第八十七話 今はまだ、無名の鎧
第八十七話 今はまだ、無名の鎧
虎毬さんと絹江さんに依頼をしてから、2日。
いつもの様に学校へ行けば、隣のクラスで虎毬さんが普段通り周囲の生徒と談笑していた。
昨日は『家庭の事情』でお休みだったが、例の件の調整に動いてくれていたのだろうか。それとも、公安絡みか。
何にせよ、一般人が尋ねる事ではないだろう。忙しいのは承知の上なので、変に尋ねたら急かす事になるのも忍びない。彼女の方が、自分より余程現状に危機感を持っているはずなのだから。
ついでに、今日も虎毬さんのファンクラブが周囲を徘徊していたので、近寄りたくない。恐いので。
公安なのに、滅茶苦茶目立っているけど良いのだろうか……いや、それこそ自分が考える事じゃないよな……。
そんな風に、いつ通りの日常を過ごして、放課後。美由さんの家へと向かう。
もう、ある意味これも習慣だ。同い年の女子の家へ行くというのに、その要件は異能絡みなのだけれど。
だが、心躍らないわけではない。単純に異性として、というのもあるが。それ以上にテンションが上がる理由があった。
「……これが」
「はい」
ガレージに、いつもの4人で集まる。
普段は修理や調整を行っている『ケニング』を置いておく場所に、1体のマネキンが設置してあった。
纏っているのは服ではない。木製の、鎧の様な物である。
「霊木を使用した、装備型ゴーレムです」
美由さんの言葉に、無言で璃子先輩が右手を掲げる。その視線を受け、こちらも無言で右手を挙げた。
───パァン!
女子とのハイタッチに緊張する心も、今ばかりは存在しない。それ以上の興奮が、ここにはある。
戦闘用パワードスーツ。これに匹敵する浪漫が、はたしてこの世にどれだけあるだろうか……!
ちなみに、ロッソさんもハイタッチしようと右手を挙げたものの、美由さんはそれに気づかずスルーしていた。
「くぅん……」
が、捨て犬みたいな顔をしていた彼女の両サイドに自分と璃子先輩が立ち、それぞれハイタッチしたので問題ない。
この浪漫の塊を前に、仲間外れなんてして良いわけないだろう……!後で美由さんもハイタッチしような……!
ちょっと変なテンションになっている自覚はあるが、仕方のない事だ。だってパワードスーツが目の前にあるのだし。
改めて、戦闘用パワードスーツを見る。
成人男性の頭より数回り大きな、円筒状の頭部パーツ。それがマネキンの頭をすっぽりと覆っていた。
後頭部から脊椎の様に細いパーツが伸び、それが胴鎧の背中に接続。装甲に覆われ見えなくなるも、腰の辺りから再び飛び出てベルトに繋がっている。
そのベルトから太腿のパーツに、膝関節、脹脛、足首にも管が伸びていた。肩から手首にかけても同じ様に胴鎧から繋がっており、まるで神経の様である。
ゴーレムは基本的に生物の形を、主に人間の形をしていなければならない。パーツを切り離してしまえば、一緒に装着しても機能しなくなるのだ。特に頭部が切り離されると、起動すらしなくなる。
なお、メインフレームの設計製作は美由さんのワンオペである。手伝おうとしたけど、戦力外通告されてしまったので……。
その彼女は、眼前のゴーレムを前に豊かな胸の下で腕を組みながら、難しい顔をしていた。
「とりあえず作ってみましたが……本当に、耕太さんがおっしゃるほどの性能が出るのですか?」
「理論上は、だけど。それに、メインバッテリー部分はまだ外装しかできていないから、起動する場合は装着者かその補助人員が魔力を送らないといけないかな」
脊椎の様なパーツの左右、人間なら肩甲骨がある位置に、後ろへ伸びる突起が1つずつある。
そこに魔力供給用スクロールが入ったケースを接続。それをエネルギー源として、稼働する予定だ。
例の製紙工場で、魔力が籠められた紙ができあがるのは後10日前後。完成次第、こちらへ一部送ってくれるとの事だ。初めての材料とレシピだろうに、工場長の川上さんには感謝しかない。
大半は、たつみんさんの地元に置いておく。『アレ』を作るとしたら、あの集落と既に話し合って決めているので。
「というか、メインカメラ部分のアレコレもまだつけていないからねー。マジで組み上がっているのはメインフレームだけだし」
「ですねー。完成には、まだ少しかかりそうです」
璃子先輩と苦笑しあい、美由さんも『そうですね』と肩を竦めた。
だから、この機体に未だ名前はない。本当は計画段階でつけておくべきなのだろうが、何となく、完成までは無名のままにしておきたかった。
「それはそうとさー、オタクくぅん」
「なぁんですかー、璃子せんぱぁい」
「……2人とも、いつにも増して様子がおかしいですね」
璃子先輩が目をかまぼこみたいにしながら話しかけてきたので、こちらも同じ様な目をしながら返す。
「パワードスーツって言ったらさぁ……当然、『色』も大事っしょー」
「ですねー。実はもう、考えてあるんですよー」
「ふっ……その話、吾輩も混ぜてもらおうか」
ザッ、と音をたてて、ロッソさんが一歩前に出る。
「その声は……!」
「ロッソ・ヴェンデッタ……!?」
「いかにも……!」
「え、何ですか。このやり取り……」
困惑する美由さんをよそに、3人で頷き合う。
「では、それぞれの心は一緒の様ですし……せーので、言っちゃいましょうか」
「いいぜ……出しな、お前のパワードスーツカラーを……」
「ふっ……生まれた時は違えど、妄そ、熟考の先は同じらしいな」
「だから何ですか、このやり取り」
美由さん……貴女がツッコミ役に回れた今日という日を、嬉しく思うよ……!
というわけで、存分にボケるね……!
「せーのっ」
だが、この意見はわりと本気であり、真剣である。
僕らの思いは、1つ!
「青と白!」
「緑と黒!」
「黒一色!」
「ばらばらじゃないですか」
なん……だと……!?
信じられないと、璃子先輩とロッソさんを見る。驚いた事に、2人もこちらを同じ様な目で見ていた。
そして美由さんはもの凄く呆れた目をしていた。ちょっと辛い。
「どういうつもりですか、璃子先輩!ロッソさん!パワードスーツですよ!?じゃあもう、G●しかないでしょう!?あるいはG●Xでしょう!?」
「それ色はどっちも同じやろがい!てかリアタイ世代じゃないだろオタク君!」
「いやそれは吾輩達も同じだが?」
「公式の動画で見ました!特に、走っているトラックから、バイクで出撃するシーンが好きです!」
「それには心の底から同意する!」
「……ああ、仮面●イダーの」
ぽん、と。美由さんが納得した様子で手を叩く。
「しかぁし!これは戦闘兵器なんだぞオタク君!だったらそう、黒と緑しかねぇだろうがぁ!」
「迷彩柄にしろと!?」
「違う!ザ●カラーだ!モビ●スーツだって元々は体の延長!人の作業を補助する道具だったんだからなぁ!」
「世迷い言をぉ!」
「甘い……甘いな、璃子よ」
ロッソさんが、無駄に格好いいポーズをしながら笑う。
「確かに貴様の言う通り、コレは戦闘兵器だ。ゆえに、それを想定した色こそが相応しい」
「そうだよ」
「だがな……だからこそ、ここは『黒』以外はありえんのだぁ!」
「なぁにぃいい!」
バッ!と荒ぶる鷹のポーズを取り、ロッソさんが吠える。
「夜の闇に溶け込む黒一色!その中で輝く赤い瞳!戦場を舞うドレスに、これほど相応しき色があるか?いやない!」
「貴様……さてはプ■テクトギア派か!」
「え、何ですそれ」
「後で一緒にアニメ見ような、オタク君!」
「璃子先輩とは嫌です」
「なんでぇ!?」
だって横からめっちゃ解説してくるし……。正直、作品に集中できないので。
「つうかアレ、媒体によってはパワードスーツじゃなくって、ただの装甲服だったりするじゃねぇか!」
「それでも!アレは芸術なのだ!」
「うるせー!ドマイナー作品が調子にのるんじゃねぇ!」
「貴様ッ……!璃子!創作を愛する者が一番言ってはならん事を!あとマイナーではない!ファンはたくさんいる!」
「2人ともやめてください!この機体はただの兵器ではなく、魔物を倒し人間を守る存在です!だからそう……もう概念的には●3でしょう!」
「黙れにわかが!超常の力を使ったG●とか解釈違いだわ!」
「は?劇場版のあのシーンを否定する気ですか?」
「開発とは別だろうがあのシーン!」
「待て!……吾輩、あの映画見れていないから、あんまりネタバレしないで?」
「……すみません」
「ごめん……ロッソん……」
「うん……ありがとう……」
数秒の沈黙の後、互いに睨み合う。
そして、一斉に美由さんを見た。
「特撮が好きなら、美由さんも青と白ですよね!?」
「いいや!美由っちなら分かるはずだ。黒と緑の実戦的な格好良さを!」
「男も女も関係なく……全ては、黒に染まる……!」
もはや3人で言い争っても埒が明かない。
なぜなら……互いの意見を否定しつつも、その格好良さの否定はできないから……!
途中から無視して工具を片付けていた美由さんが、自分達に振り返る。
そして。
「装着者の命を考えると、迷彩柄が望ましいです。想定される戦場はダンジョン内、あるいは霊的災害が発生した街中である以上、都市迷彩である灰・黒・白の3色以外ありえないかと」
無表情で、そう告げた。
「……ぐぅ!」
まさに、正論……!圧倒的……正論……!
装着者の命を引き合いに出されたら、何も言い返せないじゃないか……!
コンクリの床に膝をつく自分達の前に、工具箱を棚に戻した美由さんが歩いてくる。
「それで。耕太さんから、この機体の武装についてお話があると聞いていたのですが」
「あ、うん。それね」
すっと立ち上がり、璃子先輩に視線をやる。そうすれば、彼女がドヤ顔で作業台の引き出しからある物を取り出した。
「ふっ。実はあーしも制作に関わっていてね……加工を担当したのさ」
「お二人の合作ですか。それは、いったい?」
璃子先輩が握っているのは、一見すると『剣の柄』だった。
片手用の長さをした円柱状のグリップ。柄頭は平たく、鍔も金属製のシンプルな造り。
刀身はなく、鞘と刀身が接触するのを防ぐ『はばき』の部分だけが鍔から飛び出していた。
だが、鍔近くに『トリガー』が取り付けられている。更に鍔から板状のトリガーカバーが降りており、それを上に動かさねば使えない仕組みだ。ようは、セーフティーである。
「それは……?」
「まあまあ。ガレージじゃちょっと危ないから、外でね」
疑問符を浮かべる美由さんを片手で制し、璃子先輩がガレージの外に出る。
庭の開けた場所に立つと、彼女は人差し指でトリガーカバーを弾き上げ、そのままトリガーごと柄を握りしめた。
真っ直ぐ横へ伸ばされた璃子先輩の右腕。それに握られた魔道具から、風と炎が放出される。
「おお……!」
ロッソさんの、感嘆の声が聞こえる。
はばき部分から伸びる、炎の刀身。それは30センチほどの長さを維持し、風による補助で揺らめく事なく真っ直ぐな形状をとっていた。
「ライトセ●バー、いや、ビームサ●ベル!」
「まあ、ただ『火弾』と『風弾』の簡易スクロールを組み合わせて色々やっただけのしろものですがね。あ、これ基本的な構造図とスペック」
「拝見します」
美由さんにメモを渡せば、ロッソさんも興味津々な様子で横から覗き込む。
「凄いっしょー?まさに人の夢!人の浪漫!こいつでばったばったと魔物を薙ぎ払っていくってぇ寸法よぉ!」
「……なるほど」
一通りメモに目を通した美由さんが、視線を璃子先輩が持っている魔道具に向ける。
「名称は未定。出力はおよそオークの皮膚を貫通できる程度。内蔵する供給用スクロールにより起動できている時間は、およそ5分」
「5分どころか、10秒で十分だぜ……!」
やだ……璃子先輩格好いい……!
「いえ。戦闘において10秒は短いかと」
「あ、うん、それはそうなんだけどね?」
「ですが、確かに構造上長期で使うのには向いていませんね。運用に力は必要ないとは言え、内部に空洞を作りそこにスクロールを装填する為、柄が破損しやすいかと」
「うっ」
「また、原理自体はバーナーに近い為、刀身による防御は不可能。また、鍔部分に魔力は付与されていない為魔物との鍔迫り合いはできない様ですね。かと言って、霊木は相性的に使いづらい。最初から、防御手段としては考えない方針ですか」
「ぐっ」
「出力を考えると勝敗を決定づける武装とは言えない……『ないよりはマシ』、といったサブウェポンですね」
「はぅ」
「しかし、魔物に有効な武装というだけで意味のある魔道具かと。素晴らしい装備で……どうしたのですか?3人とも」
自分、ロッソさん、そして魔道具を停止させた璃子先輩の3人が、地面に膝をついている。
……現実って、厳しい。
淡々と冷静な評価を下した美由さんが、不思議そうに首を傾げた。
いや、何かもう……すんませんでした。
最初は『念力』のスクロールで色々やってみようと思ったのだが、上手く安定させられなかったのである。その内できる様になるかもしれないが、今の所は無理だった。
あの装着型ゴーレムの『メイン装備』は別にあるとは言え、サブウェポンの評価に落ち込まざるを得ない。
格好良さでは……格好良さでは100点満点の武器だから……!
なお、この後美由さんの提案によりサブウェポンの地位にはリボルバー型の杖がつき、この炎のナイフは『サブのサブ』という位置になった。
……ぐすん。
読んで頂きありがとうございます。
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Q.3人が言っていたパワードスーツって、なに……?伏字だらけで分からねぇよ。
A.
耕太 :G●。仮面ラ●ダーアギ●にて『ただの人間』が装着していたパワードスーツ。
璃子先輩:ザ●。ガ●ダムにてジオ●軍が使っていたモビルス●ツ。
ロッソん:プ■テクトギア。ケルベ■ス・サーガに出てくる強化装甲服。実は私もよく知らない。




