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61話 用意された食事が冷めちゃうの勿体無いから

 今は自治区扱いになってる旧ミステクタ領。そこは首都に近付くにつれ、活気に溢れた平和な街並みへと変貌していった。


 アスタルトにて見受けられた、焼けた村々や墓石などのネガティブ要素はまるでなく、とても平和な様子が見受けられる。


 細かな注目点として、石造りの教会とか病院などの戦禍を免れた古い建物が結構大量に残ってて、壁一面に太い蔦がびっしりと這っている。


 急ごしらえの木造ばかりが立ち並ぶアスタルトとは明確に違っていた。


 そしてたくさんの人々が往来してる。こないだのアスタルトの祭り並みの人口密度なんだけど、ちゃんと秩序だってるようで喧嘩とかの諍いも少ない。


 あと亜人の比率がとても高くて種類も豊富だ。私のような猫型獣人とか、あるいは犬型獣人。

 

 シバ君のような鬼、それからエルフも。ダークエルフも珍しくない。全身鱗で覆われてるのはリザードかな。異種族のカップルもいて、むしろ人間のほうが少ないくらいだ。


 傭兵などの乱暴者が未だに闊歩している人間至上主義なアスタルトとはまるで対称的。私ならこっちの方が生活しやすそう。


 右を向いても左を向いても、店や露天がずらりと並んで商売してる。言われなきゃ敗戦国とは誰も思えないだろうね。


 もともとお兄様達が参戦するまではミステクタ優勢だったのが、僅か数日で首都の中枢機能を破壊されちゃって。逆を言えば、中枢以外のエリアはほとんど無傷だってことだけど。






 さてさて。短い期間に一悶着が100回くらい訪れたような気がしたけどなんとか到着できた。


 停車したのは10階建てくらいの豪華なホテル。ここも壁に太い蔦、あとコケ。フロントの受付が甲殻類っぽい亜人なのを見て、アスタルト側の貴族は皆一様に渋い表情してる。


 やはりというべきか最上階の一番見晴らしがいいスイートルームを二部屋用意してくれてた。


 ちなみに貴族さん達は9階。どういうニュアンスが込められてるのか。結局彼らとはこの1ヶ月間まるで会話は無かった。


 話す必要も無かったってのもあるけど。向こうは私達を蔑んでる様子だったし。


 私達のより遥かに大きくて立派な馬車をあてがわれたのに、ずっと狭いだの亜人が鬱陶しいだの不満たらたら。


 食事がショボいのは同意だけどね。私って普通の人より大食いだし


 リリファさんが屋敷で用意してくれてた特製保存食がなければ、ずっと飢えで悲しい気分になってただろうな。


 1ヶ月間の長旅で、暦は真夏へと移った。


 まるでハワイ旅行にでも来た気分。設備も充実してて、屋上にプールあったりバーベキューあったりと。これが純粋な観光ならさぞ楽しかっただろうなあ。






 んで翌日の昼食会。


 落ち着いて食べられる環境なのかは不明瞭た。基本的には階段の席に座ってお行儀よくしてればいいらしいけど。


 さてどうなることやら。高みの見物気分で眺めてやろう。






 いやはや驚いた、まさかアスタルトの貴族がこんなにも交渉下手だとは。自分達に都合のいい展開以外は想定してなかったのかな。


「諸君らの接待まことに結構だ。では乾杯しよう」


 まず自分達のほうが上だとアピールしたかったのだろう。でもグラスを持ったのはアスタルトの貴族だけ。


「本題に入ろう」


 向こうのリーダーは翼を背中に生やした天使みたいな老人だ。


 重々しい口を開いたミステクタの要求。それは敗戦条例の破棄及び、謝罪と賠償を行えというものだった。強気の外交だ。


 対するアスタルトは会談の席に亜人が座っていたのが余程癪に障るのか、早々に恫喝外交へと切り替えた。


 生意気な口を利いていいのか。チームランキスを再びミステクタ首都にけしかけるぞ、要約するとそんな感じの脅しを掛けた。


 なんと私達を抑止力にしようと目論んでいたらしい。ランキスさんは単なる傭兵でしかないのに。


 当然こう答える。チームランキスよ、もしも我々の為に剣を抜いてくれるなら、アスタルトが此度の戦争で用意した倍の賃金を提示しよう。


 唖然とした表情の貴族連中。いやだって当然じゃん資金力ならミステクタの方がずっと上だよ、何カ国が後ろ盾についてると思ってるんだい。


 んでランキスさんが。


「成程。では契約書を交わしましょう」


 なんて笑顔で返すものだから貴族は余計に激昂して。


「くっ、人非ずの分際で生意気な!」


 あーあ。一番言っちゃいけないこと言っちゃった。自分達の建前すら忘れちゃったようだ。


 そっからは傾聴も面倒くさくなり、用意された食事が冷めちゃうの勿体無いからウェイターさんにパンの追加をお願いした。


 未だに怒声が飛び交う、唾を撒き散らして喚くアスタルトの貴族連中。それに冷静に受け答えしているミステクタ。それはともかくサラダも美味しいなあ。


 メインディッシュの骨付き肉のお代わり回数が2桁目に突入しようとしたとき、ついに激昂してテーブルの食事を皿ごと腕でなぎ払い、わめき散らしながら退室していった。ああ勿体無い。


 どうするのかなアスタルト。経済戦争しても確実に負けちゃうだろうに。


「豪胆ねアリス。あんな状況でも平然と食事をするなんて。愛してるわ」


 だって食べないと料理に失礼だもん。料理人さんや食材となった動物や植物なんかにもね。料理に失礼な人は嫌いだなあ私。


 デザートのシャーベットを堪能しながら、そんな風に私は考えるのだった。

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