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捜索×令嬢  作者: 神木 有
第二章 ~婚約者はイケメン竜騎士でしたが、簡単に心は許しません!~
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9

 夜が明けると、五階の窓から見下ろす街は騒然としていた。竜が墜ちたとみられる家の周りには騎士たちが並び、人を立ち入らせないようにしていた。しかしその外側には、野次馬の市民が大勢集まっている。ここからではその顔までは見えないが、おそらくは不安に表情を曇らせているに違いなかった。

 やがて家の四方からそれぞれ飛竜がゆっくりと舞い上がり、家の残骸の中から白い布で包まれた巨大な塊を吊り上げる。おそらくは、昨夜墜ちた竜であろう。おそらくはその亡骸。四頭の飛竜は息を合わせたように揃って上空を旋回し、しめやかに飛び去って行く。

 ノックがあって、マリーが部屋に入ってきた。彼女はあのあとすぐに、辺境伯邸に向かっていた。おそらく、ほとんど睡眠もとっていないだろう。

「お疲れさま、マリー。それで、何かわかった?」

 そう尋ねると、彼女は小さく首を振った。

「詳しいことはまだ、何も。ただ半壊した家屋の住人はちょうど不在にしていて、おかげで怪我人はいないとのことです」

「そう、それで……竜の方は?」

 彼女は無言で首を振った。やはり先ほど運んでいたのは、墜ちた竜の亡骸であったようだ。千年を生き、戦場も華麗に飛び回る竜が、突然空から墜ちて命を落とした。トゥドールの民にしてみれば、それは信じられない出来事なのだろう。マリーもまた同じこの地の民として、まだ言葉にもしたくないのかもしれない。

「されど騎士のほうは、重傷ながら生命には別状ないようです。意識もはっきりしていて、聴取にも応じていると」

「それはよかったわ。何かわたしたちからも、お見舞いを送ったほうがよいでしょうね」

 ひとまず、人的被害は最小限で済んだということか。もちろん竜を失った騎士は気の毒だが、生きてさえいればいくらでもやり直せる。

「それはこちらで手配しておきます。ただ、お嬢さま……」

 マリーからは、まだ何か報告があるようだった。しかし彼女はそこで口ごもり、しばらく黙り込む。

「他にも何かあるの、マリー?」

 そう促してみたが、返事はしばらくなかった。よほど言いにくいことなのか、あるいは。目をきつく閉じたマリーの顔には、隠し切れない憤りのようなものも浮かんでいる。

「いいわよ。言って」

「はい……騎士団は、お嬢さまからお話を伺いたいそうです。つきましては、今日の午後にでも屯所の方へおいでいただきたいとのこと」

 ふむ。こちらとしても、昨夜わたしが見たものについて伝えたいと思っていたところだ。魔術師の少ないトゥドールには、同じものを見ることができた者も少ないだろうし。しかしどう伝えたらいいものかと思っていたところへ、向こうから呼んでくれるなら好都合だった。

 だがそのことは、まだマリーとアンジュ以外に知る者はいなかったはず。ではどうして、こんなに早くわたしを呼び出そうとしているのか。

「……なるほど。わたしは疑われているわけね」

 マリーは「そのようなことは……」と否定したが、その言葉は弱々しかった。その様子を見れば、気休めの嘘とわかる。

「別にいいの、無理もない話だから。むしろ相手が公爵家の人間だからって、容疑者から外すような権威主義に染まってなくて安心するくらいよ」

 竜の長い寿命を考えれば、老衰による自然死ということは考えにくい。また、竜が命を落とす病なども聞いたことがない。ならば何者かの手で殺されたと見るのが妥当だが、何しろ剣や弓で殺せる相手でもない。なら、その方法は到底普通のものではないはずだった。

 たとえば魔術。魔術師の少ないトゥドールの民からすれば、魔術などあらゆる不可能を可能にしてしまう理不尽な力にしか見えないだろう。不可解な事件に直面すれば、真っ先に疑いたくなるのも仕方なかった。

「そんな便利なものでもないんだけどなあ……」

 とはいえわたしの魔術など、わたしでも構造が理解できる単純なものを顕現させる程度のものでしかない。こんなもので竜を殺すことなど不可能であると、ちゃんと説明すればわかってくれるだろう。

「午後一番に屯所に出向くわ。マリー、準備をお願いね」

「よろしいのですか、お嬢さま?」

「すっぽかしたら今度はここに押しかけてくるでしょう。その応対も面倒臭いし、それなら早く済ませてしまいましょう」

 あくまで任意の事情聴取とはいえ、それも形ばかりのものだろう。公爵家という立場に遠慮もあるのだろうが逃亡の意志ありとでも見なせば、すぐさま身柄の拘束など強硬な手段に出るかもしれない。こちらに疚しいことがないのなら、最大限捜査に協力的な姿勢を示すべきだ。

 それに何より、殺人事件ならぬ殺『竜』事件である。いったい誰が、どうやって、何のために。興味がないわけないではないか。

 とはいえ、いかに貴族とはいえ部外者のわたしたちが捜査に首をつっこむことはできない。しかし容疑者という形でなら、事件に深く関わることができる。そのためなら濡れ衣だって上等。無実を証明するという大義名分があれば、多少目立つ行動をしたって大目に見てもらえるだろう。

「……お嬢さま?」

「何かしら、マリー」

「何だか、面白がってはいませんか?」

「……まさか」と、わたしは首を振る。「トゥドールにとって大切な竜が死んだのよ。それを面白がるなんて、わたしがそんな不謹慎な人間だと思うの?」


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