もう会わないことを願います(笑)
「ありゃま」
「…………。どうも」
露天風呂で出会ったのは、キャスティアさんでした。いやあ、よく会うね!
「てっきりもう帰ってるかと思ったよ」
「慰安旅行ですから。私だって休みたいのです」
「あっはっは。なるほどねぃ」
二人で温泉に入ってのんびりと。
「…………。もう会わないことを願いますかっこわらい」
「やめてくれませんか!?」
「あっはっは!」
いやあ、本当に早い再会でした! 私はいいと思うよ。うん。
「旅館、きれいに元通りになっていますね」
「おん。さくっと直したよ」
「正直、驚きました……。とても素晴らしい魔女になっていたのですね……」
ふうむ……。私も、言っていいのかな?
「私としては、聖女さんが悪役幹部さんになっていることが驚きだよ」
私がそう言うと、キャスティアは驚いたようにこちらに振り向いた。目をまん丸にしてる。なんでそんなに驚くの? まさか自分が気付いているのに相手は気付かないとでも思ったの?
「あなたは……気付いて……」
「んふふ。当然、気付いてるよ。私を追い出した国の聖女様だってね」
「…………」
警戒の色。どう対応すればいいのかと悩む気配。あは。いいね。ここで殺し合うのも楽しそうだ。まあせめてもうちょっと実力が拮抗していればと思うけどね。
「別にやり合ってもいいけど、勝てると思ってるの?」
「…………。やめておきます……」
「おん。賢明な判断だね」
なんとなく私の力を察してるのかな。ある程度は隠してるんだけどね。
「詩乃様」
「…………」
それは。
ああ……。懐かしいね。久しく呼ばれていない名前だ。
「よく覚えているね」
「忘れません。忘れたことが、ありません」
「んふ。そっか」
私の、以前の名前。魔女としての名前ではなく、故郷の両親からもらった名前。
「詩乃様。あなたは……私を恨んでいないのですか?」
「恨む? どうして?」
「あなたを……追放したからです。生き残ると考えていた人は誰一人としていなかったでしょう。私は……知っていて、止められませんでした」
「あー……ね……。なるほどねえ……」
つまりあれか。この子、実は気に病んでいたのか。それはそれは。うん。
「ぶはっ! い、いまさら! いまさらそれ聞くんだ! あっはっは! ばっかでえ! くははは!」
「そこまで笑いますか!?」
「んふ……! 笑うねえ! 当然笑うよ! だって……」
そんな昔のこと、もう覚えてないんだよ。
私がそう言うと、キャスティアは目を見開いて絶句した。
「何百年と生きてきて、そんな昔の恨みなんて持続すると思う? ぶっちゃけ当時どう感じていたかすらろくに覚えてないんだよ。心底、今更どうでもいい」
「…………。そう、ですか……」
「おん。だから君ももう忘れていいよ」
それに、もう遠い記憶ではあるけれど……。私は恨んでいなかったはずだ。むしろあの時にあったのは、諦観。全て、諦めていた。そのはず。
いやマジでほとんど覚えてないんだけどね。あっはっは!
「詩乃様」
「そっちの名前で呼んでほしくないなあ」
「申し訳ありません。ですが今は……かつての聖女として、お話をさせてください」
「…………。まあ、いいよ」
私にとっては、大事な名前だ。でもそういうことなら、今だけは見逃そう。
「詩乃様。私にできることがあれば……仰ってください。私はかつて、あなたに許されないことをしてしまいました。例え間接的にでも、です」
「いや、だから……」
「あなたが何も気にしていなかったとしても、罪が消えるわけではありませんから」
「…………」
なんというか……。真面目だなあ。眩しくなるぐらいに、ね。
「あなたの望みを聞かせてください。私にできることなら……信念を曲げてでも、叶えさせていただきます」
「それは罪滅ぼしのつもりかな?」
「はい」
わあお。即答。これ多分、ディザスターを裏切ってあの子たちにつけ、なんて言ったらマジでやりかねないな。
それはだめだ。つまらない。私はニチアサヒロインのがんばる姿が見たいのだ!
「んー……。じゃあ、まあ……。勇者くんを裏切らないでね」
「は……? 勇者様を、ですか?」
「そうだよ」
「ですが……勇者様は……」
やっぱりこれ、元勇者くんと元聖女さんはお互いのことに気付いてないのか。んふ。それはそれで、おもしろいね。当然、私は何も言わないとも。
「まあ、気持ち的なものだよ。うん」
「そう、ですか……。あの子たちにつけ、とは言わないのですね」
「言わないよ。今の私は悪い魔女だからね。戦いをのんびり楽しく見守るのさ」
「それはそれは……。ふふ。変わりましたね」
「あっはっは!」
何百年も生きると、人は変わるものなのさ。これでもいろいろやってきたからね。
「ですが、分かりました。もしも勇者様の生まれ変わりと出会うことがあれば……。その時は、勇者様に従います」
「近くにいるとは考えないの?」
「あり得ません。だって、もしもいるなら、今の私を止めてくれるはずですから」
あー……。そういう考えなのか。これきっと、元勇者くんも同じこと考えてるな。だから二人ともお互いのことに気付かないわけだ。
なんというか……。バカだねえ。本当に。
「それでは、私は先に失礼しますね」
「あいあい。私のことは……特に詩乃のことは他の人には言わないでね」
「はい。お約束しましょう」
キャスティアは優しく微笑んで、頭を下げた。とても綺麗な笑顔だ。思わず見惚れてしまいそうになるぐらいに。
「こうしてお話ができて……。本当に、良かったです」
「ま、そうだね。私も昔の知り合いとお話しできて楽しかったよ」
「はい。次はもうこのように話すことはないでしょうが……。またお会いしましょう」
「おん。またねぃ」
そうして、キャスティアは帰っていった。
んふ。さてさて。この出会いがどうなるか……。楽しみだねえ。
壁|w・)シオンにとっては、もう今更どうでもいい過去なのです。




