67話 性処理奴隷なら衣食住にも困らないし
「聖堂教会ですか。随分と懐かしい」
ヴェルザーさんは温めたスープを満足げに味わいながら呟いた。
焔山脈を抜けて数kmぐらいだろうか。周囲は随分と様変わりして、ごつごつとした岩場で刺々しい葉っぱの木々なんかもある。
ほのかに硫黄っぽい香りもするし、この辺りは温泉も湧くのかな。
太陽が山脈に隠れそう、もうすぐ夜だ。
野営のためにナルシュ君と一緒に焚き火とかテントの準備して、みんなで鍋を囲んで。
しばらくワイワイしてたらテーマが昔話に移った。最初はランキスさんの傭兵団結成秘話。お兄様やリリファさんとの出会いなんかを雄弁に語っていた。普段よりちょっと陽気な感じだ。お酒でも飲んだのかな? カップに入ってるのはコーヒーだけど。
「私はかつて聖堂教会に所属していました。司祭として働かせて頂いた経験もあるんですよ」
ヴェルザーさんって目立たないけど常日頃から物腰柔らかく、紳士な振る舞い。全体的にユルくて癖強い雰囲気のチームランキスだけど、彼だけは真面目で大人びていた。
かといって馴染めずに浮いてることもなく。今だって私達に語るときも、大声でもないのに深く響いて耳に残る。
司祭だったのか成る程。でもじゃあなんで傭兵やってるんだろ。あんまり儲からなかったのかな。
「聖堂教会では、孤児の少年少女を性奴隷として販売するビジネスを展開しているのですが」
……は?
「おや。ご存じなかったですか。性処理奴隷などはアスタルトでは比較的ありふれた存在だという認識でしたが。ともあれ当時私は、8歳くらいまでの少年の肛門開発に従事しておりまして、そう丁度、成人男性のを無理なくスムーズに挿入できるくらいに」
え゛? ちょっと、え゛? 本当なのナルシュ君。
「アスタルトも人族至上主義を掲げてるだろ。あれって要は奴隷を確保しやすくするための口実なんだよ。そっか知らなかったのアリス」
全く知らなかった。というのもお兄様やリリファさんに習ってた勉強は、読み書きとお金の単位とかがメインだったから。うーん言い訳になりづらい、多分この異世界なら一般常識なのだろう。
そっかだから人と亜人は仲悪いんだ。この分だと戦争のきっかけも聖堂教会が絡んでるかもしれない。
「私自身の性癖と合致していたので楽しくお仕事をさせて戴いたのですが、ある日オランタさんに出会い彼女に一目惚れしてしまいました。あまりに美しいのでつい寝床に招いてしまったんです」
「そう、それがアタシとヴェルザー様との出会い」
オランタさんがひょこっと顔を出してウェルザーさんにもたれかかった。
「アタシんちは農家だったんだけど戦争で家族も畑もみーんな無くなっちゃってね。でも金稼ぎしなくちゃ飢え死にしちゃうでしょ。だから教会に性奴隷として身売りしたの」
身売りして性奴隷。そういったのを選ぶ子供は多そう。悪党や物乞いになるよりは幾分かマシ、なのかな。
「ほらー、アタシって綺麗じゃない? 性処理奴隷なら衣食住にも困らないし。しかもご主人様はこんなにも素敵なナイスミドルなんだから最高よ!」
「ですがそれが原因で破門されてしまいました。その後は縁あってランキス傭兵団に拾って頂けたのですが、改めて振り返ると、数奇な巡り合わせの連続ですねぇ」
昔を懐かしむように、和やかな口調で語るウェルザーさんオランタさん。……とんでもないエピソードを聞いてしまった。
この人は常識人だと信じてたんだけどな。うわー記憶から消去したいなー。
道理でランキスさんが必死になってた訳だ。ングスさんを是が非でも団員に加えたかったのも今なら納得出来る。
野生のドラゴンよりも妙な連中が揃ってる傭兵団って……。
ん、そういえばリリファさん何処行ったんだろ。
ランキスさんもさっきまでいたのにな。2人で散歩かな。
「私に殺戮衝動をくださるのですか?」
強くなりたいか。そう奴隷商の檻越しに問い掛けた返事がそれだった、死んだ瞳で。
あのときに性格を見抜いとくべきだったかもしれない。
「私はエンシェントエルフという肩書き以外なにもない小娘ですよ?」
10かそこらの小娘の癖して、俺よりずっと精神的に大人びてんのが何故だか妙にムカついた記憶がある。
英雄か殺戮衝動か、好きに呼ばせるがいい。将来の凡人共は、お前の姿を見るなり怯えるだろう。俺だけがお前の才能を開花させられる。
「ランキス様は奇特な方なのですね。性処理の奴隷として以外の用途にそれだけの大金を投じるのは男性として如何かと」
即購入して翌日の朝。寝ぼけ眼の俺に一日経って見慣れた死んだ瞳でそう抜かしやがった。
そういや購入した直後の時点で既に敬意が0だったなあ。
どれもこれも、ほんの数年前なのに随分と懐かしい。
リリファの正体がグリンラード公国の皇女様と知ったのは数日後だったか。
最初はエンシェントエルフってだけで購入を決めた。魔法適性が高い種族で、その上リリファは賢くて弁は立つ。
掘り出し物かと思いきやとんでもない爆弾案件と知ったときは頭を抱えた。んで、数分程考えて止めた。まあ何とかなるだろうと。
そして数年後。
「いいんだな。今更後悔なんてすんなよ」
「……私はずっと、この瞬間を望んでいたのですランキス様」
俺達はテントで、裸同士になって抱き合ってる。




