78話 ミステクタ首都攻防戦②
ステータスオープン。
ラフィエル 人間
31歳 ♂
HP 417
MP 49
力 358
体力 333
器用 188
敏捷 212
魔力 90
魔防 144
【! スキルの鑑定に失敗しました!】
ステータスを見たせいで悩む、どうしよう。私の倍以上はあるよね。スキル見えないのが不安に拍車を掛ける。
「人非ず無勢が、人間様に対する礼儀もなってないとは嘆かわしいことだ」
うわバレてる、そうか抵抗されたもんね。
どうしよう勝てるビジョンが見えない、それどころか生き残ることすら困難かも……。
『アリスお願い、5分だけ時間を稼いで頂戴。その間にあの蠅を仕留めるわ』
グレイシャー君は蠅の化け物に向かって突撃していった。
絶望的なまでの体格差だけれどもリリファさんのトンボなら大丈夫かな、いや他人の心配してる余裕なんかこれっぽっちもない。
けれども困った。ラフィエル単体だけでも相当にしんどいのに。
「突撃!」
ずらりと私を取り囲むアスタルト兵と聖堂騎士が、ラフィエルの号令で一気呵成に突っ込んできた!
でも連携は微妙だな。あれでも何とかなりそう? きっと即席のチームなんだろう、これなら対処できなくは、
!?
真上から強烈な殺意を感じた。
ビルの屋上に視線をやると弓を構える大量の聖堂騎士が!
「死ねっ!」
ラフィエルの号令で一斉に放たれる。考える間もなく矢が雨のように降り注いだ。地面を転がるようにして必死に回避する。
ドスドスドス!
石畳を破壊する音が無数に響く。アスタルト兵の何人かが頭を撃ち抜かれているのが視界の隅に映った。
「ちっ、まだ生きているか」
……なんとか死なずに済んだ。生きてるのが奇跡かも。ただ避けきれなかったみたいで、腕とか脇腹とかが軽鎧を貫通してしまった。
痛ったいなあ。血が滲んでるくらいで致命傷とかじゃ全然ないけど。
「攻撃を緩めるな、全軍突撃!」
そして怒声を上げて突っ込んでくる、私に。
しゃがんで回避、ついでに脛蹴り。子供みたいな小さな体格で転生してて良かった。
あと何人と戦えばいいんだろう。ひいふうみい、100人以上? スタミナもつかな。
まったく無茶苦茶だ。たった一人の小娘に向ける戦力じゃないよね。ああ上空にも注意を払わないと。
「死ね」
ラフィエルの声が近くから聞こえる。えっ、もっと遠くで指揮してた筈なのに。
アスタルト兵士もろとも剣で斬り裂いて、物凄い勢いで突進してきた。
さらに退路を聖堂騎士に塞がれてしまう。
どうしよう、どうやって避ければ!
あ
駄目だ
避けられない
「アリス!」
お兄様の叱咤が遠くから響く。ラフィエルの剣先が私に数センチまで迫っていた。
もうすぐ私を両断できる、そんな喜悦に歪んだ表情が私を見下ろしている。
蠅の化け物のほうは、やっぱり防戦一方みたい。あの体格差で対抗出来てるだけ奇跡だよね。やっぱりリリファさんが鍛えてるだけあるや。
何だろう、みんな酷く他人事のように瞳に映る。景色がスローモーションになっていく。
お兄様の笑顔が浮かんで。
それからランキスさん。リリファさん、ナルシュ君、ウェルザーさんオランタさん、色んな人の表情が私の脳裏を掠めていく。
走馬灯、っていうやつかな。
これを見てるってことは、私は、死ぬのだろうか。
死んだらどうなってしまうのか。
日本からも消え、そして異世界からも消失してしまったら……。
ガンッ!
金属同士が激しくぶつかり合う剣戟。
あれ、私まだ生きてる?
ってボーッとしてる場合じゃ無い!
安全圏まで飛び退いた。戦況確認、切れかけた緊張の糸を張り直す!
周囲を見渡す。すると、予想を上回る光景があった。
ラフィエルの剣は、なんと1人のアスタルト兵によって防がれてたのだ。
なんで、どうして?
「久し振りだな。可愛い獣人の嬢ちゃん」
えっその声は。驚く私にアスタルト兵は、フルフェイスの面をずらして顔を見せてくれた。
アブルィさん!
「おおっと、話は落ち着いてからにしよう」
あ、うんそうだよね今は戦闘中だし。
そしてなんか、一瞬呆然としちゃった私に代わってアブルィさんは聖堂騎士達に言い放った。
「気でも狂ったのか貴様」
「悪いが私は今から嬢ちゃんの助太刀をするよ」
「なぜ人非ずに与するのだ。お前ら、この反逆者を始末しておけ!」
何人かの聖堂騎士がアブルィさんに殺到する。
危ない! そう叫びそうになったけど。
一緒に隊列を組んでいたアスタルト兵の動きがなぜか鈍い。むしろ大仰な動作のおかげで聖堂騎士の動きを制してくれてるみたい。
もしかしてと思い観察してみる、やっぱりだ。見知った顔がとっても多い! アスタルトのお祭りとかで知り合った巡回兵士さんがいっぱい混じってる。
いやそれだけじゃない。更なる加勢が現れた。
「ぬっ!」
聖堂騎士に斬りかかったのは猫型獣人のミステクタ兵士だ。
彼だけじゃない、狼型や蜥蜴、ワーウルフやリザードの兵隊さんも加勢してくれて。
そういえば矢の雨第二弾が降ってこない。確認してみるとビルの屋上では、ハーピーみたいな翼のある種族が弓矢部隊を制してくれている。
「人非ずめ! ……クソッ、なぜ人非ずに加担する、目を醒ませ貴様ら!」
仲間の裏切りに我を忘れたラフィエル。今ならやれるか? 脛を目掛けてジャマダハルを横凪ぎする。
飛び退かれてしまったけれども、彼はだいぶ余裕が薄れている。
「おいヴァーザ、たった一匹の蜻蛉に何を手間取ってやがる、さっさと食い殺せ!」
こんな差別主義むき出しのヒトでも、あの大蠅にきちんと名前つけてあげてるなんてちょっと意外。
焦れた彼は私に突撃してきた。周りの聖堂騎士はミステクタ兵やアスタルト兵に掛かりっきりだ。
ラフィエルと1VS1、このチャンスを逃すものか。
ハイ・パワード!
「な、何っ!」
ラフィエルは信じられないといった風に叫んだ。
勢いを付けた必殺の一撃を、私みたいな小娘に止められたからだろうか。こっちは手がじんじんしてるけど。
「くそ、人非ずなどに、聖堂教会が人非ずに負けることなど決してあっては!」
うっさいな、こっちだって必死なんだ、コールドショック!
ラフィエルの鎧の隙間に手を差し込んで冷気魔法を注いでやった。
おそらく魔防は鎧の性能も込みなのだろう、抵抗出来ずにまともに喰らったらしく大きく仰け反った。すかさず鎧越しに蹴飛ばしてやる。
【冷水耐性スキルがLVUPしました!】
何故か寒さにだけはムチャクチャ強い私の身体には、冷気魔法の反動はほとんどない。
さあ反撃の開始だよ!




