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74話 聖堂教会②

 宙渡りの手を使ったテレポート。

 ガキの頃は加減が効かず岩に突っ込んで全身血塗れになるのがしょっちゅうで、その度に親父から拳骨喰らってた。そういう痛い経験から学んできたから今の俺があるってなもんだ。


 深呼吸しつつ、空間を掴もうとする力を体内で完結する。鼓動が激しくなり珠の汗が大量に噴き出す。伸ばした両腕の指先から止めどなく滴り落ちていく。


 限界まで魔力を吸わせた筋肉は皮膚が裂けそうなくらい膨張して背中まで伝わって、沸騰した血液が天辺から爪先まで魔力を循環させていってる。


 約10分程。ま、今日はこんな位にしとくか仕事中だし。


 宙渡りの応用。魔力を体内で瞬間移動させまくって全身に強烈な負荷を掛けまくる。


 俺が長年掛けて編み出した、鍛えた肉体をさらに強化そして維持する、日課にしてる30分と掛からない寝ながら出来る超お手軽な筋トレだ。


 筋力だけでなく五感や反射神経まで鍛えられるが、全身の筋組織がズタズタになっちまうんで、回復のために睡眠を多く必要とするのが数少ない欠点だ。まー寝るの好きなのは元からだし別に良いんだが。


 さーてと2人の仕事は順調かな。うげ、おっさんの汚いケツ。くっそやなもん見ちまった。


 おっさんは夜中になっても奴隷たちにベッドで奉仕を強要しまくってる。戦争前夜だってのに呑気なもんだ。戦線から遠く離れた教会付近に住んでるんじゃ危機感もないんだろう。


 このご時世になんで破門されたウェルザーが、所有する性奴隷であるオランタを引き連れてコソコソと、しかも不自然な程に素晴らしい手土産を持参して訪ねてきた理由を考えないのかね。


 たしか大量のブラインドラッグだっけ用意してたのは。まさかあんなに狂喜乱舞するとは思わんかったが。


 加えて現在ウェルザーが所属してるのは俺の傭兵団だ。わざわざ点を線に繋げなくても目的は自ずと見えてくるだろうに。


 信仰心よりも性欲が勝ったんだろうな。俺らが泳がされている可能性もなくはないだろうが。つってもおっさんの脳味噌を宙渡りでチラ見した感じじゃドラッグの影響で大部分が壊死してるみたいだし、ただアホのおっさんで結論付けていいだろう。聖堂教会って性欲馬鹿しかいねーのか?


 まぁそれは放っといて、地下洞穴の牢屋だ。


 確認したところ押し込められてるのは労働奴隷に従事させられてる亜人達。


 牢屋は三十ヶ所くらいあり、収容されてるのは合計で2000人以上、男や老人ばかりだがみな全身傷だらけで痩せ衰えている。背中は鞭の跡まみれだ。


『(虐げられし者よ。我の言葉に耳を傾けろ)』


 こっから先はングスに任せるか。


 見た目は普通の蝶だが、すぐに正体がエンシェントドラゴンと看破して獣人奴隷たちに小さなどよめきが走った。がすぐ静かになってくれた。有り難い。騒がれたら計画に支障がでちまうからな。


 アホのおっさん自身は全くなんも考えてないだろうが、巡回する僧兵などが異変に気付くのは時間の問題だろう。


 今夜のうちに全部の牢屋を回っちまおう。猶予は3日といった所か。

 

 そんぐらいありゃ充分。さてゴドゥバは予想通りに動いてくれるかな?






 3日後。


 異変に気付いたマキロ巡回兵長は頭を悩ませていた。


 事の発端はウラディテル氏の邸宅に2人の客人が招かれたことだ。


 かつて聖堂教会で司祭を勤めていたウェルザーと、彼の性奴隷であるオランタが数日前から滞在しているのだが。

 2人が所属しているのは、かの悪名高いランキス傭兵団。そう人間の身でありながら人非ず共に与する愚か者集団だ。


 2人はかつての同僚や信者らの邸宅を訪れては、毎晩ディナーを馳走になっているそうだ。


 2日前に彼らを懺悔室に連れて行き尋問したのだが即日釈放となってしまった。なんらかの根回しをしている決定的な証拠が見つからないのだ。


 罪をでっち上げて拷問して吐かせてやってもよかった。オランタはマキロ好みの美しい男娼だからだ。


 だが泳がせて尻尾を出させてからのほうが言い逃れの出来ない、より人非ず連中を糾弾しやすくなる。


 後に彼は後悔する。その判断が結果的にランキス傭兵団を利する形になってしまった。今日になって野蛮な人非ず奴隷どもが牢を破って、町中の施設を破壊し略奪行為を始めたのだ。


 これが奴等の狙いだったのか!


 さっさと捕縛しておけばよかったと後悔しても遅い。ここまであからさまに聖堂教会と全面対決の姿勢を明らかにするなど想像の外だった。


 泳がせるよう指示したのはマキロだった。マキロは恐怖する、ゴドゥバ様に失態を咎められれば断頭台に上る覚悟すら必要かもしれない。


 それだけは何としてでも避けなければ、マキロは必死に事態を打開する方法を考えるが、部下に怒鳴り散らす以外にやれることがなかった。

 だがどうすれば……。


「マキロ巡回兵長」


 そんな中、神妙な顔で現れたのはウェルザーとオランタだった。

 

「私なら獣人奴隷たちを説得して暴動を止めさせることが出来ます。すぐに向かいましょう」


 ウェルザーは優しい声色でマキロを安心させ、そして暴れる人非ず共の元へと向かっていた。


 なんと素晴らしい方だ! 2人を疑ってしまった自分が恥ずかしい。ウェルザーは聖堂教会に破門されてなお信仰心を失っていないのだ!


「違うな」


 ひっ。マキロは冷水を浴びたように縮こまる。


「すぐにウェルザーを連れてこい。君の命の灯火が消えぬうちにな。……さっさと動け!」


 吹っ飛ばされたような勢いで走り出す無能を見下しながら、禿げた元団長は忌々しげに吐き捨てた。


「糞蜥蜴め、ミステクタの人非ず共め……」

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