4.「アレはヤバイですわ」
一夜明けて、全員が少しだけ態度を改めた。やはりきちんと話し合うのは大事だな、と真っ当な社会人経験などないくせに、訳知り顔で頷く日出郎。
最も顕著なのは、チェイネだ。『星の噛み跡』以降やたらと日出郎を持ち上げ、なにくれとなく世話をしようと話しかけていたものが、少し厳しくなった。
「確かに私、勇者さまに対して甘えよう、甘やかそう、と思っていたきらいがありましたわ。従士として、これからは言うべきことは言わせていただきます」
それでなにを言うかというと、『だらしない顔で欠伸をするな』とか『人前で平然と尻を掻くな』とか『大股を開いて座るな』といった、ちょっとした小言である。
朝食を摂るべく訪れた、宿の階下の食堂。少し天井が高くなった広い部屋に、食卓や椅子が並んでおり、表通りに向かって大扉が開け放たれている。宿泊客以外にも解放しているというより、宿泊客に利便を図っている店舗、という感じだ。
あれこれ言いながら店舗の奥側の席に着いて――ここでも率先して座るよう促して――から、注文を待つ間、右隣に座った日出郎に澄ました顔で話しかける。
「勘違いしないでくださいましね、私は貴方に、立派な勇者になっていただきたいんですの。ですからこれは、あ、愛の鞭ですわ!」
最後で言い淀まなければ、まだ感心もできたのだろうか。
逆に少し当たりが柔らかくなったのは、ジャベリナだ。今まで枕詞のように『キモデブ』『クソデブ』と連呼していたものを、控えるようになった。
「まあ、デブはデブなりに考えてる、ッてのはわかッたヨ。多少はキモくても許してやるから、ビビらずやんな」
日出郎の正面の席で、偉そうに椅子にもたれかかりながらキヒヒ、と笑う。
「なにその上から目線」
「そんで鬱屈するようなら、乳猫のおッぱい揉めばいいんじゃねーの?」
「ちょっと、巻き込まないでくださる!?」
大変に魅力的な提案ではあるが、ストレスをセクハラで解消、なんて間違った昭和のサラリーマンのような行為に走るわけにもいくまい。しかも冷静に言葉を反芻してみると、デブ扱いもキモい扱いもなんら変わっていなかった。
しかし日出郎は日出郎で、そういった小さなことで一々傷ついたりはしない。元々仲間たちと気安く話せてはいたのだ、対ピックフット戦で自信を失い、少々構え過ぎていたのかも知れなかった。
「僕も、もっと勇者様のお気持ちを考えなくちゃいけませんね」
主の右隣でハチェトリーはそう言ってくれるが、今以上に気を遣わせたら、胃に穴を空けかねない。むしろ最年少の彼には、もう少し無遠慮に振る舞ってほしいくらいだが、そう言うと却って悩ませるんだろうなあ……ということもわかっていた。
試しに『勇者様』という尊称を止めてみるのはどうだろう、と提案してみる。
「え、ええと。……ヒデロウ、様?」
僅かに頬を赤らめ上目遣いに小首を傾げる、あざといと言えばあまりにあざとい仕草の、可憐さ愛らしさ。当の日出郎のみならず他二名も、ずっきゅんと胸を撃たれて身を仰け反らせた。
「アレはヤバイですわ。あ、ヤバイとか言っちゃいましたわ」
「いやでもマズいぞアレは。お前コレとッ捕まるゾ、マジで」
「薄々わかっていたけど強烈だなあ、さすがハチェトリーだ」
テーブルの片側に固まってぼそぼそ談義する三人を、おろおろ見つめ、なにかまずかっただろうか……と戸惑う少年。彼を不安にさせるのは本意でないため、素直に感想を伝える。
「あのな、ハチェトリー。今みたいなのは可愛すぎて俺も照れちゃうから、普段どおりで頼む」
言っていて既に大いに照れるが、そこはしょうがない。
「あうっ……軟弱者で、すみません」
「いや、謝るようなことじゃないよ。お兄さんみたいなマッチョになられても困るしね」
「あんな風になるのだけはごめんです」
真っ赤になって恥じ入っていたのが、すっと冷静な顔になった。アクスレイに関する話題が段々禁止事項のようになりつつあるようで、ちょっと怖い。
¶
焼き立てのクロワッサン、ベーコン入りスクランブルエッグ、アボカドサラダと生搾り柑橘ジュース……という小洒落た献立ながら、くすんだ赤茶系に寄った色合いとやけに渋い食器のせいで、妙に場末感漂う朝食。
それを済ませ、荷物と騎竜を宿に預け、まだ日も高くない町へと繰り出す。
武装は解いての楽な格好で、ハチェトリーとジャベリナは普段と変わらないが、日出郎は鎧や盾を部屋に置いてきた。剛毅の大盾は気軽に放置して良い品ではないが、どうせ勇者以外にはまともに持ち上げることもできないのだ、宿の亭主がよほど周到な盗人でもない限り、安心だろう。
チェイネはわざわざ、瀟洒な外出着に着替えていた。薄桃色のブラウスとクリーム色のスカートの、お嬢様風な組み合わせだ。デザインはちょっと懐古的だが、ファラスにおいては逆に最先端なのかも知れない。
「勇者さま、なにか言うことはございませんの?」
「え? ……あ! うん、似合ってる、可愛い」
「そうそう。その調子でお願いいたしますわ」
ふんす、と胸を張るチェイネ。
全体の雰囲気からすると首元の金鎖の首輪が浮いている気もするが、それを指摘できるほど、日出郎は己のセンスに自信がなかった。これは流石に、自分を信じるとかそういう話ではない。
「手前で言わせんなヨ。てか、わざわざ街着を持ち歩いていたんかヨ、あァン?」
「こういうのは積み重ねですわ。服だって自分で運んでいるんだから、良いじゃありませんの」
ジャベリナの冷めたツッコミもどこ吹く風で、ますます鼻高々だ。取ってつけたような褒め言葉でさえ、満更でもなかったらしい。
「そうですね、そこはチェイネさんの仰るとおりではないかと。……僕も服、買おうかなあ」
一張羅の法衣の襟元を摘まんで、ハチェトリーが呟いた。法衣もそうだが、その下の貫頭衣も替えはない。
汚れは微術で落とせるし、着た切り雀は日出郎も同じだが、だからと言って我慢させておくのも忍びない。
「そうだな、ハチェトリーも服とか買いなよ。俺とチェイネの武器を新調して、収納用の泉宝や王都までの旅支度をして、それでもまだだいぶ余るだろ?」
「ありがとうございます、勇者様。でも余るかどうかは、どういう武器を買うかによるかと……」
「え? ああそうか、ここ、ゴルンゴドだもんな。レベル30台の武器だって売ってるのか」
ゲームのシナリオどおりの進行ならば、職業レベル10前後ではとても到達できない場所なのだ。当然、店で買える武器防具も、見合ったレベルと相応の値段になる。
無論ゲームのままではないので、それより安い物が売っていない、などということはないだろうが……『せっかくだから、一番いいのを頼む』という気持ちにもなろうというものだ。
「あー、じゃあ、予算配分を事前に決めちまおう。武具用、泉宝用、旅支度用、服用、旅費として残す用。で、決まった分以上は絶対に使わないし、余ったからって他に回したりもしない。いいね?」
「あと1Gあれば超絶めッちゃスゲー最強ヤバい名剣が買える、ッて状況でもか?」
「なんだその頭あったかいフレーズ。ともかく、そうだよ。1Gも融通しない。各予算で余った分は、今晩の飲み食いで使い切っちまおう」
流石にそれはないだろう、と言われた三人は呆れ顔になる。昨夜までの自信なさげな様子はなんだったと言うのか、命を預ける武器を服飾と同列にするなど、武人にあるまじき考え方だった。
「よろしいのですか、勇者様」
「んー。無理して高い物を買って、その直後にお値打ちで、ずっと良い物が見つかる可能性だってあるしね。いっそ最初から上限を区切った方が、気楽でいいよ」
ネットオークションで無茶な落札をした後、同じ品が半分近い値段で取引成立するのを目撃してしまった、苦い記憶が蘇る。
母さん、僕のあのフィギュア、どうしたんでしょうね? ええ、夏コミの薄い本から切り抜いたような、ヤフオクで落としたあのフィギュアですよ。
「まあ、それも一つの考え方ですわね」
現実逃避しかかった日出郎の脳を、感慨深げな声が呼び戻した。チェイネにもどうやら、思い当たる節があるらしい。
ジャベリナはそもそも武具を買う必要がないため、重ねて否やを言う気もなかった。結局ハチェトリーだけが気を揉む、いつもの展開だ。そしてこういう時にどうすれば良いのか、日出郎も学習していた。
「もしも武器のせいでピンチになったら、その時は俺と君の召術でなんとかすればいい。そうだろ? ハチェトリー」
「……! はい、そのとおりです、勇者様!」
もはや反射的とさえ言える彼の反応に、少女は呆れ顔を見せる。
「なんてーか……チョロイな、ハチ公」
「いいんです! 勇者様が僕を頼りにしてくださっている、それ以上の事実は瑣末な事です」
キラキラした目で主を見上げる少年と、その純粋無垢な眼差しに人好きのする笑顔を返す醜男とを見比べ、ジャベリナは心の底から呆れた。
(馬鹿どもにつける薬は無ェわ)
ふとチェイネに視線をやると、美女は何故だか羨ましそうに主従を見ている。眉根を寄せ、少女は日出郎の脇腹に肘を突き入れた。
「……お前、いつか刺されるゾ」
「なんでだよ」
ともあれ方針は決まり、予算の配分を済ませる。少しでも武具用に回したがるハチェトリーを再説得し、なるべく均等に分けた。まだ午前中ということで武具関連の店は開いておらず、先に泉宝を見ることにする。
泉宝には大きく分けて、三種類が存在していた。
一つは、現代の技術で作られたもの。最新家電、というわけだ。ただし源泉の力が歴史に語られるほど豊潤ではないため、細かな使い勝手はともかく基本的な性能、特に燃費の点においては圧倒的に劣る。
魔晶石なしで動作するものはなく、その消費も激しい。型落ち品の他、新古や中古などがあるのも家電に通じる。
二つ目は、物語上の勇者たちが活躍していた時代のもの。一般的に『骨董』と呼ばれる。今は失伝してしまった技術や入手困難な材料などがふんだんに使用され、まさに魔法の道具と呼ぶに相応しい、不思議な能力を持つ道具類。
作動に魔晶石を用いる物もあるが、概ね消費は緩やかである。
三つ目は、物語上の勇者たちが“古来より伝わる”という触れ込みで手にしたような、神代の頃から伝えられてきたもの。このクラスのものは『伝来』と呼ばれ、数ある宝具の中でも最高級の聖遺物である。
勇者専用装備などはその典型であり、もちろん魔晶石など必要としない。
どのクラスの物であっても基本的には摩訶不思議な品、ということで日出郎も、当初は勝手に門外漢意識を有していた。しかし、こと現代品に関しては家電と同じと思うと、捉え方も変わってくる。
いくつかの品を見て相場を掴めば、カタログスペックと現物の見比べから値段を割り出すのは、得意分野であった。
「うん、鞄はないな。高すぎる」
いくつかの店を回った後に入った、裏通りの泉宝取扱店で、結論を独り言ちる。
低い天井と照明の薄暗さが圧迫感を与える店内に、それ自体が高級品であるガラスケースが幾つも並び、その中に様々な物品が陳列されていた。いかにもファンタジー然とした水晶球や鏡や護符、意匠は地味だが何故か目を引く装飾品、宝箱に収まった宝石など。
そして日出郎たちが見下ろすケースには、目当ての品である『次元布』製の鞄、次元鞄が三つ陳列されていた。
一つは手提げのポーチといった風情の物で、残り二つは少々小振りのボストンバック、といった印象だ。デザインはそれなりに凝っているが、たとえば公的な場や高級店に持ち込めるかと言えば疑問符がつく。
にも関わらずその価格は、一流ブランドの高級品並であった。日出郎の感覚からすれば、三千円のノンブランドスポーツバッグにエルメスやシャネル並の値段がついているようなものだ。
いずれも骨董であり、充分な機能を備えている。その性能を考えればむしろ安いくらいなのかも知れないが、予算からは大幅にはみ出す上、目的とする収納力には足りていない。
「まあ、貴族やその侍従の持ち物ですからねえ。渡り人が武器や道具を収納するため持ち歩く場合もあるそうですが、稀なことでしょう」
「ンなカネあんなら、渡り人なんかやらねーわな」
一カ所に止まれない理由があるか、道楽で旅暮らしをしているか、あるいは一攫千金を目指して装備にも金をかけているか。そういった事情でもなければ、持ち歩けるものでもないだろう。
「となると、やはり、裏界収納箱ということになりますわね」
鞄が納められている物の隣のガラスケースには、大小様々な箱が陳列されていた。
大きなものは洗濯機でも収まりそうなサイズから、小さなものでは精々携帯電話が入る程度の物まで、品揃えは幅広い。外観も素っ気ない鉄の箱あり、装飾過多の宝箱ありと、種類豊富だ。
その収納力は概ね箱自体の容量の五倍から十倍程度だが、骨董であれば桁違いの許容量を有し、伝来の中には無制限に収納できる物さえあるという。
あまりに広い――本来、箱を評する言葉ではないが――と、入れたは良いが取り出せなくなりそうな気もするが、蓋を開けた状態でなら箱内部を見渡すことができる。そのため積み重ねたり別な入れ物に入れたりしない限り、簡単に見つけ出せるらしい。
また、一部の高級品には中身を並べ替えたり、それと意識さえすれば目当ての品がすぐ発見できる機能も存在する。整列や検索が可能というのであれば、入る限りの物を入れておく者も現れそうだ。
「動作の維持には魔晶石を消費しますから、家財一式まるごと入れる、なんて使い方をする人はあまりいませんね。物によっては、魔晶石が切れると中身が消滅することもありますし」
「怖っ」
持ち運び可能なトランクルーム、と思えばその利便性は計り知れないが、ランニングコストも相当なものらしい。まあ、そうでなければ流通革命が起こって、この世界はもっとずっと発展していることだろう。
「私の国元には、維持に魔晶石を使わず、中の物の状態も入れた時から変化しない物がありましたけど」
「あァン? そりゃ多分、国宝クラスの伝来だヨ、阿呆」
「……お三時、入れてましたわ……」
なんとも豪快な、そして呆れ返るようなエピソードである。そして、チェイネの言葉の内『午睡の供になんとなくつまむ甘いもの』を『お三時』と翻訳する〈共枢言語〉にも呆れる。
「まあ時間停止の機能も善し悪しでヨ、熟成させたいとか味を染みさせたい、なんて物は入れておけねェし」
「そもそも、その機能がつくと、値段が跳ね上がり過ぎますよ」
収納力を取るか機能性を取るか、悩ましいところだ。両方を備えた品は、残念ながら手が届かない。無論、他の物のための予算を流用すれば購入可能な範囲も広がるが……
「だめ。最初から方針転換してどうするの」
「……ですよね」
ちらと窺って来た少年の眼差しに、日出郎は首を振って答える。そもそも既に何店舗か回った末、最終候補としてこの店での買い物を決めたのだ。
安いだけなら他にも店はあったが、安価でなおかつ品揃えが充実している上、新しい型のものが揃っている……つまり商品の回転率が良い店は、ここ以外に見つからなかった。
泉宝は家電と異なり、現代の物より古代の品の方が高価であるため、一概に新型が良いとは言えない。しかし指標とすることはできる。要は、家電製品と年代物を同時に扱っている店だと思えば良いのだ。
そう考えて陳列品を眺めると、予算もあって、候補は絞られてくる。
一つは、最新型から型落ちしてはいるが、買える範疇では最大の収納力を持つ物。ただし予定より少し大きく、甲竜に乗せると、その背には殆どスペースが残らないだろう。
もう一つは骨董で、大きさはさほどではないが、中に入れた物の保存機能がある。時間を止めるとか遅らせるといった大仰なものではなく、錆や腐敗といった好ましくない変化に抵抗力を与える、程度のものらしい。科学的にはなんの根拠もない話で、まさに泉宝らしい不可思議ぶりだ。
「僕は、骨董の方が良いかと思います。たとえば野菜とか、薬品なんかも長持ちさせられるわけですよね?」
「うーん、私は型落ち品の方を推しますわ。油にせよ飼料にせよ、嵩張る物を入れたいからこそ、購入するわけですし」
「オレはハチ公に一票だな。どのみち元々使ってなかッたもんだしヨ、だッたら、今までなかッた使い方ができる物の方がいいゼ」
意見が割れた。確かに少年少女の見解はもっともだが、骨董は箱自体の大きさが縦横高さ全て40センチメートルで収納力がその三倍、というのが最大の懸念事項となっている。
「うーん、俺は新しい方かな、理由はチェイネと同じ」
対して型落ち品の方は一回り大きく、収納力は五倍。単純な収納力だけ考えると、両者には大きめのロッカーと、ちょっとした物置小屋ほどの差があった。
以前であれば日出郎が決めたらそれで決定、という感じがあったが、今は違う。皆で意見を出し合って、それから最終的な決断を彼が下す、という流れが出来上がっていた。迂遠かも知れないが全員が、なにより日出郎自身が納得できる形だ。
その結果として更に十数分の協議時間を要した末、購入するのは骨董の方となった。最後の決め手はジャベリナの、『野菜はできるだけ食ッとけ』という意見に依るものだった。
肉好きのチェイネが野菜不要論を唱えはしたものの、魔人種流の見解を持つ少女と、現代知識に基づいた日出郎によって否定される。
「うう、こと肉に関しては、勇者さまはお味方だと思ってましたのに」
「いや、確かに肉も好きだけどね」
肥満の人間が好きなのは肉そのものよりその周辺、という説もある。たとえば揚げ衣、たとえば一緒に食べる米やパンだ。肥満の原因が脂質やタンパク質ではなく糖質であることからも、太っているイコール肉が好き、とは限らない。
実際、野生動物でも体が大きく肉づきが良いのは、草食の動物だ。そもそも当のチェイネからして、肉感的ではあっても太っているわけではない。つまり食事の好みに関して、彼女と日出郎が合致するとは言い切れないのだ。
「って違う、話が逸れた。まあとにかく、買うのはこっちの骨董の方な」
古いと言うと印象が良くないのに、古代の品と言うとそうでもないな、なんて埒もないことを考えたりもする。
ともあれ王都までの旅程で、持ち運べる荷物の最大量が定まったことから、購入物の量も定まった。道中の食料や香辛料類、薪や水の予備、騎竜たちの飼料。なにより各種の鍋と油を買い揃える。
もう既に相当な容積と重さになっていると言うのに、その全てを収納した裏界収納箱は見た目以上の重量を持たず、軽々と持ち運ぶことができた。改めて不思議に思いながら、食料品店の集まった通りを出る。
通りは大通りと裏路地、双方の中間に位置してどちらにも出入り口があり、雰囲気としては駅前の横丁だろうか。無論、品揃えは中世レベルだし、販売や展示方法なども素朴なものだ。
そんな通りを出たところで、路地に箱を置いて中身の最終確認をしていたジャベリナが、感心した声を上げる。
「お、この箱アレだゼ。箱自体をどう動かしても、中身に影響ないヤツだ」
「なに、そんな隠し機能が……って、「「「オォイ!?」」」
直後に少女は、蓋をした裏界収納箱を、頭上に放り投げた。既に中には水やら油やら入った状態で、だ。
残り三人が悲鳴を上げて、慌てて駆け寄り箱をキャッチする。青醒めながら箱を地面に安置し直し、恐る恐る上蓋を開けると、はたして中身がぶち撒けられ目を覆う惨状に――なっていなかった。
薄暗い空間には、きちんと蓋の閉まった大鍋が安置されている。箱の縁に手をかけ動かすようにすると、画面に写った映像のようにスライドして、飼桶いっぱいの飼料が現れた。
更に動かすと薪の束、革袋に小分けして入れた水、麻袋に収めた野菜、各種薫製に香辛料類、荒縄で首をくくってまとめた雉のような鳥が三羽。
「オォイ!?」
「すぐ腐るモンじゃねーヨ。ていうか珠鶏は、ちょッと腐り出すくらいが美味いんだゼ」
悪びれもせず言うジャベリナの言に、これで本当に腐ったりしたら折檻だな、と心に決める日出郎であった。
【階下の食堂】
料理長は宿の亭主バウンベアン氏の弟で、名前はベアンボウン。兄より痩せ型で背がちょっと高い。兄に比べてジャンプ力が高いが滑りやすいとか、そういう感じ。
【小洒落た献立】
日出郎が一々象明を見なかったためにさらりと流されたが、ベーコンもアボカドも見た目だけ似た、ファラス独特の別ななにかである。
【瀟洒な外出着Lv.6】
70年代ファッションをイメージしていただければわかりやすい。70年代ファッション自体がちょっとわかりずらいのは、内緒である。
【レベル30台の武器】
当然、今の日出郎たちの所持金では全財産を集めても厳しい。ハチェトリーの持つ流星蛇行刀やチェイネの金鎖の首輪を売り払えばどうにか、というレベルである。
ちなみに勇者専用装備は売却できない。「それを売るなんてとんでもない!」などと言われる(ハチェトリーに)。
【現代品、骨董、伝来】
泉宝のランクづけとして明白ではあるが、現代アートが中世の絵画より高値で取引される場合もあるように、しばしば時代の枠を飛び越えた性能を発揮する品も存在する。
【裏通りの泉宝取扱店】
大●屋やコ●兵のような店。中古品と言うとイメージは良くないが、現代品以外の泉宝は結局、すべて中古と言って過言ではない。
【次元鞄】
いわゆる『ふくろ』。イベントで仲間が離脱すると装備品・所持品が自動的にこの中に収まる機能……は、ない。
【裏界収納箱Lv.11】
現代品の方である。おおむね物置小屋並みの収納力を有すが、それ以外の機能は一切ない。百人乗っても大丈夫なわけでもない。
【裏界収納箱Lv.17】
骨董の方である。レベルはお高めだが収納力がさほどでもないため、あまり高値はつけられていない。
【食料品店の集まった通り】
要するに市場なのだが、地下にあるため一見の雰囲気は肉のハ●マサや業務●ーパーのようにも見える。
【珠鶏】
ホロホロ鳥のこと。熟成させると美味なのは確かだが、素人考えでやってはいけない。ジャベリナは自分が胃腸が強くないことを自覚しているので、口であれこれ言いつつ、早めに調理するつもりでいる。折檻はお預けである。




