60話 そーゆー心遣いのつもりが
「稽古しようぜランキス!」
あの日以降シバ君は。私達の中で一番強いのがランキスさんなのを知って以降、ことあるごとに稽古をせがんでくるようになった。
ミステクタに到着するまでにリリファさんから一本奪ってやると息巻いてるけど多分ムリじゃないかな。
ランキスさんもランキスさんで、やることないし暇なのか、なんだかんだで面倒見がいい。眠い眠いとぼやきながらもきちんと付き合ってあげてる。
パラメーター傾向が似ているのも要因かな。(シバ君のは測ってないけど。マナー違反だし、あくまで予測)。
いやパラメーターというより戦闘スタイル?
まあそんなわけで妙にウマが合う2人。
逆に最近ちょっと不機嫌なのがリリファさん。最近は休憩時間ずっとランキスさんを取られちゃってるものだから。
食事時間も定位置だったランキスさんの右隣じゃなくて私と同じテーブル。なんか私への性的悪戯が猛烈に増えてるのはストレスが原因かな。
2人で楽しそうに、ああだこうだと他愛のない会話してるのをじーっと眺めてる。実につまらなそうに。
ランキスさん乙女心を察してあげてよーと思うんだけど。こんなの私が口を挟むべき内容なのか悩む。
どうすればいいでしょうかお兄様。膝に乗ってちょこん座りで見上げながら私は問うた。
寝る馬車が男女別々なのにもようやく馴れてきた。機会の少ないスキンシップを充実して楽しむのも、長く生活していく上で必要なことだろう。
だからってリリファさんを放置しちゃうのは感心しないけどね。
「今まで余程のことが無い限り、あの二人は常に共に行動していたからな。しかしパートナーを蔑ろにするとは感心しないな」
お兄様の顔を眺めてるとキスしたくなっちゃう。今日はまだリリファさんとしかしてないし。
お兄様の顔を覗いてじーっと。意図を察してくれたお兄様は唇を重ねてくれて。
「ランキスやリリファには随分世話になってる。俺も一肌脱ぐよ」
とっても頼もしい。どうしてか嫌な予感ばかりが先行してるけど、人生経験の乏しい小娘の予感なんて当たる訳ないし平気だろう。
「どしたラズ、とアリス」
珍しいな、最近は子供ら4人でつるむことが多いのに。
ニャアニャア。
うーん相変わらずアリスは何喋ってるのかさっぱり分からん。俺の読解力が足りないのか?
「ラズ通訳してくれ」
「リリファは君を恋慕している。彼女は俺達にとっても家族であり仲間なのだから構ってやれ、要約するとそんな感じだ」
「あーうん」
そういやここ数日リリファとまともに会話してなかったな。俺が寝泊まりしてる馬車に来なくなってたし、気にも留めてなかった。まあ反省すべきか。
「ところでお前ら。相談するなら真面目な態度でやれよ」
ラズの奴はさっきからずっと、自分の奴隷とイチャコラしてやがる。他人の目とか一切考えんのかコイツらは。
「まあ要するにだランキス。もう少しリリファと性的関係を持てということだ」
「なんでだよ。最近のおまえら本当にエロい事しか考えてないのな……」
アリスを見やる。何故か特に異論はないって表情してやがる。なんでだよ、マジでなんでだよ。お前らの狂った基準と一緒にすんな。
「落ち着け、アリスが困惑している」
「だからなんでだよ。つか今もっとも困惑してるのは全会一致で俺だからな!」
俺を放ったらかしでイチャイチャ続けるラズとアリスは無視。大丈夫なのか、うちの傭兵団。
リリファは割と簡単に見つかった。木陰で休憩しているようだ、まあやることも無いしな。
無表情で、指先に泊まる小さな甲虫を撫でてる。体内で飼わせてる毒蟲か?
「ヘリックスオオカブトの若い個体です。脱皮を繰り返して体長は、そうランキス様程にまで成長します」
「へぇ、こんなちっこいのがなあ」
そいつを撫でようとしたら威嚇された。そりゃそうかペットじゃないんだし。毒蟲共は従ってくれるんだがな。
「世界樹などに棲んでいるのですが、どういうわけか羽を怪我していたのを発見しまして。なので介抱しているところです。治療も終わって、樹液も舐めさせました。明日には飛び立てるでしょう」
「リリファ、普段のお前って毒蟲の世話だけじゃないんだな、知らなかったよ」
「ええ、ですが心配なさらないで下さい。ランキス様の手を煩わせることはありませんよ」
……。
やっべどう切り出せばいいんだ。ええいままよ。
「あーリリファ」
「どうしましたランキス様」
2人きりで会話したの何日ぶりだろう。マジで意識すらしてなかった。
「その、悪かったよ」
「?」
「なんか最近はお前を放ったらかしにしすぎだって、ラズやアリスに説教されてさ」
「……ありがとうございます?」
リリファの感情は相変わらず読めない。いや俺がリリファを慮る努力をしてこなかったからか。
「なんつーか言い訳みたいに聞こえるかもしれないけどよ。俺らはつい最近まで貧乏で、その日の飯代にも困る有り様だったろ」
アリスやナルシュ辺りの新参者にゃ想像もつかないだろうが。仕事増えて金回り良くなったのって、ほんの1年前くらいだもんなぁ。
「リリファにゃ苦労させすぎたって反省してんだ。仕事やら家事とか任せてばかりで同年代のダチとかいなかったし」
「私はランキス様にお仕え出来て幸せですよ」
「でもさ、シバもいい奴じゃねーか。だから俺なんぞに構わず羽を伸ばして欲しかったんだ」
こいつの出自を考えたらメイド何人も雇っていいくらいだ。リリファは嫌がるだろうけど。
そーゆー心遣いのつもりが逆に重荷になってたのかな。
……あとこれも確認しとくか。
「なあリリファ。今から妙なこと尋ねるぜ。ぶっちゃけ冗談と聞き流してくれ」
「はいどうぞ」
「リリファ、お前は俺のことが好きか」
「ええ大好きです」
リリファは何を当然なことを聞いてるんだって声のトーンで喋った。
「初めて奴隷商で、ランキス様を一目見た瞬間から惚れてしまいました。今でも恋心は変わりませんよ」
嘘だろ。
駄目だ、嘘かどうか全く判別がつかん。
無表情で心が読めないリリファの胸中を、察する努力すらしてこなかったんだから当然か。
ったくどうしようかな。適当にあしらうのも気が引ける。
「悪い。俺はリリファを、恋愛対象としては見れねえわ」
「……了解しました」
やけにあっさり引き下がるな。やっぱこないだのキスとかは冗談だったのか。
「私は愛に執着する女ですから。押して駄目なら、ブチ犯して既成事実を成してしまえば解決するでしょう」
……恐ろしすぎるだろうちの奴隷。




