表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
周回遅れの召喚勇者 ~キモくてニューゲーム~  作者: 行広主水
第1章「召喚されたはいいけれど」
11/27

11.「納得いきませんわ!」

 結論からして出て来たのは、遥か格上の魔物でも這い回る大蜥蜴おおとかげや芋虫でもなかった。隕石孔クレーターの外縁部に立ち並んだ木立に隠され、ひっそりと穴を開けていた洞窟から侵入したその先の、六畳間ほどの小部屋。

 日出郎が手にした松明たいまつに火を着け、ハチェトリーが微術マズニを使って角灯ランタンほどの明るさを持つ、金色の光球を生み出した時だった。


「げぎゃあ(なんじゃぁワレェ)!」

「ごがぎゃあ(どこのシマのモンじゃぁ)!」

「げごがぎぎゃあ(ここはワシらの縄張りじゃぁ)!」


 わめきながら部屋に雪崩なだれ込んで来たのは、毎度お馴染みのゴブリンたちである。しかし合計で四匹の集団に一匹だけ、全身を甲殻の鎧で覆ったいびつなシルエットのゴブリンが混ざっているなあ……とよくよく見てみたら、別な魔物だった。


【ミュルミドンLv.7】

 【昆虫型。巨大化し直立した蟻で、四本の脚を持つため非常に安定した移動が可能。知能は低い】

 【体20 敏17 感16 知6 精16|HP62/62 LP27/27 EXP7】


 象明グリフに書かれた数値を見るに、結構な難敵だ。間違ってもハチェトリーと直接交戦させるようなことがあってはならない。

 日出郎が巨体をかして前衛で敵を防ぎ、隙を突いて少年の範囲攻撃召術を叩き込むという、いつもの連携コンボで対処することにする。

 片手に松明、片手に歩兵剣ショートソードという武装で、襲いかかる敵に立ち向かう日出郎。ゴブリン共が繰り出す短い槍や石片が埋め込まれた棍棒を、必死になって剣で受け、身をよじってかわす。


 ギチチチ……と嫌な音を大顎から発し、ミュルミドンも突っ込んできた。武器は持っていないが腕というか前足というか、その先端の鉤爪かぎつめには、金属製のバールのようなものに等しい威力が秘められていそうだ。

 剣で受けることすらままならず、へっぴり腰でどうにか回避する。とてもではないが、反撃など考える余裕はなかった。四匹の敵が後ろの少年に向かわないよう、奇声を上げて自分に注意を引きつけるのみだ。みっともないが、仕方ない。


「勇者様、今っ」


 そこへ、待望の合図がかかった。襲いかかるゴブリンに腹を殴られたが、お返しとばかりに松明を振り回し、その勢いでバックステップする。


「――〈大雷メガロ・レビン〉!」


 轟音、そして魔物どもの悲鳴。後に残されたのは、次々に黒い霧と化して消えるゴブリンの中、甲殻を焦げつかせ立ち尽くすミュルミドンだけであった。確認すると、HPが一桁にまで減っている。

 反撃を警戒しつつ、日出郎はその体に歩兵剣を叩きつけた。袈裟斬けさぎりにされ、崩折くずおれるミュルミドン。やがてその体も黒い霧と貸し、赤黒い魔晶石を残して消えた。


「勇者様、大丈夫ですか? 一撃もらっていたみたいですが」

「ああうん、鎖帷子チェインメイルのお陰かな? そんなに痛くはないよ」


 多少は痛い。だがHPで言えば5点分ほどだ、召術で治してもらうほどではない。

 心配そうなハチェトリーをなだめて、魔晶石を回収した後、改めて部屋を眺める。元はちゃんとした石造りの部屋であったのだろうが、天井や壁の一部は崩落して砂や埃の堆積も多く、ほぼ自然の洞窟のような様相だ。


 入って来た入り口――地下迷路ダンジョン的には出口――とは反対側に、ゴブリンどもがやって来た通路がある。幅は2メートルほどと、けして広くはない。

 松明を突き出した日出郎が前、光球を頭上に浮かべたハチェトリーが後ろ、という陣形で進むことにした。少年は自分が前を行くことを主張したが、それは聞けないと却下する。

 なお光球、〈蛍火ピゴラ・フレイ〉と呼ばれる微術の維持には召力ロギエを消費するが、三時間で1点ほどらしいので、よほど切羽詰まらない限りは維持してもらうことにした。松明よりは確実に明るいし、頭上に浮かべて、ある程度とは言え動かせるのは大きい。


 慎重に石造りの通路を進むと、途中で分かれ道があった。一度はゲームで通った場所とは言え、流石さすがに細かな構造までは覚えていない。ハチェトリーと相談し、地図を描きながら進むことにした。

 鉛筆やボールペンといった便利なものはこの世界には存在しないため、羽ペンにインクで記録する。実は念じただけで望む字や図形を紙に浮かばせる微術というのも存在するのだが、光球の維持と同じく召力ロギエを消費するということなので、今回は止めてもらう。

 記載を終えて、分かれ道を進むと、果たしてその奥は小部屋で行き止まっていた。かつては誰かの居室として使われていたのか、壁の一面は棚状に掘られ、元は家具だったと思しき残骸がそこここに堆積している。


「勇者様、これ……」


 ハチェトリーが、残骸の中からのぞく箱に気づいた。木屑を払うと、鉄製の収納箱(チェスト)が現れる。

 一辺40センチメートルほど、日出郎の感覚では『みかん箱』ほどの大きさだ。簡素な鍵がかけられていたが、そちらはさび落ち、役目を果たしていない。


「ゲームだと一部のダンジョンを除いて、罠つきの宝箱ってのは存在しないんだけど……うーん、ここはどうだったっけ」


 一部の仲間キャラクターは特殊能力で罠を解除できるが、無論そんな便利な人間はこの場にはいない。

 もしも罠であった場合、『ファイナルラストファンタジア』では箱が爆発してダメージを受けるもの、ガスが吹き出し毒または麻痺の状態異常バッドステータスを受けるもの、警報が鳴って魔物が現れるもの……の3パターンがあった。


「悩んでもしょうがないな。このダンジョンの宝箱なら貴重なアイテムが手に入る可能性は高いし、一か八か開けてみよう」

「えっ!? 勇者様にしては珍しく豪胆な……って、すいません」

「いや、言いたいことはわかる。ビビリの俺にしては思い切った決断だわな」


 失言を恐縮する少年に鷹揚おうような笑みを見せつつ、箱をつつく。


「まあ全滅は嫌だから、ハチェトリーは部屋の外で警戒していて。こいつは俺が一人で開けるから」


 罠があったとしても、むざむざ二人で食らうことはないのだ。それなら自分が開ける、と少年は主張したが、もし痛手を負った場合は回復してもらう必要がある。探索の陣形に引き続いての却下で申し訳なかったが、日出郎が開ける方が後のリスクは減るだろう。

 不承不承、といった様子で部屋の入り口近くまで退避したハチェトリーに、安心させるように頷いて見せる。通路方向を警戒するよう言ってから、剣を抜いて箱の蓋にそっと差し込んだ。

 口では自信のないようなことを言ったが、実は十中八九、罠はないと確信していた。『ファイナルラストファンタジア』において、ボス戦やイベントの前後に配置された宝箱が罠だった記憶は、日出郎にはない。


(……頼むぜ)


 それでも剣先を跳ね上げる瞬間は、目を閉じ体を強張らせた。予想外に重い感触、そして重い音。しばしの静寂の後、恐る恐る目を開くと、蓋は外れてかたわらに転がっていた。

 あらわになった箱の内部は色鮮やかな布で内張りがされ、中には宝石で飾り立てられた幅広い革鞘に収まる、下部の折れ曲がった風変わりな柄を持つ短剣。


「大丈夫そうだよ、ハチェトリー」


 少年に声をかけながら、そっと短剣を手に取り、慎重に鞘から引き抜く。

 現れたのは非対称の細い三角形をし波打った刀身で、神秘的な紋様が刻まれ、抜き放つと同時に星空を思わせる群青と白銀の光を帯びた。


「綺麗……」


 歩み寄ってきたハチェトリーが、うっとりと呟く。象名を見ると――


流星蛇行刀スタークリスLv.28】

 【隕鉄を鍛えて造られた蛇行刀クリスダガー。所有者の最大LPおよびLP回復速度を+10%、召導具ロギエイオンとして使用時に攻撃召術の固有効果増大、範囲の収束可能、攻撃対象の召術防御の効果減衰】


――凄まじい高性能の泉宝スフェラであった。

 召導具というのは、召術の使用時に手に持つとその発動を助ける道具のことらしい。叡智の額冠でわかったことを口頭で説明し、少年に渡す。


「え?」

「ハチェトリーが持ってた方が良いでしょ、召力ロギエたくさん使うし」


 でもあの、から例によって遠慮と謙譲の言葉を並べ立てるが、今の編成(フォーメーション)で日出郎が装備する意味は薄い。最後の方は半ば命令するような口調で、有効活用してくれるよう頼み込んだ。


「その……それじゃ、あの……とても代わりにはならないんですけど、これ。予備の武器に使ってください」


 そう言って渡されたのは、彼が腰帯に手挟んでいた手斧ハチェットである。それが大切な物であることは聞いていたので、今度は日出郎が遠慮と謝絶の言葉を並べ立てるが、最後の方はほぼ泣き落としに近い形で懇願されてしまった。


「じゃあ、まあ、交換ってことでね」

「はい。交換ってことで……その、大切にしますね」


 えへへ、と可愛らしく笑うハチェトリー。

 思い切って宝箱を開けて良かった、と思う反面。成り行きで拾った物と、親から贈られた物を交換させちゃって良かったんだろうか、と悩みもした。


 ¶


 その後いくつかの通路と部屋を慎重に探り、再度のゴブリンやミュルミドンの襲撃を退け進むたうち、周囲の景色が一辺した。

 それまでは崩れながらも人の手が入った遺跡の様相であったものが、広大な地下洞窟へと変化したのだ。


 大規模な崩落があったのか、元々自然洞窟を古墳内部に取り込んでいたのか。

 とにかく通路の切れ間から下に向かって大きく空間が広がり、急な斜面につづら折りの道がしつらえられている。また、中間地点あたりで床面が落ちたのか、岩盤が橋のように残されている箇所もあった。

 その、底。優に三階層分は降りた先の、岩だらけの空間に。


「ちょっともう、なんなんですの、こいつらっ! ろくに攻撃が効きませんわ!」


 骸骨の魔物に囲まれる、二人の獣人種リュカオーンがいた。

 そのうち一人は、褐色の肌に波打ち広がる淡黄色の長い髪を持った、背の高い女性だ。白い〈蛍火ピゴラ・フレイ〉に照らされて、ほの暗い洞窟に場違いな薄桃色で段の多いスカートが、ばさばさと派手に揺れている。

 胸の下から腰の横あたりまでを黒い革のコルセットで覆い、豊満な胸元は大胆に露出していた。遠目にははっきりわからないが、薄桃色のワンピースドレスと黒革のコルセットを組み合わせた格好なのだろう。微妙にコスプレっぽいな、というのは日出郎の感想だ。


 彼女の手には分銅つきの長い鎖が握られ、それを振り回したり投擲したりして、周囲の魔物を攻撃していた。

 黒革の長靴ブーツが岩を蹴る、その激しい動作とともにコルセットの裾から伸びた、先端に房状の体毛を生やした尾が揺れる。

 ついでにコルセットからまろび出る双丘も、ぶるんぶるんと揺れた。


ひいさま、こりゃ無理ですぜ!」


 岩場の陰を右往左往、松明を手にした小柄な獣人が姿が見え隠れする。

 犬と鼬の中間のような造形の頭部に灰褐色の毛皮、先端だけが黒い尾。貫頭衣チュニックだけを纏った簡素な格好で、体格に比べ随分と大きな背嚢はいのうを負っている。


 そんな獣人たちを取り囲んでいるのは、極端な前傾姿勢で腕だけが妙に長い、動く骸骨。いわゆるスケルトンというやつだが、骨格の構造が人間とは異なり、むしろ鳥類のそれに近かった。

 ゴブリンよりも手強そうなのもあるが、なにより数が多い。眼下の岩場に、少なくとも十体は動いている様子だ。女性の振り回す分銅が直撃しても動きを止めず、中には砕けた骨が逆回しの映像のように再生しているものもいた。


あきらめて逃げましょうや、命あっての物種ものだねですぜ!」


 小柄な獣人は上手く骸骨の攻撃を躱してはいるが、反撃もせず逃げ回ってはいるだけだ。そのため、段々と攻撃が女性に集中し始めている。


「今更なにをっ! あと少し、あと少しで、勇者さまに献上する『あれ』が手に入りますのに……っ!」


 奮戦する女性だが、多勢に無勢で、じりじりと追い詰められだした。

 階上にいた日出郎たちも、勿論ぼんやり見ていたわけではない。四苦八苦しながら細い道を下りて、眼下の岩場を目指す。


「あっ」


 先行していた日出郎が、途中まで下りたところで気づいた。岩場の奥に高さ・幅とも3メートルほどの横穴が掘られ、そこに石像が建っている。地球で言えばエジプト風であろうか、鳥頭人身で半裸に腰布を巻き、腕輪や首輪と思しき模様が彫られていて。

 そしてその手に、朽ちて崩れた遺跡にあってなお、自ら輝くような光沢を帯びた盾を携えていた。


「わっ」

「どわっ!?」


 よく見ようと動きを止めた日出郎の背に、ハチェトリーが突っ込む。少年の体重など知れた物であったが、慌てて急な坂道を下りている最中であったため、日出郎はそのままつまづき倒れ転がってしまった。


「勇者様っ!」

「勇者さまっ!?」


 思わず上がったハチェトリーの声に、獣人の女性も反応し、金茶色ゴールデンオレンジの瞳を向ける。

 そこへあっちにぶつかり、こっちに弾かれ、なんとも間抜けな格好で日出郎が転がり落ちた。道の終端あたりの勾配が緩くなっていたのと、彼自身の重心が下寄りでなければ、岩にぶつかり大怪我をしていたところである。

 それでも全身が打ち身だらけで痛みも強く、引っ繰り返った姿勢のまま動くことすらできない。


「ああああ勇者様っ! ごめんなさい、僕、ああっ、どうおびすればっ」

「い、いいから、回復して……あと、魔物、が」


 慌てて下りて来て、すがりつき泣きだしたハチェトリーをなだめつつ、警戒もうながす。松明は落としてしまったが、獣人二人と少年自身の明かりで、周囲はそれなりに明るい。

 じりじりと距離を詰める鳥骸骨は、瞭然りょうぜんと目にできた。


【スケルトンビLv.6】

 【不死型。霊鳥をかたどって造られた不死怪物アンデッドで、飛行はできないが再生能力を持つ。また斬撃・刺突に耐性】

 【体22 敏14 感11 知5 精16|HP41/59 LP14/24 EXP7】


 LPが減っているのは、再生能力を使用したからかも知れない。名称は少し力の抜ける感じだが、なかなかの強敵だった。

 一方で女性の方は呆然と立ち尽くし、突然に現れて大騒ぎを始めた主従を、信じ難いような目で見つめる。


「勇者さま……? え……? ()()が……?」

ひいさま、危ねえ!」


 棒立ちの女性に迫るスケルトンビの頭を、小柄な獣人の投げた石が直撃した。しかし元より痛覚のない体にはさしたる痛手でもなかったか、骸骨の魔物は意に介した様子もなく、まるで剣のような鋭く長い腕――正確には手骨――を振り上げる。


「ちょっと……おひかえいただけますっ!?」


 女性は垂れ下がった鎖を素早く手繰たぐり寄せるやいなや、頭上で回転させた。

 またたく間に風切音を鳴らし始めたその先端を、迫り来るスケルトンビに向けて、勢い良く叩きつける。横殴りの分銅は遠心力の助けも借りて、持ち上げた腕ごと不気味に尖った頭骨を打ち砕いた。


「うっわ、すげ」


 ハチェトリーに〈治癒翠光セラピオ・ジオル〉をかけてもらい、全身打撲の痛みからようやく回復した日出郎が、なんとか起き上がりながら感心する。

 賞賛が半分、恐怖が半分というところだ。チェーンで攻撃とか昭和のヤンキーかよ、と思わなくもない。無論、往年の不良少年が武器にしたようなものと、獣人の女性が手にした分銅鎖(チェイン&ウェイト)では、まるで別物なのはわかっているのだが。


 立ち上がって周囲のスケルトンビたちを警戒しつつ、改めて彼女を見つめた。

 近くで見ると、大変な美人だ。清楚で上品そうな顔立ちながら、少し吊り目ぎみで気が強そうにも見える。有体ありていに言えば、お嬢様っぽい顔であった。


 ここまでの戦闘の疲弊ひへいからか、褐色の肌は汗で濡れて光っており、それが彼女に蠱惑的こわくてきな魅力を与えている。

 前髪を上げた長い髪もほつれてばさりと広がり、いわゆるライオンヘアーの状態だ。毛に覆われて丸みを帯びた耳が側頭上部、つまり獣の耳の位置にあった。


【チェイネ・オリオン】

 【獣人種リュカオーン・獅子の民/女・19歳/魔物狩Lv.7】

 【体14 敏18 感19 知13 精14|HP35/51 LP21/39 EXP28/147】


 改めて象明を確認すると、大理石を思わせる優美な波紋の散る白い板に、葉と蔦を象った緑の縁飾り。細く腰高な金色の文字で情報が記述され、鎖を噛む獅子が意匠化された紋章は力強くも美しい。

 やはり彼女が、座長の娘のようだ。しかし職業が旅芸人ではない。


【魔物狩:成長時、敏捷と感覚+1、自由割振1点。召術などによる弱体(デバフ)付与率を増強、魔物の鑑定および素材獲得(ドロップ)にボーナス】


 成長時の点数が召導師ロギマグスや司祭より低い。してみるとあの二つは上級職なのかな、と推察した。


「……納得いきませんわ」


 また一匹、不用意に近づいたスケルトンビが鎖分銅に頭を砕かれ、動かなくなる。いかに再生能力を持つとは言え、頭部を破壊されたものは失格、ではなく停止するようだ。


「あの、なにが?」

「納得いきませんわ! あなたのような方が勇者だなんて、そんなこと、あり得ませんわ!」


 轟、と吠える。お嬢様言葉と透き通るような声のため、父親ほどの迫力はないが、それでも日出郎をすくみ上がらせるには充分であった。思わず謝ってしまう。


「す、すいません」

「勇者様のどこがあり得ないんですか! この方は正真正銘の勇者様です!」


 そして例によってハチェトリーが噛みついた。故意でないとは言え主を斜面から突き落としてしまったショックで、可哀想なくらいに落ち込んでいたのだが、すっかりいつもの調子だ。

 にじり寄るスケルトンビを屹度きっと見据えるや、滑らかな集中で〈小塊ジオル〉を放って一撃の下にしとめ、すぐさまチェイネに強い視線を向ける。


「なんですのっ」

「なんですかっ」


 ぐぬぬぬぬっ、とにらみ合ったかと思うと、互いの背後にまだ敵がうごめいているのに気づき、すれ違うようにそれぞれへと向かった。ある意味、息がぴったりだ。


「勇者様、支援いたしますのでどうぞ、御立派なところをお見せください!」

「うえぇ!?」


 断る間もなく〈塊装ジオルド〉が飛んで来たので、しょうがなしに歩兵剣を抜いて突っ込む。力量レベル的には格上なことに加え、手持ちの攻撃手段があまり有効そうでない相手であったが、必死になって剣を叩きつけていたらそのうち動作を停止した。

 既に何発か獣人たちの攻撃を受けていたのか、それとも背後のチアボーイからの「頑張って!」「その調子です!」「やった、すごい!」「素敵です勇者様!」「勇者様かっこいい!」といった声援に乗せられたか。

 気がつけばその場にいたスケルトンビどもは、全て砕けて動かなくなっていた。そして耳元でファンファーレが鳴って、日出郎のレベルも上がる。


【ヒデロウ・イサカ】

 【越界種エグザイル・日本人/男・25歳/勇者Lv.5】

【特性】

 【肉体Lv.19 敏捷Lv.17 感覚Lv.18 知性Lv.19 精神Lv.16】

 【HP:56/56 LP:55/55 EXP:2/95】

【技能】(3)

 【算術Lv.2、召術:〈砂漠エリモス〉Lv.2、召術:〈氷河グラシア〉Lv.2、召術:〈火山イフェス〉Lv.1、刀剣Lv.1、体術Lv.1】

【妙技】

 【共枢言語※、共闘共栄※、◇◇◇◇※】

【召術】

 【〈小嵐ラハガ〉〈嵐装ラハガド〉〈小凍コルド〉〈凍装コルルド〉〈小炎フレイ〉】

【装備】

 【歩兵剣Lv.3、叡智の額冠Lv.36、鎖帷子Lv.5、布の服Lv.1、革のサンダルLv.3】


 どの技能を上昇させるかで、しばし悩む。ゲームであれば、戦闘系の技能を二つ以上4レベルに向上させると、組み合わせに応じた妙技を修得できた。

 特に三系統以上の召術技能を4レベルにまで向上させると、特殊な召術を修得できる。砦での戦いで源泉クヴェレを次々に増やしたのは、少しそれを意識した面もあったが……悠長にフィールドで雑魚を狩っていられたゲームとは違うのだ。試している暇はない。

 結局、かなり悩んだ末に〈氷河グラシア〉の召術技能を向上させることにした。範囲攻撃召術が使えるに越したことはない。


「いや、大したもんだ。あっしらだけじゃ危な(やば)かったんですぜ。ねぇ、ひいさま」


 そんな風に日出郎がうんうん唸っているのを横目に、ただ逃げ回っていただけの小柄な方の獣人が、さも苦労したかのように言いつのる。


【ティコ・トーニ】

 【獣人種リュカオーン・狐猫の民/男・32歳/斥候Lv.12】

 【体13 敏21 感18 知20 精16|HP52/69 LP51/56 EXP210/312】


 しかし象名を見ると、まさかの12レベルであった。人間では日出郎がこの世界で見た中で、最も高い。斥候の職業特典は隠密行動や鍵開けなどにボーナスがつくだけのようだが、LPを見るに召術技能も持っているようだ。

 先ほどの戦いは手を抜いていた、ということであろうか。陽気に話しかける小男(ティコ)に対し、チェイネは不機嫌そうにそっぽを向く。


「……認めませんわっ」

「いやだって、象明グリフにばっちり『勇者』って書いてありやすぜ」


 困ったように言い含めるティコ。頭部が完全に獣なのでわかりづらいが多分、苦笑いしているのだろう。


「そんなの、いくらでも誤魔化せますわっ」

「そうなの?」

幻覚ファンタ操作アラギスの術式を用いれば、可能ではありますね。勇者を詐称する人は、さすがに聞いたことありませんけど……」


 ハチェトリーに聞くと、そう教えてくれた。ふうん、と頷いている間に、チェイネはこうべめぐらし岩場の奥へ視線を向ける。


「まあ、いいですわ。『あれ』が本物なら、すぐにわかることですもの」


 その先に有るのは、石像の構えた輝く盾。陶然とうぜんとした面持ちでそれを見つめ、彼女はその名を、口にした。


「勇者専用装備……“剛毅の大盾”」

【ミュルミドンLv.7】

 昆虫人間と言うとさながらオメーン・ライダーめいたアトモスフィアを感じるかも知れないが、かなり蟻寄りのフォルムをしており、怪人と言うより怪生物である。


【松明Lv.1】

 地下坑で火を燃やすなど正気の沙汰ではないが、ダンジョン探索というのはそういうものなのである。


蛍火(ピゴラ・フレイ)

 おおむね20ワットの環形蛍光灯程度の明るさ。色彩は習得している召術技能によって異なり、複数の召術技能を習得しているなら違う色の光球を呼び出すことも可能だが、緑や青はあまりお勧めできない。


流星蛇行刀スタークリスLv.28】

 実のところ本来この時点で手に入れるアイテムとしては、攻撃力不足なので装備させづらい。完全後衛タイプの仲間がいない場合、宝の持ち腐れになりがちである。


召導具ロギエイオン

 通常は杖の形状が一般的。攻撃召術のリーチを伸ばすのに杖が便利であるのに加え、召術士ロギアスというのは大なり小なり頭でっかちで体力が少ない傾向があり、杖に頼って移動することが多いため。


分銅鎖(チェイン&ウェイト)Lv.8】

 長さは2メートルほど。メインウェポンは先端の分銅であり、鎖を叩きつけたりするのは副次的な使用法である。


【スケルトンビLv.6】

 骨格だけだとまともに歩くことすら難しそうだが、そもそも腱や筋肉がない時点で無理があるので気にしてはいけない。じゃあもういっそ飛べよ、と言ってもいけない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ