68話 裸で抱き合うだけ
テント布越しに月明かりが照らす中でリリファは最後の一枚を脱いだ。
下着が丸められ毛布に音もなく捨てられ、これでお互いに素っ裸になった。
「……」
「……」
俺もリリファも言葉を発しない。発せられない。今から2人でする初めての行為を考えてしまうと。
雪のように白いリリファの肌は、夜の暗闇でも輝くように自己主張してる。照れくさいのに、吸い込まれたように視線が逸らせない。
リリファも同様だな。俺の身体を上から下までまじまじと見つめている。猛烈に恥ずい。手で隠したいが我慢だ、どうせリリファも同じ気持ちだろうし。
綺麗な身体してるな。何度も戦場を駆け回らせたのに傷痕一つない。
細くて長い手足に小さな手指、僅かに盛り上がった胸、肋骨が浮かぶほどに痩身だが浮かぶ腹筋はとても健康的で。
そっからほんの少し視線を下ろすと無意識に唾を飲み込んでしまった。
裸のリリファを見たのは初めてで、リリファを女として認識したのだって初めてだ。ずっと妹とか、そういう家族同然の認識しか、俺はしようとしなかった。
「息が、荒い、ですねランキス様」
「しゃあねーだろ。童貞なんだから」
自分でもヤバいくらい心臓が高鳴ってて、リリファも心配になるくらい呼吸が激しくなってる。
安心させたくて、そっと抱き寄せて、髪を撫でる。
しっとりと濡れた感触は汗だろうか、夜露だろうか。柔らかくていい匂いがした。
「ランキス様」
リリファは顔をこっちに向けて眼を閉じた。一瞬考えて唇に、俺のをそっと重ねた。
2回目のキスは前より甘酸っぱくて、リリファの唾液の味がより深く浸透していくようだった。
十秒くらいそうしてから。互いの口から糸を引いて、離れていく吐息がひどくリアルだ。
瞳を見つめ合って。……もう1回キスするもんなのか?
お互い黙って微妙に気まずい雰囲気になっちまう。情けないことに洒落た台詞の一つも思い浮かばない。
「触っても、いいですか」
「お、おう」
長髪がリリファの背中を覆う。その光景はまるで金に輝く毛並みの獣人のようで、背骨のラインが艶かしい。
「うっ」
「ランキス様……」
興味津々に眺めてるが、当のリリファは目の焦点が合っていないような気がする。
「やべっ、リリふぁ、ぐうっ!」
……。
…………。
ああ
ああああ
視線を下に向けられない。
どうしようもない興奮に遅れて後悔が訪れる。
「凄い、ですね、はは……」
リリファは乾いた声で笑った。
逃げていった血液が再び脳味噌に戻っていく。冷静にリリファを観察する余裕が生まれた。
ああくそ。
俺は反省した今でもリリファを蔑ろにしてるのか。最低野郎の俺は。
リリファの動揺も含めて、ギュッと抱きしめようやく気付く。リリファは可哀想なくらい震えてた。瞳をギュッと閉じて。
「リリファ」
この子を安心させるにはどんな声色で喋れば良いのだろう。
「15歳の誕生日に、城のバルコニーでもどこだっていい」
美しい姫君を誘拐する、なんて柄じゃねえかな。俺に怪盗の素質なんてねえし。
でも、それでも。俺はリリファを笑顔にしたい。初体験が痛くて苦しい、なんで嫌だろう。
「だから今日を、とても幸せな約束をした記念日にして、人生最高の夜で終わらせようぜ」
「ランキス様……」
リリファは真っ直ぐに俺を見つめる。もう震えは無かった。
「約束ですよ。絶対に、破っていけない約束なんですから誓って下さい」
「たりめーだ」
「破ったら、絶対に許さないです。人類滅亡しようと。冥府の果てまで追いかけ謝罪させますよ」
当然、だろう。
俺だってリリファと一緒にどこまでも歩んでいきたいんだから。
だから。
今日はお互いに裸で抱き合うだけにしよう、あえて。




