59話 リリファさんが皇女様って本当なの?
「じゃあ私はランキス様の起床準備があるから」
あっという間にシバ君を叩き伏せて、後は何事もなかったかのようにリリファさんは立ち去ってしまった。
「おーい、生きてるかシバ」
ナルシュ君はシバ君の頬をぺたぺたと叩いている。
意識はあるけどショックで動けないみたいだ。茫然自失から回復するまで膝枕しててあげた。
ほっとくのは可哀想すぎる。ナルシュ君ならともかく、体格が一回り下の女子にコテンパンにされちゃったらさすがにプライド傷付くよね。
「俺、紅鬼族の若組で一番強かったのに」
しばらく経過して、ようやく立ち直った。私達に戦い方を教えてるのはリリファさんだって伝えると。
「マジかよ。あいつ姫様なのになんで強いんだ。エルフで格闘も得意とか反則だろ」
ん、今の会話中に聞き捨てならない単語が混じってた。
ねえねえリリファさんは姫様なの? 詳しく教えて欲しいかも。
「なんだアリス、知らないのかよ。あいつエルフの国の皇女様だぜ」
へえ。予想通りといえば予想通りだけれど。
気品とか佇まいとか他と一線を画する美貌とか、もう王族のそれだもん。
いかにも成り上がりって印象のランキスさんとは正反対だ。
「俺も詳しくは知らねえなあ。第二だったか第三だったか忘れたけど、まだ皇位継承権は残ってんのかな」
「シバ」
リリファさんが気配もなくシバ君の後ろに立っていた。
後ろからそっと抱き寄せる。ん、ラブコメ展開かな。
「リリファ? ってうおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!?」
な訳ないか。プロレス技のジャーマンスープレックスを彷彿とさせる豪快な投げ。
シバ君は脳天から地面に直撃してしまい、今度こそ気絶してしまう。
大丈夫かどうか確かめ、ようとしたらリリファさんに腕を掴まれた。
「ねえアリス、愛し合いましょう」
いやいや今のは冗談が過ぎてるよ絶対痛いって。そう注意しようとしたら。
あれ、身体が動かない。なんだかぴりぴり痺れてて手足に力が入らない。しかも馬車の幌布を背中にしてるから逃げられない。
マジでヤバい。今まで何度もリリファさんの性癖がぶっ飛んで、ヤバい展開になったことはあったけど、今回のは歴代最凶にヤバすぎる。
と、とにかく話題逸らそう。
ね、ねえリリファさん。リリファさんが皇女様って本当なの?
リリファさんの指の動きが僅かに止まる。
すごいな皇女様って。リリファさんのこと初対面の頃からとっても素敵だなって思ってたんだ。
その頃のエピソードとか是非聞かせて欲しいなー、なんてっ、ンプッ!
唇を塞がれた。抵抗しないと、なのに脳がボーッとしてしまい何も考えられない。割り開かれ、剥かれ、摘ままれる。視界が桃色になる甘い電撃。意識が、遠のいていく。
「ねえアリス、子供は何人欲しい? 一姫二太郎なんて諺があるけれど、私はどちらでもいいと思うの。だってそれは天空の神様がお決めになることだから」
こども……?
「この場合どちらが父親になるのかしら。私なら母乳よりも栄養満点の離乳食を用意できる。ならアリスが父親ね」
わたし、が、ちちおや……
「名前はどうする? 女の子ならそうね。私達2人の名前を取ってリリスなんてどうかしら。素敵じゃないかしら、男の子なら「やりすぎだアホ」
……?
両手の拳を頭の隣からグリグリするナルシュ君。あっ
麻痺の解けた身体でなんとか距離を取る。た、助かった。完全に精神を持っていかれそうになってた。
「アリスもちゃんと抵抗しろよ。いやリリファのことだから痺れ薬でも盛ってたのかな。てかリリファ、普段は冷静なのにアリスが絡むと気が触れたみたいになるの何なんだ」
「アリスは将来私の旦那様になる人なのよ」
うーん、そんな約束したかな記憶にないよ?
「痛ってー」
あ、シバ君が復活した。
「いきなり何すんだよリリファ!」
「貴方が人の過去を勝手にべらべら喋ろうとするからよ。反省なさい」
2週間後。
ミステクタとの国境に私達は到着した。いや今は自治区扱いか。なんにしても旅の道程としてはちょうど半分くらいか。
予想はしてたけど、ミステクタに近付くにつれ戦禍の爪痕はより酷くなっていった。
焼け落ちた建物、埋葬もされずほったらかしの遺体の群れ、それを餌にする野生動物。まあ動物に罪は無いんだけど。
うん戦争なんてロクなものじゃないね。終わって良かった。奴隷制度だの亜人差別だとかいった問題は山積みだけれど。




