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周回遅れの召喚勇者 ~キモくてニューゲーム~  作者: 行広主水
第1章「召喚されたはいいけれど」
10/27

10.「出遅れ勇者です、どうも」

「なんなんですか、その物言い。勇者様をなんだと思ってるんですか」


 遥か高い位置にある獅子男の顔に向かって、ハチェトリーは凛とした表情を崩さぬまま堂々と言い放った。それに対して相手も、不機嫌を隠さぬ様子で反論する。


「そちらこそなんだ、魔王との戦いに間に合わなかった出遅れ勇者なぞ、いまさら持ち上げてなんになる」

「アッ、ハイそのとおりでございます」


 まったくもってイグザクトリィである、と日出郎は素直に頷いた。これ以上ハチェトリーが相手を怒らせる前に、一歩進み出て矢面に立つ。

 肉食獣の頭部を持った男を相手に大変勇気のいることではあるが、少年は日出郎が前に出ている時は従士として『分をわきまえた』発言しかしないので、防波堤になるつもりだ。心境としてはむしろ、人柱なわけだが。

 ついでに、ちらりと象明グリフに目をやった。


【ケイン・オリオン】

 【獣人種リュカオーン・獅子の民/男・37歳/旅芸人Lv.8】

 【体20 敏18 感16 知13 精14|HP61/64 LP17/28 EXP15/176】


 意外と力量レベルが低い。迫力だけならカタパルトロールにも引けを取らぬほどであったが、実態はブラッドオックス程度だ。旅芸人の職業特典も芸術関連の技能向上にボーナスがある程度で、戦闘面にはなんの恩恵もない。

 やはり迫力とか雰囲気には職業やレベルは関係ないのだなあ、と改めて自覚する勇者・日出郎であった。


「えっと、その口ぶりですと、勇者がらみでなにかトラブルでもありましたか?」

「詳しいことはその二人にでも聞け。おれは、もう知らんっ」


 空気と化していた村長と司祭を威圧感たっぷりににらんでから、獅子男は背を向け天幕の中に引っ込んでしまう。それで周囲に放たれていた圧力も失せ、人々はようやく自分たちの仕事に戻っていった。


「えーっと……事情をたずねても良いですか? あ、ただいまご紹介に預かりました出遅れ勇者です、どうも」


 頭をきながら、自己紹介。肥えた冴えない男による冴えない言葉に、村長が「えぇっ!?」と愕然たる声を上げた。嘘でしょ、という顔をして村長が傍らの司祭を見る。

 司祭の方も似たような驚きつつ疑う表情であったが、微術マズニで象明を確認したのか、不承不承といった様子で頷いた。


 さすがにここで立ち話というのもなんだったので、礼拝堂へ戻ることにする。居心地悪そうにしていた麟竜インテ甲竜ボンゴも引き取って、堂の裏手に繋ぎ直させてもらい、水桶も借りた。

 雑草が生え放題の荒れ地だったが、餌になるものが豊富で喜んでいる様子だ。やはり砦から積んで来た飼料だけでは、飽きも来るだろう。騎竜サウルスは哺乳類に比べると遥かに頑丈だし粗食に耐えられる生物だが、不要な我慢はさせたくない。

 司祭に案内されて礼拝堂の中に入り、片隅に置かれた机を四人で囲む。先ほど会った下働きの老婆が、ぶつくさ言いながら薄いペギリ茶を出してくれた。


「さて、お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたな」


 ようやく落ち着いたところで、司祭が口を開く。事前情報通りレベル5だが、高齢のためか【特性】は低めだ。村長の方は更に低い。ついでに気になっていた司祭の職業解説も、チェックしておく。


【司祭:成長時、精神+2、自由割振2点。防衛パノプラ解障プロセフ治癒セラピアの術式を習得可能。LP計算時に+術式技能レベル】


 なかなか有為な職業だ。技能に関して『制限なく』という文言がないので、その分だけ召導師ロギマグスより不利であろうか。


「なにからお話ししたものか……」


 日出郎が好奇心を優先している間に、ハチェトリーが事情を尋ねていたので、慌てて会話に意識を集中する。

 勇者召喚が行われたことやラヴォエラス砦が襲撃されたことを、司祭たちは先に通った召術士たちや伝令から聞いており、把握していた。混乱を避けるため村人たちには敢えて言わずにいたが、一方で巡業中で砦を目指していたオリオン一座には、素直に伝えている。そこは別に緘口令かんこうれいを敷いていたわけでなし、問題ない。


 逗留と情報提供の礼として、ケイン座長は村で簡略化した興行を打ってくれることとなった。

 問題は、そうした一連の話を、座長の娘が立ち聞きしていたことである。彼女はその日のうち――つまり、今朝のことなのだが――に、小姓代わりのした座員をともなって、姿を消してしまった。


「座長の娘さんって、どういう方なんですか?」

「ゲームじゃ一言二言しかしゃべらなかったからなあ……勇者の大ファンで、わざわざ専用装備を探し出して献上するために、一座を飛び出したとかなんとか……」


 ハチェトリーの疑問に答えるうち、思い当たる。つまり、座長が怒っていたのは。


「その、我々の話を聞いて、図らずもいま勇者殿がおっしゃられたようなことに、思い至ったのではないかと」


 村長が汗をかきかきそう言えば、司祭も平身低頭の面持ちで付け加える。


「当教会には、付近の地理を記録した地図なども保存されていますが、それを見せるよう強請おねがいされまして。実はその、ここから東に二日ほどの場所に」

「……『星の噛み跡』か」


 苦々しくうめく、日出郎。フィールドマップで姿を見ることはできるが、間を流れる河に阻まれ、実際に訪れるのはずっと後になるダンジョン。

 勇者専用装備が存在する、という情報を受けて探索におもむくと既に装備は持ち去られた後で、代わりにイベント戦闘が発生する。


「でもあそこに行くには、船がりますよね?」

「まあそうなんですが、魔王が倒されて川の魔物も減りましたからね。渡し船が復活している、と聞き及んでおります」


 またもゲーム知識との齟齬そごが出た。マップ上では1マス分の隔たりでしかない河は、渡し船で往来できる程度の幅であったらしい。

 そもそも周辺に村や街はなかったはずだが、ゲームグラフィックには描かれない人の営みがあったのだろう。


「不用意に情報を漏らした我々に対して、座長殿はひどくご立腹です。興行はり行ってくれるそうですが、申し訳なくて」

「司祭様と二人で謝りに行ったのですが、けんもほろろといった有り様でした」


 話を聞くに、実のところ村にデメリットはない。座長も興行の約束を違えるつもりはないようだし、村としては供する食料や酒に少々色をつける程度だろう。

 そもそも座長の娘が逐電ちくでんしたのは、娘当人の嗜好しこうによるものだ。ユターの村長や司祭は不用意であったかも知れないが、彼らが責任を負うべき事態というわけでもない。つまりは。


「つまりは、強制的なお使いイベントじゃない、ってことか」


 ひとりごちる日出郎。村人と座長に少々のしこりは残るかも知れないが、それで誰かが傷つくわけでもない。

 座長の娘の身は案ずるべきことだが、所詮は見知らぬ他人だ。差し迫った危機があるわけでも、必要なアイテムがあるわけでもない。


 これがゲームであるならば、ストーリーを進めるために必ず解決しなければならない事件が、次から次へと発生する。

 しかし今『ファイナルラストファンタジア』ではない、ファラスの地に降り立った日出郎の前には、広大で不明瞭ふめいりょうでありきたりな世界が広がるのみであった。


「……理性的に判断するなら、王都に行くべきなんだろうな」

「そうですね。トロールの再襲撃の危険性を考えるなら、一刻も早くあの天然、空気を読めないうちの兄と合流すべきかと」


 聞くとはなしにハチェトリーに尋ねると、相変わらずな返事が返ってくる。


「ただまあ、魔王が倒されて魔物の分布が変わったならさ。『星の噛み跡』周辺の魔物が、ゲームほど強くない可能性はあるよね?」

「そうですね……世界全体で魔物の脅威レベルは平均化している、という話もありますから、川向こうだからって手に負えないほど強い魔物が出没する、とは限りません」


 少年はいつでも、日出郎の望むようなことを言う。盲目的に彼を信奉しているのではなく、どんな言葉があれば彼が奮い立つのか、いつだって考えてくれるのだ。

 伝承に謳われる数多の『勇者の従士』に憧れ、折に触れその尊さを語るハチェトリー。だが日出郎にとって最高の従士とは、彼をおいて他にない。


「じゃあ、まあ……座長の娘さんを追いかけようか?」

「はい!」


 最高の従士に相応しい最上の笑顔で、ハチェトリーは頷いた。


 ¶


 司祭にボンゴの世話と余分な荷物の保管を頼むと、日出郎とハチェトリーはインテにまたがって、その日のうちに出立した。往復四日、念のため予備に二日分の食料を背嚢に詰め込み、とにかく速度重視の旅路である。

 座長の娘とおつきの座員は、速度に優れる鸞竜オルニスにそれぞれ騎乗してるらしい。速度はそれより劣る麟竜エラポスに、しかも二人乗りしている以上、出立時間の差を埋めることは困難だろう。


 出立した翌日、くだんの河に到着した。街道と平行していた川の本流であり、流れは緩やかだが幅は3キロメートルほどもある。日本の川しか見たことがない日出郎には、衝撃的な光景であった。

 できれば座長の娘たちが足止めを食らっているといいな、と思ったがそう旨い話もなく。川獺かわうその獣人が営む渡し守いわく、確かに獅子人の少女と狐猫(ミーアキャット)の獣人を運んだ言う。


「あの方、レイ・アルクスの姫さんじゃないのかい?」

「え、なにその新情報」


 レイ・アルクス草原王国は現在地とは別な大陸に存在する、獣人種リュカオーンたちの国だ。十数の民族がそれぞれ独立を保ったまま、交代制で王を選出する選挙立憲君主制を敷いている。

 ゲームではその選挙に絡んで鬣犬ハイエナの民と跳兎トビウサギの民の二派閥が対立しており、一方を応援するともう一方と戦う展開になった。そう言えば先代の王は獅子の民であった気がするが、座長一家はその血縁なのだろうか。


 ともあれ座長の娘の足取りが確認できたため、日出郎たちも渡し船に乗って対岸へ運んでもらうことにする。普段は日に二回の漁のついでにしか運行していないそうだが、他に客がいるわけでなし、割増料金を払ってすぐに船を出してもらった。

 この世界に来てようやく金銭の授受を行うことになったが、慣れぬことなので、ハチェトリーに任せきりである。


 ファラスの貨幣は金・銀・銅の三種類の硬貨に分かれているが、単位はまとめて『グラウカイ(複数形グラウカス)』、略称は『グル』だ。金貨と銀貨は本位貨幣であるため、象明を見ると価値がわかる。

 取引の基準となるのは銀貨であり、一枚40グル。日出郎の感覚では大体三千円くらいの価値があるようだ。宿一泊、二人分のたっぷりとした食事、一回の観劇、賭けで最下位になった際の負け分などがおおむね銀貨一枚で賄われていた。

 金貨は銀貨四十枚分、つまり一枚で約十二万円程度の価値がある。それに対して銅貨は四十枚で銀貨一枚分、つまり一枚七十五円程度だ。


 銅貨は少額決済用の補助貨幣なので、素材価値は額面より低いし、一度の取引で大量に使用することも忌避される。

 魔物が残す魔晶石でも取引はできるそうだが、これは相手が鑑定能力を持っている場合に限られた。

 なお、渡し賃は二人と一頭で銀貨四枚。割増を考えても、結構な額だ。


(日本なら新幹線で名古屋くらいまで行けるぞ)


 らちもないことを考えてしまう。渡し船は長さ十五メートル・幅三メートルほどの大きさで吃水が浅く、簡易な帆と船頭のオールによって操られる。風や櫂だけでなく上流から下流への流れ、更には先行して水中に入った川獺人による曳航えいこうまで動力としていた。


「ああ、こりゃ確かに魔物が出ると運行できないわ」

「船だけならどうとでもなるんだけど、お客さんを乗せるとなると、先導役は必須だあね」


 船頭を務める川獺人が、すいすいと泳ぐ相方の背を横目に櫂を操りながら言う。


「一時は漁もままならなかったけど、ブラウム将軍が魔王を倒してくれたお陰で、今は河の周囲の方が安全なくらいさ」


 兄をめられたハチェトリーは複雑な表情だ。日出郎はと言うと、ここでカタパルトロールに攻めて来られたら逃げ場ないなあ、でも船ごと沈むだけかなあ……などと両岸を交互に見やって気を揉んだりしている。

 幸い航行中も、渡し守たちに礼を告げて陸路を再開してからも、襲撃はなかった。対岸とは植生が異なるのか、草ではなく土がき出しになっている割合が大きく、街道と区別がつきづらい。

 時折、狐や鳥などの野生動物に混ざって、一抱えほどある球形の物体が跳ねているのが見えた。見た目は巨大な肉団子、という感じだ。ゲームの知識で知っていたが一応、叡智の額冠で確認する。


【マダンゴLv.2】

 【植物型。極稀に速度低減の術を放ってくる、球形の茸】

 【体12 敏8 感8 知2 精5|HP20/20 LP10/10 EXP2】


「知性ひっく! むしろ、知性あるのか、そりゃそうか」


 しかし【肉体】に関しては、日出郎の初期値より高かった。2レベルとは言え、そう馬鹿にしたものでもない。

 魔物の象明を改めて見て気づいたが、EXPの数値は魔物自身のものではなく、倒した時に得られる経験点ではないかと当たりをつけた。たった2点とはいえ、今は少しでも蓄積しておきたい。LPを温存するためハチェトリーと二人、見かけるたびに駆け寄って直接攻撃で倒した。


 マダンゴの方も体当たりを仕掛けてくるが、一匹しかいない状況なら余裕でかわせる程度の勢いしかない。一度だけ三匹の群れと遭遇し、そのうちの一匹が全身から吹き出した白っぽい胞子を浴びてしまったが、特に影響は感じなかった。抵抗レジストしたのだろう。

 取りこぼした一匹がインテの方に向かった時には少し焦ったが、彼もレベル4と、ジェイワルズの愛騎に次ぐ力量の猛者である。一声(いなな)くや、振り上げた前足でマダンゴを無慈悲に踏み潰していた。


 驚いたのはその撃破によっても、日出郎に経験点が入ったことである。〈共闘共栄〉の効果が及ぶパーティメンバーに、インテも入っているらしい。

 逆に考えると日出郎やハチェトリーの得た経験点が、騎竜にも入るということか。


【インテ】

 【騎竜サウルス麟竜エラポス/男・3歳/軍騎Lv.4】

 【体22 敏19 感16 知6 精9|HP43/50 LP18/20 EXP45/72】


 改めて象明を見てみると、なかなか立派な数字が並んでいた。軍騎の職業特典は戦闘関連の技能習得が可能、となっている。どんな技能を持っているのか尋ねてみたいところだが、生憎あいにくと〈共枢言語〉をもってしても彼の言葉は聞き取れなかった。

 そんなこんなで道を行き、中途で一泊し更に進んだ翌日。ちょうど太陽が天頂に達する頃、ユター村で写させてもらった地図の目印と一致する巨岩が、街道のそばに鎮座しているのを発見した。


 周辺に転がっている石などとは明らかに異質なガラス質で、黒褐色の表皮に無数のが入り、細かく赤錆色の結晶が詰まっている。火山周辺で見かける岩滓スコリアに似ているが、見上げるほどの大きさであることも相まって、なにか不吉な感じだ。


「……方角もずれていません。ここを南下するみたいですね」


 微術で方位を確認していたハチェトリーが、地図を確認して保証してくれた。ちなみにこの世界の製紙技術はそれなりに発達していて、主に流通しているのは木綿紙だ。そこに描かれた地図の縮尺と、ここまでの道程とを考えるに、目的地まであと数時間といったところか。

 そして巨岩の傍らに、地面の焦げ跡と崩れた燃えさしを発見する。どうやら座長の娘たちは、ここで一泊したらしい。こんな不気味な岩のそばでよくもまあ、という気もするが、痕跡がわかりやすいのは有り難かった。

 これで無関係な旅人のものであったら、ちょっと泣きたくなるが。


 ¶


 なだらかな丘陵は中途でふっつりと途切れ、そこから先は土肌がき出しになった、直径1.5キロメートルほどのり鉢状の窪地となっている。その一角に、いくつかの亀裂や横穴の空いた一角があった。

 蟻の巣穴を斜めにこそげ取れば、このような穴が空くだろうか。そのうち一つに傍に鉄杭が打ち込まれ、二頭の鸞竜が繋がれていた。


「ここが、星の噛み跡」


 ハチェトリーがその威容に、感嘆の声を上げる。


「うん。元々ここには古墳があって、そのそばに隕石が落下した結果、崩壊した古墳の内部が剥き出しになっている……って設定だった。ゲームでは」

「座長の娘さんたちは、もう中に入っちゃったみたいですね。急いで後を追わないと」


 騎竜インテの手綱を引き、隕石孔クレーターの底を目指そうと動きかけた少年を、日出郎は後ろから止めた。


「待った待った。多分、六時間くらいは遅れてるからね。同じルートで追いかけても無駄だよ」


 そして穴の空いたあたりの上部、クレーターの外縁部を指差す。


「このダンジョン、一番奥の部屋でイベント戦闘があるんだけどさ。その時に敵が使った入り口から、外に出られるんだ。丘の向こう側に森があって、そこに」


 強くなくてもニューゲームだ、折角の知識は生かさねばならない。

 入り口から侵入した座長の娘たちと、出口から侵入する日出郎たち。上手くすれば中間地点で出会うことができるだろう。


「でもそうすると、その『敵』とやらと鉢合わせすることになりませんか?」

「いや、本来はもっとずっと後に来るはずの場所だし……その敵って実は、ジャベリナなんだよ」


 その時点では最後となる勇者専用装備の情報を得て、この星の噛み跡に侵入した主人公たちは、最奥の部屋で空の宝箱を発見する。

 どういうことかといぶかしんでいると、待ち構えていたジャベリナが現れ、全ては自分の罠だったと宣言して戦いを挑んでくるのだ。


「で、まあジャベリナとはそれが最後の戦いになるんだけど。そこで手に入るのが、これなんだよね」


 叡智の額冠に嵌った、炎慧玉フレイオーブを指さす。偽情報の発端となった勇者専用装備は全く関係ないルートで手に入るため、こんなことでもなければ日出郎は、この地下迷路ダンジョンに入りはしなかっただろう。

 残る問題は、内部の魔物である。ゲームと同じであるなら、現時点ではとても敵わない強敵が出没するはずだ。魔王がたおれた今でも内部の魔物に変化がないなら、このダンジョンに飛び込むのは自殺行為以外のなんでもない。


 ただ、道中で見かけた魔物がマダンゴだけだった時点で、少なくとも周辺の魔物の分布が激変しているのは確かだ。希望的観測をするなら、座長の娘たちがまだ出て来ていない時点で、彼女らにも対処可能な状況であるとも言える。

 無論、依然として強力な魔物が存在し、座長の娘たちは既に息絶えてしまっている可能性も捨て切れない。

 その場合、彼女らには申し訳ないが日出郎たちも、早々に逃げ出すべきだろう。勇者と言えどもレベル4、できないことはできないのだ。


「まあアレだ。出て来て精々クロウラーくらい、だといいな」

「狭い地下道でクロウラーと遭遇って、結構ぞっとしない状況ですけどね」


 言われてみればそのとおりである。砦での戦いは開けた場所な上に最初から無我夢中であったが、冷静になって考えると相手は毒こそ持たないものの、コモドオオトカゲの成体くらいはあるのだ。暗くて狭い地下道で足元から襲われたら、真っ当に対処できる自信はなかった。


(ていうかキャタピラーでも無理だな。暗い所で遭遇エンカウントしたら泣くわ、絶対)


 なんだか急に帰りたくなってくる。しかし口ではぞっとしないなどと言いながら、ハチェトリーは臆する様子も見せずに主の示した方へ、小走りにインテを駆け出させていた。


【ケイン・オリオン】

 オリオン一座の座長。実はこう見えて高貴な家の出で、堅苦しい実家の家風を嫌って家を飛び出した。その際に同じ貴族階級の妻とは別れたつもりでいたが、彼女の方は体面が傷つくのも構わず婚姻関係を継続している。


【獅子の民】

 お前サバンナでも同じこと言えんのか? とか説教してくる悪癖が……ない。


【司祭】

 ユター村の教会に派遣された司祭。小心者だが純粋な信仰心を持つ。独身。


【村長】

 ユター村の村長。息子の方がレベルが高い。純粋な小心者で信仰心はない。


【星の噛み跡】

 ダンジョン名。ラヴォエラス砦からごく近い位置にあるが、川のせいで訪れることができるのは中盤以降。


川獺カワウソの渡し守】

 川獺は本来それほど大きな河ではなく、沼沢地などに住む動物。彼らは言わば野生を捨てた文化人である。


狐猫ミーアキャット

 敢えて漢字にするなら中国語の『狐獴(けものへんに、蒙)』だが、機種依存文字なのでこう記す。


【レイ・アルクス草原王国】

 フィールドマップの一区画。ルナブルグ大陸の大草原に存在する、獣人種リュカオーンたちの選挙立憲君主制国家。先王は獅子の民。


鬣犬ハイエナの民と跳兎トビウサギの民】

 どちらに味方してもゲームは進行するが、イベント後に手に入る特典が異なる。汎用性が高いアイテムが貰えるのは前者。


【グラウカイ、複数形グラウカス、グル】

 言うまでもなくゲーム中の表記は『G』である。

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