第六十四話 竜の地元
第六十四話 竜の地元
6月も中旬となった、土曜日。
『よく来てくれたがお!歓迎するがおよ!』
自分達4人は、たつみんさんの地元へとやって来ていた。
電車で又隣の市まで行った後、バスで20分程行った所にある山間の町……いや、村と言うべき規模だろう。
周囲に田んぼや畑しか見えないバス停で、例の着ぐるみを纏ったたつみんさんが出迎えてくれた。
「うぇ~い!たつみんおっはー!お腹撫でて良い?」
『おはようがお~!勿論、ウェルカムだがお~!』
「サンキュー!ほら、美由っちも触らせてもらおうぜ!」
「え?はあ。では、お言葉に甘えて」
ドラゴンぽい着ぐるみの、白いお腹を璃子先輩に促された美由さんが撫でる。
彼女のアメジスト色の瞳が一瞬だけ見開かれ、その後は無心でたつみんさんのお腹を堪能していた。
ちょっと微笑ましい気持ちになりながら、たつみんさんに会釈する。
「今日はよろしくお願いします、たつみんさん」
『こちらこよろしくがお~!皆が来てくれて、アタイ感激だがお~!』
美由さんと璃子先輩に撫でられながら、たつみんさんが右手をフリフリと動かす。着ぐるみに触られるのに慣れている様子だ。
何となく、テーマパークに来た気分になる。懐かしい。
「ふっ……青き竜よ。久しぶりだな。出迎えご苦労であろう」
右手で日傘、左手で謎ポーズをするロッソさんに、たつみんさんが左手を挙げる。
『ロッソんも久しぶりがお!でもその格好、熱くないがお?熱中症には気を付けるがおよ~』
「ふっ……はい。気を付けます」
まだ夏に入ったばかりとは言え、昼間の気温は随分と高くなっている。
自分や璃子先輩達は半袖なのだが、ロッソさんは今日もゴスロリであった。
「あの……それを言うのなら、たつみんさんも大丈夫ですか……?」
『問題ないがお!なんせたつみんはドラゴンだからがおね!それに、涼しい格好をしているがおよ?』
むん、と胸を張る着ぐるみ。いや、どこがやねん。
「えっと、中で水分補給とかはちゃんと」
『中の人などいない。いいね?』
「あ、はい」
のほほんとした声から一転、ハスキーな鋭い声が発せられる。あ、これ指摘したらあかんやつだ。
心なしか表情の変わらない着ぐるみの顔から圧を感じる。遊園地とかイベント会場とかでもないのに、なり気ってんな……。
まあ、異能者は基本的に頑丈である。絶対ではないが、簡単に熱中症で倒れる事もないか。
『それじゃ、そろそろ移動するがおよ~!』
「おー!ほら美由っち、そろそろ手ぇ離しなー」
「はっ!……失礼しました。つい」
『大丈夫がおよ~。アタイ人と接するの大好きなドラゴンがおー!』
慌てて美由さんがたつみんさんのお腹から手を離し、姿勢を正す。
その拍子に、彼女のお胸様が『たゆん』と揺れた。やはり、でかい……!
黒いTシャツに薄手の白いカーディガン、紺のジーパンという格好もあって、美由さんのスタイルが強調されているのもあり、大変目に毒であった。Tシャツが彼女の爆乳により、ミチミチと言っている気がする。衣類虐待罪とか、新しく作られるのではないか。
コーディネートしてくれた璃子先輩には、賛辞を贈りたい。
まあ、彼女は彼女で目に毒なのだが。
英語らしき謎の文章が書かれた白いTシャツに、デニム生地の短パンという、腰の無骨なベルト以外はシンプルな出で立ち。被っている黒い帽子もあって、少しスポーティーな印象も受ける。
だがそれ以上に、褐色の美脚が眩しい。美由さん程ではないが出る所は出て引っ込む所は引っ込んだ、健康的なエロスがそこにはあった。
正直言って直視出来ない。あと陽キャオーラが凄い。
『それじゃ、あそこの『たつみんカー』で宿まで行くがおよ~!』
「はい、よろしくお願いします」
荷物を背負いなおし、たつみんさんが指さし……指?兎に角、手で示した先にある青いワンボックスカーへ向かう。よく見たら、たつみんさんの絵がチラホラと書いてあった。
今回は1泊2日でダンジョンの間引きを行う。それでも、13個全てを回るわけではないが。
改めて、とんでもない数である。何でこんなに密集しているのやら。
運転席にいるお爺さんに挨拶し、車へ乗り込む。最後にたつみんさんがムニムニと押し込む様に乗車し、頑張って着席した後発車した。
「……あの、たつみんさんシートベルトは?」
『ここは私有地がおー。山岡さ……運転手さん家の道だから、大丈夫だがおー』
「あ、そうなんですか。失礼しました」
それでもした方が良いとは思うが、自分が口うるさく言う事でもない、か。
自分達のやり取りが聞こえていたのか、運転手さんが首だけ振り返ってニッコリと笑いかけてくる。それに会釈しつつ、窓の外を見た。
田んぼには青々とした葉が並び、雑草は僅かにしかない。よく手入れされているのだろう。風によって、葉と水面が揺れ動く。少し遠くでは、中干でもしているのか。罅の入った地面が露出している田んぼもある。
それ以外にも果樹の類だろうか。青いネットに覆われた畑の方では、老夫婦と思しき人達が何か作業をしている。
微かに、『パパパパッ』と爆竹の音が聞こえて来た。炸裂音に反応したのか、リボルバー型の杖を抜こうとする美由さんを咄嗟に手で制する。
懐かしい。父方のひいお爺ちゃんが、農業をやっていたっけ。台風で畑が駄目になったのを機に、祖父母の代でやめてしまったとか。小学生の頃は、何度か手伝いに行っていたっけ。
畑も田んぼも、伯父夫婦の方に受け継がれたが、もうその土地も売ってしまったと聞く。
まあ、農作業はアホみたいに大変だから無理もないが。小学生の頃の記憶を思い出しても、きつかった覚えしかない。でも、手伝いが終わった後のジュースがやたら美味しかったのは印象に残っている。
……うちが畑を引き継ぐ事にならなくて良かったと思っているのは、内緒だ。だってマジできつかったし。
魔法やら異能がある今でも、剪定やら摘果やらは手作業必須だろう。何なら、収穫だけでも重労働だ。絶対にやりたくない。マジで。
「耕太さん?どうしました。顔色が悪いですが……」
「気にしないで。ちょっと懐かしい気持ちになっているだけだから」
「はあ……」
隣に座る美由さんが心配してくれたので、苦笑を浮かべて首を横に振る。
そんなこんなしていると、宿が見えて来た。
田舎は土地が比較的安いが、それでも大きい。璃子先輩曰く、この辺で栄えていた林業の家が、従業員の慰安用に建てたのだそうだ。
まあ、建物が立派かつ宿と言っても、実態はほぼ民宿らしい。ついでに、経営者の老夫婦は基本的に山の方にある畑近くの家にいるそうな。
「そいじゃ、とりあえず荷物を部屋に置いてからダンジョン向かうって事で」
「はい」
『女の子達はこっちの大部屋だがお~。男の子はこっちの1人部屋がお~』
ガラガラと玄関の戸を開けて、たつみんさんが『かぽん』と足裏のパーツを外して宿に上がる。
……あの部分、靴だったんだ。というか脱着可能なんだ。
内心で驚きながら、彼女の後に続く。
『それじゃ、ごゆっくりがお~』
そうして1人部屋に通されたわけだが、12畳もあり自分だけで使うには随分と広い。
トイレや風呂は部屋の外だったか。バスでこっちへ来る前に、おおよその位置は璃子先輩から聞いている。
『いやー!やっぱ広いよね、ここ!』
噂をすればというわけではないが、壁の方から璃子先輩の声が聞こえて来た。彼女らが泊る大部屋は、隣の部屋である。
『この広さ、そして人数……夜間にはあの幻の戦。枕投げが可能、なのか……!』
『戦?お借りしている部屋では、たとえレクリエーションの類でも戦闘行為は推奨できませんが』
『安心しな美由っち!枕投げは伝統行事!戦闘じゃぁないのさ!』
意外と壁が薄いらしい。エルフ雑じりの自分には、彼女らの声が聞こえる。
……うん。
とってもドキドキします。
ここまで平静を装えたのは、もはや奇跡としか言いようがない。
いくら行き帰りが地味に大変とは言え、若い男女数人で同じ屋根の下1泊するとは。今でも信じられない。
この宿、トイレは複数あって男女分けられているが、お風呂は時間別である。つまり……美由さん達が入ったお風呂に、自分も浸かるという事だ。
修学旅行以外で、家族以外の異性と泊まりなど初めての経験である。壁越しに声が聞こえたのを皮切りに、心臓が煩い程に高鳴った。
これはもしかしたら、もしかしたりするのだろうか?
田舎の古いお宿にて、めくるめく、桃色の青春イベントが発生する可能性が───。
灰色の脳細胞が活性化し、全力でシミュレートを開始する。
一緒に食事……同じお風呂……ハプニング……枕投げ……寝巻……深夜テンションで考えついたけど、翌朝ボツにした特殊ゴーレムの設計図……いや最後のは関係ないな。
カッ、と。アニメだったらカットインが入る勢いで目を見開く。
時間にして僅か3秒。自分が導き出した答えは……!
「────ないな。ない」
現実は非情である。同じ宿に泊まるだけで、桃色イベントが発生するわけねぇよ。
そもそも、自分達は遊びに来たわけではないのである。
「オタクくーん。支度できたー?」
「あ、はーい。今行きまーす」
着替えの入ったバッグを置き、冒険者としての荷物だけが入っているリュックを背負う。
仕事の時間だ。製紙工場を紹介してもらう為にも、やれるだけの事はやるとしよう。
読んで頂きありがとうございます。
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『コミュ障高校生、ダンジョンに行く』の外伝も投稿しております。そちらも見て頂ければ幸いです。




