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雑種と未来人の現代ダンジョン  作者: たろっぺ
第四章 新たなる力
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第八十二話 ロッソ・ヴェンデッタの固有異能

第八十二話 ロッソ・ヴェンデッタの固有異能



 市からの依頼でデュラハンの間引きをして、数日後。


「では、よろしくお願いします」


「はい。お任せください」


 美由さんの家の前に、大きなトラックが停まっている。その荷台には、数本の丸太が載せられていた。


 こちらの言葉に頷き、山岡さんが運転席に乗り込む。たつみんさんの村へ、彼が霊木を運んでくれるのだ。


 流石は元林業の人と言うべきか、載せた後の固定や旗?らしき物の取り付けが随分と手慣れていた。


 彼が出発すると、ロッソさんが話しかけてくる。


「では、我らも行くとしよう」


「あ、はい。よろしくお願いします」


「うむ」


 例のスーツ姿のロッソさんが車の運転席に乗り込み、助手席に自分が座る。


 このレンタカーで、自分達もたつみんさんの村へ向かうのだ。メンバーは、いつもの4人。後ろに美由さんと璃子先輩が乗っている。


 ロッソさんがハンドル横のボタンを押すと、カーナビのスピーカーから軽快な音楽が流れだした。


 それをBGMに、発進する。


「全員、忘れ物はないな?目的地は少々遠い。取りには戻れんぞ」


「はい、大丈夫です」


「同じーく!」


「問題ありません」


「よろしい。酔い止めもあるから、きつい者は申告せよ」


 余裕のある笑みで告げるロッソさんは、年齢相応に大人びていた。


 スーツ姿なのもあって、普段とは別人に見える。何となく緊張して、視線を少し落とした。


 しかし、そうすると今度はシートベルトでパイスラされた巨乳が視界に入る。慌てて、正面に向き直った。


 何とも、不思議な感覚である。見知らぬ美女の隣にいるようで、どうにも落ち着かなかった。


「ふっ……仮初めの我が愛馬、『ネロ・ルオータ』!しばし、この旅に付き合ってもらうぞ!」


 あ、いつものロッソさんだわ。良かった良かった。



*    *    *



 そんなこんなで、たつみんさんの村に到着。そのまま、製紙工場へと向かう。


『よく来てくれたがおー。待っていたがおー』


 フリフリと、両手を振って出迎えてくれるたつみんさん。既に山岡さんが到着しており、彼と工場の人が再びトラックに乗り込んでどこかに走って行った。恐らく、工場の裏手に向かったのだろう。


「こんにちは。今日はよろしくお願いします」


『よろしくがおー。こちらが、工場長の川上さんがおー』


「よろしく。話はたつみちゃんと、ヴェンデッタさんから聞いているよ」


 帽子を軽く持ち上げながら、川上さんが好々爺然とした笑みを浮かべる。


 そして、彼がロッソさんへ向き直った。


「この度のお話、本当にありがとうございます。おかげで、まだこの工場を畳まずにすみました」


「いいえ。ワタクシはただの仲介人。この話の中心は、そこの若人でしてよ」


「はっ!申し訳ありません……!」


「い、いえ……」


 こちらへ頭を下げてくる川上さんに、頬を冷や汗が伝う。


 彼の後ろにいる工場のおじさん達の会話が、微かに聞こえてきた。


「やっぱ、すげぇ雰囲気だなぁ。きっと、エゲレスのお貴族様にちげぇね」


「いんや、もしかしたらイタリアかもしんねぇど。んでも、高貴なお家なのは間違いねぇべ……!」


「きっと、やんごとなき理由で本当の家名さ、言えねぇんだ。あのわけぇのは、きっとあのお嬢さんのお抱え異能者なんだ……!」


「おら知ってんぞ……!家格の高い家さ仕えるのは、別のお貴族様の人なんだべ……!たつみちゃん、こりゃぁ大変だべさ……!」



 いやちょっと待って???



 ボケを渋滞させるな。本人達は自覚ないんだろうけども。本気っぽいのが余計に混乱する……!


 まずその訛りはなんぞ?絶対にこの辺のじゃないだろ。どこの出身だよ。


 そして何でロッソさんが貴族に?……いや、そうか。


 チラリと、彼女の方を見る。何やら契約について、工場長と改めて話している様だ。尊大な様子ながら、嫌味がない。上等なスーツと整った顔立ちもあって、やはり敏腕秘書とか、新進気鋭の女社長という雰囲気がある。


 本人の口調が妙に浮世離れしているのもあって、確かにこれは何も知らない人が勘違いするのも仕方ないかもしれない。


 ……大丈夫?身分詐称とかで怒られない?


 こちらの心配をよそに、話は終わったらしい。満足気に頷いたロッソさんと、妙に緊張した様子の川上さんがこちらを向く。


「じゃあ、霊水って言うのを出してもらえるそうですので、こちらへ……」


「あ、はい。……あの、そんな、畏まって頂かなくて良いので。普通の人間なんで、僕ら」


「は、はは……!も、勿論でございまさぁ」


 絶対に誤解されている。違うんですよ。そこの金髪、ただの顔が良くて法律と経理に詳しいだけの中二病なんすよ。


 でも説明できない……!たつみんさんが放置しているあたり、誤解されたままの方が都合が良いって分かっちゃうから……!


 母さん……父さん……耕太は、ちょっと闇に近づいてしまいました……。


「じゃあ、このタンクにお願いします」


「あ、分かりました」


 川上さんが指さすタンクの口に、隣の階段を上って近づく。


 1番上まで行き、袖をまくってタンクの口に右手を突っ込んだ。そして、掌に魔力を集中させる。


 霊格が上がった影響か、これまでよりスムーズに、かつ大量に出せる。その確信があった。



『変若の血潮』



 掌から、放水車みたいな勢いで淡い金色の水が放出される。タンクの内側を打つ音が響き、黄金の粒子が周囲に舞った。


「おお……」


「何か分からねぇが、神々しい光だべ……!」


「ありがたやー……ありがたやー……」


「立っているだけで、腰と肩の痛みが引いていく気がするべ……」


 あ、ちょっと調整ミスったかも。まあ、誤差の範囲内だ。事前にやった紙作りの実験では大丈夫だったし、ヨシ!


 心なしか皺が減った気がする工場の人達から、そっと目を逸らす。魔力の余波で5歳ぐらい若返ったかもしれないけど、それもきっと誤差だって、たぶん。病気とかも治ったかもしれんが。


 ……健康に害はないから、やっぱりヨシ!


「何を見てヨシって言ったんですか?」


「璃子先輩?どうかしましたか?」


「いや、何となく」


 くっ、読まれてやがる!


 こっちをジトッとした目で見てくる璃子先輩からも、全力で目を逸らした。


 ……今後は、キチンと出力を調整できる様に努力します。


 まあ、わりと真面目に。工場の人達には『変若の水』とは教えず、ただの霊水としか教えていないので。これからは本当に気をつけねば。


 不老長寿の霊薬が存在する世の中でも、身近にある同じ効果の霊薬は精神的な意味で劇薬だ。


 後で、たつみんさんとロッソさんにフォローを頼むとしよう。



*    *     *



 そんなわけで、レシピと材料を渡してしまえばひとまず自分達にできる事はない。餅は餅屋。紙は製紙工場だ。


 大量の『変若の水』が必要だからこの村まで来たが、もう1つ、目的がある。


『ここが、今アタイが住んでいる家がおー。空き家をリフォームしたがおー』


「お邪魔しまーす……」


 たつみんさんに案内された先は、1階建ての広い家だった。木造の、こう言うと少し変かもしれないが、インバウンドで来た海外の人達が好きそうな見た目である。


 何となく、ひいお祖父ちゃんの家を思い出して安心する。まあ、ひいお祖父ちゃんの家はここまで大きくなかったが。


 だが、家には入らずに家屋の隣にある車庫へとたつみんさんは向かう。


 彼女はポテポテと体の向きを変え、こちらへ振り返った。


『今更かもしれないけど、動物の死体がダメな人はあんまり見ない方が良いがおよ?』


「問題ない。開けてくれ」


「僕も、たぶん大丈夫です」


「あーしも」


「私は見慣れているつもりです」


『分かったがおー。じゃ、開けるがおー』


「あ、手伝います」


『サンキューがおー』


 たつみんさんと、金属製のシャッターを持ち上げる。


 ガラガラと音をたてて開いた先。太陽の光が入り込み、そこに吊るされてあった物がハッキリと見えた。



 鹿の死体が、後ろ脚にフックを刺されて吊るされている。



 たつみんさんは、車庫を猟で獲った獲物の解体に使っているらしい。車は、車庫とは反対側にあるカーポートに置いてあった。


 近くの台には数種類のナイフと、大きな桶が幾つか置いてある。


『言われた通り、血抜きしていないがおー。結構臭いがおよー』


「うむ。すまぬな、たつみんよ。苦労をかけた」


『別に、アタイは慣れているから良いがおが』


 確かに、言われてみたら車庫の中は独特の臭いがする。これが、獣臭いというやつなのだろうか。


『昨日獲ったばかりだから、マシがおがねー。お隣の畑を荒らしていたのを追い払おうとしたら、暴れてこっちに向かってきたがお。しょうがないから、首をていってしたがお。不幸な事故だったがおね……』


 絶対に『てい』では済まない一撃だっただろうが……まあ、別に良いか。


 ひいお祖母ちゃんが言っていたっけ……害獣はなるべく殺せ、と。あの目はマジだったなぁ……。


 思えば、殺意というものを知識ではなく感覚で知ったのは、あの時が初めてだったかもしれない。


 ひいお祖父ちゃんもひいお祖母ちゃんも、『害獣や害虫が狙うのは美味しい証拠』と笑っていたが、目が殺意に満ち溢れていたっけ。


 ちょっと感傷に浸っていると、たつみんさんとロッソさんが『霊装』を展開する。


 そして、2人が吊るされている鹿の死体に近づいた。『霊装』を展開したのは、獣の臭いが服に移るのをさける為か。


 ……しかし、なぜ鹿の死体を?


 ロッソさんは、この村へ今度行った時に、自分の固有異能を見せると言っていた。まさか、それに関係あるのだろうか。


 となると、もしや……。


『これも言われた通り、首元の毛を一部分だけバーナーで炙ってむしっといたがおよー。あと、一晩水につけていたから、ある程度のダニとかの虫は取れていると思うがおー』


「重ね重ね感謝する」


 ひらりとマントを翻し、ロッソさんがこちらへ振り返る。


 その口元には、不敵な笑みが浮かんでいた。


「ここより先、少々刺激が強いかもしれん。心の強い者のみが、我が異能をかちゅも……刮目するが良い」


 噛んだ。


「噛みましたね」


「しっ!美由っち言ってやるな……!」


『落ち着くがおよ、ロッソちゃん。深呼吸がお』


 ロッソさんが顔を真っ赤にしてプルプルと震えた後、声を張り上げる。


「心の強い者のみが、我が異能を刮目せよ!」


 あ、言い直した。


「これこそが我が異能!魔界貴族が一角にして、ヴェンデッタ家の力よ!」


 高らかに吠え、彼女は眼前の鹿の首へ、顔を近づけた。



「固有異能───『ゾンビ・クレアーレ』!」



 ……何となく、察してはいた。


 ロッソさんの、歯と呼ぶには鋭すぎる、牙と言うべき犬歯が体毛をむしり取られた鹿の肌に突き刺さる。


 そして、魔力が一瞬だけ死体を駆け巡った。


 彼女が1歩離れた直後、『変化』が始まる。


 メリメリと音をたて、牡鹿の角が内側へ吸い込まれていった。更には全身の骨格が変わっていき、体毛がひっくり返っていく。


 いつの間にか上下も反対になったのか、『両腕』をその存在はフックから引きはがした。


 およそ、10秒ほどで、その変化は終了する。


 打ちっ放しのコンクリートの地面の上に、1体の怪物が立っていた。


 ギョロリと見開かれた、真っ白な眼球。ブヨブヨとした皮膚に、人間そっくりの骨格。筋肉質かつ、男性的なシルエット。しかし、生殖器は存在しない。


 鼻も唇もなく、半開きになっている口からは鋭い牙が覗いている。


 人でも、鹿でもない。ましてや、魔物でもない。


 これこそが、ダンピールの、ロッソさんの固有異能が生み出した存在。


「見よ。これが、吾輩の新たなる使い魔である」


 妖しい笑みを浮かべた彼女が、両手を広げる。その傍に立つ怪物は、否、使い魔は。ただ静かに、主の命令を待っていた。


「……おぉう」


 後ろから、璃子先輩のうめき声が聞こえてきた。


 そちらを見れば、彼女は口を『へ』の字にして眉間に皺を寄せている。褐色なので分かり辛いが、少し青ざめている様だった。


「いや、ロッソん……ちょっとそれは、マジでドヤる事じゃないって言うか、生命の冒涜っていうか……」


「何を言う。元より、人は獣を殺めた後、皮を剥ぎ、首を落とし、肉を削いで食らうではないか。時には、皮や骨を装飾品に加工もする。それと比較して、どこが冒涜と言うのだ」


「それは、そうかもなんだけどさー……」


 璃子先輩の言う事は一理ある。が、先ほどひいお祖母ちゃん達の事を思い出したので、何とも言えない。


『ぶち殺した害獣の利用先が増えるのなら、アタイは何も言わないがおー。……あ、やべ。ちょっと解釈違いかも……がお』


 たつみんさんの方は、何か自問自答していた。だが、別に反対ではないらしい。


 ならばと、美由さんの方に視線を向ければ、彼女はびっくりするほど無表情であった。


 その瞳に、どす黒い殺意が宿っている。それに気づき、思わず『霊装』を展開しそうになった。


「え、み、美由さん……?」


「む。美由も、璃子と同意見であったか」


「いえ、気にしないでください。昔の事を、少し思い出していただけです。それよりも、ソレの性能について説明をお願いします」


「う、うむ?」


 いつもより、少し早口でまくし立てる美由さん。彼女に困惑しながらも、ロッソさんは小さく咳払いをした。


「この使い魔は、吾輩の指示にある程度従う。と言っても、あまり知能は高くない。それでも常人よりは頑丈であり、作る時に少量の血と魔力を与えるだけで1年ぐらいは稼働する」


「なるほど。身体能力は?」


「そこまで試していないので分からんが、感覚的には膂力と耐久力は常人以上。機敏さや器用さは常人以下と言ったところか」


「そうですか……では、対魔物に関しては?」


「まったく使いものにならん」


 美由さんの問いに、ロッソさんはキッパリとそう告げた。


 しかし、その口元に浮かんだ不敵な笑みは消えていない。


「魔物に近い見た目だが、こやつは魔物でも異能者でもない。魔物を視認するも、干渉する事もできんよ。このままでは、な」


 彼女の視線が、こちらを向く。


「そこの若き鬼が作る、霊木を使った鎧……それと合わせれば、あるいは使い道があるかもしれんぞ?」


「……なるほど」


 これに、これから作る予定のパワードスーツを着せようという事か。


 確かに、使い魔ならば危険な壁役に使い潰しても良い。それに、装着者の健康を考えないのなら、多少出力を上げるのも有りだろう。


 倫理面さえ置いておけば、良い案かもしれない。


 ……どうしよう。これでやっぱりレシピが失敗していたり、パワードスーツの作成に失敗したら。


 成功前提で話が進んでいる分、ちょっと胃が痛くなってくる。


「それと、これはついでなのだが」


 ロッソさんが、笑みを消して使い魔の方に視線を向けた。


「吾輩が使い魔にしたモノは、1日程度は生前の記憶や技能が多少残っている。獣に使う場合には、何の意味もないが」


「ああ、それで……」


 自分達も、彼女の使い魔に視線を向ける。



 不気味な使い魔は両手足の指先だけで地面に立とうとして、生まれたての小鹿みたいになっていた。



 めっっっちゃプルプル震えている。


 見た目がホラーゲームの敵キャラ感が凄いので、もの凄いシュールだ。


「……1日は、こうかもしれん」


「そっすか……」


 何というか、色んな意味でコメントに困る光景であった。





読んで頂きありがとうございます。

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