58話 あの年代の男子って
街を出てから4日目。
こんな長旅は日本にいた頃も含めて初めてかも。修学旅行なんかも参加しなかったし。
男性と女性とで寝る場所が区分けされてて、お兄様と違う部屋で眠るのはやや落ち着かない。けど我慢しないと。
リリファさんのセクハラにも慣れちゃったし大丈夫かな。不満溜めてなきゃいいけどね。
「おはようアリス。今朝も冷えるな、風邪引くなよ?」
ストレッチ体操してるナルシュ君と挨拶した。
まだ陽は昇ったばかり。深呼吸すると夜明けの冷たい空気が身体中いっぱいに浸透していく。
もし耐寒スキルが無かったら凍えて動けなくなってしまうだろう。
んじゃ私も筋トレしよっと。軽く柔軟してから、丈夫そうで背の高い樹を見繕う。
爪の引っ込め方をナルシュ君に習ってからは木登りの練習とかも始めてる。木登りって全身の筋肉を使うから丁度いいんだよね。
出立以降、本格的に身体を動かせるのは朝昼夜の戦闘訓練してるときくらい。
馬車の中で飛んだり跳ねたりするなんて駄目だし。
せいぜい軽いストレッチくらい。その最中すらリリファさんがすかさず私の秘処を舐めようと狙ってるから集中しづらいんだよね。
そんな訳でどうにも身体が鈍っちゃう。
屋敷だったら、暇なときは掃除とか手伝ってるけど。馬車での移動中にそんなドタバタしてられない。
殆どなーんにもやることない、暇状態がずっと続いてる。
草原の彼方まで延びている荒れた石畳。目的のミステクタはまだまだ遥か彼方だ。
これが帰りも含めて1ヶ月以上あるのかー、我慢するしかないよね一応仕事だし。
馬車は全部で5台編成だけど、どれもオンボロで財政状況が芳しくないのが窺える。
ランキスさん曰く色々と舐めてるからってのが理由なのだと。
表現は酷いが、いくら大陸で一二を争う傭兵集団だろうと、アスタルトからすれば成金平民が粋ってるくらいの認識でしかないんだろう。
なんとかって貴族の息子が仕切ってたゴブリンキャップが一目置かれてたって噂だし、やっぱり血筋って大事なんだね。
まあ舐められるのは別に。ランキスさんも本気では怒ってないし。
ただこの会談、アスタルト側には大局的な視点が欠けているような気がしてならないんだよね、色々と鑑みて。
政治的駆け引きなんかまるで知らない小娘の戯言だけどさ、なーんか大失態やらかしそうなイメージあるんだよね。
「よぉ、早いじゃねえか」
シバ君おはよう。
向こうの馬車から男の子が降りてきた。
私よりちょっと背の高い、角の生えてて、銀色の混じった赤い、ちょっと不思議な髪色の男の子。紅鬼って種族なのらしい。
「なんだあ朝メシ我慢出来ねぇのか、アリスはほんと腹ペコだよな」
いつもじゃないって。
彼の名前はシバ君。私達と同じように、ミステクタ狩りで奴隷にされてしまったのだそう。
似たような境遇だったし初日で仲良くなったんだけど、ただちょっと問題が一つ。
ドンッ
あっまただ、私が注意する間もなくナルシュ君を後ろから体当たりした。
「痛ってーな、なんだよシバ」
「うっせ、なんかお前見てるとムカつくんだよな」
何故かナルシュ君に対してやたら喧嘩腰なのだ。初日に出会ってからずっとこう。
「朝メシの前に勝負すっぞ」
「またかよ、面倒くさいな」
「あ? ビビってんのかナルシュ。ワーキャットなんぞとは格が違うっての今日こそ教えてやる」
「でかい口叩いてっけど俺に一勝もしてねーじゃねーか」
バチバチと不穏な不穏な火花が舞っているけれど、これもいつものこと。
ナルシュ君とシバ君はお互い訓練用の木刀を手に取り対峙する。
「毎日飽きないわね」
いつの間にか隣に座ってたリリファさんが、鍔迫り合いする2人を眺めながらそう呟いた。
「暴れたり強さを誇示したいのよね、あの年代の男子って」
そんなものなのかな。
「近くに女子がいたら尚更じゃない? それよりコーヒー淹れたから飲んで。媚薬混入させたミルク砂糖は何杯入れる?」
今朝はブラックの気分かなーあはは。
なんて会話してる合間に戦況は一変してる。ナルシュ君が優勢だ。
シバ君は流れを変えようと突進して大きく薙ぎ払った。パワーもスピードも強力なんだけど隙をついてナルシュ君の反撃がヒットする。
決着がついたみたい。今回もナルシュ君の勝ちだ。
「くっそー、なんでワーキャットの癖にそんな強えーんだよ! ムカつくもう一戦だ」
「鍛え方が違うんだよバーカ!」
シバ君は鬼なだけあって筋肉の厚みが凄い、流石にランキスさん程じゃないけど。
ただ攻め方がやや単調というか、やや大雑把な感じた。細かな駆け引きや技の豊富さ、搦め手なんかはナルシュ君の方に軍配が上がるんだよね。
んーでも、初日の頃と比べると上手になってきてるんだよね。旅の終わりになってくると追い付いてくるかも。
「2人とも訓練は終わりにしなさい。シバ、貴方こないだも仕事を後回しにして叱られてたでしょう」
「う、そのリリファ、一戦だけやらせてくれよ、そしたら食事当番に戻るからさ!」
なおも食い下がるシバ君。そんな彼にやれやれといった表情で。
「なら私と対戦しましょう。さあ掛かってきなさい」
「お前がやんの? いいけど俺、女子だからって容赦しないぜ」
あーそういえば、私達に戦闘を教えてくれてるのリリファさんって知らないよねシバ君。
「そんな身体細いのに戦闘出来るのかよ。てか武器は持たねえのか」
「来ないならこっちから行くわよ」
鋭い風切りを伴ってリリファさんは突撃した。
横から眺めててすら一瞬なんだから、シバ君的には気付いたら景色が暗転してた、くらいの認識だろう。




