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65話 多少なりとも主人公ぽい行動しなくちゃ

「アリス?」


 なんかさ、私ってイヤな女だなーって実感しちゃった。


「そんなこと。疲れてるのかアリス、出立まで少し休んどけよ」


 ねえナルシュ君。私ってさ、今までずっとナルシュ君やお兄様や、リリファさんやランキスさん。色んな人に世話になってるの。


 みーんな何故か私に優しくしてくれたんだよね。楽な人生歩んで、与えられた境遇にただ甘えるだけで裕福な暮らしをさせてもらえてるんだ。


「……」


 ナルシュ君はどう受け止めたかな。

 そんな生活にずっと違和感なかった理由はきっと日本にいた頃にある。


 お兄様が行方不明になって、両親が死亡して登校拒否して。思い返せば私には、選択肢なんてそもそも無かった。その頃の感覚をずっと引きずっていたんだろう。


 私を優しくしてくれる良い人達。私に危害を加えようとする悪い人達。


 そんな自分勝手な区別しかしてなかったら、いつか破綻してしまうだろう。この世界中に生きる誰しもが主人公なのだから。


 いい加減、私もボーッと生きるのはやめにしよう。だったら私も多少なりとも主人公ぽい行動しなくちゃ。


「それ言い出したら俺も、ちゃんと」


 ナルシュ君ありがとう。私、行かなきゃ。このままじゃ何もかも終了してから後悔しちゃいそうだから。


「そうか」


 私は急いで廊下へ駆け出した。最後に何か言いたそうだったけど、また後でねって。






 コンコンとノック。


「アリス、私と貴女の間柄なのだから遠慮しないでいいのよ」


 リリファさんは既に荷造りを終え、アンティーク椅子に座って芒と天井を眺めてる。


「どうしたのアリス。私と愛を育みに来たの? そうね出立まで少し時間があるから」


 後ろからおもむろにギュッとしてみた。


 やっぱりリリファさんは攻められるのに慣れてない。よしそれじゃ。


 チュッ


 ほっぺたにキスしちゃった。


 いっつも私にHな悪戯を仕掛けてるんだし、せっかくだし発情させられる側の気分も味わってみたらいい。


「あ、あらどうしたの。ついに私の秘めたる恋心に、その」


 予想外って反応してるな。いつもならとっくに私の性器を撫で回してるだろうに。


 普段のクールな印象とはまるで違う。目を真ん丸に開いてて、それが見れただけでも楽しい。


 確信した。私へのセクハラはきっとカモフラージュだったのだろう。


 リリファさんのほっぺたをぐにぐに。表情筋をマッサージして柔らかく。


「あ、アリス?」


 好きなんだよね。ラズウェルさんのこと。ここは私しかいなんだから、我慢とか抑圧とかしなくてもバレないよ。


「……ええ」


 僅かにリリファさんの頬が揺れた。

 ねえリリファさん。

 私、本気でリリファさんの思いに応えてあげたいんだ。


 だって私、リリファさんのことが本当に本当に大好きだから。キスで誤魔化すような、うわべだけの友達なんかじゃ嫌なんだ。


「私はずっと貴女のことを誤解していたみたい。いいえ違うわね。貴女のことを大人しくて可愛くて、そういうキャラクターなんだって勝手に思い込んでいたわ」


 私もずっとリリファさんに、そんな風に思って貰えるように振る舞ってたよ。そのほうが接し方とか考えなくていいもん。


 ねえリリファさん、私はリリファさんと友達になりたい。もっともっと仲良くなろう。距離感のない心の底から信頼し合える親友になりたいな。


「有り難うアリス。……ありがとう、勇気を貰えたわ」






 眩しい太陽が照りつけるなか私達はホテルの玄関に時間ぴったり全員集合した。私とお兄様、リリファさんとランキスさん、ナルシュ君にシバ君、ウェルザーさんにオランタさん。とりあえずこの8人で行動するらしい。


 見上げたけど、10階建ての屋上プールは地上からじゃ窺えない。プールサイドで食べたアイスクリームは美味しかったなあ。短い期間だったけれども、また宿泊する機会に恵まれるだろうか。


 もう馬車移動じゃないんで、ランキスさんが宙渡りの手を駆使してたらシバ君ぎょっとしてた。初見だとびっくりするよね。


 あっという間に遙か彼方の辺境の街、リザベの月見亭は二階建てのこじんまりした、ホテルというより洋風民宿みたいな印象。部屋はこれまでと同じで男女は別々だ。まあそれが普通なんだけどね。


 リリファさんは昆虫採集しに外を散策しに行ってる。暇なので地図を広げてみた。周辺の地理を改めてきちんと把握しておきたい。


 現在ここはミステクタの辺境にある宿場町。そして向かう先はミステクタの最北端、シバ君の故郷がある焔山脈だ。


 更に山脈を抜けた先には大森林が広がってて、獣王連合の領土らしいけど実際はほぼ人跡未踏の地。


 そんな奥辺境に、ナルシュ君の生まれ故郷である猫型獣人の集落があるのだそう。


 ここまでの道中で、獣人とかエルフっぽい種族の姿がかなり目立つようになった。純粋なヒトを探すのが難しいくらいで、アスタルトと同じ大陸なのにこんなにも雰囲気が違うのだから驚きだ。


 あっそうだ。せっかくだし自分で決断する癖つけるって決めたんだから。お兄様を部屋に招待しちゃおうかな、もし仕事中だったら隣で眺めてるだけでも楽しいし。






 爪の引っかけ方を工夫することで、樹皮のダメージも物音も最小限に抑えられる。


 努力の甲斐あって木登りは上達した。けれども、凄いねと絶賛してくれた彼女は、今だって愛する御主人様の元で可愛がられてるに違いない。


 そしてきっとおそらく遠くない未来、もう二度と彼女に会えない日々が永遠に続いていく。


「(俺は、俺はアリスがこんなにも大好きなのに、その思いは決して届かない。世の中ままならないなぁ)」

「どーしたのナルシュちゃん?」


 静かに一人でいたいのに一番面倒臭い、男だか女だかよく分からない生き物が絡んできた。どういうわけか彼女はやたらと話し掛けてくる。


「べーつに。些細な悩み事っすよ」

「悩み事? 推測なんだけどアリスちゃんに告白すら出来ないまま振られちゃったことを気に病んでるの?」


「……てか申し訳ないですが一人にしてください」

「ヤダ! 徹底的に絡む」


 勝手に盛り上がるオランタを心底面倒くさそうに眺めてナルシュは。


「アリスとラズウェルさんが相思相愛なのは百も承知ですよ。でも、でも……」

「好きなんでしょ。アリスちゃんのこと」


 無言で応えた。大木の枝に座る長身の優男が鬱陶しい。感情を乱されたくない。さっさと離れて欲しい。


「あの子ってウチに来るまでどうやって生きてきたのかしら。まるで生活能力がないのに不思議よねぇ。あっ悪口じゃないわよ。アリスちゃんには内緒ね」

「言いませんって。てか一人に」

「ふっふーん。アリスちゃん用とっておきの口説きのテクニック教えてあげようかなーって。聞きたい、聞きたいわよね!」

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