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73話 聖堂教会

「それでは宿泊の手続きをしてきますね」


 ウェルザーは宿屋の主人と談笑している。穏やかな外見と口調してるから大抵の奴とすぐに親交を深められるのがアイツの強みだ。

 あのコミュニケーション能力、俺にはまず真似出来そうに無い。


 時刻は夕方。俺とウェルザー、オランタと傭兵団に新規加入したングスの四人でミステクタ端の小さな宿屋にやってきた。


『(儂は加入しとらんがのー)』


 反論は認めん。やたら綺麗な蝶々に憑依したングスがぶつくさ言ってるが知らんぷりだ。リリファが一時離脱しちまったし、なにより貴重な常識人枠を逃してたまるか。


 本当はラズも連れていきたかったんだが、最近のアイツはアリスの元から離すと情緒不安定になるからな。傭兵団結成当初の頼れるラズは一体何処にいっちまったんだ。


「ねぇねぇランキスちゃん。聖堂教会に着いたら娼館に寄ってもいい?」

「駄目に決まってるだろ。観光に行くんじゃねーんだぞ」


 潜伏先はウェルザーが確保してくれた。曰く「司祭だった頃の伝手があります」とのことだ。まあウェルザーなら信用していいだろう。


「手続き終わりましたよ。チェックアウトは翌日の朝9時です、寝坊は厳禁ですよ」


 204号室の鍵を受け取り、部屋を確認する。シングルのベッドか。そいや宿に泊まるときは大抵リリファとツインベッドで寝てたな。


 夕食は骨付きのデカい鶏肉料理と肉団子のスープだった。 ボリューム満点のメシを平らげたのはいいが脂身が胃にしんどいな微妙に。……リリファのメシのが旨かったな。


 くそ余計なこと考えるな俺。明日以降の道程しっかり把握しねえと。アスタルトから指名手配されてるから宙渡りの手を駆使しつつ、街道沿いは避けつつ、一週間後に聖堂教会の領内へと侵入。

 ウェルザーの知り合いの元で潜伏しつつゴドゥバとの接触機会を図る。んでから……。


『(憂鬱な顔をしておるなランキス。嫁との別離は大層に辛いようだな)』


 紛らしたくて考えてたらングスがひらひら舞い降りてきた。


「……。そうだな」

『(フーム。貴殿にしては随分と素直ではないか)』

「リリファが傍らにいないと、ついリリファの記憶を呼んじまうんだよ」

『(フーム。パーティリーダーが気弱だと儂も気掛かりじゃがの。明日までに気を取り直しておくれよ)』


 見透かされたか面倒くさい。覚悟してた以上にリリファに依存してたんだな俺。

 ダルい。もう寝よう。






 一週間後。

 聖堂教会の領内に侵入した俺達はより一層、気配を薄くした。


 総本山はまだ遥か彼方だというのに尖り屋根の先っぽが顔を覗かせてる。

 そこいらの王城が霞むくらい超巨大で延べ床面積もムチャクチャ広く、建築物ってより山脈を眺めてる気分になる。


 豪華さと巨大さを誇示するように、周辺に建ち並ぶ家々や礼拝堂やら倉庫やら。

 共通しているのは聖堂教会のシンボルマークである紅い不死鳥が玄関に飾られてるのと、まるで建設直後であるかのように磨かれた白く輝く外壁だ。


 信者らの住む居住区は奴隷階級らの献身的な奉仕によって成立してる。つっても殆ど誘拐だが。その殆どは獣人らだ。

 彼らは奉仕作業後、地下洞穴の鉄格子の向こうに鎖で繋がれる。マジ胸糞悪いけど、まあそれはいいとして。


 とある信者はかなりの寄付金を納めているらしい。一等地に広い一軒家を建てる許可を得られる程に。

 そんだけ熱心に信仰してるのかと思いきや其奴の目的は別にあるようだ。なんでもウェルザーが司祭やってた頃に何十人も子供奴隷を抱かせてやったのだそう。


 俺らを出迎えたのはカニエ以上にぶくぶく肥えたとても不細工で気色悪いおっさんだった。


「ウェルザー久し振りだねぇ。君はああオランタ君というのかぁ」


 和やかに挨拶してるのを、視線だけ宙渡りさせ数十キロ遠くの物陰から窺う。

 キモっ。堪らず視線を逸らした。全身ニキビ肌荒れしまくり、何日も風呂入ってなさそうなくらい垢まみれ。近付いたらきっと体臭も地獄なのだろう。ウップ想像したら吐き気してきた。


 おっさんは呂律が回らないし目の焦点が合っていない。手足が青く変色している。これはブラインドラッグの中期患者によく見受けられる症状だ。


 性行為のとき勃起時間や膨張率が倍以上に跳ね上がって、快感もヤバいらしいが脳を蝕むという副作用がある。


 それとあんま知られてないらしいがリリファ曰く服用を十年続けると視覚を失い、手足の末端から腐り落ちていく病に苦しめられるそうだ。忠告してやる義理もないがな。


 おっさんは獣人奴隷を多数雇っていて、彼らを激しく罵りながら2人を奥の客室へと案内していった。

 さて俺も行動起こすか。

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