64話 きちんと自分で考えるって
襲撃騒動の翌日。
全てのアスタルト特殊部隊は捕縛され、行われる予定だった会談は全て中止になった。
そりゃそうだよね。現在かなり混沌とした状況だもん。
ミステクタは独立宣言を発表しふたたび戦争突入まったなし。各国からの支持も受け、準備万端で今度こそ勝つ気まんまんだ。一方アスタルトは聖堂教会と同盟を結んで反乱鎮圧しようとしてる。
バチバチと火花が舞っているが、今日からいきなり戦争って訳じゃないらしく1ヶ月くらい準備期間を置いてから開戦するとのこと。
水面下では激しい攻防があるかもだけど、その間に私達にとってやるべきことを済ませるそう。
ちなみにホテルのチェックアウトは明日なのらしい。また移動生活ってなると、しばらくドレスは着る機会なさそうかな。
何故かいるオランタさんとウェルザーさんも交えて、最上階の談話室を貸し切りにし、ホテルマンに人払いをお願いしてから今後の方針がランキスさんによって告げられた。
まず明日ホテルをチェックアウトしてから、焔山脈の麓へ行き、そしてシバ君の産まれ育った紅鬼族の集落へと向かうそうだ。
「へ? 俺、帰っていいの」
「そもそもお前の身分を縛ってたのはアスタルトの奴隷制度だからな」
通称ミステクタ狩り。私やリリファさん、それにナルシュ君やシバ君が奴隷扱いされる原因となった悪法だ。けどミステクタが反旗を翻してる以上アスタルトの法律なんて適応しないってことか。
「マジかー親父とお袋元気にしてっかな。ムカつく奴も多かったけど、御者や給仕係の人とかなんだかんだで世話になったから最後の挨拶しとくか」
シバ君喜んでる。微妙にクールっぽさを演出してるのが子供っぽいけどね。挨拶はうーん、今の二国間の関係を考えるとちょっと難しそう。
にしてもシバ君の故郷か。どんな人達なんだろ、やっぱ戦闘大好きなのかな。
シバ君を送り届けた後は山脈を抜け、更に奥にある紫の樹海と向かう。アスタルトの辺境にある広大な大森林だ。
あれここって。
「俺も、ですか」
ナルシュ君は予想外って表情してる。
テーブルに広げられた地図で確認する。ここが、ナルシュ君の産まれ育った集落なのか。
「ああそこに向かう。グリッドからは了承済みだ」
「そう、ですか」
ナルシュ君は無言で頷いた。
最後にランキスさんは一呼吸置いて、少々ばつが悪そうに切り出した。
シバ君にナルシュ君。ここまでの流れからして次の話題は予想できる。リリファさんは酷く機嫌悪そうだ。
「国境を越えてグリンラード精霊国の首都に向かう。後のスケジュールは追って説明する、以上だ解散」
ランキスさんは一息で言い切ると、最後は逃げるように休憩室を出ていった。
リリファさんは休憩室の椅子から立ち上がろうとしない。
「アスタルトは直に崩壊するでしょうね。論ずる迄もなく二国間には戦力に差がありすぎるのだから」
隣に座った私にポツリと呟いた。
「私を縛る根拠が失くなってしまうのね……」
リリファさんは無表情だ。でもね、ずっと一緒にいたからわかる。今リリファさんは辛くて泣きそうになってる。
酷く憔悴してて怒りや悲しみ、失望、届かない思い。複雑な感情がぐちゃぐちゃに折り重なって。
あの、リリファさん。
「ごめんなさい。貴女を抱きたい気分ではないの」
一人にしてくれって意味なんだろう。
ねえリリファさん。私なんかで良ければ相談に乗るよ。
「ありがとうアリス」
自室に戻るリリファさんに、そんな言葉しか掛けられない自分が情けなかった。
私達は仲良しグループじゃない、あくまで仕事上の関係。
いつかは別離する運命なんだろうなってずっと目を反らしていたかったのに、こんなにあっさりと決められてしまう。
新参の私ですらショックなのだから。リリファさんは計り知れないほど深い心の傷を負っているに違いなかった。
私に出来ることはなんだろう。
相談に乗りたい。でもそんな軽々しく入り込んでいい領域じゃない、だけど。
翌日の朝食は、味とか分からなかった。ランキスさんとリリファさんは終始無言ですっごく重苦しい空気だった。
「よ、よおアリス」
コンコンとノックの音。チェックアウト前に最後の点検してたら部屋にナルシュ君がきた。
「まさか里に帰れるなんてさ。夢にも思ってなかった」
うん、そうだね。
「グリッドさんときちんと別れの挨拶できなかったのは残念だけど、まーしゃあねえか」
まあしょうがないよね。
……。
しばしの沈黙。
「なあ、アリスはどうすんだ」
私は、
私はどうするんだろ。
「なあ、里で一緒に暮らさないか。おんなじ猫人なんだし、きっとお前の兄貴だって受け入れてくれるさ」
ナルシュ君の故郷で一緒に暮らす、か。
ああそうか。
決めた。
自分の人生をきちんと自分で考えるって決めた。




