やさしく、ていねいな、はなしあい
「がふ……!?」
「ツルギ様!?」
「バカか。バカかよ。君は私の世界に敵意を向けた。今はやめたからと、二度と敵意を向けないと誰が証明できる? 私の世界に牙を向けた以上、お前の死は絶対だ」
私がそう語る間に、リッパーとメルトが持っている武器を振ってきた。転移で避けて、また明菜ちゃんたちの側に。避ける必要はないけど、あそこに居続ける必要もないから。血で腕が汚れちゃったし。ばっちぃ。
「し、師匠!?」
「どうして……! もう終わるはずだったのに!」
あっはっは。この子たちまでそんな甘いことを……。いや、この子たちは甘いままでいいか。うん。
「おん。残念だけど、もうこの世界だけの問題じゃないんだよ。あいつは私の世界を滅ぼすと言った。あんな世界でも私は気に入ってるんだ。滅ぼされたくないから滅ぼす。当然だよ?」
もう手を出しません許して下さい、なんてことも認めるつもりはない。もしかすると遠い未来で、大量の世界を吸収して、改めて攻め込んでくる可能性だってあるのだから。
「故に殺す。魂魄すらも破壊し、転生などもできないようにする。お前はここで終わるんだよ」
亜空間から杖を取り出し、構える。遊びは終わり、という意思表示として。
勇者くんは青い顔をこちらに向けて、自嘲気味に笑った。
「ふっ……。俺は、最初から間違えていたらしい……」
「ああ、そうだね。君が最初から目的を話してくれていたら、最初に会った時に殺してあげていたのにね」
「ふっふ……。そうか……。そうか……」
虫の息。当たり前だ。だって、心臓を潰してあるから。
予想はしていたけど、どうやら人間の体ではないらしい。また別の異世界の種族なんだろうね。だから、心臓を潰されてもまだ生きてる。かろうじて、だけど。
今から殺す相手のことを考えても仕方ないね。ちゃっちゃと終わらせよう。
改めて杖を向けて……。向けようとして。
「おん。何のつもりかな?」
私の腕に明菜ちゃんが、腰に静香ちゃんがまとわりついていた。かわいい。
「さ、させない……!」
「二人はもう帰るって言ってるんだから、いいじゃないですか師匠! こんなことやめてください! 間違ってます!」
んふ……。んふふ。かわいいなあ。人が死ぬところは見たくないってことだよね。それは当然の感覚だ。でもね。それは、現代社会で生きる君たちの感覚なんだよ。
「私はね。魔女として、何百人何千人と人を殺してるよ」
「え……」
「今更一人……。いや、四人増えたところで、変わらない」
キャスティアが。リッパーが。メルトが。こちらに武器を構えていた。最期の抵抗なのか、勇者くんも剣を構えてる。今にも死にそうな顔色なのに、よくやるよ。
だから、うん。あいつらは、全員殺す。禍根を残さないために。
「だから二人とも、離してほしいなって」
「だ、だめ!」
「離してくれないと……。君たちも敵として見ないといけなくなるね」
「……っ」
二人が顔を蒼白にさせたけど……。でも、それでも意志は変わらないらしい。むしろしがみつく力が強くなった。
あー……。だめかあ。二人のことは気に入っていただけに、本当に残念だよ。
それじゃあ……。
「お待ちください!」
キャスティアの叫び声が聞こえた。何かな。自分から首を差し出してくれるのかな。
「魔女様。取り引きをしましょう」
「…………」
おん。
「取り引きとは?」
「私たちが求めるものは……。見逃してもらうこと。せめて、ツルギ様の最後は静かな場所で」
「おん。では何を差し出すのかな?」
「全てを。私たちの全てを差し出します。何でも持っていってください。全てが終わったら、私たちの魂も好きにしていただいて構いません」
「そっちの子たちも、かな?」
リッパーとメルトに視線を向ける。二人は真っ直ぐに私を見て頷いた。すごい忠誠心だね。
でも。
「足りないな」
「……っ」
「何故それで足りると思う。私の世界を求めたんだよ? その程度で許すと思うのかな?」
そもそも。そもそもだ。こいつらが言ったもの全て、奪い取ればいいものばかりだ。取り引きなんてしなくても……。
「し、師匠! だったら、ティアストーンとティアクリスタルもつけます!」
「んー?」
それは……。いや、それも奪えばいいって話ではあるけど……。この子たちは良い子たちだからね。できれば殺したくないというのが本音。
「いいのかな? 二度と変身できなくなるよ?」
「いいよ……! そんなの、いらない!」
「だから、誰も殺さないで……!」
ああ、本当に……。本当に、良い子たちだよ。放っておけばいいのにね。そうすれば、私はあいつらを殺してそれで終わりだったはずなのに。
正直なところ、ティアストーンもティアクリスタルも私にとっては価値のあるものじゃない。ただの魔力の塊ってだけだから、私にすら作れるものだ。
でも、仮にも弟子がここまで言ってきたからね。釣り合いが取れてない取り引きだけど、良しとしよう。私は我が儘な魔女だからね。取り引きの天秤は私の気持ち一つで釣り合うのさ。
「おん。分かった。それで手を打って……」
「だ、だめだきゅー!」
けれど、空気の読めないクソ虫がいた。いてしまった。私の足下から這いずって出てきたクソ虫は、ぴょこんぴょこんと飛び跳ねて自己主張してる。殺すぞクソ虫。
「ティアストーンとティアクリスタルは、ボクの世界の物だっきゅ! 勝手に取り引きの材料にされると困るっきゅ!」
「キュル……」
「言いたいことは分かるけど、認めてほしい……。でないと、人が死んじゃうから……」
「相手は悪者っきゅよ!? 気にする必要なんてないっきゅ! 因果応報だっきゅ! ボクだって、ティアストーンがなければ困るんだっきゅ!」
「きゅうきゅううるさいクソ虫」
「ぶぎゅう!?」
もう一度踏みつけて黙らせる。ほんっとうに、不愉快なクソ虫だよ。
けれど、クソ虫の言い分ももっともだ。確かにティアストーンの本来の持ち主はクソ虫の世界。だから、勝手に取り引きするのは違うだろう、と。ああ、理解できる。理解できるよ。
だから何だよって話なんだけどなあ。
「あっは……」
「ひっ……」
思わず私が笑顔を浮かべたら、明菜ちゃんと静香ちゃんにおもいっきり引かれてしまった。失礼ではなかろうか。
「認めよう。クソ虫。お前の言い分にも一理あると」
「きゅ、きゅう! そうだっきゅ!」
「だから……。一方的に取り引き内容を変えさせてもらうよ」
「そんな!?」
明菜ちゃんたちやキャスティアたちが絶望した顔になってるけど、安心してほしい。特に明菜ちゃんたちのことは気に入ってるからね。
「私はね、この世界もなんだかんだと気に入っているんだ」
「きゅ……?」
私が語り始めた内容に、キュルは怪訝そうな声を漏らした。
「そして、なんだかんだと勇者くんとキャスティアたちも私は悪く思ってない。彼らの前世とはいえ、知り合いだったからね」
それに対して、ではあるけれど。
「お前は単純に不愉快であり、お前の世界も私はよく知らない」
「きゅ……!?」
私が言いたいことを察したのだろう。クソ虫が顔を青ざめさせた。ああ、いい顔だなあ……!
「対価は、お前の世界だ、クソ虫。ティアストーンがいるんだって? いらないようにしてあげるよ。なあに、大丈夫さ。何も殺しはしない。明菜ちゃんたちが嫌がるからね。ただ、そちらの世界と取り引きをするだけさ。だから安心していいよ明菜ちゃん」
にっこり明菜ちゃんたちに笑いかける。なぜか怯えられた。解せぬ。
それじゃあ、クソ虫の世界に行く前に、やるべきことをやろうかな。
クソ虫の頭を掴んで捕まえておく。逃げられないように。そうしてから、キャスティアたちの側に転移した。
「とりあえず、今は死なれたら困るからね」
「うぐ……!?」
勇者くんをさっと治療。いきなり内臓とか心臓とかが戻ったからか、勇者くんが痙攣してるけど……。まあ、大丈夫でしょ。キャスティアもいるし。
「城と一緒に元の場所に戻っておいてよ。後で行くから」
「かしこまりました」
ぺこりと一礼して、キャスティアたちはすぐに消えていった。従順なのはいいことだ。
次に明菜ちゃんたちの元へ。
「はい、ティアストーンを出して」
「あ、はい……」
明菜ちゃんたちが今まで集めてきたティアストーンを譲り受ける。今までの努力の結晶だけど、だからこそ取り引きが成立するっていうものだよ。最低限ぐらいもらっておかないと、ね。
「あ、ティアクリスタルも……」
「それはいらないかな」
「え」
「この先、必要になることがあるかもしれないしね。持っておくといいさ。いろいろ、説明も大変だろうしね!」
「あー……」
なにせ今もドローンとかで撮影されてるからね! 取り引き内容にそこまで含まれてないので、フォローはしないとも! がんばれ! 超がんばれ!
「それじゃあ、私はこのクソ虫の世界と取り引きしてくるよ」
「あ、はい……。あの、師匠、お手柔らかに……?」
「んふふ。優しいねえ、明菜ちゃんは。大丈夫だよ」
やさしく、ていねいに、おはなしをするからね。
何故か泣きそうな顔をされてしまった。解せぬ。
それじゃあ……。行こうか、クソ虫。楽しい取引の時間だ。
あっはっは。あははははは!
壁|w・)なお、クソ虫の世界は描写されません。




