第八十一話 アンデッドのようなもの
第八十一話 アンデッドのようなもの
ライトの明かりなしでは手元さえ見る事ができないダンジョンを、ゆっくりと進んでいく。
周囲への警戒は行っているが、だからと言って常に無言でいる必要もない。
過度に緊張した空気が流れない為か、大抵こういう時は璃子先輩が口を開く。
「しっかし、なーんでデュラハンってあんな大音量で突っ込んでくるのかね。そりゃあ鎧着て馬で走ればうるさくて当然なんだけどさー」
「分かりません。威嚇の類なのか、仲間に危険を知らせる警報なのか」
「うーむ。そもそも、『無音の馬車』に乗っている話もあれば、『ゴロゴロとうるさい馬車』に載っている話もある。馬に跨り『大量の金属食器を鳴らした様な音をさせる』という伝承もあるな」
「ああ、そう言えば、地域によって性別も違うって聞いた気が」
「性別の方は知らないけど、騒音で鼓膜がやられたから、結果的に無音だっただけじゃね?」
「どうなんでしょうね。そもそも、言い伝えの類がどこまで正しいか分かりませんし」
「んまぁ。伝説が途中で捻じ曲がるなんてザラだしねー」
「ですねー」
「安心してください。私のいた世界では、耕太さんの偉業は正しく伝わっていましたよ……」
「捻じ曲がるどころか別物じゃねぇか」
いや、性別が違うのはゲームの中だけかもしれないけども。だとしても、わりと致命傷過ぎんだろ。
と、思ったが、現代のサブカルが脳裏をよぎり、ぐっと言葉を飲み込む。
信長公の事を考えると、何も言えねぇわ……。
性別どころか無機物にもなっている自称第六天魔王に思いを馳せていると、開けた場所に出る。
村の広場、なのだろうか。中央には高さ5メートル前後の装飾がない塔が建ち、校庭の半分ほどの広さがある。
視線を巡らせれば、一際大きな家の絵が壁に描かれていた。木の板ごしでも、木製の窓や石造りの壁が見えている。
あるいは、モデルになった村の村長か代官が住んでいたのかもしれない。それを確かめる術はないし、知った所で何の意味があるのか分からないが。
この村があったのは、中世どころか、古代と呼ばれる時代よりも更に昔。神代と呼ぶべき頃。現代人の常識など、通じはしない。
かつての暮らしや文化を考えるよりも、今は。
───ガシャガシャガシャッ!
迫りくる脅威に、対応しなければならない。
「正面、左右、計3方向から敵が接近。数は……5、いや6!」
「了解」
こちらの言葉に、それぞれが得物を構える。
先ほど自分達が通ってきた道を含め、広場に繋がる通路は4つ。内3方向から、同時にデュラハンが接近していた。
「後退して1方向からに絞りますか?」
「いや、回り込まれて挟み撃ちも避けたいかな。広場で戦おう。あーしと美由っちだけ少し後退。魔法で石の逆茂木を設置。ロッソんとオタク君は遊撃をよろ」
「了解」
「承った!」
「はい!」
広場と今来た道の間に立った美由さんが、地面に向けてスクロールを発動。石の槍が、前方に向かって乱雑に伸びる。
量産が可能になる日も近い今、これまでほど使用を渋る必要はない。
と言っても、節約できるのならそれに越した事はないが。
槍衾……というより、逆茂木もどきの後ろに璃子先輩と美由さんが待機し、広場中央の塔を挟んで自分とロッソさんが互いに背を向けて武器を構える。
数秒後、3方向から2体ずつデュラハンが現れた。
鎧が擦れて出る音ではない。明らかに尋常ではない大音量を響かせて、6体の怪物が突撃してくる。
「どおぉりゃあああ!」
ロッソさんの雄叫びに一瞬だけ視線を背後へ向ければ、地面を捲り上げる様に大鎌を振るっている。
巻き上げられた土砂で視界が塞がれ、更には魔力を帯びた石が礫となって2体の怪物を襲った。
こちらも杖を引き抜き、眼前から迫る2体へと魔法を放つ。
『スクロール:魔法拡大』
『スクロール:破邪』
右肘で杖先下部を挟み、そこに装填されているスクロールを起動。出現した魔法陣を通り、5つの光弾がデュラハン達に迫る。
『AAAッ!?』
悲鳴の様な驚きの声をあげつつも、先頭の個体は全力で跳んだ。本能的に、この魔法の危険を察知したか。
だが、その程度では避けられない。
5つの光弾の内、2つが軌道を変える。緩やかな弧を描き、直撃とは言わずとも馬の後ろ脚を抉り飛ばす。
残り3つの光弾をもろに受けた後続のデュラハンは、悲鳴をあげる間もなく胸や腹、下腹部の仮面を打ち砕かれた。
『AA……AAAA……!』
重い音と共に、後ろ脚を失ったデュラハンが地面に落ちる。走っていた勢いもあって、砂煙を上げながら滑走していた。
そちらは後ろの2人に任せ、杖から右肘を離しスピンコックで次のスクロールを装填。排莢口から弾き出されたスクロールケースが、地面に転がる。
『AAAAAAAAAッ!』
視線を正面のルートから迫る2体へ向ければ、仲間の仇とばかりに剣を振り上げ広場へと突入していた。
既に、デュラハン達は詠唱を完了している。血液で構成された8本の槍が放たれる、直前。
自分と怪物達の間に、雷のカーテンが現れた。
『ッ!』
閃光は一瞬。炸裂音にも似た音と共に、血の槍が全て弾け飛んだ。
雷の中に跳び込むまいと、駆けていた2体のデュラハン達も急停止する。騎兵にとって致命的な行為と分かっていても、あの雷撃を前にすればそうせざるを得ない。
後ろ脚をなくした個体にも逆茂木もどきから光弾が飛んでいくのを視界に捉えつつ、右手に剣を、左手に杖を構えてデュラハン達に突撃する。
『KYYYYYAAッ!』
甲高い声をあげ、先頭の個体が鞭を振るう。縦横無尽に大気を引き裂く鞭は、もはや蛇の魔物がその場に増えた様にさえ思えた。
この魔物も、技量においては自分よりも上。だが、そんな相手には慣れている。
魔眼の性能を頼りに、自分の頭蓋を砕こうとした鞭の先端に剣を巻き付かせた。その状態で、強引に後ろへ剣を振るう。
鞭に引っ張られて前につんのめったデュラハンに対し、地面を蹴って跳躍。文字通り瞬く間に彼我の距離はなくなり、鎧に覆われた右肩へと杖先を叩き込んだ。
カラスの嘴を模した先端が鋼を砕き、肉を抉る。その状態で、引き金を引いた。
『AAッ……!?』
『AAAAッ!』
右腕が弾け飛んだその個体を庇う様に、もう1体が剣を振り上げて跳びかかってくる。
だが、その背後に見慣れた姿を捉えた。ならば、あちらは無視して良い。
『AAAA……!』
杖を手放し、隻腕の個体が左の拳を放つ。だが、それより先に下腹部の仮面を蹴って跳躍した。
空中で体を反転させ、黒い馬体の背に着地する。同時に、腰の捻りと共に剣をデュラハンの背へと突き立てた。
刀身に絡みついた鞭が、鍔と鎧に挟まるほどに深く、貫く。切っ先が鎧の向こう側から突き出した所で、柄を思い切り捻った。
肉を抉りながら、鎧に覆われた背を蹴りつけて剣を引き抜き、地面へと跳び下りる。
着地し、剣を構え直したのと、怪物が崩れ落ちたのがほぼ同時。
視界の端では、縦に振り抜かれた大鎌がさながら巨獣の爪の様に、もう1体のデュラハンを引き裂いていた。
1歩後退し、視線を広場全体に巡らせる。そして、敵が全て黒い霧に変わっていくのを見て、小さく息を吐いた。
音や魔力からして、他にこちらを狙う魔物もいない。
「……周辺に敵影なし、ですかね」
「うぇ~い!お疲れちゃ~ん!」
自分と同じく、戦闘の終わりを察した璃子先輩が気の抜けた声を出す。それに、ロッソさんと美由さんも得物を下に向けた。
「ふう……危ない所であったな、若き鬼よ。吾輩が助太刀に来なければ、横から斬りかかられていたぞ?」
「あ、いえ。ロッソさんの姿が見えたので、お任せして良いかな、と。すみません」
「む、むむ。そ、そうか、吾輩を信頼した結果か。まあ?そうであるならば?上に立つ者として、許してやるのもやぶさかではなくもなくはないがぁ?」
もの凄いドヤ顔を浮かべるロッソさんに、苦笑を返す。面頬で、分かり辛いとは思うが。
「美由さんと璃子先輩も、お疲れ様です」
「ういー。全員怪我ないっぽいねー」
「はい。耕太さんも、お疲れ様でした」
「2人とも、援護ありがとうございます」
「良いって事よぉ!」
「当然の事をしたまでです」
互いに労った後、魔石を回収していく。
そこでふと、ロッソさんが地面に刻まれた傷を見ている事に気づいた。巨大な爪で引っ掻いた様な形状から、彼女の大鎌がつけたのだろう。
「どうしたんですか、ロッソさん」
「いや、なに……デュラハンも、分類としてはアンデッドなのか、と思ってな」
「あー……まあ、その辺は伝説にもよりますけど、少なくともここのデュラハンは似た様なものかと」
妖精ではあるが、冥府との関係で亡霊にも近い性質をもっている。
アンデッドと断言はできないが、『破邪』が有効なあたりそう遠い存在でもないはずだ。
「そうか……」
少しだけ考える様に目を閉じた後。
「若き鬼よ。吾輩、ちょっとだけ良い事を思いついたぞ」
「はい?」
「今度、紙の件でたつみんの村へ行くだろう。その際に、見せたいものがある」
こちらへ向き直ったロッソさんが、右手の大鎌を肩に担いだ。
「吾輩の固有異能……それを、披露しようではないか」
そう言って、彼女は不敵な笑みを浮かべた。
* * *
2時間ほどで探索を終え、ダンジョンを出て『封鎖所』へ帰還する。
討伐したデュラハンの数は、38体。依頼は30体だったはずなので、間引きは十分だろう。
帰る頃には雨も止んでいたので、喫茶店で報告を済ませた後はそのまま解散となった。
スクロールの分討伐報酬を他のメンバーより少し多めに貰えるので、月末の振り込まれる日が今から楽しみである。
ついでに霊格も1段階上がったので、レベル上げという意味では得るものの多い探索だったかもしれない。
喫茶店を出て、美由さんとバスに揺られながらふと考える。
ロッソさんが探索中に『吾輩の固有異能』と言っていたが、そう言えば自分はその詳細を知らない。『使いづらい。というか普段の探索では使いものにならない』とは、聞いていたが。
はたして、どういった能力なのだろうか……。
ちなみに、商品券はスーパーのお刺身に変わった。
読んで頂きありがとうございます。
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Q.追加報酬が商品券って、安くない?
A.市にお金がないので……。
市役所の人
「ふるさと納税とかで得た資金をコツコツ貯めて市立病院の設備を新しくしたり、小学校や中学校の補修工事とかしていた次の年に『回帰の日』が起きちゃったので……」
「元々の税収?田舎に分類される地方なんです。察してください……。じゃあふるさと納税が今どうなっているんだって?」
「……ふるさと納税の返礼品を作っている会社の工場に、ダンジョンができちゃいました……」




