いじめじゃないよ! いじめじゃないから!
そうして、翌日。アルバイト中はちょっと髪色を変えておく。ニチアサを楽しんでいる時にお客様に見られたら、ちょっと面倒なことになりそうだから。明菜ちゃん風のピンクでいいかな?
朝九時からということで、八時にお店に来た。早すぎるかもしれないけど、やはり第一印象は大事だからね!
「おはようございまーす!」
一日の始まりは挨拶から! というわけで、元気よくバックルームに入場だ!
「おお! 噂のシオンさんだ!」
「いらっしゃーい!」
「今日からよろしくー!」
すでに出勤していた人たちからそんな挨拶をしてもらえる。ここの人たちもみんな優しいね。
ここは十時にオープンらしくて、九時からは開店準備となる。料理のいくつかの仕込みは良介さんが朝に来てやっているから、わりと早くに来ても大丈夫なんだとか。
従業員さんは、三人。それに明菜ちゃんのご両親を含めた五人が朝の全従業員なんだとか。キュル? あれは食洗機だよ。
「シオンさんは異世界の人らしいね」
「あたしたち、口は硬いから安心してね!」
「おお! あざっす!」
つまりある程度は話してもいいし、魔法を使っても大丈夫ってことだね。とても助かるね!
九時になったら、軽く朝礼。私のことも紹介してもらいました。
そうしてから、研修開始。私は接客担当ということで、まずはお店に立って挨拶だ。
「それじゃあ、よろしくね、シオンちゃん」
「よろしくお願いします!」
明菜ちゃんのお母さん、桐子さんが教えてくれることになった。副店長だって。
よし、がんばるぞ!
「ありがとうございましたー」
「シオンちゃん、休憩行ってねー」
「はーい!」
お昼のピークを終えて、午後二時。休憩をもらうことになった。
ちなみに私はすでに一人で対応してる。桐子さんからも、物覚えがいいと太鼓判を押してもらった。どうよ。ドヤア。
いや、自分よりもずっと年下の人に褒められて嬉しいのかって話になりそうだけど……。とても! 嬉しいです!
気分良くお昼ご飯をいただく。このお店にはまかないがあって、メニューからなんでも一つ注文していいのだとか。というわけで、ナポリタンをいただいた。
甘み以外はあっちの世界にもある程度あるけど、やっぱり料理の質はこっちの方が遙かに良いと思う。ナポリタンが本当に美味しい。あ、また涙が……。
食べ終わったら、またお仕事に入って……。午後五時で退勤となった。お店は七時までらしいからフルでいてもいいんだけど、明菜ちゃんたちの相手をしてほしいから、とかなんとか。
どうやら明菜ちゃんは良介さんにお願いしていたみたいだね。多分、鍛えてもらうってことも言ってあるんじゃないかな。よろしくね、とお願いされてしまったし。
「じゃあ、しっかりやらないと、ね?」
「なんかシオンさんが怖いですよ!?」
「あっはっは!」
気のせいです!
というわけで、私たちがいるのは公園の広場、その隅っこ。結界を張って、周囲からは見えないようにしてある。物を壊しても大丈夫。普段明菜ちゃんたちがディザスター一味と戦っている時に使っているものと同種のものだね。
それでは、改めて。
「修行の間は、私のことは師匠と呼ぶように!」
「はい、師匠!」
「よろしくお願いします、師匠」
「…………。いいなあ、これ」
弟子って、いいなあ……。お師匠もこんな気持ちだったのかなあ。
さて。教えるにあたって、まずは二人がどんな戦い方をするのか知らないといけない。というわけで。
「まずは模擬戦にしようか。ほら、かかっておいで」
ちょちょいと周りから見えなくなるように結界を張って、と……。これで準備は万端だ。ばっちこーい!
「え、で、でも師匠、さすがに武器も何も持ってない人に攻撃するのは……」
「師匠も、杖とか持ってほしい、です」
「おん? 武器?」
こいつらは……私をなめてるのかな? ふむ。
「阿呆が」
魔力を練り上げて二人に叩きつける。何の効果もないのに、それだけで二人は顔を青ざめさせた。
「武器を持ってほしい? 危ないからか? 寝言は寝て言え、青二才」
そもそも。そもそもだ。この子たちの魔力じゃ、例え攻撃をまともに受けたところで、私には傷一つ入らない。それだけの差があるのだから。
「君たちが弟子入りした魔女は、自分たちの攻撃で膝を突くような魔女か?」
「……っ」
「舐めるなよ、ガキ共。魂魄の魔女シオンが、格の違いというものを教えてやろう」
まあ、ちょっと口調は変えたけど……。二人はなんか蒼白になってるけど……。安心しなよ。
死なない程度に叩きのめしてあげるから、さ。
「ほらほら、逃げてるだけじゃジリ貧だよ」
突き出した指先から、魔力をこめた魔力弾をばらまく。当たると痛いけど、大怪我はしない、その程度の攻撃だ。いわゆるグミ撃ちみたいなことをやってる。
「わ、わ、わああああ!?」
「……っ!」
変身した明菜ちゃんと静香ちゃんは必死に避けてるけど……。まだ攻撃の素振りがないね。どうするつもりなのやら。
「フレイム! 攻撃を弾くから!」
「わ、分かった!」
お、ついに何かをするつもりらしい。
静香ちゃんがその場に立ち止まって、杖を前に掲げた。
「アクアシールド!」
静香ちゃんがそう叫ぶと、目の前に水色の長方形の盾がたくさん現れる。大きさは彼女たちの全身を守れるぐらいの大きさ。強度は、ちゃんと魔力弾を弾ける程度はあるらしい。
それが、一気に十枚。なるほど、ただ逃げていたわけじゃなくて、一度に盾を張るための魔力を練り上げていたんだね。
十枚の盾は斜めになるように設置されて、私の上側へと続く道になってる。その盾の道を、明菜ちゃんが駆け上がっていって……。
「はあああ!」
そして、私へと飛び下りてきた。剣を振りかぶって、私に叩きつけるように。
「ティアスラアアアッシュ!」
おお。ただの斬りつけかと思いきや、魔力を変質させた炎を纏わせての斬撃だ。結構な魔力が込められていて、なるほどただの怪人ならこれだけで倒せてしまえると思う。
きっとこれが二人の必勝パターンなんだろう。魔力を練り上げる時間を稼いで、静香ちゃんが道を作り、明菜ちゃんがそれを利用して攻撃する。悪くないんじゃないかな?
もっとも。
「それが通用するのは、格下相手の時だけだけど」
「え……!?」
明菜ちゃんの剣を指先で止める。人差し指一本。それに魔力を纏わせれば、明菜ちゃんの斬撃は簡単に受け止めることができる。
そして、受け止めてしまえば隙だらけ。
「そい」
「わああああ!?」
デコピンをしたら明菜ちゃんが吹き飛んでしまった。ちょっと力込めすぎたかな?
そのまま静香ちゃんにぶち当たって、二人でごろごろ転がっていく。ちょっと痛そうだね。
そのまま倒れて動かなくなってしまったけど……。うめき声は出てるから、大丈夫、ということで。
「怪人程度、つまり格下相手なら、まあ有効な戦法だと思うよ」
そんな二人に話しかける。ちゃんと聞いて……るね。なら続けよう。
「でもあの黒マントみたいな幹部クラスは、明らかに君たちから見て格上だ。シールドだって攻撃をずっと防ぐことはできないだろうし、さっきみたいに斬撃も防がれてしまうと思う」
そうなったらどうなるか。まあ、結果はさっきのようなもので。
「隙だらけ、なんだよね。大技ばかりで小技なし。まさかいきなり、とどめの一撃みたいな技を使ってくるとは思わなかったよ」
そんなもの、攻撃してくださいと言っているようなものだ。
もしもこの世界が、本当にニチアサヒロインな世界なら、ぶっちゃけそれでも良かったかもしれない。ピンチからの大逆転。王道って素晴らしい。
けれど、これは本当の戦いだ。特に、ディザスター……あの元勇者くんが、悠長にパワーアップを待ってくれるとは思えない。その時になったら、本気で殺しにかかってくると思うから。
仮にも私の世界の魔王を倒した英雄だ。地獄だって見てきただろう。容赦なんて、望めるはずもない。
「今のままだと黒マントのやつにすら勝てないよ。死なないために、まずは小技を覚えていこうか」
にっこり笑ってそう言ってあげると、二人は小さく頷いた。
ボスどころか幹部にすら勝てない、というのは二人には結構ショックだったらしい。まじめに小技と、それを絡めた戦法を考え始めた。
「シオンさん。最終的には大技が必要だと思うんです」
「そだね。相手の固い防御を崩すためにも大技は必要……」
「でも小技で魔力を使ってたらいつまでも大技を使えなくないです?」
「君は毎回魔力を使い切らないと気が済まない阿呆かな? ん?」
「いたい!」
バカなことを言う子には頭ぐりぐりの刑だ! 明菜ちゃんの頭の両側をげんこつでぐりぐり。明菜ちゃんが暴れてるけど気にしない!
「小技って! 言ってるでしょうが! 戦いながら魔力を練り上げなさい! 小技で相手を牽制しつつ、相手の隙を突いて攻撃する! 大技ってほどでもなくてもいい、着実にダメージを稼げる技! 小技で魔力を使い切るなバカ!」
「わ、わかりました……!」
明菜ちゃんはあれだね、猪突猛進のバカだね。それが悪いとは言わないけどさ。
そして、静香ちゃん。
「師匠。見てほしい。小技を考えた」
「ほうほう。どれ?」
「こう……!」
静香ちゃんの周囲の地面からたくさんの水の槍が突き出す。結構な範囲だから、接近された時にも有効だね。そして魔力消費もそこまでじゃないらしい。
うん。いいと思う。いいと思うけど。
「…………。これが、ニチアサヒロインが考える技か?」
殺す気まんまんでびっくりだよ! 今思えば明菜ちゃんも大剣で敵をぶった切ろうとするし、最近のニチアサは殺意が高すぎない? 大丈夫? ちびっこ泣いちゃわない?
「ふう……。師匠? どう?」
「い、いいと思うよ。うん」
「どうして若干引いてるの?」
気のせいです。そういうことにしてください。
明菜ちゃんへと振り返る。なんとも言えない苦笑いだった。
「すごいでしょう、静香ちゃん。結構怖い攻撃を……」
「いやお前が言うな」
「ええ!?」
大剣でぶった切ろうとする明菜ちゃんが言えたことじゃないんだよ。みんな怖いんだよ。
困惑する明菜ちゃんと、さらに新しい技を考え始める静香ちゃんに、私は少しだけ不安を覚えながらため息をついた。
牽制という名の殺意マックスな攻撃になってたらどうしよう。いや、いいんだけどね? うん。多分、いいんだよ。そういうことにしておこう。
壁|w・)いじめじゃないけど、たのしかったですbyシオン




