66話 だからさ、終わりにしよう
どうやらシバ君は母親似のよう。目元とかそっくり。改めて見るとシバ君って意外に女の子顔なんだよね。
ちなみにお父さんはランキスさんより更に頭二つ分くらい背が高く、筋肉のボリュームも比例してて鬼っていうより巨大な熊みたいな迫力がある。
そんなシバ君の御両親は紅鬼族の族長さんで集落の入り口で待ち合わせしてたんだけど、姿が見えるなりシバ君を抱きしめ激しく号泣してしまった。
親子感動の再会、なんだけど大袈裟すぎてシバ君も困惑してるみたい。こっちも入り込めない空気感、うーむ親馬鹿? でも倅が帰ってきたら普通はこうなのかな。
数分後。落ち着いたお二方は私達に礼をしてくれた。ただやはり人間嫌いなのか、お兄様やオランタさんウェルザーさんには妙に刺々しい態度を隠さなかった。一応リーダーのランキスさんには丁寧に対応してたけど。
うーむそれにしても。シバ君の家に向かう道すがら、すれ違う男性はみな巨漢だらけ。
集落の規模から考えて住民は200人くらいだろう。アスタルトの兵士はよくシバ君を誘拐できたものだ。
内通者? の線は薄そう。人間至上主義の国に裏切ったって得は少ないだろうし。
私達はひとまず公民館っぽい建物で休憩させて貰えることになった、うーん暇。
今晩は宴が催されるらしい。跡取りの帰還を盛大に祝うのだとか。
といっても昼過ぎには出立しないといけないし、そもそも余所者だし参加する道理もないんだけどね。
ランキスさんとウェルザーさんオランタさんは御両親と何やら相談しに個室へ入ってった。重要事項ならば直々に説明がある筈だろうけど。
それよりお兄様がおいでって手招きしてくれた。ちょこんと膝に乗ったらギュッと抱きしめてくれる。
大好きなお兄様。もちろん脚を拳一つ分ほど開いて、股間を撫でやすくする工夫も欠かさない。
日本にいた頃もう叶わないと諦めていた、お兄様に愛されたいって願望。
でもそれ前提で、お兄様に頼らなくても自立して一人前になる。それがお兄様にとっての幸せって確信してた。
でもたった一つだけ失念してたことがある。
お兄様に頼らなくても一人で仕事をきちんとこなせる。そんな未来を果たしてお兄様が本当にそれを望んでいるのか。
そんな独りよがりの独立心が、もたらす結果を知るのはしばらく先のこと。
「ランキス様。……愛しています」
「……リリファ」
さっきの会議で。族長らから今後の紅鬼族のスタンスなどを確認して戻ってきたら、急にリリファに抱きつかれた。
猫人や竜人といった近隣の亜人集落とも協力し、ミステクタを全面支持する方向で纏まってて。 ただ聖堂教会がどう動くかを注視しないといけない。あそこの騎士団は質量共に優れ、特に団長のラフィエルは、ああくそ。
んなことはどうだっていい。
俺はこの温かみを、どうすればいいんだ。途方に暮れても答えは見えない。
背中にそっと体重を預けてる、リリファから愛の告白を受けたのはこれが初めてじゃない。
無表情な癖して妙に演技派なコイツは購入した当初から、本気なのか冗談なのか理解しがたい言動ばかり繰り返してやがった。
思い返せばあれらは全て冗談混じり、だったのだろうか。
色恋沙汰なんかは面倒だから努めて無視してきたが、それは俺自身が逃げてるだけだったのかもしれない。
そういった煮え切らない態度を何年もずっと繰り返して、リリファを蔑ろにし続けて。いい加減、俺も腹を括らないといけない時期に来てるのだろう。
抱きしめ返す。細いんだな、そんな場違いな感想が浮かんだ。
意外な程に頼りない肢体は、まるで羽を掴んでいるようだった。
年相応に華奢で薄い身体つきだったのに、俺の中で勝手に成長させていた。
「……本来は私のような」
俺は口調を変えた。ひざまづいて首を垂れる。
「矮小な存在は、近づくことすら畏れ多い尊き御方なのです。リリファ様」
「ランキス、様」
リリファの声が震えてる。
卑怯だな。決心したつもりなのに心臓がぐさぐさ痛む。俺はなんて非情な男なんだろう。
ずっと一途に好いてくれた彼女の気持ちを今から踏みにじろうとしている。
「アスタルトはじきに崩壊する。そうすりゃ世界中の勢力図が一変する。激動の時代が訪れるんだ」
だからさ、遠足は終わりにしよう。
表情を窺う。やっぱりリリファの瞳は潤んでいた、無表情に。
そうか。今更気付いた。
リリファは泣かない偉い子なだけなんじゃねえか
「ランキス様。もう終わり、なのですか」
……。
もう二度と話す機会はないだろう。どころかお互いの姿を確認することすら。
奴隷として拐われた皇女が生還なさったなら、今後はそんな国命を揺るがす大事件が二度と起きないよう、厳重に、何十人もの衛兵に護らせて、徹底的に外患を寄せ付けないように。
そんなの言葉にしなくてもリリファだって解ってる筈だ。
「なあリリファ。俺は、リリファにとって善き思い出になれるか」
なのにコイツは無理な願いを告げた。
「お別れの前に一つだけ我儘を聞いて下さい。私は、……ランキス様の赤ちゃんが欲しいです」
昼食をご馳走になったあと、私達は来たのとは反対方向の道に集合した。
「ナルシュ絶対に来いよ、つーか俺が行く。勝ち逃げとか許さねえからな」
「お前って最後まで面倒くさい奴だな。わーったって、しつけーな!」
お別れだってのに何故か喧嘩の約束してる。これぞ男同士の友情?
毎日やってた組み合い稽古は結局ナルシュ君が全勝してた。だいぶ拮抗してたから、あと数日の猶予があったら白星を拾えてたかもしれない。
ああそうそう、シバ君の御両親には2倍近くの身長差体格差があるんだけど、果たして子作りはどんな様相だっただろうか。
仲良くなれたら性行為のコツを教えて貰えるのかなあ。そこだけ心残りだったかも、ってそんな訳あるか。




