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77話 ミステクタ首都攻防戦①

 ミステクタ首都に来てから今日で一週間。その日から私はお兄様と二人でアパートを借りて生活させて貰ってる。


 最初は緊張したけどすぐに近所の人達と打ち解けられた。むしろ亜人の割合が少なかったアスタルトの頃より住み心地がいいまであるかもしれない。


 ちなみに借りた物件は風呂トイレ別々の2LDKで広さは二人で住むなら充分なくらい。むしろアスタルトの屋敷が広すぎた。


 もうちょっとしたらランキスさんとオランタさんウェルザーさんも戻ってくるそうだし、こんな日常が続いていったらいいな。


 なんて妄想もしてられない事情があるんだけどね。


 なにせアスタルト兵や聖堂騎士ら合計で50人近くが砦に潜伏してるとのこと。とうぜん首都はピリピリしてるし、平和はまだまだ遠そうだ。


 情報をもたらしてくれたのは例によってリリファさんの蟲。たしかグレイシャー君だったかな。


 見た目は普通のトンボなんだけど凄く賢くて、メインは聖堂教会やアスタルト国内の戦況を教えてくれる。どっかの同名のバカ貴族とは大違いだ。


 お互いの近況報告みたいなのも兼ねてて、なんたかんだで交換日誌みたいになってるんだけどね。


 とか考えてたらグレイシャー君が窓を叩いてる。定期連絡の時間にはまだ早いけどな。手紙の内容に目を通していく。


 あれいつもと文字の色が違うな。てかなんだか様子がおかしい。いつもなら事項の挨拶みたいのから始まるのに。


 内容は、えっ襲撃、緊急?


 呼んでる途中でドンと破壊音が響いた。にわかに外が騒がしくなる、そこかしこで悲鳴が上がる。


 ベランダから慌てて見渡した。鎧を着込んだ沢山の武装したヒトが城門を破って首都を蹂躙する、地獄の様相が繰り広げられていた。


 しかもなんだこの人数、50人どころじゃない千人以上はいる。ミステクタの兵隊さんたちが対応してるけど、なにぶん敵の数が多すぎて避難誘導すらままならない。


 さらにゲリラっぽい服装には見覚えがある。会談のときに私達を襲撃してきたあの特殊部隊だ。


 砦に陣取っていたのは陽動、狙いは彼らによるミステクタ首都の占領。


『アスタルト兵と聖堂騎士が合わせて2000人以上。主力をぶつけてきてる。……ゴメンなさい完全に私のミスだわ。お願いどうか死なないで、アリス』


 リリファさんの手紙を全文読んでポケットにしまった。眼下の光景に腰が引けそうになる、私に救えるだろうか。


 あっ、近所に住んでるゴブリンの女の子にヒト兵士が槍を振り下ろそうとしてる。咄嗟の判断でベランダから飛び降りて、ヒト兵士の槍を蹴飛ばした。


 逃げて!


 精一杯叫んだ。とりあえず女の子が避難する時間は稼げたけど。


「例の人非ずはコイツか」

「生け捕りだろ、四肢が跳んでても構わんらしいからな」


 代償にわらわらとヒト兵士が集まってきてしまった。


 彼らは私を知ってるのか? まあいい今はやれるだけのことをやるだけ。シャマダハルを嵌めて、私に向かって槍を振りかぶる彼らの内懐に飛び込む。


 ほんの僅かだけゴメンなさいと心で謝ってから、聖堂騎士の喉笛を剣先で掻っ切った。


 そして頑張って睨み付ける。リリファさんの言葉を思い出す。反撃は徹底的にやるものだと。


「怯むな、人非ずのメスガキ一匹囲んで痛め付ければ大人しくなる!」


 一斉に襲ってきた。しゃがみ、ずらりと無防備に並ぶ彼らの脛をシャマダハルで薙ぎ払う。切断には至らない。骨を砕いた感触は無かったから。


「アリス!」


 お兄様!


「危ないからアリスは家に隠れていろ!」


 いいえ私も戦います。私もランキス傭兵団の一員として街を護りたいのです。お兄様、後ろ!


 不意に振り下ろされる剣をお兄様は慌てて受け止めた。


「貴様は、ほう貴様が例のラズウェルか」


 例の?


 私達の素性や外見なんかは当然把握してるだろうに。例の、なんて言葉を使うのは奇妙な気がする。


 まるで一番の目標はお兄様であるかのような聖堂騎士の物言いが僅かに引っ掛かった。


 ぐっ


 お兄様がうめき声を上げた、とても苦しそうだ。額には脂汗。


 どういうこと? 聖堂騎士の一人をステータス確認する。


 ダルグ 人間


 36歳  ♂


 HP  78


 MP   0


 力   87


 体力  81


 器用  40


 敏捷  38


 魔力   0


 魔防   0

 

 スキル なし


 実力差は明らか。あんな程度の奴にお兄様が後れをとるなど普段なら絶対に有り得ない。


「悪霊は我らに決して逆らえない。ゴドゥバ様の仰った通りだ」

「黙れ!」


 お兄様はどうしてか平静を失ってしまった。

 どうすれば現状打破できる? 考えても纏まらないのを知ってる、だから私はヒト兵士の群れに単身突っ込んだ。


 彼らの宗教の教典に書かれてる内容。ヒトは神様の創造物で、私達みたいな亜人は悪魔の創造物。故にヒトは亜人を虐げてもいいだって?


 そんなふざけた理屈で一体どれだけの亜人が犠牲になったのか、そして今もミステクタは蹂躙されようとしてる。


「くっ……!」


 お兄様!

 たった数十人の猛攻を今のお兄様は防げないでいる。


 彼らがお兄様に対して放つ悪霊という言葉。そういえばずっと前にお兄様を鑑定したとき、ユニークスキルの欄に集合体とあった。


 やはりお兄様は……。


 今のお兄様には荷が重すぎる、援護に向かわないと。


「他の人非ずを気にしている場合かね」


 不意にさっきまでとは段違いの殺意を向けられた。


 振り向いた先には、鋭い眼光の大男が仁王立ちしていた。他の聖堂騎士よりもずっと豪華な鎧を纏った彼には見覚えがある。


 第31代の聖堂騎士団団長、名前はラフィエル。だが彼以上に目を引く存在があった。


「蟲の使役が人非ずだけの特権と思うな」


 隣の大男よりもさらに頭2つ分以上デカい、巨大な蠅の化け物みたいなのが彼の傍で飛んでる。ギイギイとまるで私を獲物に捉えたかのように。


「こいつは肉食でなあ、特に貴様のような犬猫が大好物なのだ。安心しろ、私に嗜虐趣味はない。苦しまずに浄化させてやろう」

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