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雑種と未来人の現代ダンジョン  作者: たろっぺ
第四章 新たなる力
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閑話 墓前にて

閑話 墓前にて



サイド なし



 しとしとと、雨が降っている。


 某県某所。駅から徒歩30分ほどの所に、雑木林に囲まれた墓地がある。


 細い道を何度も曲がってたどり着くそこは、人通りが極めて少ない。しかし手入れはされている様で、雑草はほとんど生えておらず、目立ったゴミなどは落ちていなかった。


 そこを、小さな人影が歩いていく。


 遠海虎毬。現在はそう名乗っている彼女は、傘を片手にゆっくりとその小さな足を動かしていた。


 やがて、とある墓石の前で立ち止まる。


 墓石に刻まれている名字と、彼女の名字は異なるものだった。


 淡々と、虎毬は左手に下げていたバケツから綺麗な水を柄杓で花立(はなたて)に入れる。古い花は管理してくれているお寺の僧侶達が片付けてくれた様だが、どうしても細かい花びらや虫の死骸は残ってしまうものだ。


 花立を溢れさせてそういったゴミを取り除いた後、改めて水を入れて新しい花を挿す。


 雨水ではなく、綺麗な水で花立を満たして。虎毬は前腕と胸で傘を挟みながら、両手を合わせた。


 目を閉じて祈る事、1分。ぴちゃぴちゃと、近くの水たまりに雨が当たる音がする。


 彼女が目を開けて傘を持ち直すと、視線を横へ向けた。


「佐藤さん。来てくれたんですか」


「ああ。勿論」


 中肉中背の、特徴がない事が特徴とすら言えない男が、傘とビニール袋を手に立っていた。


 少しよれたスーツ姿の男性、佐藤は、彼女を気遣う様に小さく笑う。


「友人だったからさ。彼とは。命日に墓参りぐらい、するよ」


「知っています。何度も、聞きましたから。……具体的な仕事の内容以外」


「すまないね。守秘義務があるから」


「知っています。今は、私も公安ですから。父さんと同じで」


 墓石に視線を戻して、虎毬は呟く様に答えた。


 そこに刻まれている名前と、虎毬では名字が異なる。それは、当然であった。なぜなら、2人とも偽名なのだから。


 死後すらも、本当の名は遺さない。それが、彼女らの職場であった。


「死に際の事だけでも教えてもらえたのは、本当に幸運だった。いいえ。佐藤さんが、危ない橋を渡ってくれた。それは、分かっています」


「……感謝を受け取る気も、謝罪をする気もないよ」


「それも、知っています。言ったでしょう?私も今は公安ですよ」


「そうだったね……」


 虎毬の隣に立った佐藤は苦笑を浮かべながら、かつての同僚であり、友人の墓前で手を合わせる。


 10秒ほどして、彼は傘とビニール袋を持ち直した。


「やれやれ。雨じゃなければ、彼の好きだったお菓子を置けたんだけどね」


「マシュマロ、でしたっけ。無口ですけど、顔面がうるさい人だったのは覚えています」


「そうそう。特に、マシュマロを食べた時は全身がうるさいんだ。口以外」


 虎毬は小さく笑い、佐藤はケラケラと笑う。


 どちらの顔にも、故人への親愛が含まれていた。


「……ありがとうございます、佐藤さん」


「どうしたんだい、突然」


「いえ……父が亡くなった後、私が成人するまで面倒をみてくれたのは。貴方ですよね?」


「……ばれてた?」


「数年前から」


「ありゃぁ……今の遠海君なら兎も角、異能者になる前から見抜かれていたか……言い訳できないな。私も、腕が鈍ったらしい」


「そこは、素直に私が成長したと褒めてくれてもいいでしょう」


「いーや。私から見たらまだまだ青い」


「うっぜ……ハゲのくせに」


「ハゲじゃない。本当、今の世の中そういうの言っちゃダメなんだからね……!ハラスメントだよ、ハラスメント。まったく、身長と一緒で成長しないんだから」


「それもハラスメントだよハゲ」


「ハゲじゃぁない。●平さんよりはある……!」


「波●さんを比較対象にする段階で手遅れって前にも言ったでしょうに。もう潔くスキンヘッドにしたら良いじゃないですか」


「嫌だ……!失いたくない……!」


「うわぁ……」


 げんなりした顔で、虎毬が佐藤から一歩距離を取る。


「何だねその顔は。言っておくが、これは公安として重要な意味があってだね」


「あ、良いっす。興味ないんで」


「厳しい……!見ているか、我が友よ……!お前の娘は、冷たい子に育ってしまったよ……!」


「父に変な報告しないでください」


 小さくため息をついて、虎毬は眉間に皺を作った。


「素直に感謝させてくださいよ、佐藤さん」


「すまないね。ちょっと、恥ずかしかったのと……本当の父親の前で、父親っぽい顔はしたくなかったから」


 2人の視線が、墓石に向く。


「……私らも、死んだら適当な偽名の墓が作られるんですかね」


「そうだね。そういう決まりだ。骨は、可能ならそのお墓に納めるかな」


「そうですか……」


 数秒の、沈黙。雨の音だけが、辺りに響く。


 一瞬だけ躊躇った後、虎毬が再び口を開いた。


「佐藤さん。天国とか地獄とか、あると思います?」


「仏教の墓地で言う事かね?こういう所では、六道輪廻の」


「うるさいですね。分かり易さ重視ですよ。良いでしょ、意味が伝われば」


「まったく……。その質問には、『分からない』としか言えないね。2年前ならいざ知れず、魔物や異能がいる世の中だ。あってもおかしくないとは、思っているよ」


「そう、ですか」


「むしろ、私より君の方が詳しいんじゃないかい?異能者なわけだし」


「異能者って言ってもピンキリ激しい上に、私にはさっぱりですよ」


「そういうものかね」


「そういうもんです」


 2人揃って、同じ様に肩を竦める。


 もしも虎毬の父親が生きていれば、それを見て笑ったかもしれない。


『少ししか一緒にいる事ができなかった自分よりも、余程親子に見える』と。ちょっとだけ拗ねながら。


「まあ……墓前で言う事ではないが、もしも天国や地獄があったとしたら、だよ。私も君も、君のお父さんも。この墓地で眠る『先輩達』も。全員、地獄行きじゃないかな」


 柔らかい、のんびりとした顔で佐藤はそう告げた。


 そして、虎毬もそれに驚く事はない。彼女にとって、それはただの『確認』であった。


「ですよね」


「悪い事、散々しているからね。我々。お巡りさんなのに、法律を守っていない事の方が多いぐらいだ」


「閻魔様も頭抱えるんじゃないですか。私らの記録見たら」


「どうだろう。我々の常識で語れる存在じゃないからなぁ」


「ああ。確かに。案外、つまらなそうな顔で、『ああ、いるいる。こういう奴ら』みたいな対応かも」


「さて、どうだろう。私としては、最後の裁判ぐらい普通に受けたいが」


 佐藤は苦笑した後、持っていたビニール袋を虎毬に差し出す。


「これを、持っていってくれ。そのバケツは私が持っていくから。墓地の前の、花屋さんが貸してくれたやつだよね?」


「そうですけど……良いんですか?」


「ああ。未だに、甘い物は得意じゃないんだ」


「……どうも」


 バケツを一度地面に置き、虎毬がビニール袋を受け取る。


 そして、佐藤がバケツを右手で持ち上げた。


「よっと……じゃあ、私はもう行くよ。親子の時間を、邪魔したくないからね」


「……別に、いてくれて良いですけど」


 ぶっきらぼうに、虎毬が墓石を見ながら呟く。


 それに少し驚いた顔をした後、佐藤はヘラリと気の抜けた笑みを浮かべた。


「ずっと懐かなかった、野良猫がようやく甘えてくれた気分だよ」


「たとえ下手っすね。毛根と一緒に脳細胞も死んだんすか?」


「酷い!?」


 若干涙目になった佐藤が、露骨に肩を落とす。


「うう……今はそうして余裕ぶっているがいいさ。20年後には、女性だって髪の毛が少なくなってくると実感するよ……!」


「ようやく自分の頭が薄い自覚できたんすね」


「私は違うが?あくまで一般論だよ。私の髪の毛は、まだ沢山ある……!」


 そう告げて、彼は虎毬に背を向けた。


「じゃ、本当に私は行くよ。この後も仕事だ。君もだろうけどね」


「ええ。私は、私の仕事をやりますよ」


「結構。風邪をひかない様にね、遠海君」


 スタスタと、水たまりを避けて歩いていく佐藤。


 その背中を、虎毬は暫く見つめた後。


「……やり遂げますよ。私の、仕事を」


 そう呟いて、持っていた袋を覗き込む。


 入っているのは、コンビニで買ったのだろうマシュマロの袋と、ライターが1つ。どちらも細工された様子はない。


 ライターは、虎毬の父親が特に焼きマシュマロが好きだったからだろう。あるいは、雨がなければ線香をあげるつもりだったのか。


 何にせよ、盗聴の心配はない。それを確認して、虎毬は墓前にて姿勢を正す。


「父さん」


 真っ直ぐに、真剣に。しかし、余計な力を入れず。


「……先に、地獄で待っていてね」


 淡い笑みを浮かべながら、そう告げた。


 遠海虎毬は歩き出す。脳裏に、昨日監視対象とした会話と、昨夜後輩から上がってきた報告を浮かべながら。



『佐藤さんの時計が、見つかりました』



 安田公子が、その糸目を僅かに開けながら告げた報告。佐藤が泊まっていたホテルで忘れ物として回収された後、3日経っても持ち主が取りに来なかったので、従業員が持ち帰ったらしい。


 その後、彫られていた家族からのメッセージを削って、ネットのフリーマーケットに出品していた様だ。


 それは、有り得ない事だった。


 佐藤があの時計を忘れるはずがない。虎毬とは違う、本当の彼の子が送った、大切な宝物だ。


 何より。あの時計を選ぶ時、彼の娘にアドバイスしたのは───。


 虎毬の父が眠る墓を、雨が伝う。


 彼女は、振り返らない。立ち止まらずに、墓地を出る。


 雨雲に覆われた空から、太陽も月も彼女を見守る事はなく。


 その小さな背中は、次第に強くなる雨の中へと消えていった。





読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。励みになっております。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


Q.虎毬さん、2分で男子高校生を骨抜きにできるって、どうやって……?

A.

佐藤さん?

「こうだろう」達人級の腕前で魅せ重視の剣舞をする虎毬のイメージ図

安田さん

「こうかと」前に別の任務で海外に行った際、虎毬が偶然捕まえたヘラクレスオオカブトの画像

虎毬さん

「なによ」


Q.2分で骨抜きにした実績はあるんですか!?

A.

虎毬さん

「……守秘義務で言えないわね!」

安田さん

「先輩……」ほろり

佐藤さん?

「物理的に骨を抜いた事はあるんだけどねー」

ハニトラは……別の班の専門だからしょうがない……!


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― 新着の感想 ―
虎鞠さんがハニトラして骨抜きにできる相手ってこう、おまわりさん的に捕まえるべき相手になるんじゃ…
色々終わったら「●平」とお墓に刻まれると。
>「マシュマロ、でしたっけ。無口ですけど、顔面がうるさい人だったのは覚えています」 >「そうそう。特に、マシュマロを食べた時は全身がうるさいんだ。口以外」 どんな人だったのか気になるぜ(;゜д゜)ゴク…
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