アルバイトの面接らしきものを受ける魔女さん
明菜ちゃんたちに案内されたのは、先日と同じ喫茶店。明菜ちゃんのご両親が切り盛りしている喫茶店だ。
今回は表から入らずに、裏口に案内してもらった。お店をぐるっと回って裏口へ。
裏口から入ると、バックヤードが広がる。休憩スペースにもなっているその部屋には、ホワイトボードやシフト表らしきものが貼り出されていた。
さらにその部屋を進むと厨房があって、その向こう側が客席になるらしい。
「おお……。これが、喫茶店の裏側……!」
「そんなすごい場所じゃないですよ……?」
明菜ちゃんが苦笑いしてるけど、私にとっては未知の領域だ。あっちでもこっちでも、飲食店の裏側なんて入ったことがなかったから。
まあ、どこも同じ造りではない、というのは分かってるけど、それでも参考になる。なるほどなるほど。
「それじゃあ、お父さんを呼んでくるので、適当な椅子に座って待っておいてください」
「はーい」
「あ、待って明菜! わたしも……!」
明菜ちゃんと静香ちゃんが奥のドアに向かう。私は……言われた通りに、ここで大人しく待っておこう。
そうして、椅子に座って。明菜ちゃんが厨房へのドアを開けて。
「きゅう! 明菜! おかえりっきゅ! でもボクの知らないところで力を使ってほしくないっきゅ!」
「はいはいただいま。お皿洗いは進んでる?」
「きゅー!」
そんな声が聞こえてきた。
ふむ……。あのマスコットくんはここでお皿洗いをしていると。
うん……? いや待って。皿洗い!? 働いてるの!? ということは、もしかして明菜ちゃんのご家族は、明菜ちゃんたちが何をしているのか知っているってこと?
いや、明菜ちゃんたちだけじゃない。少なくとも、ここで働いてる人は知っている可能性がある。キュルとかいうマスコットをみんなが受け入れているってことだから。
もしかして、この世界ではあのマスコットっぽいやつはわりといる存在だったりするの? さすがにないよね? 少なくとも、キュル以外には見たことがないから。
そんなことを考えていると、再びドアが開いて、今度は大人の男性が中に入ってきた。
喫茶店の制服扱いらしいエプロンをつけた男性だ。黒髪黒目の普通の日本人。いや、この世界では日本人でもいろんな髪色だけど、私から見て日本人らしい日本人だ。柔和な笑顔で、とても優しそう。
「先日お店に来てくれた子だね。初めまして。僕がこの店の店主の良介です」
おお、なんだか声もちょっと優しそう。明菜ちゃんと親子というのもなんとなく納得できる。
「初めまして。シオンといいます」
「ふむ……。海外の方かな? ファミリーネームはあるかい?」
「あー、えっと……」
うん。そこは考えておけよと自分で思ってしまった。バカじゃないかな私は。せめてファミリーネームぐらい言わないとだめでしょ。
地球にいた頃の名字も今は使ってないからね。だって私にとってはもう数百年も前のものだから。
「あの、お父さん……。シオンさんは……」
「ふむ……。なるほど。そっちの関係者か」
「うん……」
なるほどなるほどと頷いた良介さんは、私の対面の椅子に座るとそのまま頭を抱えてしまった。これは苦労人ポジションですね。私は詳しいんだ。
「明菜……静香ちゃん……。乗りかかった船だ。可能な限り協力するとは言ったよ」
「えと……うん……」
「だからって、さすがに人一人連れてくるとは思わなかったかなあ……!」
「ご、ごめんなさい……!」
慌てて頭を下げる明菜ちゃんと静香ちゃん。やっぱり、ある程度はちゃんと事情を説明してるらしい。よくあるニチアサでは家族にも内緒にしているのが多かったから、なんとなく新鮮だ。
いや、危ないことをするんだから、親に話しておくのは大事だと思うけど。
そんなことを考える前に、先に私からも説明しないとだね。放置してみるのも面白そうだけど、さすがに明菜ちゃんたちがかわいそうだ。
「良介さん。申し訳ありません。明菜ちゃんには私から無理を言いました」
「ふむ」
「この世界のお金が欲しいのですが、私にはこの世界での戸籍がなく、仕事などができません。そこで、この世界の住人で数少ない知り合いである明菜ちゃんに相談させていただきました」
「なるほどね……」
「…………」
私の説明に良介さんはしっかりと相づちを打ってくれる。それはいいんだけど明菜ちゃん、どうして変な物を見るような目で私を見るのかな?
「シオンさんが……」
「おん?」
「シオンさんが……敬語を使ってる……!」
「あっはっは。はっ倒すぞコラ」
私だって目上の相手には敬語ぐらい使うんだよ。ましてや今目の前にいるのは、私の雇い主になるかもしれない相手。さすがにため口とかは……。
いや待て。父の前で我が子にはっ倒すぞって言うのは……。どう考えても心証悪いよね!?
「え、えと、その……。これはちょっと、じゃれ合いみたいなもので……」
「ああ、気にしなくていいですよ。先ほどは明らかに明菜が失礼でしたから」
「ど、どうも……」
おお……。理解あるお父さんだ。素敵。
「ふむ……。つまりシオンさんは、ここでアルバイトをしたいというわけですね?」
「ですね」
「住むところは? さすがに寝泊まりまでもとなれば、こちらも余裕はないのだけど」
「バイトだけで十分です。寝泊まりは問題ないので」
「なるほど。では、何ができますか?」
「…………。あの子たちの事情は、知っているんですよね?」
「もちろん」
それなら……。言ってしまってもいいか。
「魔法が使えます。いろんな魔法が」
「ほう?」
「洗い物を一瞬で綺麗にできます」
「……っ!」
お、良介さんの目が見開かれて、なんだか輝き始めた。この方向でよさそう。
「掃除も魔法で一瞬、ぴかぴかです」
「ほう!」
「記憶力や聞き取りも自信あります。百人ぐらいまでなら同時注文されても覚えられます」
「それはすごい! 採用で……」
「ちょっと待ったー! きゅ!」
良介さんが採用を決めてくれようとした直前に、厨房に続くドアが勢いよく開いた。そして入ってきたのは、あのマスコット、キュルだ。
なんだこいつ。間違いなく採用してもらえるはずだったのに、なんで邪魔してきてんの?
壁|w・)なんだあ? てめえ……。




