえに、男がらみの前科と信用は限りなくゼロに近い。
花嫁と花婿が夫婦仲良く首を縦に振った所で、水樹は可愛く笑う。
「大丈夫ですよ。私、悪い男には引っかからないので。
じゃあ、式までいちゃいちゃしていてください♪」
気を使って神奈水樹が花嫁控室から出る。
二人きりだから盛大にのろけるのだろうなんて思いながら廊下を歩こうとして、出待ちしていた小野健一警視に手で呼ばれる。
「何やっているんです?」
「その花束の事を聞こうと思ったが、今、二人きりだろう?
お前さんに話を聞こうと思ったわけだ」
祝う気もあるが、マフィアが派手に何か仕掛けるとあっては刑事心が動くらしい。
既に警視で、来年春にはこの九段下にある麹町警察署署長として凱旋が決まっているのに、未だ刑事みたいに動くのだから下も大変だろうと思ったが、神奈水樹は笑顔で花嫁控室の話を伝える。
「やくざ、ロシアンマフィア、チャイニーズマフィアで齟齬ね……」
「何か伝える事があったら戻りますよ?」
神奈水樹が半身を花嫁控室に向けた所で小野警視が手で制す。
こういう所が近藤俊作や愛夜ソフィアに『おやっさん』と呼ばれる理由だろう。
「やめとけ。折角の祝い事だ。
そんな二人の門出を事件で汚すのはよくない。
こういうのは、俺みたいな人間が動けば済む話だから、そのままいちゃいちゃさせてやりな」
(((おやっさん!あんたも動くんじゃねぇ!!!)))
花嫁控室の二人とここの警備をしている九段下交番の夏目賢太郎所長が神奈水樹の脳内で盛大に突っ込んだのだが、神奈水樹はその声を聞かなかったことにした。
最近のポリコレに配慮して神奈水樹18歳JCという事で。
なお、この当時の民法結婚年齢は16歳のはずなので、16歳の方が正しいのだがとりあえず18で。




