第六十五話 僻地のダンジョン
第六十五話 僻地のダンジョン
「じゃあな、皆……!生きて、またうちの店で茶を飲もうぜ!」
「暫しの別れだ……必ずや、この地にて再開しようぞ……!」
「いやお昼に再集合ですが?」
無駄に感動的な感じで、先程乗せてもらった車に再び乗り込む璃子先輩とロッソさん。
ダンジョンでの探索は、大人数でやれば良いというものではない。きちんと訓練を積んだ軍隊や自衛隊なら兎も角、自分達素人だと同士討ちのリスクがある。
あと、シンプルに13個もダンジョンがあるせいで、1つ1つやっていたらキリがない。実力的に問題のない所は、分散して間引きを行う事になった。
そんなわけで、璃子先輩とロッソさん。自分、美由さん、たつみんさんの2つのパーティーでダンジョンに向かう。
『じゃあ、ついてくるがお~』
「はい」
ぽてぽてと、たつみんさんが歩き出す。強い日差しの中、あの格好でよくもまあ平然としていられるものだ。
異能者が頑丈とは言え、暑いものは暑い。許容限界に、非異能者より多少幅があるだけである。
……いや。そう言えば、彼女には『あの異能』があったか。
探索前にあまり魔力を消費するのは良くないのだが、パッと見た感じたつみんさんの魔力量に大きな変化はない。上手く調整している様だ。
というか、この人自分より魔力量多いな。一回り、とは言い過ぎかもしれないが、それに近い差がある。
やはり、ダンジョンへ行っている回数で霊格に差は出るか。
そうして歩く事、10分程。田んぼに囲まれた、『封鎖所』が見えて来た。
打ちっ放しのコンクリートで覆われたその建物は、自然豊かな風景の中で随分と異彩を放っている。
自動ドアを潜って中に入れば、空調の利いた爽やかな空間が出迎えてくれた。心なしか、呼吸もしやすくなった気がする。
自然の中より人工物の中の方が、空気が美味しく感じるとは。やはり、夏というのは恐ろしい。
受付の人が、チラリとこちらを見る。美由さんの方を二度見しているが、たつみんさんの姿を気にした様子はない。どうやら、もう慣れてしまった様だ。
『それじゃあ、準備するがおよ~』
「あ、はい」
彼女に言われ、更衣室に向かう。
その際、封鎖所内にある交番の内側が視界の端に入った。
お巡りさんが机に突っ伏している。一瞬何かあったのかと足を止めるも、突っ伏したまま顔を横に向け、スマホを弄っている事が見て取れた。
どうやら、ただだらけているだけらしい。ほっと胸をなでおろし、更衣室に入る。
……いや、ほっとして良いのか?アレは。
まあ、この辺りが平和な証拠だと、ポジティブに考えよう。
手早く着替えを済ませ、リュックを背負い更衣室を出た。今回もまた、美由さんが既に待っている。
彼女に一声かけてから、念のためトイレに。戻ってくると、ちょうどたつみんさんが出て来た所だった。
着ぐるみパジャマ姿で。
頭は道中で見た物よりも小ぶりな被り物で覆っており、手首から先ももこもことした手袋を装着している。
なに、この……なに?
「えぇ……」
『どうしたがお~?体調でも悪いがおか?』
「あのぉ、その格好でダンジョンに入るんですか?」
いくら服装に義務はないとは言え、流石にまずいだろう。
受付の人に怒られるのではと視線を向けるが、彼はぽけーっと虚空を眺めているだけだった。瞼が随分と重そうである。
マジで大丈夫か、この封鎖所。
『『霊装』が解除された時の運搬がおね~。対策済みがおよ~』
そう言って、たつみんさんが後ろを向く。
彼女の背中には、肩掛けベルトの様な物が2つ取り付けられていた。
『いざとなったら、これを掴むか、背負うかしてほしいがおよ~』
「そ、そう言われましても……」
『大丈夫がお。意外と運びやすいって、試してくれた璃子ちゃんやメイちゃんが言っていたがお~』
一応、実際に運べるか試してはいるらしい。何だかんだ言って、璃子先輩もそういう事に関しては真面目だろうし、信じても良いだろう。
言われてみれば、上下一体の服で、持ち手になる部分もあるから……何とかなる、のか?
少し迷った後、美由さんの方をチラリと見る。彼女は、無言で自分達の会話が終わるのを待つ姿勢だ。特に、指摘する部分はないらしい。
であれば、自分があーだこーだ言う必要もない……か。
「分かりました。すみません、無用な口出しを」
『大丈夫がお~。ダンジョン内でも、気になった事はどんどん言ってほしいがお~』
「……はい。お言葉に甘えて、そうさせて頂きます」
意識を切り替える。
何にせよ、これからダンジョンに入るのだ。それも、ここの危険度は油断していいものではない。
チラリと、美由さんが背負っている竹刀袋を見やる。その中に入っているのは、当然竹刀や木刀ではない。
『アレ』の実験も兼ねている。気合を入れなければ。
深呼吸を1回。3人で受付へと向かう。
眠そうにしていた受付の人が、少し慌てた様子で対応してくれた。相変わらず美由さんの方をチラチラと見ていたので、流石に自分が壁となる。
いや、僕が人の事を言えた義理じゃないんだけどね?そういうマナーについて。
そんなこんなで受付を通り、ゲートの前へとたどり着く。
いつも通り『霊装』を展開。胸当や額当、杖の状態を確認する。
腰の後ろにあるホルスターへ杖を戻しながら、視線をたつみんさんの方へ向けた。
彼女の『霊装』は、重厚な鎧であった。歩兵用ではなく、騎兵……いいや、馬上槍試合のそれに似ている。
首の可動部がない、フロッグマウスヘルム。胴鎧と肩鎧は大きく、分厚い。馬上試合のそれとは違い、両肩が揃って重厚な造りをしており、脇に槍を支えるフックがなくなっている。
しかも、四肢までもが随分と頑丈そうなアーマーを纏っており、明らかに重そうだ。着ぶくれした印象さえある。
およそ歩兵が身に着ける装備ではない。が、彼女は平然と立っている上に、左手には大きなラウンドシールドを携えていた。
直系1メートル50センチ前後。厚さは3センチと言った所か。
武器を持たず、盾のみを持った姿。びっくりする程防御に極振りした『霊装』である。
しかし、それは肉弾戦においての話。彼女はそれだけではないと、既に璃子先輩から聞いている。
兜を注視すると、カエルの口に似たスリットではない、『人間の口』がある部分が閉じられた竜の口の様になっていた。
なるほど……あそこから。
たつみんさんも、自分達の様子を確認しているらしい。首が動かせないので、体の向きごと視線を動かしている。
そして。
『……え、なにそのエッチパイスー!?』
美由さんの『霊装』を見て、そう叫んだ。
あ、やっぱりその喋り方が素なんですね。
必死に美由さんを視界に入れない様にしながら、納得する。
『ん、んん!……言い間違えたがお。教育に悪い格好がおね、美由ちゃん』
「そうでしょうか?璃子先輩達にも言われましたが、肌の露出は少ないですよ?」
『いや、ボディラインががおね……あ、待って。そういうのを指摘するのはたつみんじゃない。解釈違いだぞ私……!』
ガシャガシャと音を鳴らして、たつみんさんが頭を揺らす。
何か苦悩してんな……。
『み、皆準備は良いがおね?そ、それじゃあ!アタイと一緒にダンジョン探索開始がおー!』
「あ、はい」
「了解」
『……あ、アタイ、頑張るがお……!』
なんか、すみません。
剣帯に吊るしたランタン型LEDのスイッチを入れながら、ゲートの前に立つ。
しかし、今回の先頭はたつみんさんだ。のしのしと、歩み出て来た彼女の肩を掴む。ここまで無骨な鎧姿だと、触れるのに抵抗はない。
自分の右側で、美由さんもたつみんさんの肩を掴む。彼女は振り返ってそれを確認できないので、こちらから声をかけた。
「肩、掴みました」
「私もです」
『よーし!出発、がおー!』
……これって、自分も『がおー』とか言うべきなのだろうか。
場違いな疑問を抱いている間に、彼女の爪先がゲートに触れる。瞬間、あの吸い込まれる様な感覚が襲って来た。
そしてすぐに、ゴツゴツとした岩の感触がブーツ越しに伝わってくる。
外の気温とは比べ物にならない熱気が、自分達を出迎えた。
籠手越しでも『冷たい』たつみんさんの鎧から手を離し、ゆっくりと剣を抜く。
ライトが照らし出す、赤みを帯びた茶色く硬い地面。足元だけではなく、壁や天井も同じ岩で出来ていた。
洞窟型のダンジョンに、光源は自分達が持ち込んだ人工の明かりのみ。
視界の端で、美由さんも得物を構えている。
それは、ライフル型の杖であった。部分的に金属パーツや強化プラスチックが使われており、全体が黒で塗られている事もあって本物の銃にも見える。
もっとも、銃身の先端はオレンジ色に塗られ、銃口にはビー玉が取り付けられているが。
彼女は銃口の下に取り付けたライトを点灯させ、強い光を前方に向ける。
『アタイと耕太君が周囲の警戒をするがお。美由ちゃん、現在地の確認をお願いがおよ』
「分かりました」
「はっ」
前方はたつみんさんに任せ、後方に意識を向ける。その間に、美由さんがブラックライトで壁面を照らしていった。
「……自衛隊のペイントを発見。『G-4』です」
『分かったがお。じゃあ、取りあえず前進してみるがお。大丈夫、アタイもうここの地理は完全に暗記しているがおね~』
「はい。頼りにしています」
『がおがお~。でも、皆気を付けて進むがおー』
「了解」
口調こそアレだが、たつみんさんが頼りになるのは事実である。
鎧の音を洞窟内に響かせながら、探索を開始した。
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Q.ボツにした特殊ゴーレムってどんなの?
A.装着者の事をなんも考えていない上に、そこまで強くないパワードスーツみたいなのですね。
過去作の某組織
「なぜだ……なぜだ、矢広耕太君!」
「もっと素直になれよ!性欲を解放するんだ!」
「我々は……君の才能を、信じているよ……!」




