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81話 ラズウェル

 不可解な点はいくつかあった。どうしてかお兄様は聖なる属性とやらに滅法弱い。


 聖堂教会の連中が聖なのかは疑問だけど。思い起こせばングスさんと初めて出会ったときも似たような症状があった。


 疑問は尽きない、どうして私は獣人に転生したのだろう。お兄様は人間のままだというのに。


 ファンタジーなんだし、そういうものなんだって思考停止してたけど。きちんと合点のいく理由あったのを見逃してただけかもしれない。


「ハァ、ハァ、……ありがとう」

「無理に喋んなラズ」


 アパートのソファでお兄様はぐったりとしてる。腐った生肉のような臭いはまだ続いてた。


「ラズウェル様、こちらを……」


 リリファさんはいつの間にか本人の姿に戻っていた。拳くらいの赤黒い、動物や蟲の死骸を固めて乾燥させたようなものを手に持ってる。


 鰹節みたいだなって印象のそれをお兄様は頬張った。歯も抜け落ちてて噛みにくそうだったけど、なんとかごっくんと飲み込めた。


 するとどうだ、みるみるうちに一回りほど若返って、血色も戻っていくではないか。


 だけどどう考えても薬じゃない。死骸の塊、どう見たって呪いのアイテムだ。

 それで回復するってことは……。


「ありがとう、リリファ」


 先程までボソボソと聞き取りづらかった声も明瞭になってる。歯も再生したみたいだ。


「私達は退席しましょうか?」

「いや一緒にいてくれ。二人にも誠意を見せたい」

「承知しました」


 二人とも黙って椅子に座った。私もそれに倣う。そんな私達に向かってお兄様は。


「アリス、今まで不誠実な真似をして済まなかった。本当に申し訳なく思っている」


 お兄様は私達に向かって深々と頭を下げた。


 むしろ逆だよ。

 お兄様には感謝してもし足りない。ランキスさん、リリファさん。ウェルザーさんオランタさん。それからングスさん。

 色んな人に出会えたし、それからナルシュ君にも再会できた。それに店長のグリッドさん。


 全ての切っ掛けはお兄様が私を、あの奴隷商から買ってくれたことなんだから。


「お兄様、か」


 お兄様は自嘲するような笑みを浮かべたあと表情を固めた。まるで何かを覚悟するように。そして続けた言葉。内容はある程度は予想できていた。


「俺はアリスの兄じゃない。俺は、アリスのお兄さんの振りをしているだけの偽者なんだ」


 薄々気づいてた。昔にステータスの覗き見したとき、集合体という妙なスキルが生えていた。


「事の発端は、ミステクタとアスタルトの大戦だ」

「大戦?」


 ランキスさんは疑問を呈した。私も気になる、数十年と続いたあの戦争と何の関係があるのだろう。


「人も亜人も一緒くたに多くが殺され、一族の血を断絶された。多くの屍が埋葬されることもなく野晒しになった。あまりにも長期間その惨状が続いたため世界の浄化が追い付かなくなったんだ」


 それらの爪痕はミステクタへ向かう道中でもたびたび目撃した。国境付近なんかは特に多かったな。


「天空に昇ることも土に還ることも出来ず、怨念となって留まり続け、喰らいあい、原型も分からぬほどに凝縮され肥大化、複雑化していき。やがて意思を持った怨霊の塊が現れた。それが、俺の正体だ」


 ゴクリと唾を飲み込む音。それは私のだったろうか。


 お兄様が、怨霊?


「怨霊の集合体となった俺は依代を求めて彷徨って、そしてとある少年の死体を発見した」


 その少年って、もしかして。


「想像の通りだよ。偶然にも、彼もまたこの世ならざる存在だった。そして少年の身体にとりつこうとしたら、彼に溜め込まれてた情報が流れてきたんだ」


 ……。


「彼は日本という国で家族と平和に暮らしていたけれど。ある日突然、訳もわからぬまま異世界から零れ落ちてしまったんだ。何日も彷徨い、空腹と過労で動けなくなったところを肉食獣に襲われ、大切に思う妹を目蓋の裏に映しながら、生涯を閉じていった」


 三人称視点で語られるその内容は、とても残酷で簡潔だった。


「アリスのお兄さんと同化して記憶も引き継いだ俺は、旅立とうとしたが立ち上がれなかったんだ。そもそも足がない。肉食獣に喰われ死後何日も経過した死骸は、身体がまともに機能していなかった。それらを補う為に、視界に入ったそこら中の獣や蟲を片っ端から取り込んでいって、完全な肉体を手にいれた」


 ああ。


「当てもなく適当にうろついていたらランキスと出会った。そこからは前に話した通りさ。傭兵団を結成しないかと誘われ、ラズウェルという名前を貰って。まあ色々あって今に至るよ。アリスもこの世界に零れ落ちたのを知ったのは、兄妹の血縁に依るものなのか、……済まない、ちゃんと説明したかったんだが、俺も俺自身をわかってないみたいだ」


 そう言って彼は自嘲した。

 これが、お兄様の、いや彼の隠してた真実だったのだろう。


 ほぼ全てのピースが綺麗に嵌まったような気がした。


「ずっと騙して済まなかった。少年が、アリスを大切に思う感情を、俺はずっと利用していただけだったんだ」


 本当に済まなかった。再度、私に頭を下げてくれた。


 頭を上げてよ、ね。

 私まで申し訳なくなっちゃう。


「アリス……」


 それに、なんていうかあんまりショックはなかったりする。

 人間の振りをしてるってのはほぼ予想通りかな。だってアリスって名前は本名じゃないし。


「なっ……!」

「ど、どういうことなのアリス、えっとアリスじゃなくて。……ちょっと!?」

「なんだよお前らの反応! アリスはなんて喋ったんだ」


 お兄様だけでなくランキスさんやリリファさんも衝撃が走ったらしい。


 えーとね、ちょっとややこしいんだけど。

 アリスは偽名、っていうかHN。ネトゲで勝手に名乗ってただけ。

 もっと昔に生き別れたお兄様が、知ってるわけないんだよね。


 殆ど誰とも会わず、ずーっとあのゲームばかりやってる日々だった。だから異世界にとっては、アリスの方が本名扱いだったのだろう。


 初潮典子、それが私の本当の名前だよ。


 うーん猫型獣人の姿で典子はやっぱ違和感あるかな。やっぱりアリスがしっくりくるかも。

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