第八十八話 世界は回り続けている
第八十八話 世界は回り続けている
装着型ゴーレムによるパワードスーツの開発にキャッキャウフフしていたわけだが、それにばかりかまけているわけにもいかない。
本分を忘れず、日々邁進しなければならないのだ。
そう。
「今日もよろしくお願いします」
「ういー。よろよろー」
「はい。よろしくお願いします」
ダンジョン探索である。
え、学生の本分は学業だろうって?ほら、学生と言ったら青春。友達と一緒にバイトするのもある意味青春だから……冒険者活動を、バイト認定して良いのか分からないが。
そんなわけで、駅前に集合し電車に乗って2つ隣の市へ。ロッソさんは、本日はお休みである。
下校ラッシュとも退勤ラッシュとも重ならなかったおかげか、席は空いていた。3人で並んで座り、スマホを取り出す。別に他のお客さんがいないわけではないから、いつもみたいに騒ぐわけにもいかない。
……それに、電車ではあまり口を開きたくないので。
ライカンスロープの霊的災害。その爪痕は、胸の奥に残り続けている。
突如として上下が入れ替わる景色。予知をもってしても隣にいた美由さんしか救えず、目の前で悲鳴と共に亡くなっていく人達の姿。それらが、電車に乗っていると時折脳裏をよぎる。
もちろん、何も思い出さず、平和な気持ちのまま電車に揺られる日もあるが。しかし、今日みたいな曇天は……。
喉元までせり上がってきたものを飲み下し、意識をスマホの画面に向けた。何でも良いから、あの時の事を忘れたい。
ソシャゲの周回……は、今メンテ中か。読んでいるネット小説も最新話がまだ投稿されていない様なので、適当にニュースサイトを冷やかす。
『泉原臨時総理、議会の反対を押し切り魔物対策を都市部に集中』
『異能者互助団体『ヴァルハラ』が海外の異能者とも連携を進める』
『またも失言。現役大臣が発した、異能者差別』
『反異能者団体『カラミティ』指導者、テキラ・ムースメイ氏自爆か』
……最後のは初耳だな。
他のニュースは昨夜や今朝にテレビで見たが、『カラミティ』のトップが死んだというのは今知った。
いや、最後に『か』とあるけど……死亡したのは、間違いないらしい。
世界各国で『カラミティ』に対する捜査が行われ、特にアメリカとイギリスが精力的だった。
それが功を奏した様で、あの団体の資金源だった会社や団体が次々に逮捕、起訴されていたのである。ここまでは、自分も知っていた。
こういった理由から、『カラミティ』は別の方法で資金を得ようとしたらしい。クラッキングによる脅迫を開始したのだ。
しかし、アメリカのフリーマン大統領のパートナーがトップに立つホワイトハッカー集団が、CIAと協力して対応。更にイギリスのMI6とも連携し、彼らのアジトを突き止めたそうだ。
……何か、映画みたいな事が自分の知らない所で起きていたらしい。
そして、カンボジアにあった『カラミティ』の拠点へ、アメリカとイギリスの合同チームが突入。現地時間は午前8時。ムースメイが別の拠点へ逃げる直前に、逮捕へ踏み切ったらしい。
そのメンバーには、驚いた事にフリーマン大統領やアメリカに渡った日本の異能者もいたとの事だ。どこから驚いて良いのか分からない。
瞬く間に制圧は進んだらしいが、イギリスのチームがムースメイを発見するも、彼を逮捕しようと近づいた瞬間、目の前で突如爆発して死んでしまったらしい。
自爆なのか、事故なのか、はたまた誰かに口封じされたのか。謎は多く残ってしまったものの、『カラミティ』は資金源に続きリーダーまで失った。
後は、ムースメイを変に神格化したりしなければ、勝手に消滅するだろうけど……こういうのって、大抵頑固な汚れと化すんだよなぁ。
スマホの画面を見ながら、心の中でため息をつく。
捕まえようと近づいていたイギリスのチームは、爆発に巻き込まれものの幸いな事に全員命に別状はないそうだ。
詳しい状況までは載っていないが、隣の部屋を調べていたフリーマン大統領と連れていた日本の異能者が救助に向かい、作戦前にイギリスチームから渡されていた霊薬で彼らを治療したとか。
突入チームに死者は出ず、拠点にいた『カラミティ』のメンバーも大半が逮捕。近隣住民への被害もなし。ムースメイとその側近が死亡した以外は、理想的な形でこの一件は幕を閉じた……らしい。
何にせよ、自分には『お疲れ様です』としか言えない。『カラミティ』に良いイメージはないので、今後も残党を取り締まってほしいものである。
そんな感想と共に、また別の記事へ。何でも、例の『蘇生薬』や『不老長寿の霊薬』を作り、レシピをばら撒いた異能者がイギリスに移り住み騎士の称号を得たとか。
この前までギリシャにいたと報道がされていたけど……。
何でも、現在は色々と条件がある『蘇生薬』を、もっと手軽かつどんな状況でも使える様にする為、研究中らしい。各所から『生命への冒涜だ』と非難の声が上がっているので、『カラミティ』とは別に、色んな過激な団体や組織から狙われている様だ。
と、そんな風にスマホを見ていたら目的の駅に到着したらしい。美由さんに肩をつつかれ、他2人と共に電車を降り、バスに乗る。
それから、約10分。『封鎖所』に到着した。
「んー……いやぁ、ここまで長かったですなぁ」
大きく伸びをした璃子先輩が、ヘラっとした笑みを浮かべる。
その際に小さく揺れた巨乳やTシャツの裾からチラリと見えたおへそから、そっと視線を逸らしながら頷いた。
「ですね。でも、この辺にクランはないらしいので……」
「誰かが間引きしなきゃだよねぇ。まぁじで足りてねぇな、異能者の数」
「はい。それはもう、本当に」
自分達の軽口に、美由さんが深々と頷く。実感が凄い。
遠い目をしていた彼女が、突然グリンとこちらを見てくる。
「だからこそ……耕太さんには、期待しています」
「う、うん。まあ……はい」
恐らく、例のパワードスーツの事を言っているのだろう。あるいは、その武装として想定している量産型簡易スクロールの方か。いや、両方かも?
一応順調ではあるんだけど、そうプレッシャーをかけられると胃が辛い。大丈夫だよね?想定通り上手くいくよね?
そう悩んでいると、背中を璃子先輩に叩かれる。
「うっ」
「猫背になっっているにゃ~、オタク君。そういうのは猫耳をつけてからにするにゃ~」
「つけませんよ……」
「用意はあります」
「つけないからね……!?」
真顔なのに瞳をキラキラとさせる美由さんに、全力で首を横に振る。
「では、先に私が装着します。前回のゲーム大会でも、負けてしまったので」
「お、おう。いや、だからもう、罰ゲーム廃止にしようって。あるいはドジョウ掬い」
「君のドジョウ掬いへの拘りは何なん?」
「別に拘りはありませんよ。ただ、大抵の場合でバカ受けする鉄板ネタかつ、穏便に問題が落着できる芸と思っているだけで」
「拘りじゃねぇ。過剰な信頼だ……!」
まあ嘘だけども、適当に今考えただけである。
でも、友人兼仕事仲間のエッチな姿よりは、精神衛生上良いと思うんだ……嬉しいけども。嬉しいけど、気まずい……。
あと何より、自分が負けた時が恐い……!
「ドジョウ掬いのコスプレ道具は私の家にないので、できません」
「この前僕が持ち込んだやつは?」
「手ぬぐい、ざる、割箸。それぞれ本来の用途で使用してしまった為、除外するべきかと」
「……じゃあまた買っていけば」
「手ぬぐい、ざる、割箸の持ち込みを禁止します」
「横暴だ!?」
「私の家では、私がルールです」
むん、と。美由さんが胸を張る。くっ、シャツ越しに彼女の爆乳が『たゆん♡』と!これでは何も言い返せない!
「まあまあ。今は取りあえず、お仕事の方に集中しようや」
「あ、はい。そうですね」
「確かに。失礼しました、璃子先輩」
「良いんだよ、美由っち……コスプレ云々は忘れて、ダンジョンに集中しような……!」
「それは頭の片隅に置いておきます」
「忘れても、ええんやで……!」
「それな……!」
「いやです。ダメです。行きましょう」
バッサリと斬り捨て、封鎖所へ歩いていく美由さん。
ちくしょう、逞しくなって……!この意志力。これが、特撮で育った元兵士か……!
「2人とも」
「うっす……」
「あいこぴー……」
トボトボと、美由さんの後に続く。
しかし、背中を丸めていたのは封鎖所の自動ドアを通るまで。以降は背筋を伸ばし、意識して気持ちを切り替える。
マスターから自分達の腕なら問題ないと言われているダンジョンだが、それでも危険な場所なのは変わらない。意識を戦闘時のそれへ近づけていく。
更衣室で着替えを済ませ、美由さん達と合流し受け付けを通ってゲート室へ。
楕円形の入り口を前に、それぞれ『霊装』を展開。装備を確かめた後、自分が先頭に立つ。
両肩に仲間達の手が乗っているのを目視で確認後。
ゲートの内側へと、足を踏み入れた。
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