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最終話 これからもずっと

 目蓋の向こうが明るい。春うららかな陽気が布団を温めてくれる。春っていいなあ、夏も秋も冬もそれぞれ魅力あるけどね。


 んー。


 なんかいつもよりぐっすり寝た、いや寝過ぎた?

 微妙にやな予感するなあ。目覚めのスッキリ通り越してちょっとダルいし。


 おそるおそる時計を見ると時計の長針短針は、えーと午前9時、んっ午前9時、午前9時!?

 えっヤバい。窓の向こうの太陽は、かなり高い位置まで昇ってしまってる。

 ぐはー。久しぶりにやらかした。うわー物凄く寝坊だよ。いけないなー。こんな生活習慣じゃ子供に示しつかないし。


「おはよアリス」

 キッチンから顔を見せてくれたラズウェルさん。ちょっと寝坊しすぎちゃった。


「そろそろアリスが起きそうだなって予感したんだ。スープ温めなおすよ。ゆっくりしてて」


 いいよって笑ってラズウェルさんはキッチンに戻っていった。


 スープを待ってる間。手持ち無沙汰なのもあれだしミシン台で昨日の続きをしちゃおう。これは猫型獣人の手でも操作簡単なのをランキスさんが作ってくれたもの。

 今ラズウェルさんが着てるエプロンや三角巾も、そのミシン台で私が縫ったんだよね。


 こっちの世界に転生してから春夏秋冬はまだ2回しか巡ってない。なのに生まれも育ちもずっとこっちな気がしてならない。それだけ馴染んだってことなんだろうな。

 ……この2年間で私はかなーり色んな騒動の中心人物だったような気がする。その割にまるで関与してない気がするけどね。私の人生らしいっちゃらしいのかな、分かんないけど。


「そうそう。今朝早くにリリファ達から手紙が届いてたよ」


 襲い朝ごはんを食べてると4枚の便箋がテーブルに並べられてるのを教えてくれた。それぞれリリファさん、ナルシュ君、シバ君、ングスさんだ。


 リリファさんとは1番たくさん手紙やりとりしてるんだよね。ついこないだ正式に皇女就任したんだっけ。皇位継承者が先の大戦のせいで殆どいなくなってしまったって嘆いてたなぁ。

 どれどれ、ああやっぱり。公務が集中してて超忙しいって。

 もうすぐ15歳だから誕生日とか祝ってあげたいんだけど無理だろうな……。


 ナルシュ君からも手紙だ。何々、おーすごい! 紫の森の護り手に抜擢してもらえたんだ。ランキスさん、たまーに稽古してあげてるんだよね。会いに行きたいなあ。

 3枚目は珍しいことにシバ君の手紙だ。どれどれ、まーたナルシュ君の家に乗り込んで決闘しにいったみたいだ。迷惑になってなきゃいいんだけど。


 4枚目はもっと珍しいングスさんからも手紙。どれどれ。うわマジかこっちが一番驚いた。

 なんとングスさん、リザードに変身して諸国漫遊の旅を楽しんでるそうな。ついでにグリッドさんの護衛も兼ねてるらしいけど。

 みんなしばらく会わない内に、それぞれの道を歩んでるんだなあ……。


 朝食後はちょっと散歩。アパート前の広場を歩いてるとベンチに座ってるオランタさんとウェルザーさん。1週間ぶりくらい?

 2人は今アスタルトの孤児院で活動してて、たまにこっちにやってくるんだよね。


「おはようございますアリスさん」

「あらあら無理しちゃダメよ。お腹の子に障ったら良くないもの」


 お腹の子供。誰の子供なのかというとそう、私はなんともうすぐ1児の母になってしまう。

 ラズウェルさんと初めての夜以降、なんだか体調が優れないなーって思ってたんだけど。お医者さんにオメデタですって祝われたときはビックリした。まさかこんな簡単に妊娠しちゃうなんて。


「父親が一番しっかりしなくちゃダメなのよ、自覚してる?」

「ああ、俺の一生をアリスと、アリスとの子供に捧げるさ」

「フフ、素敵な旦那様ゲットして良かったわねアリスちゃん」


 なんか照れちゃうなぁー。

 猫型獣人とヒトの混血は珍しいらしいけど妊娠期間とかは一緒だし、拒絶反応とかも無いらしいからあんまり気にしないでいいとのこと。


 お医者さんにはラズウェルさんの正体が霊体だってのは隠してるけど、リリファさん曰くまず問題ないって。せいぜい聖なる属性弱点を少し引き継ぐくらいらしい。貴女の歳で出産は少ししんどいかもと言われちゃったけどね。


「よーアリス」


 あぁランキスさん。すっごく眠そう。


 少し微妙なんだよね。リリファさんと別れてから生活がだらしなくなってしまい、すっかり奥さんと別れた元旦那みたいになっちゃってる。

 リリファさんがいた頃は朝きちんと起きてきてたのに、今じゃ昼頃にのそのそ寝癖を付けたまま出てくるからね。

 リリファさんが見たら怒髪天をつくかもだけど。さすがに言い過ぎか。


 つい数日前まで聖堂教会の取り扱いにかなり尽力してたから、その疲れが残ってるって言い訳はそろそろ通用しないよね。

 その聖堂教会、ゴドゥバ失墜によってシンパしてた人達も殆んど離れてしまい、亜人奴隷も解放されたことでかなり規模を縮小させてるらしい。

 なんだけど、どうも完全に滅亡させるつもりはないらしくって。


 一部の熱心すぎる信者など、利害関係とかなく心底から聖堂教会に捧げてる人なんかに対しては。処罰ゼロではないにせよ、今後も信仰することを禁止とかはしないそう。法律さえ守ったらごく小さな規模での運営は認めるとのことらしい。


 なんでも無理やり締め付けても新たな分断を産むだけだろうって。

 成る程なと思う。亜人を憎むヒトが造り上げたのが聖堂教会なんだけどその真逆で、ヒトを憎む亜人集団だって当然いる。

 私は遭遇してないけどね。そこまでいかなくても他種族に閉鎖的な考え方はいくらでもあるそうな。


 ランキスさんの見解は、そういう価値観があってもいいじゃないか、とのこと。

 一瞬ん? って思ったけど。地球でだって肌の色や出身やらで、差別や偏見が21世紀になっても無くなってないわけで。


「それではアリスさんラズウェルさん。夕方ここを発ちますので、またそのとき顔を出しますね」

「じゃーねアリスちゃん。しつこいようだけど無理しちゃ駄目よ?」


 みんなと別れてまたアパートへ戻った。そよ風。桜みたいな花片がちらちら舞っている。

 子供が生まれるのは秋口くらい。お腹の子供が大きくなる頃までに、私達みたいな亜人にも優しい世界になってくれたらいいなあ。

 幸せな人生を歩めるといいなあ。春夏秋冬を何度でも、この子とずっと一緒に巡っていきたい。もちろんラズウェルさんもね。






 オランタさんウェルザーさんナルシュ君シバ君、ランキスさんリリファさんそれからングスさんにグリッドさん、他にも沢山のみんなに出会えたこの異世界で。


 これからもずっと、幸せに暮らしていけますように。私はそう願った。

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