甘いあめって……いいよね……
採用が決まって、私はひとまず帰る……わけでもなく。
「ああ……ケーキ美味しい……!」
店長さんからケーキをご馳走になりました。今いるのはお店の休憩室、というよりバックルーム。つまりさっきの部屋だ。甘いケーキが体に染み渡る……!
「ふっふっふー! 私のお父さんが作るケーキは絶品なのだ!」
「ん……。本当に美味しい……」
一緒に食べているのは当然明菜ちゃんと静香ちゃん。もう少し一緒にいてほしい、なんて頼んだわけじゃないけれど、二人にはお話が残っていたから残ってくれて助かるよ。
「もぐもぐ……さてお二人さん……もぐもぐ……」
「もぐもぐ……なんですか……もぐもぐ……」
「二人とも……行儀が悪い……もぐもぐ……」
みんなで食べながらおしゃべり……は、許されなくて。休憩に来た人に、食べ終わってからにしなさい、と怒られてしまった。正論なのでとりあえず食べる。もぐもぐ。
そうして食べ終わってから、改めて二人に向き直った。
「とりあえず、感謝を。本当にお仕事を紹介してもらえるとは実は思ってなかったよ。中学生に無茶ぶりしたなとは思ってたから」
「今更それ言います?」
「あっはっは」
いやあ、二人には感謝だよ。本当に。無事にお金を稼げる手段を手に入れられるなんてね。
「でも、どうしてそんなにお金を稼ぎたいんですか?」
「え? 食べ歩きのためだよ?」
「…………。それだけ?」
「それだけ」
他に何があると思ってるのかな。もしかして、何か悪巧みしてると思ってる?
「一応言っておくけど、悪いことなんて考えてないからね。必要もないし」
「聞いてもいい、ですか?」
「うん。何かな静香ちゃん」
「そんなに食べ歩きをしたいぐらいに、シオンさんの世界はご飯がまずい……?」
あー……。そっか。そう思ってしまうのか。さすがにそれは勘違い……というわけでもないけれど。美味しいものはちゃんとあるけど、少ないというだけで。
そう、例えば。
「はい、これあげる」
「え? これ……飴玉ですか?」
「お菓子……」
明菜ちゃんと静香ちゃんが嬉しそうに受け取って、口に入れて。
「にっが!? なにこれ!?」
「……っ!?」
そして二人そろって混乱していた。いやあ、この世界の人に私の世界の飴玉を是非とも食べさせたいと思ってたんだよね! 目標が一つ達成されました!
「あっはっは! ほら、吐き出しちゃいな。もったいないとか気にしなくていいから!」
私が促すと、二人はすぐにゴミ箱に飴玉を吐き出した。もったいないとは思わない。だって私の世界でも、目が覚めたらさっさと吐き出すものという扱いだし。
「うー……。ひどいですよシオンさん!」
「断固として抗議する……!」
「あっはっは。ごめんて。いや、その反応が見たかったんだけどね」
二人に渡してよかったね。とてもいいリアクションでした。多分他のお菓子をあげたらまた警戒するんだろうな。さすがに食べてくれないかも。いや、人の良さそうな二人のことだ。また食べてくれるかな?
「さて。今のが私の世界の飴玉です」
「うう……。口の中がまだ苦い……。って、え?」
「苦い飴玉を渡したわけじゃなく……?」
「違うんだよなあ、それが」
私の世界で言うところの飴玉は、あの苦いものだけだ。種類があるとすれば、苦さの強度だけ。全て例外なく苦い。ただただ苦い。甘い飴玉? なにそれ美味しいの?
「甘い飴玉なんて一つとして存在しないんだよ……! というより、甘味がものすごく少ない! あの世界では……甘味は、とても珍しいものだった……!」
ぶっちゃけ甘い飴玉を作ったらバカ売れするのではと作ったことがあるんだよ。めちゃくちゃ苦労して、それでもいきなり甘すぎるのはあっちの人に合わないかもと思って、甘さ控えめにした飴玉。作ったんだよ。
お師匠に渡したら気持ち悪いと言われたよ! 現地の人にもぜんっぜん受け入れてもらえなかったよ! びっくりだよ!
「あの世界では……飴玉は薬みたいなものなんだ……。苦くない飴玉は飴玉じゃないんだ……。びっくりだったよ……」
「うわあ……」
「で、でも……。作れたんですよね?」
「甘さがほとんど感じられないもので甘すぎるって言われたからね……。もう諦めました……」
「ああ……」
多分、あの世界の人と地球の人では味覚が全然違うんだと思う。似ているようで違う生命体。それがこの世界の人とあの世界の人の関係、ということだろう。
「とりあえずお給料が出たら飴玉を買います」
「ええ……」
そんなことを話していたら、従業員さんに肩を優しく叩かれて、飴玉をいただきました。パイナップル味の見たことのある飴玉。食べました。美味しかったです。泣きそう。
「優しさが……優しさが染みる……!」
「シオンさんって、わりとおもしろい人ですよね」
「なんかバカにされた気がする!?」
その扱いはちょっとひどいと思うな私も!
「こほん。本題に入りましょう」
「あ、今のが本題じゃなかったんですね」
「うん。とりあえず、お礼をしたい。何かある?」
こうしてお仕事を見つけられたのは二人のおかげだ。だから私にできる範囲でお礼がしたい。そう言うと、二人は顔を見合わせて、そして言った。
「じゃ、じゃあ……! 一緒に戦って……」
「それはだめ」
「ええ!? なんで!?」
「お礼の範囲を超えるから、だね」
はっきり言うけど……。ディザスター一味、私一人で壊滅できちゃうんだよ。これでも私はとても長く生きた魔女だからね。全ての魔法を封じて私だけが使う、なんてこともできちゃうのだ。
つまり、私が加勢すると、加勢した側が必ず勝つ。それはフェアじゃないでしょ。
それに。
「ちゃんとニチアサを私に見せてほしい。楽しみにしてるから」
「たまに聞くニチアサってなんですか……!?」
「こっちの話だよ」
多分、こればかりは話しても通じないだろうからね。テレビはあるみたいだけど、ニチアサのヒロイン枠はないみたいだし。解せぬ。
「他に何かないかな? 金銀財宝を出してあげてもいいよ? そう簡単に売れないかもしれないけど」
「それ、簡単に売れたら、シオンさんが自分で売ってますよね」
「あっはっは」
そういうことだね!
「それなら……。一緒に戦ってもらうのがだめなら……。鍛えてください!」
「おん?」
「ディザスターたちに負けないように……! 私たちを! 鍛えてください!」
「お願いします……!」
二人が頭を下げて頼んでくる。ふんむ。そうきたか……。
「おん。いいよ」
「そこをなんとか……。って、いいんですか!?」
「おお、いいねえそのノリ! 最高だね!」
「え? あ、はい。ありがとう……?」
まあ、うん。鍛えるぐらいなら、別にいいのだ。これならあとは、この子たちの努力次第ということだから。
あとはお仕事を見つけてくれた対価でもあるからね。これなら肩入れにはならないでしょ。
「タイミングは明菜ちゃんたちに任せるよ。私の仕事もまだ何時までかは明確に決まってないし。とりあえず明日は朝からって言われたけど」
多分夕方には終わる……と思うんだけどね。良介さん次第だ。私に労働基準法なんて適用されないだろうし。異世界人なので。
「分かりました! シフト、でしたっけ。お父さんに聞いて、またお話しします!」
「おん。よろしくね」
というわけで、ヒロイン二人を鍛えることになりました。鍛えるといっても、筋トレとか走り込みとかするわけじゃないけどね。二人とも魔法使い……。いや、魔法使いかな。魔法だけど、明菜ちゃんは剣を振り回してたし……。
ま、いっか。訓練内容は二人がちゃんと戦ってるのを見てから決める、ということで!
「それじゃ、私は帰るよー」
「あ、はい! ありがとうございました!」
「あっはっは。むしろ私のセリフだよ。本当にありがとね」
明日からアルバイト! がんばろう!
壁|w・)でしいり!




