追加戦士枠って定番だよね!
露天風呂にも満足したところで、私は部屋に戻ってきた。
「じゃあ、明菜ちゃんは将来はパティシエになるの?」
「なれたらいいなって思ってるだけかなあ」
なんだろう。聞き慣れない声が聞こえるね。
部屋の中を見てみたら、奥の部屋で明菜ちゃんと静香ちゃんが見知らぬ女の子と楽しそうにおしゃべりをしていた。なんだかすごく楽しそうだ。
手前側の部屋では、そんな子供たちの様子を大人二人が微笑ましそうに見守ってる。
良介さんが私に気がついたみたいで、笑顔で軽く手を上げた。
「おかえり、シオンさん。温泉はどうだった?」
「控えめに言って最高でした」
「そうかそうか。それは期待できるね」
是非とも期待してほしい。絶対に裏切らないと思うよ、あの温泉は。
「それで、あの子は?」
私が指さした子は、知らない女の子。黒い髪をおかっぱにしている女の子で、良介さんが言うには、明菜ちゃんたちが連れてきた子らしい。旅館の女将さんの子供らしくて、仲良くなったのだとか。名前は叶恵ちゃん。
「へえ……。なんというか、さすが明菜ちゃんというか……。人たらしですね」
「ははは。否定できないかな」
わりといろんな人とあっさり仲良くなってるんじゃないかな。私含めて、ね。普通なら私みたいな怪しいやつと親しくなろうとは思わないだろうから。
「シオンさん。僕たちは温泉に行くから、あの子たちのことを見ておいてくれるかな?」
「あ、了解です。いいですよ」
「よろしくね」
そう言って、良介さんと桐子さんは部屋を出て行った。
適当な場所に座って、三人を見守る。楽しそうにおしゃべりに夢中だ。
「わたしも、お母さんみたいな素敵な女将さんになるの!」
「なりたいものが決まってるって、すごいと思う」
「静香ちゃんはないの?」
「まだ考え中」
おや。てっきり静香ちゃんもすでに何かなりたいものがあると思ってたよ。でもよく考えたら、二人とも中学生だ。夢が定まってなくてもおかしくない、か。
楽しそうなおしゃべりをしていたと思ったら、不意にお願い事のような話になっていることに気がついた。お願い事。なんだか、少し引っかかるね。
「この石にお願いすると、なんだか叶いやすくなってる気がするんだよ」
不意に、そんな言葉。そう言って女の子が掲げたものは、エメラルド色に輝く石だ。ペンダントみたいにして身につけてる。よほど気に入ってるらしい。
だからか分からないけど、明菜ちゃんは頬を引きつらせていた。気持ちは分かるよ。だってあれ、ティアストーンだからね。回収しないといけないやつだ。
「そ、その……叶恵ちゃん……。その石って、いつから持ってるの……?」
「え? たしか、半年前ぐらいだったかな……?」
半年前か。どうなんだろう。私は二人がいつから戦ってるのか、実はよく知らないんだよね。その時期についてはあまり興味もなかったから。私は二人が戦ってるところを見るのが好きなにわかです。
でも、その時期に明菜ちゃんと静香ちゃんは心当たりがあったらしい。明菜ちゃんはわずかに頬を引きつらせて、静香ちゃんは少しだけ目つきを鋭くした。
「最初は何かの宝石かなって思ったの。それで、お父さんとお母さんにも相談して、一度調べてもらったりもしたんだけど……。ただの珍しい色の石だろうって。でもわたしはなんとなく惹かれるものがあったから、もらったの!」
あー……。ただの石、か。どうなんだろう。地球の人って、あの魔石とやらを鑑定して何の石か分かるものなのかな。正体不明の石のはずなんだけど。
ふと、明菜ちゃんの視線が私へと向いた。そんな見られても私には何もできないよ。調べる必要性も感じない。
「あの……。叶恵ちゃん。ちょっと、見せてもらってもいい……?」
「いいよ。でもなくなさないでね?」
「う、うん……」
叶恵ちゃんから渡された石をじっと見つめる明菜ちゃん。微妙に頬がぴくぴく動いてる。やっぱりティアストーンみたいだね。しかも、結構いい純度に見える。
そして、明菜ちゃんがぽつりと、小さくつぶやいた。多分、聞こえたのは私だけだろう。
「ティアクリスタルだ、これ……」
あっはっは。つまりあれがあれば、変身できちゃうってことだね! 新たな変身アイテムってことだね!
つまり。つまり、だ。叶恵ちゃんは、追加戦士枠ってところかな? いや、それとも劇場版にありがちな、劇場版限定お助けキャラとか!
ディザスターたちも来ているみたいだし、これは盛り上がってきたね! 今晩にでも何かあるかな? いやあ、楽しみだね!
思わず笑みが漏れていたらしい。静香ちゃんがじっとりとした視線を私に向けていた。ごめんて。でも何度も言ってるけど手助けとかはしないからね?
「明菜。わたしも見たい」
「あ、うん。叶恵ちゃん、いいかな?」
「もちろん!」
というわけで、静香ちゃんもじっと見る。何度確かめてもそこにある事実は変わらないのにね。
「……んむ。叶恵。この石、譲ってほしい」
「え」
「言い値で買う。貯めてるお小遣いを全部渡す。だから譲ってほしい」
「ええ!?」
お。ある意味正攻法だね。まあ二人がこっそり盗むようなことをするとは思わなかったし、それしか手はないだろうね。
叶恵ちゃんは驚いたように目を瞬かせていたけど、やがて苦笑いしながら首を振った。
「ごめんね。それはもうわたしの宝物だから」
「ん……。そっか。残念」
静香ちゃんは本当に残念そうにそう言って、叶恵ちゃんに石を返した。
さて。ほんの少しだけ、介入……ではないけど、魔女らしく助言を送っちゃおう。
『あーあー。てすてす。マイクのテスト中。マイクのテスト中』
びくっと二人が体を震わせた。ちょっとおもしろい。叶恵ちゃんは不思議そうに首を傾げてる。叶恵ちゃんには聞こえていないだろうからね。
『えー。これは念話という魔法です。この声は二人にしか聞こえてなくて、叶恵ちゃんには聞こえていません。だから急に黙り込むと心配されるよ』
おお。二人が無茶を言うなみたいな顔になってる。ごめんね。でもおもしろいです。もっとやるぜ。
『ティアクリスタルとかいうある種の爆弾を見つけた二人にお知らせです。何の因果か、現在のこの旅館にはディザスター一味が宿泊中だよ』
「なんで!?」
「へ!? な、なに? どうしたの?」
「あ、いや、なんでもないです……」
だから私の声に反応しちゃだめだって言ってるだろうに。黙って聞き流すのは難しい情報だったかもしれないけど。
『ちなみにディザスター一味がどうして泊まっているのかまでは知らないよ。私も露天風呂に入っていたら、急に幹部さんが入ってきただけだから』
「…………」
おお。わりと物静かな静香ちゃんにしては珍しく、ものすごい顔になってる。怒ってるようにも見えるけど、なんか心配されてる気がする。いい子だなあ。
『その幹部がその石について知っているのか、それは私にも分からない。でもこんなに近づいたら、気づく可能性はあるね。だから、気をつけるように』
そして当たり前ではあるけれど、私は協力しない。むしろこの時点で十分に協力したぐらいだと思う。だって本来なら、寝ている間に不意打ちされていたとしてもおかしくなかったんだからね。
もっとも、この子たちのために教えたわけじゃないけど。劇場版らしい派手な戦闘を期待してい
ます。わくわく。
壁|w・)追加戦士もいいものなのだ……。




