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9・一夜明けた王子妃(仮)クリス

 サブタイからしてなんかありそうですけど、何もありません。

 __クリス。

 すごく、懐かしい声がする。

 __クリス、起きて。

 お姉さま?

 __ふふ。おはよう。もう起きる時間よ?

 でも、まだ眠いから。

 __だめよ。もう、起きなければいけないの。

 お姉さま。まだ、あと少しでいいから。

 

 

 お姉ちゃんっ!



「っ!」

 はっと目を開くと、真っ白な天井が視界に映り込んだ。どうやら、朝らしい。昨日は陛下に謁見して、王子様に会って、部屋に案内されてすぐに疲れて寝たんだ。

「クリス様、大丈夫ですか?」

「え」

 私は眉を寄せながら上半身を起こした。声をかけてきたのは、見なくてもわかる。ミーナだ。私が唯一心から信頼できる、スーパー優秀な侍女。

「私、そんなにやばい寝相だったの?」

 口調が素になったのは、私とミーナ二人きりだからだ。もう、「王女クリス」にならなくていいと安心すると、こうなる。でも、クリス・ニア・ライティアでなくなった私は一体何になってしまうのだろう? わからない。なるものがなくなった私は、何者でもなくなるのではないか。限りなく透明で水のように薄い存在で、世界を漂うだけになってしまうんじゃないか。ありえないけど、そう考えると怖い。

「そうですね。うなされていらしたので、寝相も必然的に悪くなっていました」

 枕元の台に置いてある水差しの水をコップに注ぎ、私に手渡してくれる。侍女としては当たり前のことかもしれないけど、そういうのは気が利いていいなと思う。私がもし、メイドとか使用人になったらこんなことできなかっただろうな。憧れるな。

「ベッドのふかふか具合が慣れなさすぎて、なかなか眠れないの」

 冗談めかして笑ってみせると、ミーナは顔をしかめた。こういうのはお好みじゃないか。どうやったら、彼女は安心してくれるだろう。お兄様と同じで過保護の気があるから、いっつも心配されているような。

「安眠に効果的だというハーブティーを寝る前に飲んでみるね」

 強引に話を終わらせる。だってお姉様の夢を見た、なんて言ってもミーナにはどうしようもないから。ミーナはどうしてかわからないけど__多分、かなり真面目で几帳面な性格だからだとは思うが__主である私のためなら、何でもしようとするだろう。だからこそ、私がお姉様の夢を見る度飛び起きてしまうことや、前世の妹を思い出して動悸に見舞われるなんていうどうしようもないことだって真剣に対策を練ってくれるかもしれない。

 それが、嫌。

 介入されたくないわけじゃない。むしろ、無意識のうちに、こうやっていることで悲劇のヒロインみたいに誰かから助けてもらうことを求めているのかもしれない。

 でも、そういうことじゃなくて。私が抱える、解決しようのないことにミーナを直面させるのが__ああ、これもきっと言い訳だ。

 きっと私は、自分を拒絶されることが怖いんだ。

 私が転生したのは、さくこが考えた物語の世界であって、私の片手物語の世界ではない。それすらも、自分自身の創りだしたものに嫌われているように思っている私だ。あんなに慕っていたお姉様にいつも劣等感を感じていたということや、ミーナ達にとっては得体の知れない存在だろう「現代」の記憶を持っていることが露見してしまったときのことを思うと…………。そうなるのが一番、こわい。





 ミーナにベッドメイクをやってもらっている間に私はドレスを着た。侍女がいても、着付けを頼もうとは微塵も思わない。特に必要性も感じないし、自分でできなくなったら決別できなくなりそうだからだ。引く手あまたであろう、才能豊かな侍女の未来を私の我が侭で塞げないから……ではあるのだが、私は主なので本来ならその我が侭が通用する。でもなぁ、うち貧乏だから、いい仕事てる人にちゃんとしたお給金を渡せてないんだろうと思うと。

 豪華なドレスが苦手だと言ったら、最初に用意されたものより若干(ここ重要!)質素なものをもらったので、私の身体を包んでいるのは大国の王子妃としては控えめなデザインらしい。かなり着心地がいいので、見た目より質に金がかけられているのだろう。まあ、私だったら三百六十度どこから眺めたって大富豪の所有物な気がするけどね。この国の貴族からしたらそうじゃないんだろうな。ははっ、いいね、ブルジョアはっ! むきー!!

 おっと。テンションがおかしくなってしまった。

 ごほん。

 で、着替えが終わったら見てくれ。化粧に興味もなくする必要もないときに他界してしまったせいで、私は顔に白粉とか紅をつけることが苦手だ。だから顔には何もしないで髪だけゆるく結うように頼んだ。流石に舞踏会のときは何かしないといけないだろう。ニキビだってゼロとはいかないし。

 完璧に身支度ができた後は食事だ。ライティアにいた頃は、仕事があっても必ず家族そろっていただきます、だったが、オラディアくらいになるとそうもいかないらしい。向かった食堂の長くて立派な細工が施されたテーブルに乗った料理は、二人分だけだった。

「…………」

「ぁー」

 こういう感じですか。

 口から漏れ出た小さな「あ」の続きは心の中だけにしておく。

 がらんとしている食堂。控える使用人の数が、食事をとっている人間の数より多いという、ね。実家では一応料理長とかいたけど、使用人も一緒にごはん、だったし。

「……」

 それにしても、よく食べる。

 私の向かいでもっしゃもっしゃとパンを咀嚼するのは、王子様だ。右手にはふわふわした白パン。左手には褐色のライ麦パンが控え、皿の上では光り輝くクロワッサンが山積みだ。

 王子様は、無言でただただ食べ続ける。見ていて清々しいくらいの食べっぷりに目を奪われると、自分の食事に集中できなくなる。

 一ヶ月後には自分の夫となる人を盗み見るようにしながら私は贅沢な朝食をいただいた。文句を言えないくらい素晴らしい料理だったが、気になったのは王子様の分だ。私の倍以上はあったが、朝からその量でよくスタイルを保てるものだ。どちらかと言えば華奢で、ずば抜けて背が高いわけでもないその体躯のどこに、蓄えているんだ。

 私の手元のものが残り半分くらいのところで、王子様がやっとナイフとフォークを置いた。ぱくぱく食べていたのに全く下品じゃないあたりがすごかった。

「言い忘れた」

「……はい?」

 王子様の食事があと数口ということに驚いていた私は反応が遅れた。えっと、何かを言い忘れた、のか?

「今日の朝食は陛下と王妃殿下が欠席だ」

 なんとなくはわかっていいたが、いきなり切り出されたのがそれだというのは、少し意外だった。もっと深刻な話かと思った。

 そうなんですか、と返した私の心境をどう察したのかはわからない。だが、言葉が足りないという応えに達したらしく、王子様は付け加えた。

「陛下は執務。王妃殿下はいつも自室でしか食べ物を口にしない」

「王妃様はお体が弱いんですか?」

 素朴な疑問のつもりだが、無知ととられるか。が、まあ、王子様は気にしていないようだ。

「いや。あの人が病弱なら、世も末……いや、今のはなかったことにしてくれないか。特に、王妃殿下の前では言わないでほしい」

 珍しく長文台詞かもしれない。と言っても私は彼とそこまで交流がないのだが。

 その後、王子様は喋らなかった。ごちそうさま、とは言ったけど。

 王子様が執務に向かい、オラディア式のえげつないマナー口座とやらに赴くために食堂から出た私の目の前に、赤い物体が落下してきた。いや、降りてきたのだ。

「ひいさん、おはよう!」

 地面に手をつき、しゅたっと着地した状態で笑顔をくれたのはシャンファン。いつ見てもにこやかだ。もちろん、ギーとは違う。

「侍女さんも、おはよっ」

 シャンファンは立ち上がりながらひらりとミーナに手を振る。私の親友である侍女はやわらかい笑みを返した。

「俺、一応護衛だし、ひいさん案内するよ」

「案内?」

「これからマナーレッスンでしょ」

 王宮内はシャンファンの方が詳しいと思ったので、私は道案内をお願いすることにした。

「若様とのごはん、どうだったー?」

「どう、って言われても」

「若様って結構紳士的だろ?」

 後ろ歩きしているシャンファンは、私を身ながら誇らしげに王子様について語る。

「あの人大量に食べるし、そのスピードとかはやいんだけど、一緒にいる人間に合わせてくれるんだよ。会話がないのはどうかと思うけど」

 そう言われて、私は王子様の行動を思い出す。確かに、彼は私が食べ終わるのを待っていてくれた。

 クールで淡泊なイメージを勝手に持ってしまっていたけど、実際は寡黙で優しい人なのかもしれない。

「クリス様!」

 ん? いやに「様」の「ま」が協調された呼び方だ。誰?

「もう、レッスンの時間を五分もオーバーしていらっしゃいますよ」

 そう言って歩み寄ってきたのは、髪を引っ詰めにしてざます眼鏡をかけた女性だった。服は白いブラウスに、広がりがなくレースも皆無なブランのスカートだった。使用人、っていうのとは違う。しかも威厳がなんかある。

「げっ」

 シャンファンがあからさまに嫌そうな顔になった。

「ごめん、ひいさん。俺ちょっと行くわ」

「行く、って…」

「大丈夫。護衛はちゃんとやるから!」

「え、いや、ちょっと」

「クリス様?」

 ひっ。気付いたら、女性が私の目の前にいた。何故に!?

「小猿なんかは放っておいてレッスンをいたしましょう」

「れ、レッスン?」

「そうです!」

 女性はぐいっと私の腕を掴んで歩き出した。

 8と「きみがいる」、ややこしくてすみませんでした。

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