陰陽師スズラン
「いらっしゃいませブチコロ希望ですかー?」
大雨でお客さんの少ない喫茶店。私は来店したお客さんの首を掴んで威圧した。変な格好をした女、ディザスター一味のやつだね。こんな雨の日に来るなんて、暇なのかな?
「あ、あだだだだ!? まだ何もやってねえだろ!?」
「おん。つまり今からやると。よーし、ブチコロ!」
「話が通じねえ!?」
あっはっは。迷惑客と話すことなど何もないのだ。迷惑客は死すべし、慈悲はない。
「まだ何もやってないならお客様よー」
そう思っていたけど、桐子さんに止められてしまった。桐子さんもこいつを警戒はしてるみたいだけど、とりあえず今は何もやってないから、と。前回はなんだかんだと直接的な被害はなかったからね。
私に被害はあったけど。ネットにあの時の動画が晒されたけど。バズってはいないから変な客は来てないけどね!
私は舌打ちして、女から手を離した。命拾いしたなガキ。
「じゃあ席にご案内しますね」
「謝罪はねえのかよ謝罪は」
「なるほど。証拠隠滅、つまり消滅がご希望と」
「いや、すみません。何でもないです」
よろしい。ならば汚客様程度には認めてあげよう。
念のために目立たない奥の席にご案内。メニューも渡してやる。私って優しい!
「な、なあ……。ちょっとあんたと話がしたいんだ」
「話ですか? 申し訳ありませんが私はごく普通の店員なので、汚客様とお話しすることは何もありません」
「今なんかお客様の発音おかしくなかった……? ていうか、普通? 首を絞めて持ち上げるのが?」
「…………」
「あ、すみません、ごめんなさい、なんでもないです」
「よろしい」
学習能力ないのかコイツ。自分の命は私のさじ加減一つだと理解してほしい。いざという時は外に連れ出して殺すよ。容赦なく。
なんとなく私の本気を感じているのか、女は大人しくなってケーキを注文した。それでいいんだよ、それで。
カウンターでケーキとコーヒーを用意してから持っていってあげる。数は、二つずつ。桐子さんに少し休憩をもらうことを伝えて、女の対面に座った。
「あ……」
「どうぞ。まあ話ぐらいは聞いてあげるよ。特別にね」
なにせ暇だからね。クソ暇だからね。暇つぶしに話に付き合ってあげよう。
とりあえず、演技だ。私は陰陽師。陰陽師。ちょっと生意気なボクっ娘陰陽師。よし。
「で? ボクに何か用かな?」
「あ、ああ……! あんたにはちゃんと説明しておきたいんだ!」
「ふむ?」
説明。説明ね。
「どうにも、勘違いされてるようだからさ。あたしたちは、決して悪事は働いてないんだ」
「へえ?」
「ただ、この世界に散らばった危険物を回収したいだけなんだよ。それを回収できたら、あたしたちはそれを封印するつもりなんだ」
んー……。これは、あれかな。ディザスターによけいな敵を増やすなって怒られて、せめて私に介入されないようにって考えたのかな。
でも、いくらなんでも無茶があると思わないのかな。最初にこいつが来た時、テーブルを蹴り上げたのは忘れてないからね。
まあ、でも……。乗ってあげてもいいかな。だっておもしろそうだし!
「そっか。そういう理由だったんだね。それは君を誤解していたようだ」
「わ、分かってくれるのかい!? 言ってみるもんだね……」
あ、こいつ、ぼそっと余計なことつぶやきやがった。自分でも言い分が通じるとは思ってなかったらしい。だったらもっとましな言い訳を考えればいいのに。
「そういうことなら、ボクも協力しよう。人手は多い方がいいだろう?」
「え……」
え、て何だ。こう提案されることは予想してなかったのか。バカなんじゃないかこいつ。バカだったか。
「危険物なんだろう? それを聞いて、陰陽師であるボクが放置なんてできるわけないじゃないか」
「あ、ああ……。そう、だよね……?」
「うん。それで、どうやって探せばいいんだい?」
「あ、ああ……。えっと……。そ、そうだね! その辺り詳しく説明するからさ、今晩メシでもどうだい!?」
「ふむ……」
悪くない提案、かな。きっと何も考えてなかったから時間稼ぎをして、ディザスターやキャスティアに相談するつもりなんだと思う。
私としては断る理由はないかな。何よりも……。
「おごりかな?」
「え?」
「おごりかな?」
「あ、うん……。あたしが出すよ」
「それなら付き合おうか」
ただメシに勝るものなし。食費が浮くってわけですよ! ラッキーだね!
「…………。陰陽師って、もしかして給料めちゃくちゃ安いのかい?」
「黙秘させてもらおう」
だって知らないからね。
女がすごく同情的な視線を向けてきたから多分勘違いされちゃってるけど……。私に実害はないから良しとしよう。
でも、どこかにいるかもしれない陰陽師の人たちにはちょっぴり心の中で謝罪だ。さーせん。
「それで、夜はどこに行けばいいかな?」
「ああ……。じゃあ……」
女が提示した店は、わりと有名な居酒屋だった。こいつ、酒が好きなのかな。酒で酔わせたいと思っているのかもしれないけど、私は魔法でアルコールを分解できる。ぶっちゃけ無駄だ。
でも居酒屋のおつまみは美味しいからね! おごりだしね! 否やはないとも!
「それじゃあ、午後七時頃に、ということで」
「ああ。待ってるよ」
「おん。ところで……。名前を聞いていてもいいかな?」
私がそう言うと、女ははっとしたような顔になった。苦笑いしながら頭をかく。なんだか様になってるね。むかつくなんて思ってないよ、ほんとだよ。
「そういえばお互いに名前も言ってなかったね……」
「ああ……」
そうだね! 陰陽師として名前は名乗ってなかったね! 私もだったね! 忘れてたわけじゃないんだよ。ほんとほんと。陰陽師嘘つかない。
「あたしはメルトだ。よろしく」
「ああ。ボクは……スズラン。本名は名乗れないんだ。悪いね」
「呪いとかなんとかあるんだっけ? いいよ、別に。スズランだね。よろしく」
「ああ、よろしく」
ということで。改めて陰陽師スズランが生まれました。いつかボロが出そうだね! あっはっは!
壁|w・)陰陽師スズラン設定が生えました。なお、活かせません。




