だからクソ虫だって言ったんだよ
この世界は、現実だ。ニチアサみたいだと言っても、現実なんだ。
「ふむ……。まあまあやるようにはなっていたな」
今度こそ明菜ちゃんたちは力尽きて、変身も解除されてしまっていた。
んー……。これは、負けだね。私としてはニチアサアニメのごとく、二人には劇的に勝ってほしかったところなんだけど……。これ以上は、だめだ。もうどうしようもない。
「きゅう……! 立って! 立つんだきゅ!」
「うぅ……」
「ごめ、ん……」
「あああ……!」
キュルも、もうどうしようもないみたいだね。
「お前たちはよくやった方だ。たった二人で、この星の命運を背負い、戦った。お前たちは勇者だ。俺が認めてやろう」
「……っ」
「だが、世界は残酷で、理不尽なものだ。正しいことのために戦った者が報われるとは限らない。今のように、な」
勇者くんが右手を二人に向ける。その右手に魔力が満ちていく。トドメをさすつもりだ。
そんな勇者くんと明菜ちゃんたちの間に、キュルが割り込んだ。二人を守るために両手を広げてる。
へえ……。そういう面もあったんだね。クソ虫のくせに。
これは勇者くんも予想外だったらしくて、わずかに目を見開いていた。
「貴様、なんのつもりだ?」
「こ、この子たちはボクが守るっきゅ!」
「守る……? お前が? この二人を戦わせるために、親を洗脳した貴様が、か?」
「え……」
明菜ちゃんたちが信じられないものを見るような目でキュルを見た。キュルは、否定しない。当然だ。だって事実なんだから。
「気付いていなかったか。そうだろうな。知っていたら、お前たちはそいつを許さないはずだ」
「待って……それって、どういう……」
「おかしいと思わなかったのか? まだ学生の娘が命がけで戦っているというのに、それを応援する親。確かに心配ぐらいはしていたようだが……。普通なら、そもそも止めるぞ」
「…………。あ……」
うん。そう。これが子供に興味のない親だったらともかく、明菜ちゃんたちはちゃんと両親に愛されてる。子供を愛してる親が、まだ成人もしていない子供が命がけの戦いをしていると知って止めないわけがない。
じゃあ、どうして止めなかったのか。その原因が、キュルだ。
「こいつはお前たちの親とその周辺人物を洗脳したのだ。お前たちが命がけで戦っていると知っても、ただ少し心配する程度、少し危ない遊びをしていると思ってしまうように」
「そんな……」
「う、嘘だよね、キュル……」
キュルは、何も言わない。言えない。それが、正解だから。
私がこいつを嫌いな理由だ。自分の目的のために子供を戦わせ、さらにその身近な人間を洗脳する。ろくでもないクソ虫だよ。
まあ……。知っていて何もしない私も同類だろうけど。同族嫌悪ってやつだね! あっはっは!
「ごめんなさいきゅ……。ボクは、君たちを利用したっきゅ……。ティアクリスタルに適合したのが二人だけだったから……。戦ってもらうために、そうしたっきゅ……」
「キュル……」
「でも……! だから! この子たちが戦っていたのはボクが原因だきゅ! この子たちは見逃してあげてほしいっきゅ! この世界を支配するなら、この二人はきっと有用だきゅ!」
「キュル!?」
「何を……!」
そうだね。この二人も現代兵器にはそうそう負けないと思う。この世界を支配するなら、二人を味方につけた方がいい。
ただ、この子たちはとても良い子だから……。きっと、それに頷きはしないと思う。
「私たちは……まだ戦えるよ……!」
「負けない……負けたくない! みんなの、ために!」
おん。これでさらにパワーアップとかすれば最高だったんだけどね。現実は非情である、てね。二人は変身すらできず、それどころか立ち上がることすらできていない。
リッパーやメルト、キャスティアですら少し同情しているような顔になってる。
「残念だがな。そもそも、俺はこの世界を支配するつもりなどない」
「え……」
「俺は、この世界の全てを魔力として手に入れる。それがこの世界での目的だ」
え……。あ、そうなの!? 支配したいんじゃないの!? いや、普通に知らなかった。マジですか。なんかとんでもないこと考えてるね。
確かに一つの世界を魔力にして吸収することができれば、かなりの魔力を手に入れられると思う。効率は悪いけど、それでも膨大な魔力だ。魔力にするためにまた別の魔法を使わないといけないだろうから、本当に効率は悪いけど。
なるほど、魔力を集めていたのは、世界を魔力に変えてしまうための魔法を使うために、そのための魔力を求めていたんだね。
本当に効率は悪いけど……。使う魔力より手に入れられる魔力の方が遙かに多いかな。
んー……。そっかあ。私は日本のごはんとか気に入っていたから、勇者くんが勝った後もお買い物ぐらいはさせてもらおうと思ってたけど……。とても残念だ。お師匠たちが悲しみそう。
でも、これはこの世界の行く末だ。私は何もしないとも。する資格もない。
せめて、二人の最期と世界の消滅ぐらいは見届けてあげようかな。
「そんな魔力を手に入れて……! 何をするつもりなの!?」
明菜ちゃんが叫ぶように聞いて、勇者くんは冷たい目で答えた。
「復讐を」
「え……」
「復讐を、する。自分勝手に俺を呼び出し、利用し、そして方法がないと全てが終わってから伝えてきたあの国に。あの世界に。復讐を」
「それって……どういう……」
「かつて、俺を勇者だとおだて、利用した世界を滅ぼす。消滅させる。それが、俺の望みだ」
へえ……。ほう……。それって、つまり……。私の世界を滅ぼすってことかな?
あっはっは。いやいや、びっくりだね。まさかそんな大それたことを考えていたなんて。本当にびっくりだ。とてもびっくり。
「さあ、話は終わりだ。ここで死ね……」
「おん。ちょっと待とうか」
すぐに私は彼らの目の前に下りた。勇者くんと明菜ちゃんたちの間に。
「ぷぎゅ!?」
「あ、ごめん」
クソ虫を踏みつけちゃった。許せクソ虫。わざとだ。
「やあやあ勇者くん。また会ったね」
「…………。何のつもりだ? あなたも邪魔をするのか?」
「するかもね?」
おお……。心底理解しがたい、みたいな顔になってる。あっはっは。おもしろ。
「何故だ」
「何故だ、はこっちのセリフだよ阿呆。なんで私の世界を滅ぼすってなってんの?」
「え……」
おや。明菜ちゃんたちだけじゃなくて、キャスティアも驚いてる。ああ、そっかそうだった。かつての自分の想い人だって気付いてなかったんだっけ。滑稽だね。
「あなたが反対する理由が分からないな。あなたも被害者のはずだ。未だにあの世界に縛り付けられている哀れな被害者だ」
「おん。認識が違うね。確かに私はあの世界に拉致されたり、なんなら君の召喚に巻き込まれた完全に関係のない召喚だったし、あまり言わないけど実はめちゃくちゃ恨んだりもしたけど」
「お、おお……。思っていた以上にめちゃくちゃ言うね……。んんっ、ならばなぜだ」
「まあ……。それなりに気に入ってるからでもあるよ。だってもう、あの世界で過ごした時間の方がはるかに長いからね」
私が私の地球で暮らしたのは二十年もない。それに対して、あの世界で過ごしたのは、五百年だ。思うところがないわけではないけど、あの世界に愛着だってわくよ。
「二度と地球に帰れないようにされていたとしても?」
「おん。今更だね。私にとってあの世界は第二の故郷だ」
「…………。理解できんな」
「あっはっは! 私は君がそこまで恨んでいたことがびっくりだよ! 聖女ちゃんとしっぽりやっていたくせに!」
「し、しっぽり言うな!」
「素が出てるぞー」
「ええい! やりづらい!」
あっはっは! 私は楽しいねえ!
キャスティア……聖女ちゃんは混乱しっぱなしだね。口を半開きにして呆然としてる。早く我に返らないと、どんどん置いていかれちゃうよ?
「残念だ……! 邪魔をするというのなら! あなたであろうと、殺す! あなたの魂を解放するためにも!」
「解放! 解放ときたか! 傲慢だねえ! いいよ悪くないよラスボスはそれぐらいでないとね!」
傲慢! 我が儘! 大いに結構! 世界を滅ぼすというのだから、それぐらいは必要不可欠だとも!
「でもやるからには覚悟しなよ? 今から勇者くんが挑むのは……正真正銘の魔女だからね!」
「簡単に勝てるとは思っていない! だが、間違いなく……俺が勝つ!」
「くひっ。間違いなくときたか! 自信満々だね!」
「あなたの魔力量を量った上での、純然たる事実だ!」
ああ、本当に……。
バカだなあ。
「じゃあ、枷を外そう」
この世界に来てから今まで抑えていた魔力を解放する。本気で戦うなら必要のないものだ。そして、相手を絶望させるためにも必要なものだ。
「な、ん……」
「なに、これ……!?」
「し、師匠……!?」
おおっと。弟子二人も巻き込んじゃってるけど……。許せ! 反省しないから!
「格の違いは理解したかい? 挑む壁の高さは見えたかい? ならばそろそろ始めよう! もちろん始めるのは戦いじゃない! これから始めるのは……一方的な蹂躙だ!」
さあ! さあさあ! 久しぶりにおもいっきり遊ぼうかあ!
「おん! 魂魄の魔女シオンが、君の魂を支配しよう! 全身全霊をかけて抗ってみるがいい!」
どうですか! ちょっとかっこつけてみました! 厨二病? うるさい黙れ!
よっし遊ぶぞー!
壁|w・)なお、縛られているどころか、あっちの世界でもかなり自由人で好き勝手しています。




