マスコット(笑)よりお役立ち!
「わわ……。キュル、どうしたの? お仕事しないと」
「言ってる場合じゃないきゅ! そんなことやってる場合じゃないきゅ!」
「ほう? そんなこと、だって?」
「はっ!? しまった! きゅ!」
どうでもいいけどこいつは毎回きゅをつけないといけないの? 普通にうざい。しかもとってつけたような感じだし。そのキャラ付け、もういらなくない?
「キュルくん。皿洗いを、そんなこと、と言ったかな?」
「あ、あわわわわ……。きゅ」
「全てのお皿はお客様に出すものだよ。お客様が気持ち良く、楽しく食事ができるように、食器は全て綺麗に洗う。飲食店で最も大切なことの一つだ」
「きゅ……」
「それを……そんなこと、だって? うん?」
「きゅ、きゅうぅぅ……」
おお……。思ったよりも威圧感がすごい。優しそうな人だけど、言うべきことはちゃんと言う人だ。しかも多分、自分の領分に関わることだと本気で怒る人。
いいねえ。こういうこだわりを持ってる人、私は大好きだよ。
「店長さん。ちょっといいですか?」
「おっと、すまないね、シオンさん。君の採用は決定で……」
「その前に……。よければ、アピールさせてくださいな」
「ほう?」
というわけで、良介さんと、ついでにキュルを連れて厨房へ。洗い場らしき場所には、泡だらけの食器や運ばれてきた汚れた食器が積まれていた。
水に浸かったままの皿も出して、全部テーブルに並べる。手を濡らしたくないから魔法でふわりと、ね。
「え、なにあれすご」
「もしかしてあの人も明菜ちゃん関係?」
厨房にいた他の従業員さんがちらちらと見てくる。キュルが働いていたから予想はしていたけど、他の働いてる人にもいろいろ事情を話してるらしい。
それでいいのか、という問いをこめてキュルに視線を向ければ、キュルは察したようでそっと目を逸らした。
「働かざる者食うべからず……。働くために、説明したっきゅ」
「なるほど。そう言われたと」
「きゅ……」
「…………。んふ」
「笑うなら笑えっきゅ!」
「あっはっは!」
「わらうなー! きゅ!」
いやだって、おもしろすぎでしょこのマスコット! あまりにも立場が弱すぎる。こき使われてるマスコット。ああ、楽しい、この世界に来てよかった!
「ええっと、シオンさん?」
「おっと失礼。それでは、ご覧あれ」
指をお皿に向けて、軽く振る。それだけで魔法が発動して、並べていたお皿は全て綺麗になった。
「おお……!」
「うそ、一瞬で綺麗になった!?」
「て、店長! すごい! きゅっきゅしてますよ!」
「きゅー!?」
「お前じゃないわ獣!」
「きゅ!?」
「ぶふっ……」
け、獣呼び……! この子、もしかしなくてもあまり役に立っていないのでは……!
「わあ……。明菜、見て、お皿が輝いてる……!」
「すごーい!」
後ろでは明菜ちゃんたちも興奮してる。なんだろう、すごく楽しい。私の世界では、この程度の魔法だともう誰も喜んでくれないからなあ。
ああ、いいなあ! とっても気分がいい! この世界に来て良かった!
「素晴らしい……。キュルくん」
「きゅ……」
「魔法の国出身かっこわらいのキュルくん」
「きゅ!?」
あっはっは。軽くひどいね良介さん。いや、目が笑ってないから実はわりと不満を持っていたとか?
「ま、待ってほしいっきゅ! ちゃんと働くっきゅ! 働かせてほしいっきゅ! ボクもご飯を食べないと生きていけないっきゅ!」
「死ねばいいのでは?」
「魔女は黙っててほしいっきゅ!」
いやだってさあ。明菜ちゃんたちが戦ってる時もここで洗い物してるんでしょ? ぶっちゃけて言うけど。
「マスコットとしての存在価値はないのでは?」
「マスコットってなにっきゅ! ボクはちゃんと働いてるっきゅ!」
「今その働いてる価値がなくなったみたいだけど」
「きゅー!?」
あっはっは。いやあ、楽しい。とても楽しい。
でもさすがにいじめすぎかな。ぶっちゃけ私はこいつがどうなろうと知ったことじゃないけど、明菜ちゃんたちには必要な存在だ。一応、ね。ティアストーンってやつの管理的な意味で。
「まあ、さすがに私も? 先輩かっこわらいから仕事を奪いたいとは思わないわけですよ」
「かっこわらいをやめるっきゅ!」
「さっきからきゅーきゅーうるさいよ殺すよ」
「きゅう!? ご、ごめんなさい……」
おっと失礼、さすがにちょっとイラッときて本音が出ちゃった。許せ獣。
こほん、と咳払いして、良介さんに向き直る。良介さんは苦笑いしながらも私に向き直った。
「改めて。どうですか、店長さん。私、優秀ですよ」
「うん。採用で。明日から入れるかい?」
「是非」
しっかりと握手。本来なら雇用契約書とかいろいろあるかもだけど、私には戸籍も何もないからね。そういうのはなし、ということになった。
なお、魔法の国出身(笑)のキュル先輩が絶望したような顔で愕然としていたけど、日中の洗い物要員として雇用継続となった。私は接客をやってみてほしい、だって。楽しみだね。
ところでキュル先輩。安心してるみたいだけど、こんな扱いで本当に満足なの? いや、私はいいんだけどね。おもしろいから。あっはっは。
壁|w・)魔女はマスコットが嫌い。ぶち殺したいぐらいに嫌い。




