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雑種と未来人の現代ダンジョン  作者: たろっぺ
第二章 クラン
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閑話 怪物と英雄の境界線

閑話 怪物と英雄の境界線




サイド なし



 警察署から、火の手が上がっている。


 その炎は周辺の建物にも燃え移り、何軒もの家々が赤く染まっていた。もうもうと、黒煙が夜空に昇っている。


 駆け付けた消防車から水が垂れ流されている今も、火の手は広がり続けていた。


 そう、『垂れ流されている』。


 付近の消火栓と連結した消防車。放水用のホースは地面に投げ出され、勢いよく水が噴き出ていた。


 その傍に広がる、赤い水たまりを洗い流す勢いで。


「はあ……はあ……!」


 物陰に隠れた親子が、息をひそめて隠れていた。


 赤ん坊を抱えた女性が、バチバチという自宅が燃える音を聞きながら、ブロック塀の傍で蹲っていた。


 本来なら、一刻も早く逃げ出すべき状況。しかし、彼女は動けない。


 車を取ってくると言った夫が、最期に上げた悲鳴。道路から聞こえたそれが、逃げ道に『なにか』がいる事を告げていた。


「おぎゃー!おぎゃー!」


「し、静かに……!お願いだから、静かに……ごほっ、ごほっ!」


 赤子があげた泣き声に、母親は必死にあやそうとする。しかし、彼女も漂ってきた煙にせき込んだ。


 このままここにいては、『なにか』に襲われる前に死ぬ。


 なけなしの勇気を振り絞り、赤子を抱えた母親は立ち上がった。


 そして、気づく。


「えっ……」


 銃が、浮いている。


 大半の日本人にとって、縁のない物体。僅かに返り血がついた自動小銃が、誰もいないのに住宅街を浮遊していた。


 ポルターガイストとでも、呼ぶべき現象。母親が知覚できたのは、銃の部分のみ。それを握る存在が、爬虫類じみた顔面に愉悦の笑みを浮かべた事には気づけなかった。


 ゆっくりと、舐める様な動作で銃口が母子に向けられる。


 母親は喉を引きつらせ、我が子を庇って背を銃に向けるしか出来なかった。しかし、それは無意味としか言いようがない。


 とある銃器工場から『カラミティ』に横流しされた、後進国では未だ正規軍が用いている正規品。軍用の銃と弾丸は、常人の肉体など容易く貫通する。


 必死に逃げようとする母親の背に、魔物……ズメウは、ゆっくりと引き金を絞ろうとした。



「があああああああああああああっ!」



 だが、それは夜の街に響き渡る咆哮によって止められる。


 慌てて、そのズメウは声のした方に体を向けた。周囲で人の死体を貪っていた他の個体も、一斉に武器と爪を構える。


 声の主は、若い女だった。


 腰から生えたコウモリめいた翼で、凄まじい速度を出している。2階建ての屋根より低い高さを、大鎌を手に飛行していた。


 彼女が、『ロッソ・ヴェンデッタ』が、眼帯を毟る様に解き、色の違う両目で怪物達を睨みつけている。


「どぉおおけええええ!」


『GAAAAAAA!』


 血走った瞳の彼女へ、銃持ちのズメウが一斉に銃口を向ける。そして、間髪容れずに引き金を引いた。


 けたたましい銃声を上げ、鉛玉が吐き出されていく。訓練などしていない彼らの狙いは滅茶苦茶だが、下手な鉄砲も数を撃てば当たるもの。


『魔装』を貫通し、彼女の柔肌を弾丸が抉っていく。瞬く間に眼球が潰れ、頬が抉れ、腕が千切れ、腸がこぼれ出た。


 だが。


「ぐっ……おおおおおお!」


 止まらない。


 無数の弾丸を受けてなお、彼女は一切速度を緩めず右腕を振り上げる。肘に弾丸が直撃するも、即座に再生。大鎌を近接型のズメウに叩き込んだ。


『GAAA!』


 迎撃に繰り出した貫手。それと衝突した鎌は、止まる事なく爪と爪の間に滑り込み、そのまま指の間へと潜り込んで肘まで真っ直ぐ切り裂いていった。


 鮮血と悲鳴を上げ、そのズメウがよろめく。その傍を通り過ぎながら、ロッソは翼を消した。


 ぐちゃり、と。再生しながら両の足で彼女は着地する。


 ぼとぼとと肉片と共に弾丸を地面に落とし、その端から再生する姿は。


『GA……GAA……!』


 ズメウ達から見ても、『異形』としか言いようがなかった。


「ころ、す……ころす……殺すぅ!」


『GGGGOOOOO!』


 周囲を取り囲む魔法型のズメウ達が、一斉に銃撃を行う。それを一身に受け、血肉を散らしながら、しかし彼女は前進。


 手近な近接型のズメウ目掛けて大鎌を振りかぶる。


『GAAA!』


 だが、それより先に顔の右半分が貫手によって抉り飛ばされた。


 尋常な生物なら間違いなく致命傷。即死のはずだ。


 だというのに、頭を半分失った体は平然と動き、大鎌でズメウの腹を引き裂く。まるで巨大な肉食獣に襲われた様に、怪物は内臓を地面にこぼした。


『GAAAAA!?』


『GOO!GGGOOOOO!』


 ズメウは、人間並の知性をもつ。


 人の様に武術を使い、人の様に武器を用い、そして人の様に恐怖した。


 コレは、自分達とは異なる存在。自分達を殺す為に降り立った、化け物だと。


 その身に銃弾を、爪を、牙を受けながら、彼女は構う事なく大鎌を振り回す。唯一心臓だけは庇う仕草を見せるも、それに気づく前に5体のズメウは全て魔石へと姿を変えていた。


「はぁ……はぁぁ……!」


 荒い息を吐きながら、ロッソは大鎌の刃を力なく地面につける。


 その時、彼女の耳が足音を捉えた。即座に得物を構えたロッソに、音の主は悲鳴を上げる。


「ひぃ!?」


「人、間……」


 先程の、赤子を抱えた母親。彼女を、ギョロリと目玉を再生させながらロッソは目視する。


 そして、母親もまた『ダンピール』の姿を直視してしまった。剥き出しの脳みそを頭蓋骨が、皮膚が、そして髪の毛が覆い、地面に落ちていたはずの目玉があるべき場所に収まった瞬間を。


「ひ、ひああああああああ!?」


 絶叫を上げ、赤子を抱えた母親は走って行く。


 それを見て一瞬何かを言いかけるも、ロッソはすぐに踵を返した。


 彼女が探している『母親』は、今の女性ではない。自身の、母親だった。


 今も燃えている家から、数軒離れた場所にある民家。そこに、ロッソは駆け込む。


「母さん!」


 石山と書かれた表札の玄関を開け、彼女は叫んだ。しかし、返事はない。


 真っ青な顔で家に上がろうとしたロッソだが、玄関の床に書置きがある事に気づく。


『岩子へ。私は先に避難所へ行きます。もしもこれを見ていたら、貴女もすぐに逃げなさい』


 慌てた様子で書かれたそのメモを握りしめ、ロッソは大きく息を吐いた。


 そしてすぐに、家を出て走り出す。


 数メートル駆けた後、その勢いのまま飛翔。腰から羽を生やし、空へ舞い上がった。


「母さん……無事でいて……!」



 ────石山岩子は、自分の名前が嫌いだった。


 病気がちだった父親が、娘には健康に育ってほしいと。そう名付けたと彼女は母親から聞いている。


 無骨過ぎる名前であった事。そして彼女自身が引っ込み思案な性格だった事が災いし、小学校ではよく虐められていた。


 それが理由で、両親を恨んだ事がある。しかし、孤独な彼女を優しく包み込んでくれたのも、両親だった。


 彼女にとって、『世界』とは両親である。その片方が、小学6年生の頃に交通事故で他界した今、世界はたった1人しかいない。


 いいや、彼女の世界は、最近になってようやく広がり始めている。それでも、かけがえのない────。



『GAAAAAAA!』


「じゃぁまぁだああああああ!」


 立ち塞がるズメウの爪に、脇腹を抉られながら突撃。強引に鎌を振り抜いて、首を刎ねる。


 そのまま直進するも、血を流し過ぎた。ダンピール、吸血種にとって、血液とは魔力源でもある。いくら再生するとはいえ、体外に出てしまう度に魔力を消費した。


 再生能力自体はある程度働くも、それ以外の機能が停止寸前となる。ロッソは、飛行を続ける事が出来ず墜落し地面を転がった。


「が、ああ……!」


 ゴロゴロと道路を転がった後、電柱に頭をぶつけ停止。額が裂け、ぶしゃりと血が飛び出る。すぐに再生するも、それでまた魔力を消費した。


 ふらつきながら、ロッソは避難所を目指す。地域の避難訓練には日頃母親だけが出席していたが、場所だけは教わっていた。


 大鎌を杖の代わりにし、彼女は進む。夜になった事で鋭敏になったダンピールの耳が、2種類の声を捉えた。


 1つは、鱗に覆われた足が地面を蹴る、独特な足音。


 もう1つは。


「うるせぇ!化け物の仲間を避難所に入れるわけねぇだろうが!」


 人間の、怒声。


 そのすぐ後に、ロッソにとって聞き慣れた声が聞こえてくる。


「待っておくれ!アタシは化け物じゃない!人間だよ!」


「かあ、さん……!」


 ずっと聞きたかった声に、ロッソは転びそうになりながらも、足を速めた。


「信じられるか!今街で暴れているのはなんだ!異能者か、魔物か、区別がつかねぇが……人間じゃねぇだろ!」


「なあ、石山さん。あんた、人間なんだよな?じゃあ、ここを襲う奴らに止まる様に説得してくれよ」


「無茶言うんじゃないよ!暴れているのは魔物だ!説得なんかできるか!」


 昔は、地元で有名な美男美女夫婦だったと豪語していた、母の声。歳を取って逞しくなったそれは、ロッソの耳によく届いた。


 しかし、それに負けない怒声と、近づく化け物どもの足音。


「魔物相手でも、あんたなら出来るって!頼むよ!」


「だから、無理だって!頼むよ!中に入れとくれ!それに、娘だってきっともうすぐここへ」


「その娘は、あんたが化け物と作った子供だろう?だからっ」


 破裂音がする。しかしそれは銃声ではなく、肉と肉がぶつかった音。


「いってぇ!?」


「こいつ、殴りやがった!」


「うるさい!あの子は人間だ!旦那とアタシが愛し合って産まれたこの世で一番大切な宝物だ!それを」


「黙れ、この化け物!」


「あぐっ」


 鈍い音がし、その後に金属製の門扉が閉じられる音がする。


「とにかく、人間って認められたかったら外の奴らの説得を……」


「おい、アレ!」


 ロッソが、避難所を目視できる位置に辿り着いたのと、化け物の足音が止まったのがほぼ同時だった。


 避難所の扉を閉め、その隙間から顔を覗かせる2人の男。突き飛ばされたのか、地面に座り込んだ中年の女性。


 彼らの視線は、浮遊する……浮遊して見える。銃に注がれていた。


 ロッソは目撃する。ニタリと笑みを浮かべたズメウ達が、引き金に指をかけるのを。


「ま、待って」


「おおおおおおおおお!」


 もはや、鎌を振るう力も残っていなかった。


 得物を放り捨て、最後の魔力を振り絞ってロッソは飛ぶ。翼をはためかせ、母親に飛びついた。


 その直後に、銃声が響き渡る。


「あがっ……!?」


「ひぃ!?」


「うわあああああ!」


 アスファルトの地面や、鉄製の扉を叩く鉛玉。その中に幾つか、肉を抉る音が混ざる。


「岩子!?」


「ぐうううう……!」


 母親を抱きしめたロッソの背が弾け、肩が削られ、骨が砕かれた。


 頭にも銃弾がかすめていき、彼女の意識は薄れていく。


「逃げ……なん……子……!」


「かあ、さ……」


 銃声に声がかき消されながらも、泣きそうな顔の母親に、ロッソはどうにか笑みを浮かべようとする。


 その耳に、不思議と異形の声が良く響いてきた。


『■■、■■■■……』


 それは、詠唱。


 つまらなそうに立っている近接型のズメウ3体の後ろ。銃撃を続ける魔法使い型2体が、ぼそぼそと呪文を唱えていた。


 ライフル弾でも、絶えず再生を続けるロッソを殺しきるのは難しい。しかし、同時に魔法を使った場合はどうなるか。


 ────史実において、それでも彼女は死ななかった。


 黒焦げになり、魔法が着弾した衝撃で吹き飛ばされるも、近くの河川に落下し生きながらえたのだ。


 その後、避難所は結界によって守られ、どうにか救助が来るまで耐え凌ぐ事となる。


 扉の前で焼け死んだ、中年の女性を放置して。


 ズメウ達の頭上に、バスケットボール大の火球が出現する。


『■■■■!』


 詠唱が完了し、炎の鉄槌が彼女らに迫る。


 回避は、不可能。防御する力も、ロッソには残っていない。


 無残にも、彼女はそこで肉体を砕かれる────。



 はずだった。



 銃声とも、魔法の着弾音とも違う轟音。それがすぐ近くで発生し、ロッソはノロノロとそちらへ顔を向ける。


 しばしの静寂。銃撃が止まり、彼女らとズメウ達を遮る壁が燃える音だけがしていた。


 否、壁ではない。まるで『何者かに』投げ飛ばされた様に、接地面をひしゃげさせた車両。横転した車体が魔法を受け、火の手が上がっている。


 その車とロッソ達の間に、誰かが降って来た。


 軽い音と共にアスファルトの地面を踏みつけ、夜風に血で汚れた陣羽織をはためかせながら。炎と月光が、その姿を照らし出す。


「お待たせしました」


 バラバラと、面頬が砕けて地面に落ち。



「一緒に戦いましょう、ロッソさん」



 燃え盛る車を背に、少年が、ダンピールへと笑いかけた。





読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。励みになっております。創作の原動力になっておりますので、どうか今後ともよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
これって救った側に一般人がいない以上助かっても一般人の為に戦えるか疑問な気がする。完落しないだけで人格は変わる気が?結局もう人間を使用することはできない気が?
向こうの世界だとこれで人間に絶望したとかなのかなぁ まぁそれはそれとして主人公してんねぇ!惚れてまうやろぉ!
せめて真っ当な理由だったらいいのになぁ。 「結界を張っちまった!すまん!もう入れない!」とかさ。 避難所を守るために戦って亡くなったとかさ。 で、それをロッソんが知らずに⋯⋯とかさ。 さすがにこのおっ…
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