きみがいる
いつだかわからない。
歩いているときでも、寝付けずに考え事をしているときでも、休憩の時間にぼんやりしているときでも、僕の心の中に、きみがいる。
ふっ、という少しの時間さえあれば十分だ。気づいたときにはもう、きみのことで頭がいっぱいになってしまう。
どうして、きみでないといけないのか。
どうして、きみを想ってしまうのか。
どうして、こんなにもつらいのだろうか。
きみについて想いを馳せると、とてつもないあまさに見舞われる。むせかえるようなものではなくて、かぐわしく、夢のような心地。それと同時に言いようのないやるせなさに襲われ、がらでもなく泣きたくなってしまう。
まぎれもない僕の感情なのに、自分のものではないように感じる。
わからない。
わからないと言えば、「きみ」だ。
僕は、こんなにも強く心にいつづけるきみが、一体どこに住んでいて何という名前なのかすら、わかっていない。
どんな声だろう。背は高いだろうか。低いだろうか。好きなものはなんだろう。目の色は。ヘーゼル。青。灰。緑。薄紫。それとも。
黒。
なんて。
真っ先に思い浮かんだ色を最後に候補に出し、否定する。それはないと、感じているから。
何故、きみについてあれこれ推測しているのか。
そう。
なんとも情けないことに、僕はきみを知らない。
きみは。
きみは、僕のことを知っているだろうか。
こんなにも、きみと出逢うことを願っているのに。焦がれているのに。
いっそ、欲しているといってもいいくらい、求めている__ああ、少し、言い過ぎかもしれない。自分がそれほどまできみに会いたいとは考えてもいなかった。
きみが僕のことを知らなかったら。そう考えただけで、とても苦しくなる。
この気持ちは多分、悲しい、だろう。
僕だけが一方的にきみのことを思っていて、きみは僕の存在すらわからない。
それはやっぱり、さびしい。
おかしいのは、それでもいいと思ってしまうことだ。
気づいてもらえないと悲しいのに、それでも平気だと言えそうだ。
例えきみが一生僕を知らないままであっても、僕がきみのことを知って、想っているだけで、満ち足りた気がする。まあ、あくまで「気」だけだろうが。
……。
割り切ったつもりでも、やはり会いたいことに変わりはない。きっと、会ったらそれだけでは足りなくなるだろう。触れたいと、声を聞きたいと、もっと一緒にいたいと、そう、望んでしまいそうで。それが、こわくて。
ああ。
こうしている間にも、きみの声が蘇ってくる。
翻るきみの髪が、頭の中でちらつく。
黒。
闇のようであり、全てをくるむ夜のような色。
黒。
黒。
黒。
黒。
きみの、色。
黒を目にしただけで、きみが僕の中で生まれる。
ささいなことでいい。少しでもきっかけがあれば、きみが僕の心にいる。
きみが、いる。
わからないけど、いるんだ。




